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いよいよシェア5割…加熱式たばこがここまで普及したのは日本だけ? 最下位だったJTが図る勝負の一手

国内
2025-10-22 09:10
いよいよシェア5割…加熱式たばこがここまで普及したのは日本だけ? 最下位だったJTが図る勝負の一手
主要3社がしのぎを削る加熱式たばこ市場 (C)oricon ME inc.
 大阪・関西万博での喫煙所不足など、何かと注目を集めるたばこの話題。喫煙人口の減少で市場が縮小傾向にあるのは事実だが、実は変化も見せている。それが、「日本ならでは」の加熱式たばこの普及だ。この市場でシノギを削るのは、主要3社。その動向は? そして、シェア3位に甘んじてきた唯一の国内企業・JTの思いは? 厳しい目が向けられがちな同事業だが、様々な意味で難局に挑む起死回生の一手を聞いた。

【画像】アイコスに寄せた? いやいや…プルーム オーラの秀逸デザイン

■これぞ日本人の国民性? 世界で最も「吸わない人への気配り」が細やかな喫煙者

 「海外と比べて日本は喫煙ルールがユルい」と言われることもあるが、一概にそうとも言い切れない。喫煙ルールは国によって異なるが、たとえば欧米は屋内は全面禁煙ながら、建物から一歩外へ出れば基本的にどこでも喫煙可能な国が多い。

 かたや日本はというと、屋内は原則禁煙で、さらに屋外も路上喫煙禁止区域が増加。「売っているのに吸う場所がない」という喫煙者のジレンマは拡大しつつある。しかし、そこは周囲への配慮を重んじる日本人。一部のマナー違反者は論外だが、ほとんどの喫煙者は「少しでも迷惑をかけないように」と喫煙所を探して奔走しているのが実情だ。吸わない人でも、その様子を目にすることはあるだろう。

 そうした国民性を反映してか、近年、紙巻きたばこから加熱式たばこへシフトする人が急速に増えている。2019年の厚生労働省の調査では7:3の割合で紙巻き派が優勢だったが、JTたばこ事業本部RRP商品企画統括部長・山口氏によると「当社推計によると2025年6月時点では、加熱式たばこのシェアは46%。都市部などすでに50%を超えている」とのこと。さらに「ここまで加熱式たばこが普及しているのは日本だけ」という現象も興味深いところだ。

 「様々な要因が考えられますが、昨今は屋外で吸える場所が減ったことから、自宅や車で利用しやすい加熱式にシフトしたという声をよく聞きます。また私は長らくスイス・ジュネーヴに本社のあるJTインターナショナルに勤務してきましたが、日本人の喫煙者は世界で最も『吸わない人への気配り』が細やか。『ニオイが少なく、煙や灰が出ない』という加熱式たばこならではの特徴は、様々な面で日本にマッチしていたのではないでしょうか」

 実際、加熱式たばこ市場は世界的にも広がってはいるものの、伸長している韓国やイタリアでも3割に満たず。イギリスやアメリカは電子タバコ(リキッドを吸うもの)が主流で、加熱式たばこがここまで普及する日本は特異だと言える。

 こうした外的要因に加えて、「かつてよりも加熱式たばこがおいしくなった」と評価する喫煙者は多い。現在、日本では主要3社が加熱式たばこを展開しているが、「各社ともに成長分野として加熱式たばこに投資を集中させている」とのこと。製品の進化とそれに伴うユーザー満足度の向上が、市場拡大の要因の大きな要因となっていることも間違いなさそうだ。

 そんな日本の加熱式たばこ市場だが、1位「IQOS(アイコス)」(フィリップ モリス ジャパン)、2位「glo(グロー)」(BATジャパン)、3位「Ploom(プルーム)」(JT)という国内シェアは長らく不動だった。唯一の日本企業にして、紙巻きたばこのシェアトップであるJTが最下位とは寂しい限りで、山口氏も「率直に言って悔しく、忸怩たる思いがあります」と本音を明かす。

 苦戦を強いられた理由について、山口氏は「市場に出遅れたことが痛手だった」と分析。たしかに2014年にローンチしたIQOSは、一時期、加熱式たばこの代名詞とも言えるほどのブームを巻き起こした。2019年にはJTもIQOSと同様の“高温”加熱式たばこ・Ploom Sを発売するが、5年のブランクは大きい(JTが2016年から販売したPloom TECHは“低温”加熱式)。

 こうした後発ブランドとしてのビハインドはありつつも、「品質では負けていない自信があった」と山口氏。その言葉通り、近年はPloom X、Ploom X ADVANCED(プルーム・エックス/アドバンスド)と巻き返しを図ってきた。さらにこの7月には満を持して過去イチの自信作と誇る『Ploom AURA(プルーム オーラ)』を全国で発売。発売イベントでは「Ploomブランドでシェア2位を目指す」との宣言もあったが、果たして──。

 「8月末時点でJT史上最速の200万台販売と、過去製品の2~3倍の勢いで売れています。予想以上の反響で、7月の全国発売直後はシェア2位のポジションで競合他社と一進一退の状況。早い段階でシェア2位のポジションを確定できると見積もっていますし、もちろんその先の1位も視野に入れています。シュリンクしつつある市場ではありますが、加熱式たばこカテゴリ内のシェアを伸ばせているのは当社だけです」

 このように好調のPloom AURAだが、気になるのが縦長スリムのデバイスのデザイン。これまでPloomブランドは丸っこいデザインを基調に展開されてきたはずだが──、もしやIQOSに寄せた?

