
高市総理の台湾有事をめぐる発言で、中国側の強硬姿勢がエスカレートしています。総理の発言を台湾の人たちや、台湾に最も近い島・与那国島の住民はどう受け止めているのでしょうか?
【写真を見る】高市総理の“有事発言”で強硬化する中国 台湾に近い日本最西端・与那国島の不安と本音【報道特集】
高市総理の発言 撤回求めるデモも 中国側「対抗措置」とみられる動き加速
村瀬健介キャスター
「金曜日の夜、総理官邸前です。たくさんの人が集まっています。高市総理の発言の撤回を求めるデモに若い人も含めて、様々な世代が参加しています」
シュプレヒコール
「総理はただちに発言撤回!高市総理は憲法守れ!」
デモ参加者
「軽はずみすぎるという言葉以外浮かばない。国益を考えたとしても、あの総理の発言はあってはならない」
「危機感を持っている人もいると伝わればいいなと思って来た」
デモの参加者が撤回を求めたのは、11月7日の高市総理の答弁だ。
高市総理(11月7日・衆院予算委)
「台湾を完全に中国政府の支配下に置くようなことのために、どのような手段を使うか。それが戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても“存立危機事態”になり得る」
「存立危機事態」とは、日本が直接攻撃を受けていなくても密接な関係にある他国が攻撃された際に、日本の存立が危ぶまれる事態を指す。
日本が集団的自衛権を行使する際の前提条件とされていて、総理が「台湾」と明示して言及したのは初めてのことだ。
中国側は強く反発している。
中国外務省 毛寧 報道官
「日本が歴史と2国間関係に責任を持ち、一線を越えた火遊びをやめ、誤った言動を撤回するよう促す」
中国政府は日本産の水産物の輸入停止や、“反スパイ法”による日本人の摘発をちらつかせるなど「対抗措置」とみられる動きを加速させている。
元外務審議官「外交上何のプラスもない。百害あって一利なし」
2002年に拉致被害者帰国のため、北朝鮮との交渉にあたった元外務審議官・田中均氏。
今回、総理が台湾と具体的にあげたのは、安全保障の鉄則から外れたものだと批判した。
元外務審議官 田中均氏
「外交上何のプラスもない。百害あって一利なし。地域のことを言った途端に相手はまさに敵視する。防衛の概念で相手を刺激する必要性は全くない。
あえてそれ(具体名)を言わないというのが安全保障。高市総理はいとも簡単に言ってしまった」
1972年、日中国交正常化の際に合意した共同声明では「中国は台湾が中国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する」「日本はこの立場を十分理解し尊重」などと記された。
田中氏は、高市総理が「この共同声明に従って行動する」と改めて表明すべきだと話す。
元外務審議官 田中均氏
「行動は総理にしか出来ない。総理がどういう意識なのか。『共同声明は大事だ』『日中関係は大事だ』『この存立事態についての宣言の一部は取り消したい』と言うべき。そこからしか物事は始まらない」
「アメリカの思惑」…“台湾有事発言”が意味すること
安全保障に詳しいジャーナリスト・布施祐仁さん。総理の発言には背景があると見ている。
安全保障を専門に取材 ジャーナリスト 布施祐仁さん
「高市総理が、就任早々に所信表明の中で防衛費の更なる増額を表明した。これと今回の台湾有事に関する発言は深く関わっていると見ています。日本の防衛だけでなく、この地域の防衛もアメリカに頼らず日本にやってほしいというアメリカの思惑がある」
高市総理は、防衛費をGDPの2%=約11兆円まで引き上げる時期を前倒しするとしている。
台湾有事を「存立危機事態」と明示したことは、何を意味するのか。
布施さんは万が一、台湾の後ろ盾となっているアメリカが、中国と戦闘状態に入った場合を例にあげる。
ジャーナリスト 布施祐仁さん
「アメリカが戦争して攻撃を受けたときに、日本もアメリカを支援するためにそこに加わればアメリカからは喜ばれる。日米同盟や信頼関係が深まるかもしれない。
しかし同時に、日本が攻撃を受けてないにもかかわらず、そこに日本が参戦していけば当然、一番近くにある日本が攻撃を受ける。日本の国民の生命が脅かされる。国民に説明して、理解と同意を得ないで進めるというのは非常に無責任」
長射程ミサイルの配備「あり得ない」 自衛隊と“共生”の町でも戸惑い
11月9日、熊本市で大規模なデモがあった。反対していたのは、駐屯地への新たなミサイル配備だ。
山本恵里伽キャスター
「熊本市内の学校や病院、そして住宅が多く立ち並ぶエリアですが、その中に陸上自衛隊健軍駐屯地があります。ここに長射程ミサイルが配備される予定です」
