
スマホが必需品となった現代社会において、私たちはSNSを通じ、わざわざ検索せずとも、受動的に大量の情報に接するようになっている。
【写真を見る】あなたの意思決定も操作されている?SNS上で見られる不自然なバズり “選挙介入”疑惑、そのメカニズムとは
7月に行われた参議院選挙で、各政党は街頭演説だけでなく、SNSを積極的に駆使して自分たちの主張を発信し続けた。「#手取りを増やす夏」「#日本人ファースト」などのキーワードがバズり、実際にこのキャッチフレーズを掲げていた国民民主党と参政党は大きく議席数を増やす結果となった。
SNSが選挙の命運を分けたと言っても過言ではないが、課題もある。
一つは「偽情報」「誤情報」の拡散。そして今回の選挙期間中、新たに話題となったのは「外国勢力による選挙介入の疑い」という、なんとも不穏な雰囲気を感じさせる問題だ。
『誰が、何のために、どうやって?』
専門家によると、今、SNS上では“機械的で不自然なバズり”が散見されているという。
まさかの大統領選挙やり直し 海外では「選挙介入」が以前から問題に
実はこの「選挙介入」、海外では既にいくつかの事例が報告されている。
▼ルーマニア大統領選挙
大きな影響を受けたのは東ヨーロッパの国・ルーマニアでの大統領選挙だ。去年11月に行われた1回目の投票で、無名でロシア寄りの極右候補・ジョルジョスク氏がいきなり首位となったのだ。その後、ルーマニアの情報機密機関が「SNSで情報操作があった」とする機密文書を公開したほか、ロシアによる選挙介入も指摘され、選挙結果が無効となる事態に。
その後、やり直し選挙が実施されたが、このジョルジョスク氏の立候補は認められなかった。
▼アメリカ大統領選挙
2016年、共和党のドナルド・トランプ氏と民主党のヒラリー・クリントン氏が戦ったアメリカ大統領選挙でも「選挙介入」が物議を醸した。いわゆる“ロシア疑惑”と呼ばれるものだ。
大統領選の1か月前、アメリカの国土安全保障省などは、ロシア政府が選挙に介入するため個人や政治団体などのメールのハッキングに関与していたと、公式に非難する声明を発表した。
選挙はトランプ氏の勝利で終わったが、ロシアがトランプ氏勝利のために、クリントン陣営に対するサイバー攻撃を行っていたという疑惑が浮上。実際、民主党のコンピューターがハッキングされ、クリントン陣営などから流出したメールが暴露されていた。
その後、FBI=連邦捜査局の長官がトランプ陣営とロシアが連携していた可能性について捜査していることを明らかにするなど、事態は大きく動き、結果、アメリカの情報当局はロシアのサイバー攻撃があったと断定。プーチン大統領の指示だったと結論付ける報告書も公表された。
その他、フランス大統領選挙やイギリスのブレグジット(EU=ヨーロッパ連合からの離脱選挙)などでもロシアによる介入が指摘されている。
「日本で起きないわけがない」 SNSで見られた『不自然なバズり』
日本ではどうなのか。実は選挙介入を疑わせる事例は既に起きている。
◎平将明デジタル大臣(7月15日)
「海外においては他国から介入される事例なども見て取れる。今回の参議院選挙も一部そういう報告がある。検証が必要だと思う」
◎青木一彦官房副長官(7月16日)
「我が国もこのような影響工作の対象になっているとの認識のもと/偽情報等の拡散を含め、認知領域における情報戦への対応能力を強化することとしている」
参議院選挙の最中、選挙介入の疑惑について記者会見で問われ、平デジタル大臣と青木官房副長官はこのように話した。現時点では大きな騒ぎにはなっていないものの、一体何が起こっていたのか。
情報空間の分析を専門とする会社「Japan Nexus Intelligence」の代表で、平デジタル大臣に情報提供をしたという髙森雅和氏は、Xのあるアカウントの投稿が拡散される過程を分析したところ、その約35%がプログラミングによるものだった可能性があるという結果が出たと話す。
プログラミングによる拡散とは何なのか。
髙森氏によると、『何らかの組織』があったとして、その組織が数千、数万という数のアカウントを用意する。自分たちが広げたい投稿に対して、用意したアカウントを使い、大量に「いいね」や「リポスト」を付けることで拡散していくということだ。
今回、この『何らかの組織』が、外国勢力によるものなのではないかと疑われているわけだ。
大量のアカウントはプログラミングによって動作を指示されており、投稿から2、3分で大量の「いいね」を付けるなど、人間的ではない、不自然なバズりを引き起こしているという。一度バズれば、おすすめやランキングにも表示されるようになり、さらに拡散されるメカニズムになっている。専門家の世界では「Bot(ボット)」と呼ばれている。
髙森氏が調査したアカウントは、参議院選挙以前から石破総理や岩屋外務大臣を批判するような内容などを発信し、SNS上で極右的な主張をする、俗に“ネトウヨ”と呼ばれる人々を煽るような主張を繰り返していた。ロシアとのつながりも指摘されていたが、髙森氏は「投稿主がロシアと繋がってるみたいな評価は判断が早すぎる」と話す。
