国内
2026-01-28 18:10
独立行政法人国立科学博物館は27日、「都市の鳥はリスクを回避しない傾向をもつ」とする研究成果を発表した。濱尾章二名誉研究員がまとめ、Journal of Ethology誌に掲載された。
【画像】興味深い…東京都心と茨城県農村地帯における鳥類7種の逃避開始距離の違い
「都会の鳥は人が近付いても逃げない」などと言われることがあるが、鳥のリスク回避行動(警戒性)が都市環境下で変化しているかどうかは、日本では研究されてこなかったという。
今回、東京都心で繁殖するスズメ、ハシブトガラスなど7種の鳥類について、人が近付いたときに逃げる距離(逃避開始距離)を測定し、それを本来の生息環境(茨城県の農村地帯)にすむ同種個体のものと比較した。
その結果、7種すべてで東京の逃避開始距離は、茨城のものよりも短くなったという。また、この都市・田舎間の差は、ヨーロッパの先行研究のものよりも大きく、さらに都市に進出後比較的短い期間で警戒性の低下が起こると考えられる結果が得られた。
■研究の内容(全文)
調査は東京23区内の12か所の緑地と茨城県南部の農村地帯18か所で行いました。人に対する警戒性は、人がゆっくりと歩いて接近し動物が飛ぶ、走るなどして逃げたときの距離(逃避開始距離)で測るのがスタンダードの手法です。また、逃避開始距離は人が接近を始めた時点での距離や、鳥が何羽一緒にいたか、鳥がいた場所の地上高、避難できる場所(やぶ、高木、建物)までの距離が影響する場合があるため、これらについても記録しておき、統計解析によってこれらの影響を制御しました。
対象とした鳥は、東京都心で繁殖している7種です。そのうちキジバトは1950年代、シジュウカラは1960年代、ヒヨドリは1970年代前半、ハクセキレイは1970年代後半に東京に定着、繁殖するようになった種で、ハシブトガラス、ムクドリ、スズメの3種は古い時代から生息している種です(少なくとも1920~30年代には生息していた)。逃避開始距離の測定は、学習の途上にある幼鳥を排除し通年生息する成鳥のみからデータを得るため、繁殖期の初め(3月中旬から5月上旬)に行いました。
結果は、東京の個体の警戒性が顕著に低下していることを示しました。例えば、スズメの逃避開始距離は、茨城の115個体の平均が11.1mで一部の個体は20mを超えていたのに対し、東京の82個体の平均は4.2mで10mを超えた例はほとんどありませんでした。他の種でも東京の逃避開始距離は茨城のものよりも明らかに短く、東京ではすべての種で警戒性がはっきりと低下していることが示されました。
続いて、得られた結果をヨーロッパのものと比較しました。既存の文献から、ヨーロッパの63鳥種について都市とその近くの田舎の逃避開始距離の差の大きさ(効果量)を入手しました。東京-茨城間の逃避開始距離から得られた効果量はこれよりも大きく、東京での警戒性の低下はヨーロッパの都市でのものよりも大きいことがわかりました。
また、今回調べた7種について、東京に定着した時期と効果量の間には相関がまったく見られず、1970年代に定着した種でも明確な逃避開始距離の短縮が見られました。このことは、東京における警戒性の低下は比較的短期間に起こったもので、世代を経て獲得された遺伝的な変化ではないことが示唆されました。
■今後の課題(全文)
リスクを回避するための逃避行動は、動物にとってエネルギーを消費し、採食など他の行動を中断するなどのコスト(出費)を伴います。捕食を回避し安全を図るという利益が十分になければ、動物はなかなか逃避しないようになると予想されます。
東京の鳥は、人が危険な動物ではないことを学習しているだけなのか。そうではなく、人に追われたり踏まれたりするかもしれないというリスクをとっても採食を続けなくてはならないほど食物が乏しいのか。今後、警戒性低下を駆動している直接の要因について解明していきたいと思います。
都市に生息する鳥は、人に対してだけでなく捕食性動物等に対する警戒性全般が低下しているのかを明らかにすることも今後の課題です。また、動物の警戒性は後天的に学習を通して変化するとともに、遺伝的基盤をもつことが明らかにされており、都市に生息するようになった動物の集団が遺伝的に変化していく進化を起こしているかも興味のもたれる課題です。
このようなリスク回避行動の研究を深めていくとき、大都市東京の鳥類は貴重な材料ということができ、そこから得られる知見は、近年動物の生活への悪影響が懸念されている、人による動物への給餌や写真撮影のあり方、野生動物と人の生活圏の分離などについて科学的理解を進めていくことが期待されます。
