
実際の出来事をモデルにした絵本「さきさんのちりとんぼ」
3月21日は国連が定めた「世界ダウン症の日」です。
ダウン症の人たちがその人らしく暮らしていけるようにという願いが込められていて、各地で啓発活動が行われました。
「ダウン症」とは染色体の突然変異によって起こるもので、多くの場合、知的な発達に遅れがあります。
ただ、日本ダウン症協会によりますと、ほとんどの人が普通に学校に行ったり社会生活を送ったりしているので、生まれつきの性格や体質のようなものと考えたほうがいいということです。
今回紹介するのは今年2月に出版された「さきさんのちりとんぼ」という絵本です。
埼玉県川口市の建築会社「ますいいリビングカンパニー」で実際に働くダウン症のさきさん(19)をモデルに、さきさんの力強い勇気や、仕事に向けての姿勢の変化、周囲の人たちとの関わりの中で生まれる温かな出来事が描かれています。
「ちりとんぼ」とは、麻のひもで作られた土壁の補強材のことで、長さは一尺(30cm)ほどで「尺とんぼ」とも呼ばれます。
短い釘に麻ひもを結んだもので、土壁を塗る際に打ち込んで壁が剥がれるのを防ぎます。
「ちりとんぼ」を作るのがさきさんの仕事です。
仕事内容だけではない。さきさんが乗り越えてきた「ハードル」
さきさんがこの仕事を始めるにあたって、難しいことがあったそうです。
絵本の作者「ますいいリビングカンパニー」の取締役・伊藤真理子さん
「お母様と最初に来てから実際に雇用が始まるまでだいたい2年半ぐらいですね。一人で職場へ通うことも大きなハードルで、それも頑張って克服しました。このちりとんぼが商品として販売できるかということも一つの壁だったんですけれども、それも乗り越えました。それを絵本としてまとめたんです」
さきさんは会社のある川口に遠い場所から通っていて、途中乗り換えもあるので、会社に一人で来ることが難しかったそうです。
絵本の中にも、間違えて違う駅で降りてしまうエピソードがあり、スマホを片手に不安な表情のさきさんが描かれています。
駅に着いてからも歩道橋を通る地点も、感覚をつかむのが大変だったそうで「難しいなと思って練習しました」と話していました。
さきさんは、平日は仕事のやり方を学ぶ学校に通いながら、週に1日ほど会社に来て、手作業で「ちりとんぼ」を作っています。
指先を使う細かい作業です。
だんだん1日に作れる本数が増えて、今では50本くらい作れるようになりました。
実際にちりとんぼを現場で使う職人さんからも「とても丁寧に作られている」と評価が高いそうです。
同僚の声
「最初の頃は目の前のことを覚えるのに精一杯だったんですけど、今はちゃんと作れるようになって、社員の一員として、いち社会人として活躍してくれていてとても嬉しいです。お昼ごはんは基本みんなで一緒に食べていますし、さきちゃんは挨拶も明るく、コミュニケーションをしっかりとる子なので、場が明るくなるというか、みんなにもいい影響を与えてくれています」
障害者雇用の様々な形を支援
さきさんが働く「ますいいリビングカンパニー」は「人を大切にする会社」という理念のもと、間接的な障害者雇用にも取り組んでいます。
たとえば、社員の誕生日には「お菓子の家」をお祝いにプレゼントしているそうです。クッキーの詰め合わせなんですが、組み立てると家の形になります。
「お菓子の家」は同じ川口市内で焼き菓子の製造・販売を行っている障害者就労支援事業所「晴れ晴れ」とコラボして作っています。
さらに、絵本の出版元である「ラグーナ出版」も鹿児島にある障害者就労支援事業所です。
絵本の作者「ますいいリビングカンパニー」の取締役・伊藤真理子さん
「頑張る人がもっと増えればいいなっていうことも一つなんですけれども、その頑張る人を応援する時、その方が『頑張りたいな』とか『モチベーションがこれだったら上がるな』という言葉をどうやって一人一人が発するかっていうのが大事。頑張る人も、頑張る人を応援する人も一歩進むような、そういう絵本にしたいなと思って、作りました」
ちりとんぼが家と土をしっかり結びつけるように、人と人がしっかりとつながって暖かい世界になりますように・・・そんな願いが込められている絵本「さきさんのちりとんぼ」はラグーナ出版のオンラインショップでも入手可能です。
(TBSラジオ「人権TODAY」担当:進藤誠人)
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