配備されるのは、改良された12式(ひとにしき)地対艦ミサイル。射程は優に1000キロを超え中国本土の一部も入る。
反対運動を進める地元グループの代表・山下雅彦さん。
STOP!長射程ミサイル・県民の会 山下雅彦代表
「この地域一帯が向こうの反撃や攻撃の対象になってしまう。ピンポイントでここだけ狙うことはできない。1000キロも向こうからは。(配備は)とにかくあり得ない話」
熊本市・健軍は自衛隊と“共生”してきた町だ。
恒例のイベントでは、地響きを立てて戦車が現れる。走るのは“自衛隊通り”と呼ばれる県道だ。健軍駐屯地には第五地対艦ミサイル連隊が置かれている。
報道特集が取材した地対艦ミサイルの訓練映像。20年以上前から中国の海洋進出を念頭に、この種の訓練が繰り返されてきた。
山間部に置かれたレーダーが敵の艦船を捉える。正確な位置を確認してミサイルを発射する。
しかし、長射程ミサイルの配備には、自衛隊と“共生”してきた町でも戸惑いの声が上がっている。
山本キャスター
「地元の皆さんに説明は?」
地元住民
「ない。それがちょっと問題じゃないかな」
地元住民
「普段、自衛隊を身近に感じていて、守ってくれているという印象があったので。賛成とも言えないが、強く反対はできないかな」
防衛力強化が進む中、高市総理の発言について山下さんは…
STOP!長射程ミサイル・県民の会 山下雅彦代表
「近隣諸国を刺激・挑発するような取り組みが準備がされ、それを進めるような発言が軽率になされるというのは大変問題」
自衛隊受け入れめぐり二分された経緯も…高市総理答弁で「防人の島」は
海洋進出を強める中国に対抗し、南西諸島にはミサイルなどが配備され、防衛力が強化されている。
台湾を間近にのぞむ日本最西端の島・与那国島。シンボルとなっている馬が自由気ままに過ごし、夜には満天の星に出会える自然豊かな島だ。
台湾までは110キロほど。条件が良ければ、島から台湾の山並みも見える。
与那国島の住民
「昭和40年代ぐらいまでは台湾漁船と与那国の漁船が海上で合流して、台湾からバナナもらったり。台湾は兄弟分ですね」
のどかな島は自衛隊の受け入れをめぐって賛成・反対に二分されてきた。
2016年に与那国駐屯地が開設。
今後もミサイル部隊や、敵航空部隊を妨害する対空電子戦部隊などの配備が計画されているが、2025年8月の町長選挙でも自衛隊の増強が争点となり、“慎重派”が僅差で勝利した。
与那国町 上地常夫 町長
「前町長があまりにも強力に(自衛隊を)推進する姿勢に対して、町民の審判が下ったのかなと思ってます」
高市総理の答弁後の島の空気について…
与那国町 上地常夫 町長
「町民の声としては不安がっている声もある。一方、自衛隊は配備して備えるべきという意見もいただいている」
今では、島の人口の約2割を自衛隊関係者が占めている。
与那国島の住民
「最初は監視部隊だった。入ってしまったら次々やってきた。ミサイル基地まで造ろうとしてる。海に浮かぶ航空母艦になってしまった」
過去には周辺海域にミサイル着弾 シェルターや避難計画など“備え”進む島
漁協の組合長は…
与那国町漁業協同組合 嵩西茂則 組合長
「ミサイルが着弾したことがありましたよね。非常に衝撃的でしたね」
3年前、中国軍は演習で台湾周辺に複数のミサイルを発射。与那国島周辺の日本の排他的経済水域にも着弾し、漁を自粛した。
与那国町漁業協同組合 嵩西茂則 組合長
「国民を守るための自衛隊の配備・拡大は、やむを得ない状況になっている」
島では備えが進む。
記者
「与那国町の新庁舎の建設予定地です。地下には、武力攻撃があった際の避難シェルターも用意されるということです」
与那国町は、有事の際に民間の航空機などで、島民約1700人を佐賀県へ避難させる計画も立てている。
「自分の島だもん。守んなきゃ」「話し合いで終わって」島民の思い
島名物の泡盛を作っている大嵩長史さんは。
どなん酒造 大嵩長史 代表
「ニュース等で(台湾有事が)話題になっているのはわかっているけど、島にいる限りは不安を感じたりとかは思っていない。観光にしろ商売にしろ『与那国は大丈夫?』って見方をされるのが一番マイナス」
長年、与那国島の観光業に携わってきた新嵩喜八郎さん(78)も。
新嵩喜八郎さん(78)
「日本の西の果てにある防人の島だからね。何かあると影響があるのはここなんですよ」
新嵩さんは、島に自衛隊がいる安心感があると話すが…
新嵩喜八郎さん(78)
「有事なんかないでしょう。どうだろうね、僕はないと思うけどね」
ーー何かあったときどうするんですか?