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今回、東京都心で繁殖するスズメ、ハシブトガラスなど7種の鳥類について、人が近付いたときに逃げる距離(逃避開始距離)を測定し、それを本来の生息環境(茨城県の農村地帯)にすむ同種個体のものと比較した。
その結果、7種すべてで東京の逃避開始距離は、茨城のものよりも短くなったという。また、この都市・田舎間の差は、ヨーロッパの先行研究のものよりも大きく、さらに都市に進出後比較的短い期間で警戒性の低下が起こると考えられる結果が得られた。
■研究の内容(全文)
調査は東京23区内の12か所の緑地と茨城県南部の農村地帯18か所で行いました。人に対する警戒性は、人がゆっくりと歩いて接近し動物が飛ぶ、走るなどして逃げたときの距離(逃避開始距離)で測るのがスタンダードの手法です。また、逃避開始距離は人が接近を始めた時点での距離や、鳥が何羽一緒にいたか、鳥がいた場所の地上高、避難できる場所(やぶ、高木、建物)までの距離が影響する場合があるため、これらについても記録しておき、統計解析によってこれらの影響を制御しました。
対象とした鳥は、東京都心で繁殖している7種です。そのうちキジバトは1950年代、シジュウカラは1960年代、ヒヨドリは1970年代前半、ハクセキレイは1970年代後半に東京に定着、繁殖するようになった種で、ハシブトガラス、ムクドリ、スズメの3種は古い時代から生息している種です(少なくとも1920~30年代には生息していた)。逃避開始距離の測定は、学習の途上にある幼鳥を排除し通年生息する成鳥のみからデータを得るため、繁殖期の初め(3月中旬から5月上旬)に行いました。
結果は、東京の個体の警戒性が顕著に低下していることを示しました。例えば、スズメの逃避開始距離は、茨城の115個体の平均が11.1mで一部の個体は20mを超えていたのに対し、東京の82個体の平均は4.2mで10mを超えた例はほとんどありませんでした。他の種でも東京の逃避開始距離は茨城のものよりも明らかに短く、東京ではすべての種で警戒性がはっきりと低下していることが示されました。
続いて、得られた結果をヨーロッパのものと比較しました。既存の文献から、ヨーロッパの63鳥種について都市とその近くの田舎の逃避開始距離の差の大きさ(効果量)を入手しました。東京-茨城間の逃避開始距離から得られた効果量はこれよりも大きく、東京での警戒性の低下はヨーロッパの都市でのものよりも大きいことがわかりました。
また、今回調べた7種について、東京に定着した時期と効果量の間には相関がまったく見られず、1970年代に定着した種でも明確な逃避開始距離の短縮が見られました。このことは、東京における警戒性の低下は比較的短期間に起こったもので、世代を経て獲得された遺伝的な変化ではないことが示唆されました。
■今後の課題(全文)
リスクを回避するための逃避行動は、動物にとってエネルギーを消費し、採食など他の行動を中断するなどのコスト(出費)を伴います。捕食を回避し安全を図るという利益が十分になければ、動物はなかなか逃避しないようになると予想されます。
東京の鳥は、人が危険な動物ではないことを学習しているだけなのか。そうではなく、人に追われたり踏まれたりするかもしれないというリスクをとっても採食を続けなくてはならないほど食物が乏しいのか。今後、警戒性低下を駆動している直接の要因について解明していきたいと思います。
都市に生息する鳥は、人に対してだけでなく捕食性動物等に対する警戒性全般が低下しているのかを明らかにすることも今後の課題です。また、動物の警戒性は後天的に学習を通して変化するとともに、遺伝的基盤をもつことが明らかにされており、都市に生息するようになった動物の集団が遺伝的に変化していく進化を起こしているかも興味のもたれる課題です。
このようなリスク回避行動の研究を深めていくとき、大都市東京の鳥類は貴重な材料ということができ、そこから得られる知見は、近年動物の生活への悪影響が懸念されている、人による動物への給餌や写真撮影のあり方、野生動物と人の生活圏の分離などについて科学的理解を進めていくことが期待されます。
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