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豪雪地で〝厄介者〟の雪をエネルギー資源に <シリーズSDGsの実践者たち>【調査情報デジタル】

国内
2025-09-13 07:30

 冬の間に積もった雪を、夏の冷房に利用する。建物の中に雪を置いて、電気を使わずに日本酒を貯蔵する。豪雪地の〝厄介者〟である雪を、エコなエネルギーに変える取り組みが新潟県南魚沼市で進んでいる。「シリーズ SDGsの実践者たち」の第47回。


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雪にシートを被せて冷房のエネルギーに利用

全国的に猛暑が続いていた7月下旬は、新潟県南魚沼市でも気温が30度を超えていた。南魚沼市役所を訪れると、シートが被せられた高さ3メートルくらいの堆積物が敷地の一角にある。看板には「スノーバンク南魚沼」と書かれていた。


シートに覆われているのは、冬の間に降り積もった雪。この雪を少しずつ解かして、解けた水をポンプでくみ上げ、冷房システムの冷却水に使われる不凍液を冷やす。この仕組みによって、市役所南棟の1階に設置された4台のクーラーが、雪のエネルギーによって稼働している。暑い外から一歩建物に入ると、ヒヤッとする涼しさを感じるほど、クーラーは十分に効いていた。


南魚沼市は新潟県南部の魚沼盆地に位置していて、南魚沼産コシヒカリの生産地として知られる。


その一方で、世界有数の豪雪地でもある。冬場は2メートルから3メートルの高さに雪が降り積もるのが当たり前の土地だ。一晩に1メートル近く積もることもあり、累計積雪量は毎年10メートルを超える。シートに覆われた雪がある市役所の敷地の一角は、もともと除雪したあとの雪をためておくスペースだった。


この雪をできるだけコストをかけずにエネルギーとして利用しようと、今年度から大阪のメーカーと共同開発した雪を保存するシートで実証を始めた。環境交通課の岩井英之課長によると、シートを被せた4月下旬には450トン、高さ5メートルの雪があったが、7月下旬のこの日までに90トンまで雪が解けたという。


「シートは15メートル四方の敷地に、450トンの雪を台形に整える前提で開発しました。シートには450万円、雪山の成型には150万円の費用がかかっています。今年は暑くて5月12日から冷房を使い始めたので、予想より早く雪が解けています。それでも、ドローンで測量をすると、雪山が全体的に縮んでいるのがわかっていて、理想的な解け方です。消えてしまう雪を少しでも長く残すシートの効果が出ていると思います」


〝厄介者〟の雪を有効活用する

南魚沼市では、冬の間に積もった大量の雪の活用について、民間企業や大学関係者と「雪の勉強会」を2021年に立ち上げて、雪資源の活用を中心とした再生可能エネルギーの導入について研究を進めている。


冷房への活用は、新型コロナウイルスワクチンの接種会場などでも試験的に行ってきた。今後は市の健診施設や給食センターなどの一部に雪を使った冷房の導入を進めている。市をあげて雪をエネルギー資源として活用するのは、「豪雪地の課題解決が目的」だと岩井課長は表現する。


「豪雪地の課題は雪です。冬の最中は本当に厄介者で、毎日除雪しなければなりません。この厄介者の雪をいかに夏の間まで残しておいて、有効活用できるかを研究しています。その中でも最も大きな目的は、災害などによって電源を喪失した際に、貯めておいた雪を活用することです。雪を活用できれば、電源がなくても稼働する冷蔵庫を有していることになります。それを少しでも簡易で安価な方法で実現しようとしているのが、今回開発したシートです」


「雪室」で日本酒を貯蔵する

南魚沼市内では、民間企業も雪のエネルギ−を活用している。その一つが日本酒の「八海山」を生産している八海醸造。敷地の入口にある大きな蔵で「八海山」の9割を製造している。また、周辺にはビールの醸造所や観光客も利用できる社員食堂のほか、飲食店、売店、雑貨店なども揃えた「魚沼の里」を展開している。


