
大阪・関西万博が13日に開幕した。開幕式の“目玉”は、航空自衛隊のアクロバット飛行専門チーム・ブルーインパルスによる展示飛行。当日、大阪内外から大勢の人が万博会場のシンボル「大屋根リング」に集まり、ブルーインパルスを心待ちに空を見上げていた。
【写真を見る】ブルーインパルス“大阪・関西万博招致の立役者” 地元少年団の奮闘記
しかしー。
天候不良で当日の飛行は急遽中止に。中止が発表されたのは会場上空を飛行する予定のわずか7分前。パイロットたちもギリギリまで実現に挑んだが、35年ぶりの万博フライトは“幻”となってしまった。
ブルーインパルスは年間約20か所のイベントで展示飛行を行っている。全国の航空自衛隊基地での展示イベントのほか、自治体からの要望などをもとに年間のスケジュールを計画する。関西方面には航空自衛隊の基地が少ないため、フライトそのものが計画されることが稀だ。防衛省関係者によると、ブルーインパルスは岐阜基地や小牧基地に駐機し、万博会場を目指すという案も浮上したが、県境の山間部を通過することによる天候の影響を考慮し、「民間空港」の関西国際空港を利用することになった。
しかし、課題は残っていた。万博会場のある夢洲周辺には、関西国際空港、伊丹空港、神戸空港が点在する。国内外に民間の旅客機が離発着を繰り返すため、アクロバット飛行を行うブルーインパルスにとっては飛行空域の“制限”が課されることになる。そのため、政府は航空会社などと複雑な調整を行い、ブルーインパルスの展示飛行に必要な空域を確保。「今回の万博フライトは、不可能を可能にする、難度の高いオペレーションだった」と自衛隊幹部は漏らしている。
「不可能を可能に」大人たちを動かした少年団
これだけの複雑なオペレーションを実現するためには多数の関係者の尽力があったことは想像に容易い。万博開幕の前日にとあるイベントに出席した大阪府の吉村知事とブルーインパルス部隊の江尻飛行隊長はこう話している。
大阪府・吉村洋文知事
「関空から発着するということは、ここにいるみんなが、『絶対に夢は実現するんだ』、『絶対に自分たちの夢は叶えるんだ』という熱い思いが、多くの大人を動かしたんだと思います」
ブルーインパルス飛行隊長・江尻卓2等空佐
「これは全て、ここにいるみんなの頑張りで我々を呼んでいただいて、本当に感謝しております」
この言葉が送られた相手は、イベントに参加したおよそ50人の地元の子どもたちだった。
“言葉にできない感動”を「生まれ育った大阪で」
地元・大阪を拠点に、航空業界に関心を持つ子どもたちが所属する「関西航空少年団」。1994年の関西国際空港の開港をきっかけに結成し、航空機の見学や地域のボランティア活動を通して交流を深めている。
2019年には地元の子ども議会で、ブルーインパルスを招いた航空祭の開催を提案したこともある。しかし、「民間機の運航の支障になる」として、少年団の意見は“非現実的”なものとして一蹴されていた。当時の大人たちの対応は冷ややかだった。
翌年、コロナ禍で医療従事者に対する感謝を示すためにブルーインパルスが東京上空を飛んだニュースを見たときには「大阪でブルーインパルスを見たい」という気持ちが強くなり、河野太郎防衛大臣(当時)に直接、手紙を送ったこともある。
少年団の活動に“転機”が訪れ、夢が芽生えたのはこの頃だった。
「奇跡が起きたらいいなと思ってました」
関西航空少年団に所属し、ブルーインパルスを大阪に招致する活動のリーダー・畑部陽菜乃さん(18)は当時をこう振り返っている。
畑部さんは2022年に、ブルーインパルスの本拠地、宮城県の松島基地で初めてブルーインパルスのアクロバット飛行を目の当たりにした。テレビや動画サイトで見ていた青と白のラインが大空を駆ける姿に、言葉にできない感動を覚えたという。
関西航空少年団・畑部陽菜乃さん
「大阪・関西万博もあるし、世界中の人も大阪に来てくれる。ブルーインパルスがくれた夢や希望、自分たちが感じた感動を生まれ育った大阪で、みんなに見せてあげられたらなと思いました。『私達がブルーを呼んだら、大阪の人たちみんなが見れるじゃん』って思いました」
ブルーインパルスの姿に胸を打たれた団員たちは大きな夢を抱くことになる。目指したのはブルーインパルスの「大阪周遊フライト」「関西国際空港への離発着」、そして「大阪・関西万博会場でのフライト」だ。
