
5月18日に東京・国立競技場で開催されるゴールデングランプリ(以下GGP)で、昨年までは考えられなかった対決が実現する。男子走幅跳に110mハードル日本記録(13秒04・23年)保持者の泉谷駿介(25、住友電工)が参戦。走幅跳で日本歴代2位記録(8m36・21年)を持つ橋岡優輝(26、富士通)と激突する。泉谷は今年3月の世界室内走幅跳で4位に入賞した。橋岡は国際大会歴戦のジャンパーで、世界陸上と五輪で入賞実績を持つ。2人の争いから8m27の、東京2025世界陸上参加標準記録の突破が期待できる。
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学生時代の泉谷は跳躍ブロックで練習 橋岡に勝った経験も
まずは泉谷が、走幅跳に参戦する経緯を紹介したい。
五輪では村竹ラシッド(23、JAL)が昨年、110mハードル日本人初入賞(5位)を成し遂げたが、世界陸上では順大の先輩である泉谷が、23年ブダペスト大会で一足早く5位入賞をしている。
学生時代は金井大旺(当時ミズノ)、髙山峻野(30、ゼンリン)と日本記録更新争いを繰り広げ、21年に日本人初の13秒0台となる13秒06をマーク。その年の世界リスト5位記録でハードル関係者を驚かせた。
世界大会でも徐々に戦績を上げていった。19年世界陸上ドーハは故障で欠場したが、21年東京五輪と22年世界陸上オレゴンは準決勝に進出。そして日本記録を13秒04に更新した23年には、世界陸上ブダペストでこの種目初のファイナリストを実現させた。
神奈川県・武相高校時代は混成競技(八種競技)がメイン種目で、インターハイ優勝も果たした。三段跳でもインターハイ3位、110mジュニアハードルでは国体3位の成績を残した。順大では跳躍ブロックで練習を行い、インカレは110mハードルと走幅跳、三段跳に出場した。2年時の関東インカレは110mハードル優勝、走幅跳2位、三段跳優勝と、もう少しで3冠達成という活躍。この大会の走幅跳は、3位の橋岡に5cm差で勝っている。当時の順大跳躍コーチは「走幅跳でも8m30以上を出せる選手」とコメントしていた。
実業団入り後は毎年、9月の全日本実業団陸上には走幅跳で出場。22年に8m00(追い風0.3m)、23年に8m10(向かい風0.4m)、24年に8m14(追い風0.7m)と3連勝している。昨年の優勝後に2種目で、東京2025世界陸上を目指すことを表明した。
「僕は単純に2種目で強くなりたい気持ちがありますし、アピールポイントにもなると思っています。自分の良いところを最大限に発揮したい」
25年は3月の世界室内走幅跳で8m21の4位。“二刀流”で代表を目指す姿勢を明確に示した。
橋岡はスピードを上げる新助走に手応え
橋岡の特徴は踏み切りの強さ、上手さと言われている。19年世界陸上、21年東京五輪に連続入賞しただけでなく、世界ジュニア、ユニバーシアード、アジア選手権に優勝するなど国際大会で強さを発揮してきた。日本選手権6回優勝と、国内でも圧倒的な強さを見せている。
しかし23年から米国タンブルウィードTCに練習拠点を移した後は、同年の世界陸上ブダペスト、24年パリ五輪と決勝進出を逃し続けた。メダル獲得のためには助走スピードを上げることが必要と考え、同チームのサニブラウン アブデルハキーム(26、東レ)らとともに練習を行っている。それが結果につながっていない。
だが今季は、4月20日の兵庫リレーカーニバルに8m10(追い風1.7m)で優勝。5月11日の木南記念にも8m19(追い風2.2mで参考記録)で優勝と2連勝している。昨年は1試合しか8mジャンプがなかったことを考えると、好スタートを切ったと言っていい。
「(木南記念は)1本目の8m19は風に跳ばされてしまった跳躍でしたが、3回目以降は自分が形にしていきたい助走が、なんとなく見えてきました」。助走スピードを上げるコンセプトは今年も同じだが、走り方に違いがあるという。
