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拡散を繰り返した男性が今度は標的に… 匿名のデマ・誹謗中傷との長い闘い 加害と被害の連鎖を止めるには【報道特集】

国内
2025-11-15 21:04

兵庫県知事選挙後、匿名のデマや誹謗中傷をやめさせようと闘い続けている人がいます。その一方で自ら拡散したデマを後悔し、謝罪する人も出始めています。どうすれば加害と被害の不幸な連鎖を食い止めることができるのでしょうか?


【写真を見る】拡散を繰り返した男性が今度は標的に…


「全く違う世界」を見ていた選挙戦

NHK党・立花孝志容疑者(2024年10月31日)
「斎藤は悪い奴だと思い込まされてる。これが僕が言うところの、テレビによる国民の洗脳」


立花孝志容疑者が繰り返した“斎藤知事のパワハラは嘘”などという内容は、どれほどの影響したのか?投票日の前日から当日にかけて、兵庫県民およそ2300人を対象にしたアンケート調査がある。


斎藤氏を支持すると回答した人と、対立候補の稲村氏を支持すると回答した人たちで、正反対の結果が出た。「パワハラはマスコミによる捏造」と思うかどうかをきいたところ、斎藤支持者では、約7割が「そう思う」と回答した。そして…


立花孝志容疑者(2024年11月1日)
「嘘によって知事を追い落とそうとするクーデターがバレた」


斎藤氏が辞任に追い込まれたことは、「既得権益層によるクーデター」と思うかどうかについても、同様の結果となった。

調査した田中辰雄教授に聞いた。


――斎藤支持者に深くこうした情報が浸透した理由、原因はどんなところにあるのか?

横浜商科大学 田中辰雄 教授

「基本的にはですね。利用しているメディアですね。斎藤支持者が利用しているネットメディア、特にYouTubeが一番多い。これだけ大きく事実認識がずれるのは珍しい。(互いが)全く違う世界を見ている」(斎藤支持者の主要な情報:YouTube…25.5% X…13.3% 田中教授の調査結果より)


さらに、「マスコミ報道は信用できる」と思うかどうかの設問には、斎藤支持者では実に8割以上が「思わない」または「どちらかといえば思わない」と回答した。


――確信を持ってマスコミは信用できると「思わない」と答える人が63%

横浜商科大学 田中辰雄 教授

「すごいですよね。『どちらかといえば』ではなく。当時流れたYouTube動画を見れば、そういう気持ちになるのでは」


兵庫県知事選関係のYouTube動画では、立花容疑者のチャンネルの動画が最も多く視聴された。(合計約1500万回再生 選挙期間中投稿分/ネットコミュニケーション研究所調べ)


立花孝志容疑者(2024年 政見放送)
「10人ですよ!10年間ですよ!」
立花孝志容疑者(2024年11月3日・@Reform_NHK)
「どう考えても犯罪でしょ。不同意性交罪とか」


――デマや根拠不明の情報というものも多く飛び交ったが、そうした情報もそのまま受け取られて投票行動に結びついたという可能性は?

横浜商科大学 田中辰雄 教授

「あるんじゃないですかね。根本的な事実についての認識が違う。それで行動してしまうと、民主主義にとって大変良くない」


儲かる選挙動画 拡散のカラクリ

兵庫県知事選をめぐる動画を作っていたのは、斎藤知事や立花容疑者の支持者たちだけではなかった。


関東地方に住む、YouTuberの男性。1年半前から趣味で政治系切り抜き動画のチャンネルを始め、再生回数が最も多かったのが、兵庫県知事選だった。


政治系ユーチューバー
「39万再生ですね、選挙期間中の演説だったと思います。驚きましたね、斎藤知事は悪役だったはず、にもかかわらず応援のコメントがついて」


動画に書かれたコメント
「兵庫県の皆様、明日は是非、斎藤さんに投票してください。お願いします」


男性は、再生回数などに応じ、YouTube側から月に80万円を超える広告収入を受け取った。


政治系ユーチューバー
「普段の収入が(1日)1万円だとしたら、急に4万円とか5万円になったりする。お金にとりつかれたような感覚。(YouTuber同士で)競争が起きてくるので、サムネとかキーワードが過激になっていく。『サムネとかキーワード嘘じゃね』ぐらいのレベルになってくると、自分は何かそこから一歩身を引こうと」


男性は立花容疑者の主張が、兵庫県警本部長に否定された時も動画をアップロードしたという。


政治系ユーチューバー
「これ出さないと意味がない。立花さんの動画を1個でも出したなら、それに対して『デマでした』というのがあるなら、謝罪動画は出すべきかなと思いました」


報道特集は2025年3月、政治系動画が対価を伴う取引の対象になっている実態を報じた。仲介サイトを通じて、クライアントが動画制作を発注。受注者には報酬が支払われていた。

斎藤知事を支持する動画を制作していた男性は…


――斎藤さんを支持する気持ちはあった?

