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高市総理なぜ靖国「参拝」見送り「遥拝」に? 背景に日韓関係めぐる“この夏の複雑な事情” 実現に向けた環境整備と総理の信念の狭間

国内
2026-08-22 10:00

8月15日、終戦の日。高市総理は午前11時18分から19分にかけて、日本武道館内の駐車場で車から降りると、東京・九段にある靖国神社の方向に向かって2拝2拍手1拝をおこなった。過去の自民党総裁選でも訴えていた「総理としての靖国神社参拝」を見送り、靖国神社に「遥拝」をした瞬間だった。高市氏がなぜ遥拝という選択肢をとったのか、その背景には「この夏の複雑な事情」があった。


【写真で見る】2025年8月15日、靖国神社を参拝する高市氏


靖国神社を「遥拝」 過去には高市総理の「師」も検討

広辞苑によると、遥拝とは「はるかに遠い所からおがむこと」と記されている。実はこの遥拝を検討した総理がいたという。それは歴代最長の政権を担い、高市総理も「政治の師」と仰ぐ安倍晋三元総理だ。


安倍氏と親交のあった自民党ベテラン議員によると、「安倍総理も遥拝は検討していたが、『技術論』『小手先』だとして結局おこなわなかった」と明かす。安倍氏は2013年12月26日午前に靖国神社を参拝したが、総理としての靖国神社参拝はこれが最初で最後だった。


高市総理の側近議員は安倍氏が選択しなかった遥拝を高市氏がおこなったことについて、こう評価した。


総理側近
「及第点だと思う。高市総理は満足していないと思うが、今の段階では現実的で良いやり方だった」


一方で、野党からは高市総理のこれまでの発言を踏まえ、「言行不一致だ」との厳しい声が上がった。


中道改革連合 小川代表
「総理になっても参拝するとか、中途半端な対応するからつけあがるとか、勇ましい発言をずっとされていた。その挙句が今回遥拝という形で、果たして言行一致と言えるのかと。言行不一致と言う方が正しいのではないかと、率直に思うわけです。ただ政治とは、ご自身の信念を貫けない局面があるんだということは、この機会によくよく認識していただきたい」


高市総理による靖国神社参拝を期待する支持層からは「中途半端」などといった批判も出ることが想定されるなか、高市総理はなぜ遥拝をおこなったのか。


かねてから総理としての靖国神社参拝に意欲

高市総理は2024年の自民党総裁選で「靖国神社参拝を総理として実現します」と明言していた。しかし、高市氏も「総理になっても靖国参拝に行くと言ったことが一番大きな敗因と叱られた」と話すように、総理による靖国神社参拝が外交問題になることを懸念する国会議員が多かったこともあり、第1回投票で石破前総理より獲得していた議員票は決選投票で逆転され敗北した。


こうしたことも踏まえて、2025年の総裁選では靖国神社参拝について「適時適切に判断をする」と述べるにとどめる。一方で、民放番組での候補者討論会では「私はやはり手は合わせたいと思う。どこからでも手を合わせたい」と強調するなど、総理として靖国神社参拝をしたいという気持ちは滲み出ていた。


そして総理就任後初めて迎えた終戦の日の靖国神社参拝は見送り、「どこからでも手を合わせたい」との言葉通り日本武道館から靖国神社に向かって手を合わせることになった。


遥拝決断の裏側には…この夏の「複雑な事情」

海洋進出を強めるなど覇権主義的な動きを見せる中国。核・ミサイル能力を強化する動きを見せる北朝鮮。そして、こうした北朝鮮の核・ミサイル開発と連携するロシア。これらの動きに対応するためには、日米韓の安全保障連携が不可欠な情勢だ。


そのなかで現在、日本は韓国と良好な関係を保っている。私自身も5月に李在明大統領の故郷でおこなわれた安東での日韓首脳会談を取材したが、現地での歓待ぶりも目立っていた。同行筋は現在の日韓関係を次のように評価していた。


