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無人島で進む巨大基地建設 周辺の島で広がる不安、「怖さよりも使命感」緊迫の海に向かう新人指揮官【報道特集】

国内
2025-07-13 15:53

中国の海洋進出が続くなか、東シナ海や太平洋では偶発的な衝突の危機さえ高まっています。こうしたなか、南西諸島のある無人島では、巨大基地の建設が急ピッチで進んでいます。劇的に変化する安全保障の最前線です。


【写真で見る】東京ドーム170個分の島に2030年、自衛隊の巨大基地が完成する


日本と中国 熾烈な神経戦

P3C対潜哨戒機
「目標は170度。20ノットで南南東へ向け航行中」


中国艦隊を目標と呼び追跡するP3C対潜哨戒機。東シナ海では熾烈な神経戦が繰り返されていた。


そんな中、6月7日。中国の戦闘機がP3Cに急接近、牽制する事件が起きた。その距離、わずかに45メートル。衝突寸前だった。


防衛省 吉田圭秀 統合幕僚長(6月12日)
「ミスによって接近されたという認識はない。そういう行動を故意にとっていると受け止めています。ただし、意図については確たることを申し上げることはできない」


実は、P3Cは太平洋に初めて進出した中国の空母を偵察中だったのだ。


2003年11月、鹿児島県の大隅海峡を航行する潜水艦。中国が防衛ラインとする第一列島線を破って、日本列島に最接近した事態に政府関係者は驚愕した。


これが、南西諸島のある無人島に国内最大級の基地が建設される契機にもなった。


巨大基地へと姿を変えていく無人島「馬毛島」

鹿児島県・種子島の西わずか12キロにある西之表市の無人島「馬毛島」。


記者(2025年5月)
「コンクリート製造のプラントと思われます。大規模な工事によって、大量のコンクリートが使われることになります」


東京ドーム170個分の島に2030年、自衛隊の巨大基地が完成する。


かつての馬毛島。草木が広がり、固有種のマゲシカがいたるところで姿を見せていた。


着工から2年半。護衛艦などが接岸できる4本のふ頭、燃料タンクや管理棟、4200人もの工事関係者が暮らすプレハブが並ぶ。


マゲシカは、少なくなった緑地に追いやられていた。


馬毛島には、空母化された護衛艦の係留施設、戦争を継続するために必要な燃料タンク、約2000メートルの滑走路2本が作られる。


その滑走路で計画されているのが、現在、東京都の硫黄島で行われているアメリカ軍空母艦載機の訓練だ。


2025年5月、訓練が6年ぶりに報道陣に公開された。滑走路を空母の甲板に見立て、離着陸を繰り返す。自衛隊も最新鋭の垂直離着陸機F-35Bの訓練を行う。


国防と無縁だった島が、「南西諸島の要塞」へ姿を変えていくのだ。


その建設費をめぐって、国会では…


共産党 田村貴昭 衆議院議員
「基地建設の総額、いまだに示されていないが、一体いくらになる?」


中谷元 防衛大臣
「総事業費は現時点でお答えできないことをご理解いただきたい」


建設費はすでに1兆円を超えているとみられる。しかし、最終的な基地の規模や費用がいくらになるのかは闇の中だ。


幾多の開発計画に翻弄された「宝の島」

巨大基地へと姿を変えていく馬毛島。これまで幾多の開発計画に翻弄されてきた。


戦後の食糧難だった1950年代。国策の開拓団が入り、最盛期の1959年には528人が暮らしていた。トビウオ漁や酪農が盛んで、「宝の島」と呼ばれた。


しかし、農業の不振や子どもの進学などで島を離れる人が増え、1980年には無人島となった。


その後、レジャー施設、石油備蓄基地、使用済み核燃料の貯蔵施設を誘致する案まで出たが、いずれも立ち消えとなった。


鳩山由紀夫 氏(2009年7月)
「最低でも県外の移設」


民主党の鳩山政権が打ち出した、沖縄・アメリカ軍普天間基地の県外移設。候補地にあがったのが、鹿児島県の徳之島だった。しかし…


徳之島の反対集会に参加する男性(2010年4月)
「命をかけて闘うからね。許さない、絶対に。この島には一歩も踏み入れさせない」


激しい反対運動が巻き起こり、徳之島への移設は実現せず、急浮上したのが馬毛島だった。


そして、2019年。安倍内閣が、島の大部分を所有していた民間企業から160億円で買収。アメリカ軍も訓練できる自衛隊基地建設に踏み切った。 


決定したことが地元に知らされたのは、アメリカ政府に伝えられた後だった。