動画編集した大学生

「僕自身はこういうことは思っていないけど、そういうふうにしちゃった。お仕事としてやってるわけで」


報道を受け、仲介サイトはガイドラインを改訂。政治活動などに関連する仕事の依頼を禁止した。ところが、11月…


仲介サイトに掲載されていた募集
「国会中継や会見映像の切り抜きショート動画編集者を募集します」


複数の発注者が、政治系動画制作の募集をしていた事が分かった。番組の取材に対し、仲介サイトは…

仲介サイト
「ご指摘いただいた仕事について、ガイドライン違反となることが確認できましたため、中断対応を致しました」


YouTuberの男性は、政治系動画の発注はなくなるどころか、XなどSNS上にも広がっていると感じる。


政治系YouTuber
「(自分は)政治チャンネルで(動画を)発注したことはない。ちなみに(動画制作の)単価は上がってきています、編集単価。1本につき4000円~2万円って書いてありますが、半年前はもっと安かったです。儲かるということ、お金目的でやっている人が増えている」


メディアとSNSの問題に詳しい法政大学の藤代裕之教授は、こう警鐘を鳴らす。


法政大学 藤代裕之 教授
「動画サイトやSNSは、アクセスを集めるとお金が儲かる『アテンション・エコノミー』という仕組み。選挙そのものを変質させた」


「人々の注目」によって経済的価値が高まる「アテンション・エコノミー」。選挙への悪影響を防ぐためには、どうすればいいのか。


――(YouTubeなどの)プラットフォーム企業にファクトチェックのようなものを求めるのは、利益最優先の企業体質の中でなかなか難しい部分がある?


法政大学 藤代裕之 教授
「プラットフォーム規制をどうしていくか。ヘイトとか誹謗中傷とか“発言側”に注目が集まりがちだが、“注目するとお金が儲かる”という仕組みが問題。規制は表現の自由を毀損する、非常に危険な側面もある。発信して儲ける、儲けを抑制する、これだとやはりリスクが少ない。表現の自由を毀損するリスクは少なくなる。こちらの方が早急に進める必要がある」


誹謗中傷を後悔、謝罪の手紙「穏便に対応を」

誹謗中傷と闘い続けてきたのは、竹内元県議だけではない。百条委員会の元委員、丸尾牧県議。


兵庫県 丸尾牧 県議
「人生の中で一番辛かった1年。非常にしんどいことたくさんありました」


立花孝志容疑者(2024年11月)
「丸尾の事務所も行くし、竹内、丸尾、奥谷見つけたら皆さん教えてください。すぐ行きますから」
「あの告発文書を書いたのは竹内だけじゃなく、丸尾牧も書いとるんです。丸尾いつでもかかってこいよ」


この虚偽の発言で名誉を傷つけられたとして、丸尾県議は立花容疑者に損害賠償を求め、裁判を起こしている。

SNSでこんな誹謗中傷も受けた。


誹謗中傷の投稿(2024年12月投稿※現在は削除)
「大ボラ吹き」
「斎藤おろしの黒幕の一人」


丸尾県議は誹謗中傷に対し、発信者情報の開示請求や削除を求める裁判を、XやYouTubeを運営するGoogleなどのプラットフォーム事業者らに対して、何度も起こしてきた。

対象となった投稿の数はのべ100件以上。


丸尾牧 県議
「僕だけじゃなくて、たくさん苦しんでる人がいると思う。そういう人たちを、これ以上苦しめないためにも、やはり間違いがあったらすぐに改める、謝罪をする」


だが、その道のりは険しかった。最初に行った発信者情報の開示請求は、裁判所が開示決定をだすまでに7か月かかった。さらに、開示決定が出ても…

丸尾牧 県議
「もう11月になるけど、その対応もひどいなと思う」

決定から4か月がたったいまも、プラットフォーム側から投稿者の電話番号やメールアドレスなどが開示されていないのだ。


丸尾牧 県議
「被害者の立場でいうと、ずっと心理的な負担が続いている状況。民事(損害賠償請求)含めて検討はしたいけど、前へ進めない状況」

――プラットフォーム側はなぜ開示が遅れていると説明しているのか?