日韓首脳会談に同行した政権幹部
「韓国とこういう関係でいられるのは一時期の冷え込みを考えると素晴らしいこと。首脳会談で同席をしたが、昨年10月の初会談以来積み重ねてきた信頼関係がますます強固となっている。両国は率直に意思疎通ができる関係を築けてきていると深く実感をしている」


複雑な東アジア情勢のなかで高市総理は良好な日韓関係の維持を重視したほか、韓国の政治スケジュールも高市総理の判断に影響をもたらした。


それは8月17日におこなわれた韓国の与党「共に民主党」の代表選だ。代表選では李在明大統領の側近であるキム前首相と、李大統領と距離があり歴史問題をめぐって日本に厳しい姿勢を取るチョン前代表が有力な候補とされていた。結果的に李大統領の側近であるキム氏の勝利となったが、高市総理はこの韓国の選挙日程を念頭に置いていた。


北朝鮮がロシアにミサイルや兵士を送るなど複雑な東アジア情勢において、良好な日韓関係を維持して欲しいと考えるアメリカへの配慮が必要だったこと。そして高市総理が個人的な信頼関係を築く李大統領の側近が出馬した韓国の与党代表選が8月17日にあったこと。こうした状況を踏まえて、高市総理は周囲に「この夏は特に複雑な事情があった」と話している。


過去には米政権から「失望」 参拝に向けた環境整備の必要性

安倍総理は第一次安倍政権で靖国神社を参拝できなかったことを「痛恨の極み」とする中で、第二次安倍政権の2013年12月26日に靖国神社を参拝した。


これに対してオバマ米政権は「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動をとったことに失望している」との声明を発表。安倍総理の靖国神社により日米関係が悪化し、その後関係修復のための外交努力が重ねられた。


こうしたことも踏まえると、靖国神社を参拝するうえでアメリカや周辺諸国の理解も重要だ。高市総理は今年の衆院選の投開票日に次のように話している。


高市総理(2月8日の民放番組で)
「昔、安倍総理が参拝をされたときに、アメリカ側にも根回しをしたにも関わらず、参拝後にクレームがついた。まず同盟国にはしっかりと理解を得る。そして周辺諸国にもちゃんと理解を得る。お互いにやっぱりその国のために亡くなった方々に敬意を捧げあえる、そういう環境を作るっていうのが私の目標」


高市氏は総理就任後もアメリカのアーリントン国立墓地やイギリスのウェストミンスター寺院を訪れ無名戦士の墓に献花をおこなうなど、訪問先の国々で慰霊施設に参拝を続けている。これもお互いの国が、その国のために亡くなった方々に敬意を捧げあえるようにするための「環境整備」の一環だ。


総理在任中の靖国神社参拝に向けた展望は?

前述の通り、中国・ロシア・北朝鮮の動きに対抗するための日米韓連携の重要性。歴史的に見ても良好な日韓関係。個人的な信頼関係を築いている李在明大統領との関係。同盟国であるアメリカからの理解など、総理として靖国神社を参拝するために考慮すべき事柄は多い。


特に日韓シャトル外交は、1月に高市総理の地元・奈良で、5月には李在明大統領の故郷・安東でおこなわれた。政権幹部は「ソウルと東京でやるシャトル外交ではなく、お互いの出身地でやるかつてないシャトル外交」と評しているが、高市総理が靖国神社に参拝すればこのシャトル外交の継続にも影響を及ぼしかねない。


一方で、高市総理の側近は、これまで高市氏が日本維新の会との連立合意や衆議院選挙での公約を着実に実施してきていることなどを挙げたうえで、高市総理の靖国神社参拝についてもこのように見通しを話す。


総理側近
「高市総理は靖国参拝を来年秋の総裁選までに必ずやるだろう。本人が特に拘ってることなんだから」


靖国神社参拝に向けて、高市総理は周囲に「アメリカや韓国と話し合って環境整備は続ける」と話すが、自身の信念と外交問題との狭間で靖国神社を参拝するかどうかの判断が今後迫られることになる。


(TBSテレビ政治部 官邸クラブ・官房長官担当 大室裕哉)


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