
今回は、食事をしながら手話で会話を楽しめる手話カフェ「UD Cafe & Bar -tetote-(テトテ)」を取材しました。
【写真を見る】平塚にある手話カフェ「UD Cafe & Bar -tetote-」
「U・D」とは「ユニバーサル・デザイン」の略で、「tetote」は2年前に神奈川県の平塚でオープンしました。
スタッフは、手話を話せる店長のほか、聴覚障害のある学生が中心で、手話を話せる人もそうでない人も、気軽に手話に触れ合える“集いの場”となっています。
きっかけは聴覚障害のある生徒から聴いたある言葉
「tetote」を立ち上げた株式会社ユーディフル代表の北村仁さんは手話とダンスを融合した「手話ダンス」のダンススタジオ「UD DANCE SCHOOL」を運営し、北村さん自身が講師として教えるなど、手話ダンサーとして活動しています。
3年前のある日、聴覚障害のある高校生の生徒との会話がきっかけとなり、北村さんは聴覚障害者の雇用の場を作ろうと立ち上がりました。
オーナーの北村仁さんにその背景を聴きました。
UD Cafe & Bar -tetote-オーナーの北村仁さん
「ダンススクールの生徒で聞こえない男の子がいて、レッスンの休憩中に『アルバイトとかやっているの?』と聞いたら、ダンスでは楽しく笑っていたんですけど途中からちょっと顔が曇って『アルバイト受からないんだよね』と言われて、なんとかできないかなと思い、手話カフェの開業資金というのを投資していただくことになりました。そこから2年前に間借りでまずは始めてみたのが、背景ときっかけです」
高校生の生徒が12社連続で落ちてしまったというアルバイト先。たとえばハンバーガーショップではポテトが揚がった合図の音だったり、お客さんの声が聴こえないでしょうなどという理由でなかなか職が見つからなかったようです。
いくつも辞めてきたアルバイトから今は…
「tetote」で開店当初から働いている25歳のろう者のスタッフである謳歌さんに、これまでのアルバイトや、今の職場での変化について聴きました。
取材当日のインタビューでは、謳歌さんの手話を手話ダンススタジオに通う中学2年生のめいこさんに代わりに読み取ってもらい、ラジオ収録用に話してもらいました。
25歳のろう者のスタッフ謳歌(おうか)さん/弁 中学2年生のめいこさん
「私の名前は謳歌です。私が聴こえないからコミュニケーションが合わなかった。苦手なこと言われたりとか命令の言葉が苦手で心が折れましたね。高校生の時は、ハンバーガーショップやスーパーで働いて、次はペットショップ。すぐ合わないからやめて、色々やめて、やめて…だからここの仕事が一番長いです。みんな聴こえないことへ理解があるからゆっくり話してくれる。みなさん優しいから私は働きやすいです。助けてくれるからここにいることができると思います」
「tetote」で働き出すまでは人と関わることが苦手だったと話す謳歌さんでしたが、取材当日は積極的に手話でお客さんに話しかけたり、笑顔がとても印象的でした。
辿々しい手話を覚えてきた私にもゆっくり手話で話してくれて、挨拶だけでも通じ合うことに喜びも感じました。
また謳歌さんは絵を描くことが得意なので、手話を1文字ずつ50音で表す「指文字」のイラストが描かれたお店のオリジナルグッズのデザインも手掛けています。
店内に飾られている絵画は謳歌さんによる絵画作品です。店内には謳歌さんのアトリエも併設されていて、謳歌さんがのびのびと楽しんで働いている様子でした。
お店がある平塚市内にはろう学校があり、そこに通う学生からは「高校生になったらここで働きたい!」という声が挙がるなど「tetote」は憧れの職場にもなっているようです。
オーナーの北村仁さんによると経営に苦しんだ時期もあったということで、今は聴覚障害がある方の希望になっていたら嬉しいと話してくれました。
手話初心者DAY
また「tetote」では隔週水曜日に「手話初心者DAY」と題して、お客さんに手話を教えています。
スタンプラリー形式で挨拶や自己紹介や、「ありがとう」「嬉しい」「楽しい」などの感情表現を伝える手話に挑戦することができます。
店長のいのっちさんによるレクチャーの一節をご紹介します。
「UD Cafe & Bar -tetote-」店長いのっちさん
「まず一つ目、『おはようございます』。手話で言うと、グーにして、頭の横に付けて、下ろす。これで『朝』という手話ですね。枕を取る姿。両手の指を1と1にして、これを曲げる。頭を下げている様子ですね。『おはようございます』。次、昼は、指をピースにして、ピースをくっつけて、縦に向けます。これを、おでこに当てる。これは時計の針がちっちっちって12時を指した状態ですね。顔が時計の盤だと思ってもらって『こんにちは』になります」
手話の成り立ちから教えてもらえ、先生の身振り手振りを真似て手や指先を動かすことが、ある種ダンスにも似たような感覚で、初めて手話を覚える筆者自身も楽しんで臨めました。
何より、私も謳歌さんやスタッフの方と話すために他の手話も覚えて語彙力を増やしたいと思いました。
この日「tetote」に訪れたお客さんは手話練習中の方から、手話サークルに通う方、手話ダンスを踊る方など様々でした。
みなさんに来店のきっかけや、感想を聴きました。
手話経験者女性
「手話サークルに入っていて、やはり日常的に手話を使った方が少しでも自分のためになるなと 常々思っていたんですが、あるとき手話カフェがあるよというのを知って来ました」
手話ダンサー中学2年生女子
「自分たち以外のお客さんでもろうの方とか難聴の方とかがいたら手話でお話したり、指文字を学べたりするので結構手話要素が散りばめられていると思います」
リピーター女性
「tetoteに来れば、ろうのスタッフの方もいるので自分が出した手話がその子たちに伝わると嬉しいですし自然と教われるというか、間違えても恥ずかしくない。そこがすごい気が楽で私は好きです」
今回の取材を通じて、「tetote」以外でも聴覚障害のある人の働き口や、日常的に手話に触れ合う場が増えることで手話でのコミュニケーションの広がりに期待したいと感じました。
(TBSラジオ「人権TODAY」担当:久保絵理紗 (TBSラジオキャスター))
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