
先月、25万人以上が来場した日本最大級のゲームの祭典「東京ゲームショウ」。
そこで賑わいを見せていたのは、手ではなく“足の指”で操作するユニークなトレーニングゲーム。
開発の背景にあるのは、現代人に広がっている「足の握力(足指の筋力)」の低下です。
実は今、世代を問わず「足の握力」の低下が深刻な問題となっています。
足の握力を鍛えることで、転倒予防や運動能力の向上にもつながるといわれています。意外と知られていない「足の握力」の重要性とその鍛え方とは。THE TIME,マーケティング部の原千晶部員が調査しました。
【写真を見る】20代なのに…「足の握力」が80代!?若い世代にも見られる“衰え”の原因と足指を鍛える重要性とは【THE TIME,】
手を使わない?「足の指」で操作するトレーニングゲーム
世界中から最新ゲームが集まる「東京ゲームショウ」の会場で、ひときわ人だかりができていたのは、足の指を鍛えるために開発されたトレーニングゲーム。
足の指を曲げたときに発揮する力、いわゆる「足の握力」を測定できる機械を使い、湘南工科大学の学生たちが制作したものです。
例えば、リズムに合わせて音楽と画面のタイミングを操作する、いわゆる“音ゲー”では、タイミングに合わせて足の指でレバーを押します。わずか40秒ほどのゲームですが、普段、足の指を意識して使っていない人にとってはかなりの難易度。体験した人からは、「足がつりそうになったけど楽しかった」「筋トレにもなると思う」といった声が聞かれました。
開発のきっかけについて、湘南工科大学の中茂睦裕教授は「もともとはシニアの転倒防止のため。楽しみながらゲームを通じて足の指を鍛えられるといいなということで始めた」と話します。
実は、厚生労働省のデータによると、転倒・転落などによる死亡者数は年間約1万2000人にのぼり、これは交通事故による死亡者数の約3.4倍にあたります。中茂教授は「足の指を使えていないと、ふとした時にふんばることが出来ずに転んでしまい、ケガにつながる」と指摘。現在、このゲームは高齢者施設などでの実証実験も進められているといいます。
「20代女性の足の握力は80代レベル」若者にも迫る“衰え”
しかし、「足の握力」の低下は、高齢者だけの問題ではありません。
長年、足の握力を研究している畿央大学の瓜谷大輔教授が20代から70代までの約2000人のデータを調査したところ、「30代の女性よりも20代の女性の方が、筋力が弱い傾向があった」といいます。
実際に、東京ゲームショウで足の握力を測定した20代の女性の結果は、なんと「80代」レベル。
別の20代女性も同じく80代の握力という判定に。
なぜ今、足の握力が弱くなっている人が増えているのでしょうか?
瓜谷教授によると、「昔のように裸足で運動する機会が減ったり、革靴や周りの固いブーツを履くことで、足の指を使わなくても歩けるようになり、使わない歩き方になりやすい」と分析しています。
足の握力の強さに大きく影響するのが、“足の指の可動性”です。指を使わずに歩くことで、握力は弱くなっていくといいます。では、実際に歩いているとき、足の指はどのように使われているのでしょうか?
あなたの歩き方は大丈夫?センサーで判明した“使えていない”足指
人間工学を専門とする千葉大学の下村義弘教授が開発した、筋肉の動きを測ることができるセンサーを使って実験しました。このセンサーは筋肉の電気活動を計測し、筋肉を使っていなければ緑色、使っていれば赤色にランプが光り、足指の筋肉の動きが一目で分かります。原部員が実際に装着して歩いてみる事に。
まず、センサーを足の指を動かす筋肉の上につけ、平坦な道を普段通りに歩いてみると、ランプはずっと緑のまま。足の指の筋肉はほとんど使われていないことが分かります。
下村教授によると、「平坦な道を歩く時は、足の裏が平坦なままついてしまっているのかもしれない」といいます。
次に、ウレタンを敷いてあえて不安定なデコボコ道を作り、再び歩いてみると、今度はランプが赤く点灯。平坦な道を歩いていた時とは違い、足の指がしっかりと使えている証拠です。
「でこぼこの路面の場合、しっかりと足でつかんで歩こうとする。普段から足を意識的に使い、地面をつかんで蹴るようにするのが大事」。
スポーツ界や子どもの発育にも広がる「足指トレーニング」
足の指を正しく使い、握力を鍛えることの効果は、スポーツの世界でも実証されています。北海道の旭川実業高校サッカー部では、去年の秋から足の指を鍛えるトレーニングを導入。その結果、今年、インターハイでベスト8入りを果たしました。
その秘密は、生徒たちが足につけているトレーニンググッズ。
足の指と指の間に突起を挟んで指を広げ、握ったり開いたりしながら地面をつかむ力を鍛える話題のグッズです。
監修したのは、サッカーU18日本代表でフィジカルコーチを務めた津越智雄氏です。
「足の指を使っていない人には、履くだけでも足の指が広がる。つかんで開いて、という運動を1日5分やるだけで十分変化する。実際に日本代表の選手も使っている」。
足の指を1本1本意識して動かす『グーパー運動』で地面をつかむ指の力を強化することが、スポーツでのパフォーマンス向上につながるといいます。
さらに、足の握力は、子どもの運動能力にも大きく影響しています。
瓜谷教授が保育園児や幼稚園児を対象にした調査では、「足の指の握力が強い子どもほど、短距離走のタイムが速く、立ち幅跳びの記録も良い傾向がある」という結果が出ており、運動能力との関連性が少しずつ分かってきたといいます。
実際に、足指のトレーニングを取り入れている保育園もあります。
東京都豊島区の池袋第一保育園では、0歳から年長まで約100人の園児が、手ではなく足でじゃんけんする「足指じゃんけん」など、足の感覚を育む“足育”に積極的に取り組んでいます。
渡邉久美園長は、「子どもたちは、足の裏を刺激することで体の使い方も意識するようになる。このような遊びを多く取り入れたことで、子どもたちが転びにくくなったと感じる」と、その効果を語ります。
他にも、足裏を刺激するトゲトゲがついた『センサリーマット』の上を歩くなど、日常の中で楽しく足を使う遊びを取り入れています。
高齢者の転倒防止から、アスリートのパフォーマンス向上、そして子どもの運動能力の発達まで。“足の握力”は、あらゆる世代にとって健康や能力を左右する重要なカギを握っているようです。現代の生活で衰えがちな足の指の力を、遊びや簡単なトレーニングを通して意識的に鍛えることが、より良い生活への第一歩となるかもしれません。
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