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20歳で就農、牧場4代目の男性が果たす“持続性の高い酪農”とは? 牛乳廃棄、離農…やるせない課題が残る酪農の未来をどう変えるか

国内
2025-11-26 17:10
20歳で就農、牧場4代目の男性が果たす“持続性の高い酪農”とは? 牛乳廃棄、離農…やるせない課題が残る酪農の未来をどう変えるか
須藤牧場を経営する4代目・須藤健太さん
 2024年2月時点の畜産統計によると、酪農家は700戸減、肉用牛は2100戸減、養豚は240戸減と、離農や廃業が加速し、畜産・酪農危機が深刻化。牛のかわいさだけでは経営を続けられない現状、毎年冬に話題になる生乳の大量廃棄問題など、問題は山積みのようにも見える。牧場経営の厳しさばかりが取り沙汰されているが、その実情はどうなっているのか? 須藤牧場の牧場主である須藤健太さんは、経営を継いだ時「絶望した」と振り返るが、中小企業診断士の資格を取得し、“持続性の高い酪農”をかかげ未来を切り開いている。多角的な経営にどう生かしていったのか話を聞いた。

【写真】『milushi みるし』で社外ライターを務める有識者たち

■「このままでは酪農が危険な状態になる」 猛勉強をして中小企業診断士の資格を取得

――20歳で就農されたそうですが、家業を継ぐことはもともと決まっていたのですか?

「家業を継ぐと決めたのは小学2年生の頃です。牛が家からいなくなる体験をしたことが大きくて、それが嫌で自分が継ごうと決めました。7歳の頃からずっとそう思っていて、その後は高校へ進学し、農業専門学校に2年間通い、20歳で就農しました」

――周囲からの期待やプレッシャーなどもあったと思いますが、就農されたときの心境は?

「就農時よりも、今のほうがプレッシャーは大きいですね。須藤牧場には100年の歴史があり、千葉県は日本酪農発祥の地で300年の歴史があります。自分たちが100年200年やってきたからというだけではなく、哺乳類と人が共に生活し始めたのが1万年前、哺乳類の誕生は2億年前で、そういったことを考えると、2億年くらいの歴史の重みを自分が背負っている…そんなプレッシャーは勝手に持っています」

――7歳のときに「牛がいなくなるのが嫌だ」と感じたとのこと。牛との出会いや記憶に残っているエピソードはありますか?

「父、母、姉、兄、犬がいて、庭には牛がいる。それが僕にとっては当たり前の日常でした。父に『この牧場、僕が継がなかったらどうするの?』と聞いたら、『全部なくなるよ』と言われて…。それが嫌だった。あと、7歳の頃に牛が出荷されていくときに、父も母がすごく悲しそうにしていて、子どもながらに『なぜ悲しいのに仕方がないと受け入れているのだろう』と思ったのをすごく覚えています」

――酪農家として中小企業診断士も取得されていますが、資格を目指したきっかけは?

「きっかけは“恐怖心”でした。このまま酪農を続けても厳しいと感じたんです。須藤牧場は低コストで高品質な生産を行い、牛乳は天皇への奉納もさせていただくなど、評価をいただいていますが、財務状況が必ずしもいいわけではないとわかったとき絶望しました。ただ、須藤牧場の売上が5倍10倍になればいいかというと、それだけではダメで、酪農そのものが危険な状態にあるとも感じました。そのため、産学連携やM&Aなどを含め、いろいろなことをしないといけないと思い、勉強を重ねてきました」

――勉強を始めたのは何歳の頃ですか?

「30歳くらいの頃、事業再構築補助金を受けようとしたときに、商工会議所が中小企業診断士を無料派遣してくれる制度があり、その方に申請書を見てもらいました。こちらが1話しただけで10理解して返してくれるような方で、『中小企業診断士ってすごいな』『なんでこんなに状況を把握してくれるんだろう』と興味を持ったのがきっかけです」

――酪農の仕事と両立して、中小企業診断士の勉強をしていたのですよね?

「はい。2023年8月から勉強を開始して、翌年8月の1次試験、10月の2次試験に合格しました。500日間、毎日夜8時から10時まで1日も欠かさずに勉強しました。合計で1000時間勉強をして取ったという感じです。試験勉強期間中は、子どもが風邪をひいていても、自分は自室に籠って勉強をし続ける日々でした。かなり切羽詰まっていましたし、家族の支えがなければ実現できなかったと思います」

■やみくもに改善策を試した過去も…『今、何をやるべきか』を選ぶ精度が格段に上がりました

――牧場経営に中小企業診断士の資格をどのように活かしているのですか?

「酪農の改善策が100~200個ほどある中で、『今、何をやるべきか』を選ぶ精度が格段に上がりました。あと、単純に中小企業診断士としての仕事が増えました。産学連携や宇宙関係のプロジェクトなど、今まで関われなかった方々と協業できるようになりました。中小企業診断士の資格を持っていることで、外からの見え方がすごく変わりましたね」

――優先順位やメリットを考えて事業を進められるようになったという感じですか?

「そうですね。相続や知的財産法についても学んだので、さまざまな機会損失やリスクケアを幅広く行えるようになったこともメリットですね。全経営者はこれを基礎知識として学ぶべきだと思うくらい、すごくいい試験でした」

――中小企業診断士としての支援先は、どのような企業が多いのですか?

「千葉エリアの飲食業が多いです。お声がけいただいたみなさんは、須藤牧場の資源や、これから一緒に作っていく未来に共感して誘ってくれた。食の未来にむけたプロジェクトのような位置づけです。直接的な牧場の経営だけではなく、飲食や観光まで一貫して関わることができる今が本当に楽しいです」

■経営や現状を分析するための考え方、酪農界に広めていく必要性

――酪農経営の危機について、当初はどのように意識されていましたか?