「自分の船で逃げますよ。でも、与那国にいますよ」
ーーどうしてですか?
「自分の島だもん。守らなきゃ」
観光客を乗せる馬を世話する與那覇さん親子。「台湾有事」という言葉がニュースなどで飛び交うことについて…
與那覇桂子さん(40)
「あったら怖いなと思って見てて」
「自分ごと感はなかなかわからないです、目に見えてるものでもないので」
中学1年の潤寧さん(13)は、生まれ育ったこの島が好きだと話す。
ーー与那国にずっといる?
與那覇潤寧さん(13)
「一回高校(進学)で島出て、たぶんそのまま帰ってくる」
「(将来は)海が好きなので海関係の仕事やります」
2024年に小学校の交流学習で台湾を訪れた。日中の緊張関係や台湾をめぐる問題については…
與那覇潤寧さん(13)
「台湾は姉妹都市なのでそのままでいてほしいし、終わらせられるんだったら話し合いで終わってほしい」
台湾の与野党 “高市発言”どう受け止め?
台湾の人たちは、高市総理の発言をどう受け止めたのだろうか。
台湾の頼清徳(らい せいとく)総統。中国と距離を置く民進党のトップだ。
中国が日本産水産物の輸入停止措置をとる中、自身のSNSで…
頼清徳 総統のSNS(20日投稿)
「きょうの昼食は、お寿司と味噌汁です」
日本側を応援する姿勢だとみられる。
その総統を支える民進党の幹部、鍾佳濱(しょう かひん)氏が報道特集の取材に応じた。
鍾佳濱 民進党団幹事長
「(高市総理の)台日関係を強化する発言を非常に歓迎しています」
日下部正樹キャスター
「高市発言はこれまでの日本政府、あるいは日本の外務省の台湾有事に関する発言より、一歩踏み込んだものだと受け止めていますか」
鍾佳濱 民進党団幹事長
「中国の習近平が外に勢力を広げようとする姿勢に、日本の指導者も当然、警戒を強めなければなりません。高市総理の発言が歴代総理と異なるのは、日本の政策転換というより、中国の脅威に対応した結果と見るべきです。
習近平を含めた中国共産党の指導者たちは、自分たち強国に従って世界の秩序を決めるべきと考えてきました。それが周辺諸国の不満を招いていると思います。我々がそれに屈する必要はありません」
一方、中国との関係を重視するのが野党の国民党だ。党副主席の蕭旭岑(しょう きょくしん)氏が取材に応じた。
国民党 蕭旭岑 副主席
「日本の総理が、こんな驚くような話をするはずはないと思っていました。あの日の(高市総理の)発言には非常に驚きました」
日下部キャスター
「こうした発言を高市総理がしないと思った理由は何ですか」
国民党 蕭旭岑 副主席
「今年は終戦80年。台湾と中国にとって非常に重要な年です。中国と日本の緊張が特に高まっていて、三者(中国・日本・台湾)の関係もより敏感になっている時だからです」
蕭旭岑副主席は、実際に台湾有事が起きた場合には不安があると話す。
国民党 蕭旭岑 副主席
「アメリカと日本は現在、台湾と正式な同盟関係にないため、現実に衝突が起きた時に、どれほど助けてくれるのか疑問です。台湾と日本が国交のない状況で、台湾の安全が本当に保障されるのか。それを心配しています」
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