520人が亡くなった日航機の墜落事故から40年。私たちは、事故の翌朝、捜索活動にあたる自衛隊の活動の記録映像を新たに入手しました。また、墜落機を発見した自衛隊のパイロットが初めてカメラの前で証言しました。
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「8月12日だけは涙が流れてしまう」日航機墜落40年
弟を亡くした 小林由美子さん
「『40年間笑顔を忘れないで頑張ってきたよ』『でも8月12日だけは、我慢していた涙が流れちゃうんだ』というようなことは(弟に)お話して」
日航機が墜落した群馬県・御巣鷹の尾根。今年も遺族らが“慰霊登山”をおこないました。
今年、慰霊登山に初めて参加した俳優の黒木瞳さん。事故で、宝塚歌劇団の同期生を亡くしました。
黒木瞳さん
「早く来たかったんですけれども、自分の中で、どうしても認めたくないという思いが強かったので、ここに来たら本当に認めなきゃいけないという思いがあって。本当に山の中で、しんどかったんだろうなと思います」
遺族らは、亡き人への祈りとこれからの空の安全を願いました。
「今でも脳裏に刻まれている」墜落機発見のパイロット
JNNが新たに入手した墜落事故の翌朝、現場で生存者の捜索などをおこなう陸上自衛隊・第一空挺団の活動記録の映像。
煙がくすぶる山。なぎ倒された木々の中には、破壊された機体がいたる所に散らばっている様子が写っています。隊員たちは、その残骸をかき分けながら必死の捜索を続けていました。
事故当日、羽田空港で撮影された123便の離陸前の様子。
午後6時12分、大阪に向け出発した123便は伊豆半島上空に差し掛かったところで異変を起こし、旋回を続けていましたが、その後、信号が途絶えました。
そして、午後6時56分、日本航空123便が墜落。それからまもなく、茨城県の百里基地から 2機の戦闘機が捜索に向かいました。
その戦闘機に搭乗していた航空自衛隊の元パイロット・渡辺修三さんと南尚志さん。今回、カメラの前で初めて証言しました。
離陸した際は、情報が錯綜していたといいます。
渡辺修三さん(当時二等空尉)
「最初のインフォメーションは、『飛行機、米軍か何かが落ちた』」
南尚志さん(当時三等空尉)
「『民間機が行方不明になった』みたいな。日航のジャンボ機なんて、すごく大きな飛行機が落ちたという認識は全然ありませんでした」
基地を出てから約20分後の午後7時15分に、123便の信号が途絶えた地点に到着。あたりは暗く、薄雲で覆われていて上空からの捜索は困難を極めました。
しかし、その5分後の午後7時20分。
南尚志さん
「ぱっと雲が切れて、そしたらオレンジの明かりがドンと急に、ブワッと燃えているのが見えた。墜落して火災を起こしたと瞬間的に理解して、本当に絶句でした」
渡辺修三さん
「炎の色と燃えている状況、今でも脳裏にはしっかりと刻まれている」
一夜が明けた13日午前8時半ごろ、陸上自衛隊第一空挺団が現場に到着。生存者の捜索、地形の把握などの任務のため活動を開始しました。
小隊長として活動にあたった岡部俊哉さんは、想像を絶するほど悲惨な状況だったと話します。
岡部俊哉さん(当時二等陸尉)
「ディズニーランドの帰りだというのがわかるキャラクターのぬいぐるみがかなりの数落ちていました。人間がこれだけボロボロの状態になってるのに(お土産の)ぬいぐるみが綺麗な状態で残っている。人間ってこんなに脆いものか。むなしさとか苦しさが同居してるような思いだった」
部分遺体が散乱し、「生存者がいるとは思えない」そう感じていた岡部さんの元に、生存者発見の知らせが届きます。
岡部俊哉さん
「この地獄から生還された奇跡は、驚きとともに、生きていてくれて本当に良かったという思い」
垂直尾翼の約6割を損失 123便墜落の原因とは
123便の墜落の原因は何だったのでしょうか。
異変が起きたあとの123便の機体を捉えた写真。このとき機体は、飛行バランスをとるために最も必要な部分、垂直尾翼の約6割が失われていました。
飛行中に機内の気圧を一定にするための「圧力隔壁」が壊れ、その衝撃で、垂直尾翼が破壊されたのです。
バランスが取れなくなった機体は、左右に傾きながら蛇行、そして墜落となったのです。
墜落の7年前、この機体はしりもち事故を起こしていました。
1978年に撮影された映像からは、機体の後ろ側が損傷し、黒く焦げているのがわかります。この時に「圧力隔壁」が損傷。修理は製造メーカーのボーイング社がおこないました。
しかし、墜落事故後の調査で、その修理が不適切だったことが判明。ボーイング社もそれを認めました。
なぜミスが起きたのか 修理ミスめぐる警察との“攻防”
なぜミスが起きたのか。