「入職当初はあまり課題は感じていませんでした。むしろ新しい価値を生み出せるチャンスだと捉えていました。ないものを生み出せる、素敵な楽しい産業というイメージがありました」

――毎年1~2月になると生乳廃棄のニュースが取り上げられますが、それについてはどう捉えていましたか?

「正直にいえば、生乳廃棄は決して軽く扱える問題ではありません。酪農家にとっても、消費者にとっても、社会全体にとっても“もったいない”以上の意味を持っています。ただ、だからこそ、改善できる余地がまだ残っているとも感じていました。構造的な課題が見えるということは、仕組みを変えれば状況を良くできる可能性があるということです。
廃棄という事象そのものは重い課題ですが、それを減らしていく取り組みが広がれば、酪農全体の価値や持続性は確実に高まるはずだと考えていました」

――あえて課題とはとらえていない?

「産業構造自体に改善の余地があるということは、何かアクションを起こせば幸せになる人がまだまだいるということ。僕の中でこれは希望なんです。課題と捉えるより、伸びしろを作っていくためのアクションだと考えたいです」

――そのように思考・行動できない場合はどうするのでしょう。

「そこが問題点です。僕は経営者として危機感があったから勉強をしましたが、経営分析や簿記の本は何十冊も挫折して、最初は漫画から始めたほどです。専門学校では、酪農についての専門知識は教えてくれるけれど、経営や現状を分析するための考え方は教えられていないので、酪農家向けの“わかりやすい現状分析・財務分析”ができる記事が必要だと考えています。

 ミルクとウシと酪農のウェブメディア『milushi(みるし)』が立ち上がり、僕はそこで酪農家さんに向けて情報を発信していますが、記事として貸借対照表と決算書の読み方を書いてみることにしました。これからも経営者目線での発信をしていくことで、現状を把握することが何よりも大切だと伝えていきたいと思います。現状を細分化していくと、100%ネガティブにはならないのではないかと僕は思います。儲かっていないのなら、それはなぜかを考える。餌代が高いのか?その餌代が高い理由は?などとどんどん細分化していくと、本当の課題がわかってきて、自分が何をすればいいかがはっきりとするんです」

■「“関係性で食べる”時代になる」 食べ物を通じて誰とつながれるかが価値になる

――製品加工、直営店やECの営業、観光業と事業の幅を広げている狙いを教えてください。

「多角化の狙いはリスク分散と交渉力を強化するためです。売上が1つに集中するのはリスクが高いですし、交渉力も弱くなります。また、酪農に限らず農業や食に関わる全てにおいて、“サプライチェーン”が非常に重要だと考えています」

――生産、加工、物流、卸、ブランディングとまでを一気通貫で行っている?

「うちの多角化はあくまで『食べ物』『酪農』というジャンルで一貫したものですが、サプライチェーンをつなぐことで利益を伸ばし、トレーサビリティ(原材料の調達から生産、そして消費または廃棄まで追跡可能な状態にする)も強化できる。さらに、生産から加工までの距離が短いので、温室効果ガス削減や環境負荷軽減にもつながります。どのくらい生産すればいいのかという需要と供給も自社で即時に把握できるので、食品ロス削減にもつながります。食のサプライチェーンを一貫して把握するという考え方が、これからの農業には大事になってくると思います」

――新たな柱となる事業体は?

「一般消費者向け、いわゆるBtoCの部分をより深めていきたいです。ただ“売る”というより、お客様とのコミュニケーションを大切にしながら関係を育てる形にしたい。須藤牧場を知ってくださった方が、店舗での生シェイクを楽しみ、酪農体験で牛や自然に触れ、そこからファンとして長く関わっていただけるような、心のつながりを重視しています。

 そして、地域の事業者さんと一緒に開催している『須藤牧場 生シェイク祭り』も同じ考え方です。目的は“イベントで話題を作ること”ではなく、千葉の生乳や食材の価値を、地域全体で高めていくこと。僕らだけで盛り上がるのではなく、地域の飲食店や生産者と一緒に、一杯のシェイクから“食の価値”を広げていく仕組みをつくることが重要だと思っています。多角化が進んでも、最終的にどこへ向かうのか……『地域とお客様のどちらの幸福にもつながる循環をつくる』という共通のゴールはぶらさずに進みたいですね」

――酪農の今後は、どう変化していくと思いますか?

「食べ物は胃で食べる時代から舌で食べる時代になり、今は脳で食べる時代と言われています。次は“関係性で食べる”時代になると思います。食べること自体が、人と人、自然と自然をつなぎ、それ自体が価値になる。食べ物を通じて誰とつながれるかが価値になると思うので、酪農もそう変化していくと思います」

――“その人から買いたい”という流れが強まっていますよね。

「そうですね。アイドルや芸人を好きだと、その界隈で人がつながるように、須藤牧場の商品を買うことで、同じものを好きな人とつながれる。そんな時代になると思います」

――そうですね。

「酪農は100~150年前に日本にできた産業。増減よりも社会全体の幸せが重要で、そのためには食のサプライチェーン全体の強化が必須です。酪農だけでなく、小売もメーカーも含めた全体の一貫性を持った透明性や強化が必要だと思います」

――最後に、今後の酪農業界にどう働きかけていきたいか、ご自身の発信も含めて教えてください。

「酪農だけでなく、食に関わる業界全体が改善されることを目指しています。食に関わる全ての事業者の所得が向上し、自然環境の持続可能性が高まり、生活者がより良いものを享受できる世の中を目指していきたいです」

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