丸尾県議の代理人 笠原一浩 弁護士

「対応に時間がかかっているという説明にとどまっている」


このため丸尾県議は、プラットフォーム側に裁判所の決定に従うよう求める「間接強制」といわれる手続きを申し立てた。プラットフォーム側が従わなければ、制裁金が課されることになる。


丸尾牧 県議
「場合によっては制裁(=制裁金)を加えてもらって、連絡先を開示するということを速やかに行ってほしい」


藤代教授は、プラットフォーム側の責任について…


法政大学 藤代裕之 教授
「簡単に拡散できる仕組みを、プラットフォームが作っている。ボタンひとつですぐに拡散できる。そして拡散した方がさらに自分のところにいいねがついたり、評価されたりという仕組みがある。拡散しやすい仕組みを作っているプラットフォームの責任を問う必要がある。

今回、立花容疑者が逮捕された。でも、仕組みが変わらなければ、ずっと逮捕し続けなければいけない。根底の問題は直らない」


デマや誹謗中傷を後悔する人も出始めている。


竹内元県議を「斎藤知事を貶めた主犯格」と決めつけ、拡散された動画。立花容疑者のXにも引用され、249万回閲覧された。

この人物は同じ動画の中で、丸尾県議についても「知事の疑惑のネタをでっちあげた」と伝えていた。だが、丸尾県議から開示請求をうけたと知り、謝罪の手紙を送ってきた。


送られてきた謝罪の手紙
「YouTubeの収入で家族を支えてきましたが、現在は生活面でも困難が続いており、別の収入手段を模索しております。誤った情報や表現によりご迷惑をおかけしたことを真摯に反省しており、穏便にご対応いただきますよう心よりお願い申し上げます」


丸尾牧 県議
「率直に謝罪をしていただいたことは、ホッとする半面、素直に100%『はい、もうこれでいいです』『終わります』ということにはならない」


「殺害予告まで来た」誹謗中傷を繰り返した男性が標的に

この男性は、斎藤知事を支持する立場から、丸尾県議らへの攻撃を繰り返していた。


「丸尾落選させてください」「丸尾まきの議員辞職を要求します」(現在は削除)


丸尾県議を攻撃していた男性
「自分が先陣切って走ってやっていて、自分としては誹謗中傷に当たらないと思っていたが、誹謗中傷に該当すると気付いた」


2025年3月、男性も発信者情報の開示請求をきっかけに、丸尾県議に謝罪した。


丸尾県議への謝罪文
「事実に基づかない批判を展開し、更には辞職を求める署名運動をし、多大なるご迷惑をおかけした事、お詫び申し上げます」


だが、その後、斎藤知事を支持する人たちから「態度が180度変わった」などと批判されるようになり、反論すると攻撃はさらにエスカレートした。


丸尾県議を攻撃していた男性
「斎藤支持者から個人情報を特定され、住み込みで働いていた場所、住所、勤務先、取引先、取引先の関わってる人のことまでさらされて。殺害予告まで来た」

――ご自分に?メールで?
「はい。X上で」

――どんな内容なんですか?
「お前殺しに行くと」


ネット上には、名前と顔写真も拡散された。男性は職を失い、引っ越しを余儀なくされた。環境を変えた事をきっかけに、Xのアカウントの削除を決めた。


丸尾県議を攻撃していた男性
「人に対して行ったことは自らに返ってくることを、身をもって経験いたしました。人生の転換期を迎えるにあたりSNSから身を引く決断をいたしました」


――このアカウントを消すのですね?
「はい、消します」 

「誹謗中傷は自分の人生も壊す」と言って、男性は削除ボタンを押した。


丸尾県議を誹謗中傷した男性
「いま誹謗中傷している人は、自分に跳ね返ってくることを考えてないと思う。自分に返ってきた時の怖さを考えれば、もう少し冷静沈着に、言葉を選んで投稿できると思う。情報を確かめることもできると思う。僕と同じような過ちを犯す人が出ないよう願っています」


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