警察はボーイング社の「修理指示書」を問題視しました。ボーイングの修理チームの「技術部門」から「現場部門」に指示されたものですが、丁寧な書き方とは言えず、修理はこの通りにおこなわれませんでした。
警察などは訪米し、ボーイング社の修理担当者などから聴取を試みましたが実現せず、なぜミスが起きたかの解明には至りませんでした。
一方で、警察は日航側に対しても「ボーイング社の修理ミスを、日航が見逃した」との見立てで強制捜査に乗り出しました。
取り調べを受けたのが、日本航空の取締役で、事故調査の最高責任者だった松尾芳郎さん(当時54)。
松尾さんと親交があったジャーナリストの木村さんは…
ジャーナリスト 木村良一さん
「(松尾さんは)日航とボーイング社のパイプ役。しりもち事故(の修理)をボーイングに任せるべきだと進言したのは松尾さん。事故機に関して、日本で一番、世界で一番知っている」
木村さんは2020年に松尾さんから当時の記録を受け取りました。
ジャーナリスト 木村さん
「群馬県警の取り調べ内容と検察庁の事情聴取。これを“松尾ファイル”と呼んでいます」
そこには、修理ミスの責任をめぐる警察と日航の攻防が記されていました。
取調官(日航元取締役・松尾氏のメモより)
「警察をなめるな。俺の言うことがわからないのか」
「会社として責任はあるはずだ」
松尾芳郎さん(日航元取締役・松尾氏のメモより)
「ボーイングが修理ミスをした。それを日航が発見できなかった。しかしその発見の可能性は極めて小さかった」
松尾さんは「会社としての責任はあると思う」とした上で、日航が修理の現場に立ち会えていない以上、発見は難しかったと過失を否認しました。
現在94歳となった松尾さんは私たちの取材に対し、当時日航の高木社長にこう迫ったと振り返ります。
日航元取締役 松尾さん(94)
「『ボーイングを訴えるべき』と高木社長(当時)に進言したことがあったが、頷くだけで行動はされなかった」
松尾さんは、日航とボーイングの関係性がすべてが解明されない要因だったのではないかと話します。
日航元取締役 松尾さん(94)
「社内にあった『ボーイングは神様』の考えが社長にも染み込んでいたのかもしれない。あるいは当時の良好な日米関係、中曽根総理とレーガン大統領の関係を忖度されたのかもしれない」
ボーイング社は、修理ミスの理由を40年経った今も明らかにしていません。
広がる陰謀論 いま求められる情報と正確性は?
藤森祥平キャスター:
当時のつらい記憶をもとに、今回、かつての自衛官が取材に応じてくださいました。
現在インターネットを中心に広がっている「日航機墜落は、自衛隊が原因になっているものだ」というようないわゆる“陰謀論”に対し、「本当のことを知ってほしい」「現場で活動した皆さんの尊厳を守りたい」という気持ちがあったということです。
真偽がわからない情報に、さらに胸を痛めてしまっている人が存在しているということです。
小川彩佳キャスター:
だからこそ事故から40年経った今、初めて証言をしてくださる方がいるわけですね。
記憶を繋いでいく私達も、改めて正確な情報に立脚して考えようとする姿勢を持たなければと感じます。
小説家 真山 仁さん:
実は10年前に、この事故をテーマに小説を書こうと思い、御巣鷹山に2回登りました。事故から30年の慰霊祭を取材したり、周辺に同世代の日本航空社員もいたりしたので、いろいろな人に話を聞きましたが、やはり「わからないままでいいのか」という思いがすごくあったように感じました。
ドキュメンタリーやノンフィクションだと全ての裏付けが無いと解明できませんが、小説の場合は、さまざま情報の中から「こうではないか」という提案ができるのではないかと思いました。いろいろな事情があって断念しましたが、その後、陰謀的な話が出てきたので、もっと頑張って取材をすればよかったと感じました。
一方で、40年というのは重要で、例えばアメリカの公文書が開示される年だったりします。ボーイングはアメリカ政府には絶対に報告してるはずですが、機密文書になっているのでしょう。
機密文書が開示されることで、何があったのか解明されていくはずです。“陰謀論”などを含め、何があったかわからないままというのは、全ての当事者にとって不幸でしかありません。
「悲しみのかさぶたを剥がすのか」という意見もありますが、これだけの年月が経っていますので、何があったのか解明すべきなのかなと思います。私自身、このタイミングでスタジオに呼ばれたことも含めて、「もっと早くやるべきだった」という思いはあります。
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<プロフィール>
真山仁さん
小説家 2004年「ハゲタカ」でデビュー
最新著書に「アラート」
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