
「知的障害者の自立生活」について知る
2016年の7月26日、神奈川県立の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員の男によって入所していた19人が殺害され、職員を含め26人が負傷しました。事件から10年経ち、各地で障害者福祉と社会のあり方を考えようという集まりが開かれました。
【写真を見る】津久井やまゆり園事件から10年 障害者福祉と社会のあり方を考える様々な集まり
7月22日、東京・永田町ではDPI日本会議など4つの団体の主催で「相模原障害者殺傷事件から10年 津久井やまゆり園の犠牲者を追悼し、インクルーシブ社会を目指す会」が開かれました。
会では黙とう、主催者等の挨拶のあと「沈黙は語る 19人のSilence Speaks」という映像が上映されました。その後「知的障害者の自立生活」と題して、事件で一時、意識不明の重体となった尾野一矢さんが登壇しました。尾野さんは6年前に施設を出て県内のアパートで一人暮らしを始めていて、尾野さんを支えるヘルパーの1人、大坪寧樹さんと一緒でした。
大坪さんは、尾野さんが事件後、外泊する体験を繰り返している頃、長く暮らした「津久井やまゆり園」の職員が一緒だと、意思を聞かれても「施設に戻る」と言わなければならないような関係性が職員との間にあったこと、そして、大坪さんたちに「アパートで暮らしたい」という意思をはっきり表明するまで、2年ほどかかったことを説明しました。
「施設の外からちゃんと、地域移行というのをしっかり意識して、一定の経験なり雰囲気なり知ってる人がやっぱり実際に関わって、丁寧な関係作りをある程度やらないと本人の本当の意思をくみ取れない。そのことがなかなか、世の中に理解されてない。また、一矢さんがちゃんと自立してます、ということをちゃんとアピールして、ちゃんと皆さんに伝わって、ちゃんとした評価が与えられるようにしないといけない」。
「重度訪問介護」というサービスがあることが、まだまだ知られていない現状がありますし、大坪さんは訪問介護やグループホームの、事業者や働くヘルパーが地域に足りていないことも指摘しました。
すべての人に希望と尊厳を
主催団体の一つ、「ピープルファーストジャパン」の中山千秋さんも一緒に登壇しました。その前に流れた映像は、当事者が発信するメディア「パンジーメディア」の制作で、中山さんはやまゆり園を取材したり、関係者にインタビューしたりしています。
中山さんは力を込めて「ちゃんとわかってくれる支援者がいれば、重度の人も普通にグループホームで暮らせると思います。障害者だからといって、入所施設に入るのは間違ってるし、国はやっぱり地域移行とかに力を入れてほしいなと思います。地域で暮らすのが当たり前の生活だと思います」と話し、尾野一矢さんも隣で大きく頷いていました。
約300人が参加したこの会では最後に「犠牲者を追悼し、優生思想を絶対に許さず、脱施設とインクルーシブ教育を推進し、すべての人が希望と尊厳をもって暮らせるインクルーシブ社会を実現するため、これからも声を上げ、行動し続けることをここに宣言する」アピールを採択しました。
障害者本人の意思を尊重して支える
一方、7月20日には、津久井やまゆり園のある相模原市で「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」の集まりがありました。「考え続ける会」はこの10年、障害福祉を中心に様々なテーマで、事件が投げかけた問いについて考える場を設けてきました。
メンバー6人が登壇しましたが、その一人、山崎幸子さんは東京・品川区内で知的障害者が暮らすグループホームを運営しています。そこでは投票方法を色々と工夫して、暮らす人たちが選挙に行っていることを紹介しました。そして、山崎さんは「毎回選挙があるごとに話し合いをしながら、ご本人たちが選びやすい方法、わかりやすい方法を、まだ不十分だけれども、ずっとやり続けてきています。
最終的には自分はどんなふうに生きたいか、自分の人生に満足して終えてもらえるのかっていうことを常にご本人と問い返して作り続けていくことがとても大事だと思っています」と話しました。
他には、視覚に障害のあるメンバーが「事件を起こした男は、社会に要らない存在だから殺すという考えを持っていて、そういった優生思想は社会からなくなっていない」ことを指摘しました。また、元県職員のメンバーは「家族が介護を抱え込み、地域で孤立することもある。地域で暮らす仕組みはまだ十分とはいえないし、現時点で、公的施設は必要で、改善していかなければ」という考えを表明しました。
メンバーの一人で、津久井やまゆり園にいた息子が、事件後に別の施設に移っているという父親は「やまゆり園では何もさせてもらえてなかった。今は仕事をしたり、外出したりしている。息子は大きく変わり、グループホームでの自立生活を目指している」と話しました。
およそ120人の参加者からは、メンバーの話を受けて様々な声が上がり、事件が当事者の心に深い傷を残したことをあらためて感じられました。
考え続けて、対話を続けて、社会を動かす
会のメンバーで、進行役を務めていた鶴田雅英さんはメンバーからの様々な話を受け、途中で「考え続ける会は対話を諦めない。グラデーションのあるみんながずっと考え続けるっていうことが、みんなで対話を続けるっていうことが、とても大事です。自分がここの会議に入ったのは、事件始まって2、3年してからですが、こういう場所がないとなかなか考え続けることができないので、そういう場に自分の身を置こうって思って入ったんです」と話しました。
二つの集会どちらでも「社会の関心は薄れている」と怒りを交え、指摘する当事者の声があがりました。施設から地域への移行が進んでいるとは言えないし、障害者への偏見も根強く残っています。
日常生活のバリア、障害は社会の側が作っています。DPI日本会議などの当事者団体や「やまゆり園事件を考え続ける会」のような取り組み、そして教育の場で分けない、地域で自立して暮らすという当事者、支援者の試みは10年の節目だからではなく、日々、地域で行われています。メディアも含めた、社会の側も具体的に動かなければならない時です。
(TBSラジオ「人権TODAY」担当: 崎山敏也記者)
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