西之表市 八板俊輔 市長
「納得がいかない。いつのまにか決まっていたみたいな」


「自分たちの土地に入れない」憤る漁師

2025年5月、基地建設に反対する漁師らが馬毛島へ向かった。島の東側の海は、地元の漁協が国の補償金22億円を受け入れ、漁業権を一部放棄している。


漁師 濱田純男さん
「軍事基地をつくる時は、(漁師全員の)了解をもらってやるのが本当でしょ」


馬毛島で40年以上漁を続けてきた濱田純男さん。 国を相手に基地建設の差し止めを求める訴訟を起こしている。


記者
「馬毛島の漁港に到着しました。このあたりはかつての風景をまだ残している場所です。中には漁具倉庫なども残っています」


反対派の漁師らが権利を持つ「入会地」を残し、島の99%以上を国が買収している。入会地に行くには、国有地を通らなければならない。


しかし、防衛省の職員が立ちはだかる。


漁師 濱田純男さん
「私らと(基地工事について)一度も話していない。なんにも話をしないでこんなやり方を進めている。みんなお金に釣りあげられて」


防衛省側は、頑として立ち入りを認めなかった。


基地建設がもたらす“特需” 対岸の島では人手不足に

馬毛島の対岸、種子島の港には、 毎朝2000人近い工事関係者を運ぶ漁船が並ぶ。「海上タクシー」だ。収入は1日あたり8万円。1か月で160万円にもなる。漁をやめて、海上タクシーに専念する漁師もいる。


漁師
「漁をしているより、(収入は)いいことはいい。漁は毎日出て魚を釣って来ないとお金にならない」


基地建設がもたらす“特需”を冷静にみている漁師もいる。


漁師
「5年後(建設が)終わった後、どうなるか。飲食店もホテルも漁師もまだピンとこない。先を見ている人はまだいないと思う」


漁師の間では、基地に関する話題は避けているという。


漁師
「そこを言うと、けんかになったり、仲が悪くなったりするんで」


朝の競り。旬のハガツオに、アオリイカが並ぶ。


海上タクシーや警戒に出る漁船が多い日は、市場に並ぶ魚がめっきり減る。魚の仕入れは、基地建設が始まってこの2年半で、4割減ったという。


鮮魚店経営
「きょうはあるほうですから。(仕入れ値は)平均して4~5割上がっている。米騒動もあるが、魚も2年前から大変」


基地建設には6000人近くの労働者が吸い上げられ、種子島にも深刻な人手不足をもたらしている。


ハローワークに行くと、馬毛島基地の求人コーナーが特設で作られていた。求人票には月額60万円、さらには100万円と書かれたものまである。  


養護老人ホーム職員の和田香穂里さん。ここでも人手不足が慢性化している。


入所者
「きょうなんか、もうぐちゃぐちゃ。来もせんし」


養護老人ホーム職員 和田香穂理さん
「ごめんなさいね。人がおらんでな。迷惑かけてごめんなさいね」


勤務表を見せてもらうと…


養護老人ホーム職員 和田香穂理さん
「ずーっと誰かいない。最悪、3人もいない日もあった」


この施設は本来50人を収容できるが、今後40人に減らすという。


養護老人ホーム職員 和田香穂理さん
「いろんな島で駐屯地ができる、ミサイルが配備されるという話を聞いたから、基地工事が始まるとこんなんだよっていう話を聞いたことがあるけど、まさか介護のところに人がいなくなるとは思いもしなかった、正直」


周辺の島で広がる不安 屋久島にも軍用機が

馬毛島から南西に40キロ、世界自然遺産の島・屋久島。屋久杉をはじめ、ここでしか見られない手つかずの自然が残されている。だが、2年前…


記者
「オスプレイの機体の一部でしょうか。プロペラも見えます」


屋久島沖で起きたアメリカ軍のオスプレイ墜落事故。乗員8人全員が死亡した。残がいの回収や乗員の捜索に、地元の漁師も協力した。オスプレイの事故としては最悪だった。


捜索・救助に協力した漁師
「近くを飛んでいたとは思わなかった。(今後も)絶対飛ばないということはないと思う」 


馬毛島で計画されるアメリカ軍の戦闘機訓練。詳細な飛行ルートについて私たちの取材に対し、防衛省は明確な回答をしていない。


屋久島の山岳ガイド・内室紀子さん。24年前に神戸から移住して結婚し、今は2児の母だ。


オスプレイを島で初めて目撃したのは、墜落事故の3週間前だった。


屋久島の山岳ガイド 内室紀子さん
「『なんか音がするね』って空を見上げたらオスプレイが2機、屋久島の上を南西方向に飛んだ。私たちの暮らしの上に軍用機が飛んでいくという事実を思い知らされた」


