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『黒ひげ危機一発』ルール変更に賛否? 国民的エンタメゲームが“原点回帰”で目指すものは何か、タカラトミーに聞いた

国内
2025-07-15 09:10
『黒ひげ危機一発』ルール変更に賛否? 国民的エンタメゲームが“原点回帰”で目指すものは何か、タカラトミーに聞いた
50周年を迎える『黒ひげ危機一発(7代目)』(C)TOMY
 今年7月の50周年を機に、「飛び出させた人が“負け”」から「飛び出させた人が“勝ち”」へと「ルール変更」を行った『黒ひげ危機一発』。第一報を伝えた記事はXで拡散され、1330万表示を記録し、約700件もの反響を呼んだ。その中には、ルール変更を好意的に受け止める声のほか、「飛び出したら負けの方が緊迫感あって面白い」「今?どうして?」という声も。半世紀にわたり親しまれてきた国民的エンタメゲームは、なぜ今、公式ルールを変えたのか。発売元のタカラトミーに話を聞いた。

【画像】50年前に発売された初代『黒ひげ危機一発』

■「“負け”ではなく“勝つ”という普遍的な楽しさを提案したい」

 大人から子どもまで誰もが楽しめる単純明快さ。加えて、誰が海賊を飛び出させるかわからない公平性とスリル感で、今や世界中で愛され続けている『黒ひげ危機一発(以下、黒ひげ)』。50周年を迎え、「飛び出させたら負け」から「飛び出させた人が勝ち」へとルール変更に至ったのは「“原点回帰”が目的だった」と言う。

「例えば弊社のアナログゲームのロングセラー商品には人生ゲームもありますが、こちらはその時代を表しやすいので、職業や人生の選択など時代と共に変化させてきました。ところが『黒ひげ』は短剣を刺すだけというシンプルなゲーム性なこともあり、1979年の2代目以降、スタンダード版は見た目も遊び方もほぼ変えていないことが特徴でした。そんな中、50周年を迎えるにあたり、何かできないかと考えたとき、改めて50年前に立ち返り、“負け”ではなく“勝つ”という普遍的な楽しさを提案できたらと思いついたことがきっかけです」(タカラトミー プリスクール・ゲーム事業部・池澤圭さん/以下同)

 『黒ひげ危機一発』が誕生したのは1975年。鎌倉で行われた企画を練るためのアイデア合宿に参加していた開発担当者が、海を見ながら「敵に捕まって、樽の中でグルグル巻きにされている親分を救出するため、子分たちが短剣を刺して縄を切る」というストーリーを思いついたことが発端だった。そのため、当時は当然、「飛び出させた人が勝ち」がゲームの正式ルールだった。

 そのルールが「飛び出した人が負け」に変わったのは、発売から20年後のこと。当時の人気クイズ番組『クイズ!ドレミファドン!』(1976‐88年・フジテレビ系)の企画コーナーに採用され、「飛び出した人=負け」という意味合いで使われたことがきっかけだった。番組の反響で、1979年から同社は「飛び出したら勝ちまたは負け(遊ぶ前にどちらにするか決めてから遊んでください)」とルールを自由設定に、そしてついに1995年に「飛び出したら負け」にルールを正式に変更。日本国中、『黒ひげ危機一発』と言えば「飛び出したら負け」が当たり前のルールとして浸透したのだった。

 そして発売50周年を迎えた今年、そのルールをくつがえし、“原点回帰”で「飛び出したら勝ち」にルール変更した『黒ひげ危機一発』。X上では、「1人負けよりも1人勝ちのほうが今の価値観に合っている」「負けよりも勝ち、ネガティブよりポジティブは現代に合っている」などの賛同が寄せられる一方で、「飛び出したら負けの方が緊迫感あって面白い」と従来のルールを推す声も少なくなかった。

 たしかに、教育現場で自己肯定感を高めるポジティブ教育が推進されているように、今の時代は「飛ぶ=負け」より「飛ぶ=勝ち」のほうが合っているといえる。しかし、池澤さんは「ルール変更においては、時代の価値観に合わせてという意識は正直、ありませんでした」とキッパリ。

「『誰か1人が負けて終わるよりも勝って終わったほうがポジティブだよね』という声が実際、社内会議であがりましたが、ルール変更の後押しになった程度のことでした。また、『そもそも社内でルール変更に反対の声はなかったのか』という声も寄せられましたが、そういった動きはほとんどありませんでした」

