
高市総理肝入りの「食料品消費税の実質ゼロ%」実現に向け、いよいよ大詰めを迎えている国民会議。しかし与野党双方からの反発、財源議論の先送り、前例のない制度設計など、様々なリスクが一気に噴出しつつある。
【写真で見る】「4月減税実現」の前に横たわる“2つの綱渡り”
「4月減税」は本当に実現できるのか。TBS政治部・自民党担当の島本雄太記者が、減税議論の最前線を徹底解説する。
法案成立前にレジ改修指示?「4月減税」が直面する“2つの綱渡り”
「2027年4月から2年間限定で税率を1%にして、その1%相当額を中低所得者に現金給付する」
24日の国民会議で発表されたのは、6月末の中間とりまとめに向けた“たたき台”だ。
議論が大詰めを迎える一方で、島本記者は「4月減税の雲行きが怪しくなってきた」と分析する。その理由が、実現のためのスケジュールに立ちはだかる“2つの綱渡り”だ。
第一の綱渡りは「レジシステム改修の指示」。消費税率を1%に変更するには、全国のスーパーや小売店のレジシステム改修に約半年かかるとされている。秋の臨時国会で法案が成立してから準備を始めたのでは、2027年4月の施行に間に合うかどうかが非常に際どい。そこで、自民党としては6月末の国民会議の「中間とりまとめ」時点で、企業側にレジ改修の準備開始を指示したい考えだ。
しかし、これは法律が成立する前に事業者に準備を求めるという“異例の事態”を意味する。島本記者は「企業や国民に影響を与える法律は、成立後に一定の猶予期間を設けて施行するのが普通だ」と指摘する。「ここまで大きな準備が必要な法案なのに、成立から施行まで半年というだけでも短い。さらに法案成立前に企業に準備を促すというのはかなり珍しいことで、大きな混乱が起きる可能性がある」と警鐘を鳴らした。
第二の綱渡りは「野党の確実な賛成の確保」だ。参議院は少数与党であるため、減税法案を確実に可決させるには野党の賛同が不可欠となる。法案成立前に企業側にレジ改修の指示を出すのなら、なおさら「法案が必ず通る」という保証が前提となるが、現時点で野党との折り合いはまったくついていない状況だ。
参議院で過半数を得るために与党が賛同を得るべき野党として、議席数の観点から特に重要とされているのが、▼立憲民主党(40議席)、▼国民民主党(25議席)、▼公明党(21議席)の3党だ。しかし、いずれも現在の減税案に反対しており、「減税よりも給付」という立場を主張している。
国民会議の議長を務める自民党・小野寺五典税制調査会長は各党をまわりながら水面下で合意の可能性を探っているが、島本記者は「現状はかなり難しい」との見方を示す。6月24日の実務者会議では、野党議員が「状況によっては退出する」と宣言して入室したほど、議論は緊迫した状況にあるという。
野党の賛成を得られず法案成立が危ぶまれる中で、企業にレジ改修の指示を“先出し”することは非常に厳しい政治判断となる。この“2つの綱渡り”を乗り越えることは出来るのか?見通せない状況が続いている。
小渕優子氏辞任で自民党内に走る激震――小野寺税調会長の“本音”とは
4月減税の雲行きを怪しくしているのは、野党の反対だけではない。自民党内からも批判の声が次々とあがっている。
6月25日、自民党の税制調査会が開かれ、党内の意見集約が行われた。
猪口邦子参議院議員は「苦しいときの食品および飲料についての消費税の引き下げ、これについて寄り添う党の姿でありたい」と賛成の立場を示した。
一方、西田昌司参議院議員は「2年間限定で、食料品の消費税に相当する金額を給付で国民に渡す」べきであり、「1%の消費税は良い案ではないと思う」と明確に反対した。大岡敏孝衆議院議員も「消費税をポピュリズム的に上げたり下げたりしてしまうと本当に社会に混乱をきたすことになる」と批判した。
さらに同日、より深刻な動きが明らかになった。自民党の小渕優子税調副会長が、税制調査会の「インナー」と呼ばれる幹部会合の職を辞任したい意向を周囲に伝えていることが報じられたのだ。財務副大臣の経験もある小渕氏が、消費税減税の方針に反対する姿勢を示した形だ。