世界自然遺産の森に軍用機の轟音が鳴り響く。馬毛島の基地が、屋久島にそんな日常をもたらすおそれはないのだろうか。


屋久島の山岳ガイド・内室紀子さん
「(軍用機が)飛んでいく先に、私たちには見えない、知り得ない中国とかアメリカとの関係があるのかとか、いろんな思いが出てくる。だけど所詮、離島に住んでいる1人の人間なので、私が声を上げたところで、というあきらめの感情も生まれる」


南西諸島には、有事への危機感が広がる島もある。屋久島の西12キロに位置する口永良部島。86人が暮らす火山島だ。


中国海軍の艦艇が近海を頻繁に航行するようになり、領海侵入も起きた。


住民
「抑止力において、防衛においても(馬毛島基地建設は)仕方ない。台湾有事になった時、この島に危機感と心配はある」


戦後80年 沈んだままの空母

長崎県・佐世保基地。日本が保有するイージス艦8隻の内、4隻が配備される海上自衛隊の拠点だ。


基地を見下ろす海軍墓地。遺骨と共に今も海中に沈んだままの軍艦の慰霊碑が並ぶ。現在のイージス艦の先代達もここに眠っている。


この日、太平洋戦争のミッドウェイ海戦で沈んだ旧日本海軍の空母「加賀」と「飛龍」の慰霊祭が合同で行われた。戦後80年。遺族も少なくなり単独では開けなくなった。


兄が戦死した女性(94歳)
「優しい兄でした。(Q.今戦争が多いですが、どうですか)嫌です。なんで戦争するのでしょう」


父親が戦死した女性
「母のお腹の中にいました。父です。これ(写真)が一枚だけです」


空母は今なお、海に沈んだままだ。       


遺族
「(遺骨は)船と一緒に沈んだままです。箱だけきてます」
「戦争に日本がどう絡んでいくのか気になります」
「一番犠牲になるのはいつも国民」


遺族は、戦争を知らない世代が増えることに危機感を募らせる。 


加賀会 井上秀敏 会長
「戦争を知らない人たちが、戦争を始める可能性があるかもしれない。平和が非常に貴重なものになりつつあります。こんなふうにして亡くなった方たちも、慰霊をしないと忘れられてしまう」


しかし、当時の安倍内閣は台湾危機などを背景に、憲法違反だとの声を押し切り、“事実上の空母”を誕生させた。皮肉にもその名は“かが”だ。


「怖さよりも使命感」緊迫の海に向かう新人指揮官

広島県江田島市の海上自衛隊幹部候補生学校。旧海軍のエリート達が学んだ戦前の“海軍兵学校”の建物が現在も使用されている。


今年の卒業生は200人。彼らには“ハンモックナンバー”と呼ばれる卒業時の成績の順位が付けられている。仮に艦長が戦死した場合、迅速に次の順位の者が指揮を執れるようにする為だ。卒業後、早いケースでは十数年で艦長や機長として第一線に立つ。


卒業生
「日本は輸入に頼っている国で、その輸入がないと国の産業もまわっていかない」


記者
「有事には第一線に行かなければいけない?」


卒業生
「命じられたら行く覚悟はできています」
「今日本が平和に、明日のご飯を心配せずに生きていける、その日常を守れたらいいと思います」
「海上自衛隊のイージス艦に憧れて(入りました)。(戦争は)怖いです。怖さよりも使命感を持っています」


緊張が高まる国際情勢に家族の心境は複雑だ。


卒業生の家族
「心配でないと言ったら嘘ですけど、2~3年したら戦争になるような、煽り過ぎのように感じています」
「国を守っていくために頑張ってやってくれているが、主人なので心配。何かあったらと考えながら日々生活しています」
「死生観というのは言いづらいところがあるので、笑顔で送り出すんですけれども、本当の気持ちはやっぱり辛いです」


指揮官として彼らが向かうのは、周辺国の思惑が複雑に絡み合う“緊迫の海”だ。


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