「魚沼の里」の木々に囲まれた一角に、事前の申込みによって見学できる施設「八海山雪室」がある。


雪室は、わかりやすく言えば、雪を活用した天然の冷蔵庫だ。日本書紀にも雪室が使われていた記述がある。冷蔵庫が普及する以前は、雪室がこの地域の各家庭にあり、秋に取れた農作物を雪室で保存しながら食べていたという。こうした雪国の暮らしを説明する展示があり、展示スペースや通路もひんやりと冷たさを感じる。


通路の先に現れたのは、建物の一部に積み上げられた雪と、日本酒を貯蔵するタンク。温度計は6.3度を示している。


雪を入れるのは年に1回で、2月下旬頃に大量に積もった雪を屋根や壁いっぱいに入れていく。この雪室のように、1つの部屋に雪と貯蔵物を入れて冷やすタイプは、氷室型と呼ばれる。ほかに、直接雪をかけるかまくら型もある。この雪によって、年間の室温は4度前後、夏場に上がっても6度程度とほぼ一定に保たれている。


「雪室」で保存することで付加価値が生まれる

八海酒造が雪室を作ったのは2013年だった。清酒や麹などの卸部門を担当する株式会社八海山の上村朋美コーポレートコミュニケーション課課長は、雪室を作った思いを次のように説明する。


「雪室を作るきっかけになったのは、2011年の東日本大震災です。電気の代わりに自然エネルギーを活用できないかと考えて、雪国だからこそ、雪を工夫した施設を構想しました。冬の間に2メートルから3メートルも積もる雪は、厄介ではあります。でも、雪がなければ雪解け水も生まれず、日本酒『八海山』の淡麗な味わいも実現できなかったでしょう。米などの美味しい農作物ができるのも、保存食が発達したのも全部雪の恩恵です。そのような雪の暮らしも紹介したいと考えて施設を作りました」


雪室で貯蔵できる日本酒の量は2000石、約36万リットルで、日本酒用の雪室としては国内最大級だ。通常、日本酒は原酒を3か月から半年ほど貯蔵してから出荷する。鮮度を保つために、長期貯蔵はあまり良くないと一般的には考えられていた。


ところが、雪室は温度が一年を通して一定で、湿度が高く、電気などを使わないので振動もない。日本酒にとって全くストレスのない環境であることから、長期貯蔵によって味がまろやかになることがわかった。毎年味を見ながら3年間熟成して発売を始めたのが、「純米大吟醸 八海山雪室貯蔵三年」。白いボトルが、雪という自然の力を利用してできた酒であることを物語っている。


この「雪室貯蔵三年」は、男子ゴルフ4大メジャー大会の一つであるマスターズで2021年に優勝した松山英樹選手が、翌年の大会開催前に歴代の優勝者にディナーを振る舞う「チャンピオンズディナー」で提供したことで世界に知られた。雪室では8年貯蔵の日本酒も販売していたが、製造が追いつかず品薄状態となり、現在は「雪室貯蔵三年」の販売に絞っている。


雪室では日本酒以外にも、ジャガイモなどの根菜類やコーヒー豆などを貯蔵。雪の冷気は「魚沼の里」にある、ショップの商品を冷蔵するための部屋の冷房にも活用している。雪の自然エネルギーの活用は、地場産業の商品の高付加価値化を実現している。


南魚沼市内では現在、雪室による倉庫を持つ企業が10数社に及ぶなど、産業での活用が進みつつある。雪室で効率的に雪のエネルギーを活用するための技術も確立されているという。


南魚沼市では、市役所の敷地内にためた冷房用の450トンの雪について、二酸化炭素排出量や電気代がどれだけ削減できたのかを算出して検証することにしている。同時に進めているのが、より簡単に、より安く、誰でも雪のエネルギーを使えるようにすること。今後一般家庭に雪をデリバリーして、より簡単に冷気を活用する方法なども模索している。


冬の間に降り積もった雪をエネルギー資源に変える「雪国」の挑戦は、これからも続いていく。


(「調査情報デジタル」編集部)


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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