当然、個人がどんな主義・主張を持つのかは自由だ。ただ、一部の主張が外国勢力によって意図的に広がるように操作されていたとするならば、深刻な問題である。
「日本で選挙介入が起きているのか、いないのか、今の調査では断定できない。しかし、世界的にはある話なので、この先日本で起きないわけがない」と髙森氏は指摘する。
狙いは「国の分断」「政治の混乱」か 一貫性がなく、分かりにくい影響工作
では、外国勢力による介入があった場合、彼らの狙いは何なのか。
前出の髙森氏は「相手国の分断を作り、政府の意思決定に影響を与えることなのでは」と話す。
また、情報社会に詳しい中央大学特任准教授の田代光輝氏も「政治の混乱」だと指摘する。
海外の事例ではそのほとんどがロシアによる関与が疑われている。「何か主張を通すわけでも、ロシアの傀儡を作るということではなくて、ただただ混乱をさせて国力を低下させれば良いという意図はすごく見えてくる」と田代氏は話す。
確かに、明らかに親ロシア的主張を繰り返している投稿がバズっているのであれば“操作された”と気付くことが出来る可能性がある。しかし、実態はそうではないことも、この問題を複雑化させている。
かつて政治系の切り抜きショート動画をアップして人気を博したYouTubeチャンネルに、そういった特徴があったという。(※今は削除済み)
田代氏によると、このチャンネルは元々1つの動画が約300回再生程度のゲーム実況チャンネルだったが、去年7月の都知事選の時期に、突如石丸伸二氏を支援する内容の切り抜きショート動画をアップし始め、動画再生数が10万回ほどの人気のチャンネルになったという。
その後、
(1)2024年9月の自民党総裁選では高市早苗氏、
(2)2024年10月の衆議院選挙では国民民主党、
(3)2024年11月の兵庫県知事選では斎藤元彦氏、
(4)2025年7月の参議院選挙では参政党
を応援する内容の動画をアップし人気を維持し続けた。また、ライバル候補のネガティブキャンペーンも展開していた。
政治系切り抜きショート動画自体はよく見かけるものだが、田代氏によると、このチャンネルは投稿から短時間という不自然な形で再生数を伸ばしていたそうだ。
見て分かるように、投稿主の発信内容に一貫性は全くなく、ただ、時の政治家を応援することにより再生数を稼ぐという広告収入目当ての意図が垣間見える。
田代氏「いわゆるプチインフルエンサーみたいな方は、今の日本人の不安に寄り添うような主張をし、それがおすすめに表示されバズる」
投稿主にその気がなくても、知らぬ間に『国の分断』に利用されている可能性があるのだ。
情報操作“前提”の社会へ 個人が「気をつけるというレベルを超えている」
専門家への取材を通して分かった問題点は、情報の発信者側(投稿主)は自分の投稿が利用されていることに気づきにくく、情報を受け取る側の人間も「その投稿は反響がある」と錯覚して見ているということだ。さらに厄介なのは、人間は「正しい情報」を求めるのではなく、「自分を肯定してくれる情報」を取りにいくということだ。
では、情報操作の影響を受けないためにはどうしたら良いのか。
「SNSを見ないようにしましょう」というのは、デジタルネイティブの世代がこれから増えていく中で到底無理な話である。
田代氏は「ネットリテラシー、つまり受け取る側が能力を高めて嘘に騙されないようにしましょうというのが今の流れだが、それも無理だと思っている。(我々1人1人が)気をつけるというレベルを超えている」と話す。
『デマには気をつけましょう』という時代から、『情報操作やデマを前提とした社会』に移りつつあるのかもしれない。
選挙は民主主義の根幹だ。選挙介入は、個人の意思決定に影響を与え、国家レベルで甚大な悪影響を及ぼす。決して大げさな表現ではなく、民主主義の崩壊を招く可能性がある問題だ。
参院選中には、Xがロシアによる介入が疑われたアカウントを凍結したが、こうしたプラットフォーム事業者による規制もいたちごっこにしかならず、何より表現の自由の侵害や言論統制となる可能性もある。
残念ながら、現時点ではこの問題を根治するような効果的な対策は見当たらない。
平デジタル大臣は会見で「今後政府の中でもしっかり協議をして、明確にここが司令塔として対応するといった部署なり、ユニットを作る必要がある」との考えを示した。政府に限らず、多くの政治家も危機感を示している。
『情報操作やデマを前提とした社会』が定着しないためにも、国による対策は急務だ。
我々報道機関も他人事ではなく、情報の発信者としてさらに強い責任感をもって仕事に取り組む必要がある。
TBSテレビ 報道局政治部
堀宏太朗
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