夢を実現すべく、日々奔走した少年団。
ブルーインパルスの認知をより広めようと自治体が主催する様々なイベントに参加し、手作りのチラシを配布。予算を抑えるために深夜に母親の運転を頼りに、各地の航空祭に訪れて誘致の呼びかけを行ったこともある。夏休みには地元の市長に毎日のように表敬訪問を行い、協力を依頼するために汗を流した。大阪府の吉村知事と面会した際には「皆さんの夢が実現するよう支えたい」と約束をしてくれたという。
畑部さんが少年団の活動をプレゼンするために利用しているボロボロになった手作りのパンフレットは、彼女の努力と想いの強さを物語っている。
自分たちが魅了されたブルーの姿を地元・大阪のたくさんの人たちに見せてあげたい-。彼女たちの想いは次第に大人たちを動かすことになる。
今年2月。防衛省・自衛隊はブルーインパルスが大阪・関西万博の開幕式で展示飛行を行うと発表した。飛行計画は、関西国際空港から発進するブルーインパルスが大阪全域を周遊し、夢洲会場の上空を目指すというものだった。
関西航空少年団・畑部陽菜乃さん
「夢が実現しなくて、何回も辛い思いも悔しい思いもして、みんなが諦めてしまう時期もあって、このままチームをどうするかを話し合いました。それでもやり遂げたい気持ちが大きくて、『もう駄目かも』って思いながらも諦めずに活動し続けて、今回の飛行が決定したので諦めないことの大切さを本当に実感しました」
夢をもらった少年たちの想いはパイロットの「活力」に
私たちは少年団のブルーインパルスにかける想いを、パイロットたちにビデオメッセージの形で届けにいった。
「私たちの夢を叶えてくれてありがとうございます」
「みなさんに憧れてパイロットを目指しています」
「大阪の空でブルーインパルスを見れることを楽しみにしています」
メッセージには憧れのパイロットたちへの“感謝”が詰められていた。
ブルーインパルス飛行隊長・江尻卓2等空佐
「我々の活力になるといいますか、『パイロットになりたいです』とか、こういう言葉を聞けることが、非常に嬉しく思います」
ブルーインパルス3番機パイロット・松浦翔矢1等空尉
「こういうメッセージはこちらも元気になりますし、力をもらえるのですごく嬉しい気持ちになります。憧れられるような人になっていきたいなと思っています」
ブルーインパルスに夢や希望をもらったという少年団の感謝の気持ちは、パイロットたちに活力を与えるものだった。
大人たちからの“プレゼント” 憧れのパイロットたちとの面会
4月10日には本番に向け飛行経路などを確認する「予行飛行」が大阪上空で行われ、夢の実現まであと一歩に迫っていた。
万博開幕式の前日、少年団は関西国際空港の格納庫へ向かうバスの中にいた。
バスを降りて目に入ってきたのは、格納庫に駐機したブルーインパルスと、パイロットたちの姿。防衛省や大阪府、関西国際空港が協力して企画した、少年団とパイロットたちの面会イベント。大きな夢を追いかけ、奔走した少年団へのサプライズプレゼントだった。
憧れのブルーインパルスとパイロットを目の前に、意見交換や写真撮影、機体の解説を受けるなど、交流会は1時間に及んだ。少年団のメンバーたちは「夢みたいな時間」と興奮冷めやらぬ様子だった。
イベントに参加した大阪府の吉村知事や江尻飛行隊長は少年団を“大阪招致の立役者”と称え、感謝を伝えた。
関西航空少年団・畑部陽菜乃さん
「本当に頑張って良かったなってとても感じました」
「ブルーインパルスは何回見ても、どれだけ見ても、その時・その場所で見るからこその感動があります。宮城(松島基地)に帰っちゃうのは寂しいですけど、帰っちゃったら私が追いかけます(笑)」
一連の取材中、ブルーインパルスを語る畑部さんの顔からは笑顔が絶えることはなかった。
万博開幕式の当日の展示飛行は、天候不良によって実現しなかったが、防衛省・自衛隊は現在、“異例”の再派遣を検討している。
ブルーインパルスは大阪の空でどんな希望を描くのかー。
見上げれば、きっと夢が叶うはずだ。
TBS報道局 政治部・防衛省担当 渡部将伍
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