 ルール変更はあくまで半世紀という長きにわたり親しまれてきた不朽のゲームへのリスペクトを込めた“原点回帰”だったのだ。

■50年間でユニークな新商品25種以上を投入も、人気はスタンダード版

 ところで、今や国内だけでなく、海外でも『Pop up Pirate(ポップ・アップ・パイレーツ)』などの名称で47の国と地域で発売されているが、海外では、ルールはどう設定し、どう遊ばれているのだろうか。

「世界でも、『飛び出させた人が負け』が主流となっています。おそらく日本のルールがそのまま適用されたためだと思います。遊び方については、ご家族で集まった際などに使われることが多いと聞いたことがありますが、日本が一番いろいろなところで遊んでいただいているのではないかと思います。託児所や高齢者施設をはじめ、バーなどで大人の方が飲みながら遊ばれたり、イベントで使っていただいたり、遊ぶシーンでは日本が一番バリエーション豊かな印象です」(タカラトミー プリスクール・ゲーム事業部・池澤圭さん/以下同)

 子どもから高齢者までルールを説明すればすぐに遊ぶことができ、特別なスキルも言語も必要なく、勝敗は完全に運によるもののため皆が平等に楽しめる――まさに、このシンプルさこそが、『黒ひげ危機一発』の魅力だ。それは、50年間のこんなエピソードにも表れている。

 先の人生ゲームのほかにも、リカちゃんやプラレールなど、時代に合わせて姿を変えながら愛され続けるロングセラー商品を多数抱える同社では、『黒ひげ危機一発』も定期的に新商品を投入してきた。

 ビリビリ振動を加えた『黒ひげ博士ビリビリ危機一発』や5人の黒ひげが一斉に飛び出す『超飛び黒ひげ危機一発MAX5』、すごろくのルールを適用した『黒ひげ危機一発 ゆらゆら海賊船ゲーム』など、これまでに25種以上の変わり種が登場している。それらが話題になる一方で実感したのは、「やはりオーソドックスなスタンダード版の揺るぎない人気だった」という。

 そのため、『黒ひげ危機一発』においては、「変わらないこと」を売りとしたスタンダード版も発売されてきた。1979年に登場した2代目で樽と人形のデザインをガラッと変えてからは、見た目はほぼ変わっていない。今月5日に発売されたスタンダード版7代目も、「黒ひげ人形の手のデザインが6代目よりも若干がっちりした」と、もはや間違い探しかというほどのマニアにしかわからないアップデートとなっている。

■アナログでも現役、『黒ひげ危機一発』が“懐かし玩具”にならないワケ

 それにしても、なぜ『黒ひげ危機一発』はデジタルゲームをはじめ、デジタルトイ全盛の今も、“懐かしい玩具”に成り下がらないのか。現役であり続ける強みはどこにあるのだろうか。

「やはりアナログゲームには、膝と膝を突き合わせて、相手の表情を見ながら遊べるという楽しさがあるからだと思います。しかも『黒ひげ』は、難しいことは一切考えずに、ただみんなの反応を見ながら楽しく盛り上がることができます。それはデジタルゲームにはない魅力だと思います」

 コロナ禍を経て、令和世代たちからの需要の高まりも実感していると池澤さんはいう。

「コロナ禍、アナログゲームの売上が非常に上がりました。外出自粛を余儀なくされ、ストレスを抱える中、ご家族みんなでひとつになって盛り上がれるものとして需要が高まったのが理由だと思います。令和世代のみなさんはそういう時間を経て、アナログゲームの良さをリアルに体感している世代かなと思います。今、ボードゲームで遊べるカフェも増えていますが、やはりデジタルが溢れている世の中だからこそ、アナログの魅力をより感じやすく、その楽しさを味わいたい人が増えているのではないかと思います」

 リアルなコミュニケ―ションがなかなか生まれにくくなったといわれるデジタル時代、1つのゲームで盛り上がる中で生まれる会話や笑いはより貴重なものとなっている。『黒ひげ危機一発』もそんな使命を負ったゲームの一つということだろう。

 ちなみに、発売50年目の“原点回帰”は「ルール変更」だけではないそうだ。

「アイデア発祥の地・鎌倉にて8月下旬までコラボカフェを開催しています。9月には由比ガ浜海岸でビーチクリーンも開催予定です。現地では『巨大黒ひげ危機一発』で遊べるので、ぜひ、『黒ひげ』を通じてリアルなコミュニケーションを楽しんでください」

(取材・文/河上いつ子)

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