「昨年はただ脚が回っていただけでした。それで踏み切りまで結びつける余裕がなかったと思います。今年は走りのベースがありつつ、(踏み切りにつながる)助走という形に徐々になっています」
具体的な走り方としては、昨年は「接地がつま先寄りすぎた」が、今年は「拇指球あたりからしっかり乗り込んで地面を踏む走り」ができるようになった。結果的にスピードも出る走りだという。速いスピードで踏み切りに動作に入ると、一般的には「二段階くらい難しい技術」が必要になるが、「そこには自信を持っている」という。
橋岡も中学時代は混成競技(四種競技)を中心に行っていたが、八王子高では渡辺大輔先生、日大では森長正樹コーチと、走幅跳の五輪経験選手に走幅跳の基礎を指導されてきた。踏み切りの強さ、上手さがしっかりと身に付いていて、助走スピードが速くなっても崩れない自信がある。GGPで助走の完成度が高まれば、8m20だけでなく8m30以上の記録も期待できそうだ。
泉谷も橋岡も、相手を意識したコメントはしていない。フィールド種目では普通のことだが、相手に勝つことを意識するよりも、自身のパフォーマンスに集中する。それが結果的に相手に勝つことになる。
橋岡も「まだ段階的なところなので記録や勝負は欲張らず、理想の組み立てだけにフォーカスしています。やりたい助走や、助走から(踏み切りへの)つながりがしっかりできれば、数字はついてきます」と木南記念でコメントしていた。
そうではあるが、泉谷も橋岡も8m27の世界陸上標準記録は跳んでおきたいと考えている。昨年の全日本実業団陸上で8m14を跳んだ時、「標準記録は跳びたかった」と泉谷は話していた。橋岡も4月の兵庫リレーカーニバルが8m10だった時に「(標準記録は)まったく問題ない」とコメントした。
ハリソンは走幅跳と走高跳で代表経験を持つ“二刀流”ジャンパー
外国勢も、日本勢にとって不足はない。
ジュボーン・ハリソン(26、米国)は泉谷と同じ“二刀流”選手。跳躍で2種目を行う場合、走幅跳と三段跳、走高跳と三段跳の組み合わせが多いが、ハリソンは走幅跳と走高跳の2種目で米国代表になっている。走幅跳は東京五輪で5位に入賞し、8m47の自己記録を持つ。走高跳は23年世界陸上ブダペストの銀メダリストで、2m36を21年と23年に跳んでいる。22年以降は走幅跳の8m10以上を出していないが、昨年も走高跳で2m34を跳んでいる“バネ”は侮れない。
マーキス・デンディー(32、米国)は16年の世界室内選手権で金メダルを、18年の同大会で銅メダルを獲得した選手だ。その後低迷した期間もあったが21年に復調。22年世界室内銅メダル、同年の世界陸上オレゴンでは6位に入賞した。今年も4月26日のダイヤモンドリーグ厦門大会に、8m10(追い風0.3m)で3位になっている。
フィールド種目で記録が出る試合は、気象条件に恵まれることが一番の要因だが、ある選手が記録を出すと他の選手も追随して記録を出す、というケースも多い。橋岡は以前の取材で次のように話したことがあった。
「大きな試合であればあるほど、周りの選手たちも跳んできますから、自分も跳びたい気持ちやワクワクが大きくなる。そうした試合を重ねることが自分の成長の糧になるんです」
GGP出場選手で標準記録をすでにクリアしているのは、今季屋外で8m33(追い風1.8m)を、室内でも8m28を跳んでいるリアム・アドコック(28、豪州)だけ。日本勢にとっても米国勢にとっても、GGPで標準記録を跳び合う展開は望むところだ。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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