 「社内では『PloomのDNAを継承すべきだ』という議論もありました。しかし、調査では加熱式ユーザーの7~8割は縦長スリムを好むことがわかっていますし、シェアを取りに行くためにはニーズに寄せる必要もあります。一方で従来モデルと同様に、繊細な曲線のフォルムは他ブランドにはないPloom独自のこだわりです」

 たしかに直線的・機械的な他社ブランドに対して、Ploom AURAは有機的・情緒的なデザインだ。手のひらにフィットする“持ち心地”も含めてユーザーのリラックスタイムに寄り添う心遣いは、日本企業ならではと言えるかもしれない。

 デバイスへのこだわりはありつつも、「主役はあくまでスティック」。Ploom AURAと同時に発売された加熱式たばこ専用スティックブランド『EVO(エボ)』は、紙巻きたばこ分野で研鑽を重ねてきたJTの強みが生かされている。

 「厳選したたばこ葉のみを使用するとともに、スティックの先端を閉じた仕様とすることで、最初から最後までスムースな吸い心地と満足度の高い味わいを実現しました。価格は550円と他のPloom専用スティックよりはやや高めですが、他ブランドと比べれば平均的です。当社の調査では、初めてPloomを試した方の半数以上はEVOに定着していることがわかっています。さらに『EVOはおいしい』という評判を耳にして、他ブランドからPloom AURAへと乗り換える方も増えています」

■成功体験から保守的だった組織のマインド、「チャレンジ精神を持たなければ前進はできない」

 それにしても長らく市場シェア3位に甘んじてきたJTが、ここに来て一気に起死回生を実現しつつある秘策はどこにあったのか。

 「何よりも、組織のマインドセットを変えることが重要でした。JTは紙巻きたばこ分野ではずっと1位だった分、どこか発想が保守的だったり、過去の成功体験に頼りがちなところがありました。しかし、加熱式たばこ分野では3社で最下位という事実に向き合う以上は、チャレンジ精神を持たなければ前進はできないと考えました」

 JTのマインドチェンジを象徴しているのが、<プルーム・オーラが、いちばんおいしい>という比較広告だ。これは喫煙者487人が目隠しした状態で吸い比べて回答した結果(Ploom AURA・56%、競合A社・34%、競合B社・10%)を表したもの。「従来のJTなら、プライドもあり、こういう比較広告は嫌っていた。だがそんな悠長なことは言っていられない」と、山口氏は広告の意図を明かすが、その大前提には製品への確固たる自信があるのは言うまでもない。「国内唯一のたばこメーカーであり、長らく市場を牽引してきた会社として、顧客満足度を追求することで加熱式たばこの分野でも市場をリードしていきたい」と決意を語る。

 とはいえ、たばこ・喫煙は批判も多いジャンル。そうなると真っ先に矛先が向かうのも、唯一の国内企業であるJTだ。

 「ネガティブな意見があることは重々承知しています。ただ、一息つくための嗜好品が様々ある中で、一定数はたばこを好む方もいます。企業にはその価値を担保し、たばこユーザーの心理的な負担を減らす製品を作る責任があります。また一方で、煙やニオイを嫌う方がいることも無視はできない。ニオイが少なく、煙の出ない加熱式たばこは、吸う人と吸わない人が共存できる社会を目指す上での1つの解決策なのではないでしょうか」

 IQOSのフィリップ モリス ジャパンは、日本国内での紙巻きたばこの販売を順次終了する方針を表明している。絶滅危惧種へと追いやられつつある紙巻きたばこの未来像を、JTはどのように見通しているのか。

 「紙巻きたばこを愛好する方は、存在し続けると思います。とはいえ、市場環境を鑑みると、少数派になることは想像に難くありません。紙巻きたばこはより嗜好品としての色合いが強いもの──たとえばブランデーや葉巻のような位置付けになり、さらなる高い品質やブランドとしての魅力が求められるようになると思います。当社は今後も紙巻きたばこ・加熱式たばこ、どちらにも注力していきます」

 喫煙環境が厳しくなるなかで、なんとか周囲に迷惑をかけずに一息つきたい喫煙者。加熱式たばこが目に見えて伸びているのは日本人の性であり、「吸う人」の満足度をあげようとする企業努力は当然のこと。一方、「吸わない人」にとっても、ニオイや煙が気にならなくなるのであれば悪い話ではない。そもそも、年間2兆円のたばこ税収は貴重な財源でもある。吸う人はマナーを厳守し、吸わない人の理解を得る。企業には互いが心地よく過ごせる製品を開発し、責任を果たしてもらいたいものだ。

(文:児玉澄子)

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