不法就労する外国人の情報を募り、逮捕などにつながれば1万円程度の報奨金。茨城県が導入を目指す新たな“通報制度”をめぐり、差別や偏見を招くのではないかと懸念が広がっています。
茨城県が導入目指す「通報報奨金制度」に“不安”
首都圏の台所・茨城県。それを支えているのは、外国人労働者です。
――どんな作業をしていますか?
正規の在留資格で働く ベトナム人男性(33)
「いま野菜を切っているところです。最初は慣れてなくて大変でしたが、いまは慣れてきたので平気です」
ベトナムから6年前に来日した男性。言葉や食文化の違いに最初は苦労したといいますが、同僚らの支えもあり、いまではすっかり生活に慣れました。
そんな男性が口にした「ある不安」。
正規の在留資格で働く ベトナム人男性(33)
「僕たちはちゃんと仕事をしているし、税金も納めているけど、結局同じようにみられてしまう。この制度を考えたときに、気持ちが落ち着かない」
男性が話す“制度”とは、不法就労の外国人に関する情報を市民から募り、逮捕などにつながれば1万円程度が支払われる「通報報奨金制度」のこと。
県によると、来年度からの導入を目指しているといいます。
正規の在留資格で働く ベトナム人男性(33)
「僕たち労働者にとってあの制度ができると、お互いにそういう目で見てしまう。お互いに正規か不法就労かわからない。生活に影響する。(この制度は)あまりよくない」
県が導入を目指す背景には、不法就労の外国人が多いことがあります。
入管庁によりますと、2024年、全国で不法就労と認定された外国人1万4000人あまりのうち、茨城県で働いていた人は「3452人」。3年連続で全国最多となっているのです。
一緒に働く日本人農家の思いは複雑です。制度の導入には「賛成」としながらも…
外国人労働者と働く ほうれん草農家
「偏見に苦しむ仲間。疑い始めたら、人は悪い方にしか目が向かなくなってしまうので」
県民の間でも意見が分かれます。
通報内容は“事業者限定”も…専門家が指摘する社会の分断
茨城県民(10代)
「自分は賛成。入ってくるのはいいと思うが、(ルールを)しっかりやってから働いてほしい」
茨城県民(30代)
「報奨金を渡すのは、ちょっとやりすぎかな」
茨城県民(10代)
「自分の母がフィリピン人で、いま自営業で正式にちゃんとやって働いているが、偏見とか出たら、身内だから嫌だな」
2月の定例会見で、記者からこう問われた大井川知事。
――正規で働いている外国人労働者にいわれのない疑いがかかり、ショックを受けさせるようなことがないか
茨城県 大井川和彦 知事
「密告制度であるとか、そういう話になって、本当に真面目にやっている外国人労働者にまで不安に貶めるような身も蓋もない話には絶対になりません。ならないように設計します」
県は、通報内容は外国人個人ではなく、事業者に関するものに限定し、匿名による通報は受け付けないとしています。
ただ専門家は、「通報」という手段が社会に分断を生むと指摘しています。
移民政策に詳しい 国士舘大学 鈴木江理子 教授
「(不法就労者かどうかは)外見ではわからない。それはどういったことで判断するかというと、偏見に基づく通報になるので、そういった不安がつきまとうようなところで、私たちは安心して暮らしていけるか、働けるか。報奨金を出すということは、奨励しているということ。この制度を導入することが、不法と呼ばれる人たちの就労をなくすことに繋がるのかをもう一度、考えてほしい」
ベトナムに残した妻子のために、日本で働く男性は。
正規の在留資格で働く ベトナム人男性(33)
「僕たちを見る時は『外国人』ではなく、その人の仕事、行動を見て判断してほしい」
特定技能事業所の76%が「法令違反」 問われる雇用者責任
小川彩佳キャスター:
不法就労は本当に問題があるとは思いますが、「疑いの目を向けられるのではないか」という外国人の方の気持ちも非常に理解できますし、「報奨金1万円」という通報制度のあり方について、どうみていますか?
教育経済学者 中室牧子さん:
海外の制度について改めて調べてみると、個人を通報するという制度がないわけではありませんが、その場合には報奨金が出ないことの方が多いようです。
それは外見や言葉で差別を助長したり、通報乱用といったようなことが生じたりすることを防ぐ意味があると思います。
一方で、例えば密入国ビジネスや犯罪行為をやっているような犯罪組織の通報については、報奨金が出ているというケースもあるようです。
そうした諸外国の制度などをよく見ながら運用を決めていかなければいけないと思います。
茨城県知事の発言にもあったように、しっかりと雇用者責任を問うていくということの方が重要なのではないかと私は思います。要するに、企業に対する取り締まりを強めていくということです。
なぜかと言うと、実は、2025年に厚生労働省がある調査結果を発表しています。特定技能外国人を雇用している事業所の76%で労働基準法の法令違反をしているというものです。
結局、不法就労の問題は雇う企業があるからそういう問題が起きているわけであって、企業の責任を問わずして対策というのは難しい。なぜかというと、最後は他の人に入れ替えられて、イタチごっこになるという可能性もあるからです。
藤森祥平キャスター:
雇わざるを得ないという点で言うと、人手不足ということがあります。
東京商工リサーチによると、2025年の人手不足関連での倒産件数は397件と、前の年と比べて36%も増えています。2013年に調査を始めて以来、過去最多を更新している中で、外国人人材に頼らなければいけないという実情も当然あります。
教育経済学者 中室牧子さん:
外国人労働者は今後も増加していくと思いますが、短期間に急速に外国人労働者が増えると、その地域で社会不安が非常に高まったり、社会統合が追いつかなかったりというような事態があるということが、海外の研究でわかっています。
徐々に増やしていって、社会統合がきちんと追い付くような形にするということが、非常に重要なのではないかと私は思います。
一方で、今はまだ、いわゆる単純労働をする労働者の話を終始している感じがありますが、そもそも日本政府の外国人政策は、「高技能の人たちを日本に迎え入れたい」という重要な政策だったのですが、そっちの方は全然議論が行われていないように思われます。
我々大学も博士号を取った研究者や研究員を受け入れていますが、在留資格の書き換えが紙ベースで行われていて、かなり時間がかかったりすると。
そういう高技能の労働者に積極的に入ってきてもらい、定着してもらうという政策についても、しっかり議論していかなければいけないのではないかなと思います。
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<プロフィール>
中室牧子さん
教育経済学者
教育をデータで分析
著書「科学的根拠で子育て」
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