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「誰も死なないという選択肢は考えられない」幼少期の虐待・ネグレクトの末たどり着いた両親の殺害 15歳の少年が逃れたかった「恐怖と束縛」

国内
2025-02-22 12:38

「自分だけが死ぬか、父を殺したりとか、母を殺したりとか、そういう選択肢しかなかった」15歳で両親を殺害した少年は当時のことを問われてこう答えた。


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なぜ少年は両親を殺害したのか。
裁判で語られたのは両親からの「虐待」。そして少年の「孤独」だった。


「下僕」「バカ」と暴言 幼少期の両親とのいい思い出「ない」

事件があったのは去年2月。当時15歳だった少年は神奈川県相模原市の自宅で両親を殺害した。事件の背景にあったのは両親からの「虐待・ネグレクト」。少年は両親との生活を「辛いものだった」と法廷で振り返った。


弁護士:両親との生活はどうだった
少年:とても辛いものでした。暴言、暴力をふるわれました。
弁護士:暴力の時期は
少年:小1ごろから始まり、直接的な暴力は小学校卒業まででしたが、水や酒をかけられることは中学に入ってからもありました。
弁護士:暴言は具体的には
少年:小学生のとき日常的に「下僕」とか、名前の前に「バカ」とか、あと「根暗」「陰キャ」とか言われました。
弁護人:父とのいい思い出は
少年:全くないです。母に関しても思い出せるものがないです。


幼少期から長く続いたという両親からの暴言と暴力。
母親からは「産まなきゃ良かった」と言われたこともあった。


少年:小学校のころ母に「産まなきゃ良かった」と言われ、父に「若気の至りだ」とか言われた。自分がすごい汚いもののように思えますし、軽いものなのかなと思いました。


家では家事のほとんどを担う 夕食は1人で「カップラーメン」

暴言や暴力に加え、少年がさらされたのは「ネグレクト」だ。
介護職の父と薬剤師の母はほとんど家事をしなかった。少年が家の掃除や洗濯をして、自分で料理もしていた。子どもなら誰しも楽しみにする弁当も作ってもらったことはなく、朝早く起きて自分で作っていた。


弁護士:弁当を作ってくれたことはあった
少年:なかったです。1回もないです。
弁護士:料理はなぜやり始めた
少年:自分がやらないと健康的な食事がとれないから。
弁護士:朝食は
少年:基本ないか良ければ食パン1枚。
弁護士:夕食は
少年:小学校のころはカップラーメンを食べてました。
弁護士:家族と食べていた
少年:一人で食べていました。


1人で食べることについては「そういうものなのか」と受け入れていた少年。自分と両親のために作った料理は両親が食べることはほとんどなく捨てられた。家から閉め出され家に戻ることができず、数日間公園で過ごすこともあった。本来助けてくれるはずの両親を頼ることができず、幼い少年は「孤独」の中で成長していった。


「一生父に束縛される…」万引きをきっかけに思い出した「恐怖と束縛」
殺害に葛藤あったが「逃れたい気持ち」

中学生になると少年を取り巻く環境が少しずつ変化していく。相変わらず家事は担っていたというが、暴力は治まり学校生活では友人にも恵まれた。神奈川県内の高校に入学することもできた。


しかし順調に見えた学生生活は長くは続かなかった。高校には馴染めず、次第に学校に通わなくなっていく。学校から足が遠のき暴走族にも一時期加入した。交際相手ができて、彼女の家で過ごすことも多くなる。そんな中迎えた事件当日、少年は友人らとコンビニで万引きをした。この万引きをきっかけに父親から殴られ「外出禁止」を言われた。


弁護士:殴られたときの気持ちは
少年:底なしの恐怖感や束縛感がよみがえってきた。すごく怖いなと思いました。


久しぶりに父から受けた暴力。「(小学校のころの)記憶が一気にフラッシュバックしてきた」ことで「恐怖や束縛」を感じ、逃れたいという思いが殺意へと繋がっていった。


弁護士:父親を殺そうと思ったのはなぜ
少年:父がいると、家から出れませんし、たとえ出れたとしてもすぐ警察に通報されてしまうと思い、どうしようもないと思いました。
弁護士:すぐに殺そうと決意した
少年:この底なしの恐怖感から逃れたいという気持ちと、殺したら一線を越えてしまうという思いもあり葛藤しました。
弁護士:葛藤してなお決意したのはなぜ
少年:結局は恐怖心と束縛心から逃れたいという気持ちが強まってしまったのと、唯一の居場所である彼女に会いにいきたいと思ったからです。