インナーとは、税制調査会の中でも幹部が集まる中核的な会合であり、そこで意見集約されたものが税制調査会全体の方針となる。過去には、総理といえども踏み込めない「聖域」とも語られてきた組織だ。高市政権のもとで「内閣と一体となった税調」へと色合いが変化してきたと指摘される中、そのインナーのメンバーが離脱を選んだ意味は重い。
島本記者は「高市総理の方針に反旗を翻すような姿勢にも見える。消費税の議論に暗雲が立ち込めてきた感じがする」と受け止める。
さらに注目すべきは、国民会議の議長を務める小野寺税調会長自身も、実は消費税減税に「慎重」な姿勢であることだ。
政調会長時代には「消費税は社会保障の重要な財源」と明言し、消費税減税に消極的な立場だった。総理の意向で国民会議を取り仕切る立場にありながら、本音では慎重論者である小野寺氏は「かなり難しい舵取りで、板挟みにある状況」だと島本記者は指摘する。
現在の自民党内の雰囲気について、島本記者は「消費税減税に懸念を持つ幹部は少なくない。小渕さんのように自分の意思で行動する議員が出てくると、『私も私も』という形になる可能性はある」と分析する。
党の公約を盾に突き進もうとする執行部と、内心で慎重論を抱える議員たちの間で、自民党は今、一枚岩には程遠い状況に置かれている。
2年後に控える“実質7%の大増税” 財源「P」の現状とは?
仮に消費税減税が実現したとしても、現在の減税案には2つの大きな課題がある。
一つ目は「2年後に控える実質的な“大増税”」だ。
現在の中間とりまとめ案では、食料品の消費税を2027年4月に8%から1%に下げ、2年後に8%へ戻すとしている。高市総理も国会の予算委員会で「2年後には(税率を)元に戻す」と明言している。
食料品の消費税を2年後に1%から8%へ戻すとなると、その時点で実質7%分の“増税”が起きることになる。これに対し、与野党双方から経済への影響を懸念する声が上がっている。
自民党の河野太郎氏はSNSで、消費税を下げた諸外国の事例を引き合いに問題点を指摘した。
「これまで消費税を下げた諸外国の経験をみても、税率と同程度に物価が下がった例は少なく(中略)2年後に軽減税率を元に戻すときには確実に8%価格は上がるので、物価高対策で軽減税率を一度下げたことで、かえって物価が上がるということになる可能性が高く、これでは本末転倒です」
つまり、減税時には物価が消費税率を引き下げた分だけ下がる保証はないのに、増税時には機械的に7%分の価格上昇が起きるという相対するリスクがあるということだ。
島本記者によると、自民党のある関係者は「高市総理が2年後も総理をやっているか分からないので、そこまで考えていないのではないか」と本音を漏らしているという。
二つ目の課題は「財源が何も決まっていない」ことだ。
食料品の消費税を1%に減税し、下げきれない1%分を現金給付して実質ゼロにする現在の案では、2年間で約10兆円の財源が必要とされている。ところが、3月の初会合から合計16回を重ねた実務者会議では、財源についての議論がほとんどされてこなかった。
国民会議の中間とりまとめ案の資料で「財源」欄に記されていたのは「P」(=ペンディング・保留)の一文字。
国民会議の参加者は「国民会議は財源について議論する場ではない。あくまで制度設計を議論する場だ」と説明している。
政府は「赤字国債には頼らず、税外収入や補助金見直しで対応する」としているが、具体的にどこから10兆円を捻出するのかは「示されていない」と島本記者は指摘する。
6月26日の第17回実務者会議でようやく財源についての議論がなされたが、政府が示した財源案は「赤字国債には頼らない」「補助金や租税特別措置の見直しなどによって確保する」としたうえで、具体策は盛り込まれなかった。
与野党から批判が相次ぎ、まさに税制の要である自民・税調「インナー」から辞退者まで出る中で、4月減税は本当に実現するのか?島本記者はこう総括する。
「誰も止められないまま突き進んできて、今になって与党内も野党も反対の声がこれだけ出ている。現状では、野党の賛同を得られないまま秋の臨時国会を迎えて準備が始まるという形で突き進むのか、大幅修正して野党を抱き込みにいくのか、この二択しかない」
国民の暮らしに直結する消費税の大きな動きが、今まさに正念場を迎えている。
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