
カムチャツカ半島付近で先月30日に発生した地震により、太平洋沿岸を中心に1日あまりにわたって津波警報・注意報が出されました。
日本全国で酷暑が続く中、長時間にわたる避難中に熱中症で搬送された人は11人に上りました。
今回の津波から見えた避難の課題や教訓は何だったのか。静岡大学防災総合センター教授の牛山素行さんに話を聞きました。
(TBSラジオ「荻上チキ・Session」2025年7月30日放送分から抜粋)
――今回の津波の状況をどうご覧になっていますか?
牛山:今回は津波災害としては、あえて言えば「恵まれた」ものだったと注意した方がいいと思います。
暑さは厳しかったものの、日本に到達した津波は陸地にまで大きな被害をもたらすものではありませんでした。また、震源が日本から離れていたため、警報が出てから避難する時間的余裕がありました。さらに国内で地震の直接的な被害がなく、道路や建物も壊れていないし、停電も起きませんでした。
今回の津波の経験から「津波の避難ってこんな風にできるんだな」と思ってしまうと、すぐに到達する津波が起きた時、いろいろな油断につながるおそれがあるのではないかと懸念しています。
――今回は長時間にわたって避難指示が出されました。この点はいかがでしょうか?
牛山:今回は「遠地津波」と呼ばれる海外で起こった津波でしたが、遠地津波や、そもそも大きな地震に伴う津波の場合は警報が長く続くことは特殊なことではありません。避難指示が長く続くことも十分あり得ると知っておいた方がいいです。
こうした津波を念頭に、「避難の長期化」に備えておくことも大切です。
普段の避難訓練では、せいぜい1時間、2時間もすれば終わってしまいますよね。ただ、今回のような津波では半日、1日と避難指示が続くこともあるため、裏山など避難する場所を事前に決めていたとしても、「本当にそこに自分は留まり続けることができるか」ということも考えておいた方がいいです。
津波からの避難は短時間で終わるものでは必ずしもないと考えておいた方がいいですね。
――遠地津波では揺れを感じないのに、津波への警戒が呼びかけられる状況が続きます。こうした時の心構えは?
牛山:遠地津波の場合、揺れがなくても津波が来る可能性が大いにあり得ます。もっとも、今日報道を見ていた範囲では「揺れが来てないのになんで津波が来たんだ」といった声があちこちで上がっていたような感じではなかったので、こうした知識は社会に定着したのかなと思いました。
ただ、今回は遠地地震だったので警報が出てから津波の到達まで時間がありましたが、震源が近い地震の場合は津波警報が間に合わない場合もありえます。「津波の時は事前に予告が来る」と考えてしまうのは危険です。
――津波だけではなくて、川を水が遡上するような現象もあります。どう警戒すればいいでしょうか?
牛山:川の遡上については、少し社会が過剰に警戒している気がしています。
川に沿って海から離れた場所まで津波が遡上することはよくありますが、多くの場合、大きな河川には堤防があり、津波の影響は川の中にとどまることが一般的です。津波が河川の堤防を破壊する、乗り越えるといったことは、東日本大震災の時でも基本的には海近くの場所でみられたことでした。
川を遡上する津波の力はとても強いので、川原に立ち入ることは絶対にしてはなりませんが、海から離れたところで遡上によって建物が壊されるなどの大きな被害が出る危険性はそれほど心配しなくてもよいように思います。
ただし、川と繋がっている水路は遡上した津波の影響で溢れる可能性があり、思わぬところで流されてしまうおそれもあります。津波注意報が出ているようなときには、海岸とともに、川や水路など、水が流れるところからは極力離れることが必要です。
――自治体の対応はどうでしたか?
牛山:避難情報の出し方で気になる点がありました。
北海道のある自治体が「緊急安全確保」という避難情報を出したのですが、これは内閣府のガイドラインに照らしてみると、適切な対応ではありませんでした。
「緊急安全確保」は、たとえば大雨で堤防が決壊してあたりが水に浸かってしまったような時に、「もう避難所を目指すのはむしろ危険なので、その場でちょっとでも安全確保するように、行動を切り替えてくれ」という呼びかけをする時に出す情報なんですね。
津波は大雨みたいに段階的に危険性が高まっていくタイプの災害ではないので、出すべき避難情報は、危険な場所からの退避を呼びかける「避難指示」一択なんです。
これは「ガイドラインにそう書いてあるんだから守れ」というような話ではありません。津波が迫りつつあってもまだ安全な場所を目指した避難行動がとれる段階で、「その場にとどまれ」っていう意味の情報を出すのはおかしいでしょう、という話です。
ただ、私この町を批判する気には全然なれないんですよ。特に小規模な自治体では、津波などの自然現象や、避難情報などの制度について精通した職員の方が十分いらっしゃるわけではないと思うからです。個々の職員さんは一生懸命やられていると思うんですが、災害時の自治体では、専門的な教育や訓練を受けたわけでもない職員の方達が、難しい判断をしていかざるを得ないのが現実なんです。
ですから、小さな自治体に対して、防災に通じた人材の育成など、様々な形での支援策を考えていく必要があると改めて思いました。
うしやま・もとゆき
専門は災害情報学。風水害、特に豪雨災害を中心に、人的被害の発生状況、災害情報の利活用、避難行動などの調査研究に取り組む。内閣府「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン検討会」委員など、省庁や地方自治体の各種委員を歴任。著書に「豪雨の災害情報学」など。
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