新紙幣が発行され、1年もたたずに初めてニセ札の製造・使用が摘発されました。
精巧に作られたニセ札を拡散しないため、懸命に行われているニセ札捜査の最前線を取材しました。
全国初“ニセ新1万円”摘発
高柳光希キャスター:
新紙幣が発行されてから1年経っていない、2025年3月に「新札の偽造紙幣」が全国で初めて摘発されました。
今回の摘発を警察はどのように分析しているのでしょうか。
TBS報道局社会部 警視庁担当 本橋 駿記者:
捜査関係者によると、これまでは摘発の難しい事件もあったようです。しかし、今回は粗雑なニセだったので受け取った側も気づきやすく、通報も複数あり、摘発がしやすかったと言います。
昭和・平成を騒がせたニセ札事件 各時代で発生
高柳キャスター:
今回のように新紙幣が発行されるたびに、偽造が繰り返されてきたという歴史もあります。そのなかにはいまだに解決されていない、昭和と平成の二つの時代を騒然とさせたニセ札事件もあります。
約65年前に起きた“戦後最大のニセ札事件”というのが、警視庁の捜査員の間でいまも語り継がれる「チー37号事件」です。
日本各地で精巧な偽の1000円札が発見され、その数は343枚。
当時の映像には、科学的な捜査を専門に行う警察官が、顕微鏡を使って鑑別作業を行う様子のほか、警察官が街中に「にせ札を追放しましょう」と書かれたポスターを貼ったり、店舗などを訪れてニセ札の見分け方を指導したりして、お札の点検を呼びかける様子も見られました。
本橋記者:
1962年の映像には、警察官が神社で事件が“お宮入り”、つまり未解決にならないようにお祓いをしている様子が残されています。実は、今も捜査員たちは事件解決を願ってお祓いをすることもあるようです。
警視庁幹部によると、「精巧につくられた偽札は、受け取った人が気付かなければ流通し続け、見つかったとしてもつくった大元にはたどり着けない。そこが捜査の難しさだ」と話しています。
高柳キャスター:
この「チー37号事件」については、その後時効を迎えてしまいました。
これまで千円札の肖像は聖徳太子でしたが、この事件をきっかけに伊藤博文が描かれた新紙幣が発行されました。
そして平成に入った1993年、大阪や京都などで500枚を超える偽の1万円札が見つかった「和D-53号事件」が起きました。
本橋記者:
この時ニセ札は人間の目だけでなく、当時のATMや両替機も欺き、世間を騒がせました。一般的には手に入らない磁気インクが使われていたため、機械のセンサーでもニセ札と判別できなかったそうで、発見後、銀行のATMなどは改良に追われたということです。
高柳キャスター:
警察が情報提供を呼びかけましたが、こちらも未解決のまま事件は時効を迎えました。
偽造防止に髭が必要だった 2024年の新紙幣には世界初の3Dホログラムを使用
高柳キャスター:
戦後最大のニセ札事件といわれた「チー37号事件」。▼「チ」=「千」円札に見えること、▼偽造された1000円札で37番目の事件だったことから、このような名前がつけられました。
この事件は1961~63年に起きましたが、このニセ札事件をきっかけにすぐさま新紙幣が発行されました。
新しい1000円札の肖像には伊藤博文が採用されましたが、もうひとり、最終候補として残っていた人物がいます。
本橋記者:
最終候補として残っていた人物は2024年、新1万円札の肖像になった「渋沢栄一」です。
いくつか選ばれなかった理由はありますが、その1つが伊藤博文の豊かな“髭”です。
偽造しようと試みたときに、その髭を一本ずつ細かく再現するのは難しいということで、伊藤博文が採用されたのではないかという話があります。
2024年7月に発行された新紙幣には世界初搭載の3Dホログラムや、カラーコピーなどで再現が困難なマイクロ文字が使用されています。
紙幣のコピーは罪に問われます。偽造通貨対策研究所の遠藤智彦所長によると、もしカラーコピーをしようとすると「コピーできません」と表示されてコピーが中止される、また印刷ができたとしても「真っ白や真っ黒の紙が出力される」そうです。
日比麻音子キャスター:
これまでも新しい紙幣になるタイミングは必ず理由があったということですが、どういった理由があったのでしょうか。
本橋記者:
約20年間のスパンで新しい紙幣が発行されていますが、その理由として民間の印刷技術が発達していることが挙げられます。偽造対策をするために、民間に劣らないよう新しい紙幣が発行されているといいます。
南波雅俊キャスター:
対策が髭から3Dホログラムになり、進化しているんですね。コピーも特許を取っているんですよね。
本橋記者:
日本国内の会社が特許を取っていて、海外にもその技術が使われているという話もあります。
高柳キャスター:
過去には未解決で終わってしまった事件もありましたが、現在捜査はどのように行われているのでしょうか。
本橋記者:
警視庁の幹部によると、DNA・指紋など科学捜査の技術が進んでおり、防犯カメラが各地に設置されるようになったことでリレー捜査が可能になり、犯人が見つけやすくなったという話もありました。
「海外で製造されている可能性」ニセ札使用は無期懲役も
本橋記者:
しかしこうした中でも、警察庁の資料によると新札が発行された2024年には4倍近くニセ札の発見枚数が増えました。
【偽造通貨の発見枚数】
2022年 948枚
2023年 681枚
2024年 2723枚
偽造通貨対策研究所の遠藤智彦所長によると、「ニセ札は海外で製造されている可能性がある。コロナ禍が終わり、人の流れに乗じて流通が増えているのではないか」と言います。
本橋記者:
皆さんに注意していただきたいのが、海外の両替所で現地のお金を日本円に両替する方もいると思います。その際に受け取った日本円の中にニセ札が紛れ込んでいるといったケースもあるとおっしゃっていました。
さらに安易にニセ札を使用すると、最高で無期懲役に問われる可能性もあります。
日本国内にニセ札を持ち込んでしまった場合、「輸入してはならない貨物を輸入する罪(関税法第109条第1項)」に問われ、10年以下の懲役もしくは3000万円以下の罰金またはこの両方が科せられます。
さらにニセ札を使用した場合には、「偽造通貨・変造通貨行使罪(刑法第148条第2項)」に問われ、無期または3年以上の懲役が科せられるということです。
日比キャスター:
何か紙幣に違和感を感じたり、不審に思ったりしたら最寄りの警察署へ届けるようにしてください。
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<プロフィール>
本橋 駿
TBS報道局社会部 警視庁担当
組織犯罪やニセ札捜査などを取材
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