葛藤の末、別れそうだったという彼女に会いたいという気持ちを優先し殺害を決行した。
父親を殺害したあと自殺しようと考えていた少年。
殺すつもりはなかった母親については自分がいなくなったあとの事を考えた。


少年:また人を殺すのはまずいんじゃないかとも思いましたが、母は今後生きていても僕がつかまったり自殺したあと、本当に孤独になってしまうし、世間体を気にする人なので、このまま生きていても仕方ない、殺した方がいいのではないかと思いました。


事件について今の気持ちを問われ「後悔している」と話した少年。
だがそのあとこう答えた。「誰も死なないという選択肢は考えられない」


「勝手に大人は頼りにならないと思っていた」 大人を頼らなかった少年

少年は周囲にSOSを発する事はなかったのか。周囲を取材すると少年から間接的に虐待について聞いていた同級生の親がいた。


同級生の親
「小学生のころに、何度かお父さんに叩かれた、殴られたまではいかないと思うんですが、叩かれたということは私の子どもを通して聞いていた」
「何があったのかということをもっと深く聞いて、防ぐことができる部分もあったのかなと」


児童相談所は少年が中学3年の頃、親とのトラブルで警察で話を聞かれた際に「4、5年前に叩かれたことがある」と話したため、警察から児童相談所に通告が行き対応していた。このときは半年間見守りを行ったものの「家族関係は良好になった」として対応を終了。


その後、事件の数日前に父親から児童相談所に連絡があり「子どもとの向き合い方に悩んでいる」という相談を受け、事件の2日前に両親と少年3人で面談。両親と少年、それぞれ個別に聞き取りを行ったが、事件につながる兆候はなかったという。両親のいない場で、少年に「今悩んでいることはないか」と尋ねると。


相模原市児童相談所 藤田信子課長
「(少年は)『今は困っているようなことはない』と」


少年が両親からの虐待や悩みを語らなかったことについては、苦しい思いを抱えている。


相模原市児童相談所 藤田信子課長
「やっぱり語っていただけなければ、こちらではなかなかそこについて入っていくことができませんので、もうそこまでの覚悟とかをしているのであれば、遠慮なく正直に話してほしかったというのが、こちらとしての思いです」


なぜ少年は周りに頼ることをしなかったのか?
法廷では祖母のこんな調書が読み上げられた。「かわいそうで仕方がない。ここまで追い込んで事件を起こさせてしまった」。祖母がそう思っていたことを知った少年は“驚いた”という。


少年:すごく驚いたというか、そういう人が親族にいるんだなと思った。勝手に大人は頼りにならないと思っていた自分を恥ずかしく思う気持ちがあります。


周りの大人に頼るという発想自体が、まったくなかったというのだ。


一方の検察側は、少年への虐待の目撃がないことや、あざがあったなどの物証も残されていないことから、法廷で少年が話した虐待・ネグレクトについて「誇張だ」と指摘した。


検察は「彼女と3連休を過ごしたいという目先の利益を優先させた。一連の犯行は、自己中心的な性格が招いたもの」として懲役10年以上15年以下の不定期刑を求刑した。


「一生をかけて責任と向き合い続けて」少年を家庭裁判所へ移送

2月20日、横浜地裁は少年を家庭裁判所へ移送することを決定した。
決定の中で横浜地裁は、ほとんどの家事を少年が行っていたことなどから、少年の置かれた状況を「ネグレクトと評価しうる状態」と判断した上で「少年は両親からの愛情を実感できず、家庭内に居場所がないと感じていた」とした。


そして少年の育った環境や犯行に至った動機を考えると、「今回の犯行は両親による長年の不適切な養育がなければ起こらなかった」と、少年の主張する虐待・ネグレクトを認めた上で、それらがなければ、“事件は起こらなかった”とまで断じたのだ。


「両親殺害の責任は非常に重大であるものの、少年のみを責めることは相当ではない」


こうして裁判所は、少年には「相応の時間をかけて矯正教育が求められる」と、検察側が求めていた「刑罰」ではなく「保護処分」が相当として、家庭裁判所への移送を決定した。


今後、家庭裁判所で再び審判が開かれることになるが、検察は控訴することができないため、少年は少年院で矯正教育を受ける可能性が高い。


最後に裁判長は少年に声をかけた。


裁判長
「一生をかけてぜひ責任と向き合い続けて欲しい」


少年は無言で聞いていた。


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