今年の春闘の集中回答日となった12日。大企業からは去年に引き続き「満額」の回答が相次ぎました。一方で、マクドナルドや、すき家が値上げを発表するなど値上げの波は収まりません。賃上げを実感できない原因はどこにあるのか。話題のデータから紐解きます。
【写真で見る】マクドナルド ハンバーガー 170円→190円 すき家 牛丼 450円→480円 そのほかの値上げ商品
マクドナルド値上げ 母親は“自分の分”買い控え…
12日、都内のマクドナルド。夕食をテイクアウトしたという親子は…
親子
「チーズバーガーのセット。子どものぶんです。(Q.お母さんは?)私はナゲットだけ。自分のぶんを買い控える感じ。子どもは『食べたい』と言うから」
自分の分は買い控えたという母親。というのも12日、日本マクドナルドはおよそ1年ぶりに値上げしました。
ハンバーガーやダブルチーズバーガーは20円引き上げ。ポテトのSサイズは10円、チキンマックナゲットは30円引き上げるなど、定番商品の4割を値上げしました。また、価格が違う都市部の店でも対象商品や値上げ幅を変えて価格を引き上げました。
40代
「『100円の時代に戻れ』とは言わないが、もうちょっと…この子たちのお小遣いの範囲で買えるぐらいの価格帯になってくれたら」
20代
「簡単にコスパ良く買える食べ物だったのに、“贅沢なものに変わってきている感”が悲しい」
一方、牛丼チェーンの「すき家」も12日、今年度3回目の値上げを発表。来週火曜から牛丼並盛りが30円値上げし、480円になります。
相次ぐ値上げでかたくなる財布のひもですが、これで緩くなるのでしょうか?
「給料上がった以上に物価が上がっている感じ…」街の人の実感は?
春闘の集中回答日。ホワイトボードには「満額」の文字がずらっと並びます。今年も大企業を中心に、去年を上回る回答が相次ぎました。
賃上げ率の平均は2%前後で推移してきましたが、去年5.1%と33年ぶりの高水準に。今年は6%を超える賃上げ率を組合が要求しています。
給料が上がっている実感はあるのでしょうか?
会社員(20代)
「自炊しようと思ってスーパーに行くと、2、3年前よりいろいろ高くなっている。その上がり幅と自分の給料の上がり幅があまりイコールではない」
こちらのは母親は、子どもに欲しいものをねだられますが…
子ども
「このファーのピンク色がほしい」
3児の母親
「高くて1個しか買えない。どんどん値段が上がっていると思う」
会社員(20代)
「給料上がった以上に物価が上がっている感じがするので、実感がない」
春闘「満額回答」相次ぐも…なぜ実質賃金上がらない?
小川彩佳キャスター:
皆さんの実感は厳しいものがありますが、物価が上がっているというのも大きいですね。
なぜ実質賃金が上がっているという実感を持てないのでしょうか。
23ジャーナリスト 片山薫 記者:
実際、実質賃金はやや下がり気味なんです。
賃金が上がらない理由として“日本は生産性が低い”というのがあげられますが、実は別の理由があります。
そもそも、生産性が低いとはどういうことなのか。
BNPパリバ証券の河野龍太郎氏が示した、時間あたりの労働生産性(1998年=100)というデータによると、この25年間、日本の生産性は1.3倍に上がっています。アメリカほどではありませんが、ドイツやフランスと比べても、日本の生産性は上がっているといわれています。
ですが、時間あたりの実質賃金(1998年=100)はずっと横ばいです。むしろフランスやドイツの方が、日本より生産性は低いのに実質賃金は上がっています。そのため、「日本の生産性が低い」というのは原因ではないということなのです。
トラウデン直美さん:
2024年も春闘で賃金は上がったようなイメージはありますが、実感はないですね。
23ジャーナリスト 片山記者:
実は賃金がきちんと上がっていないのではないかというのが河野さんの分析です。
BNPパリバ証券の河野氏は、実質賃金が上がらないのは「大企業が利益を溜め込んでいるから」だとし、5%や6%では足りないというような指摘をしています。
小川キャスター:
頑張った分が賃金として返ってきていないということですね。
23ジャーナリスト 片山記者:
利益剰余金と人件費(全規模全産業)グラフによると、利益剰余金=企業の儲けは右肩上がりになっている一方で、人件費は上がっていないことが分かります。利益剰余金と人件費の差が開いていますが、本来は賃金に反映するべきじゃないかというのが河野氏の意見です。
※(出所)財務省資料より、BNPパリバ証券作成
トラウデンさん:
企業側が溜め込んでしまうのは、何かに対しての不安や備えからなのでしょうか。
23ジャーナリスト 片山記者:
理由はいくつかあります。
日本の企業では、賃上げよりもリストラをおそれているという点があります。労働組合などは、首を切られるくらいなら賃金を上げなくてもいいという諦めのようなものがあったようです。
また、企業は利益を溜め込んでおかなければならないと思っている点があります。リーマン・ショックや震災などの時のために、なるべくお金を貯めておこうということです。
ただ人件費はなかなか上げられないということで、活用されたのが非正規雇用です。
【“日本型”経営】
・賃上げより「終身雇用」
・将来不安おそれ「内部留保」
・「非正規雇用」の拡大
非正規雇用を拡大し、どんどんアウトソーシングしていけば、トータルで人件費はかからないため、ずっと横ばいになってるのではないかということです。
藤森キャスター:
一人一人の生産性は上がっていて、実質賃金はずっと変わらないにもかかわらず、会社の儲けはどんどん上がっているということですよね。やっぱりおかしいと思う。
23ジャーナリスト 片山記者:
多くの企業関係者も、その事実に気づいていないというのが河野さんの指摘で、「うちはそれなりに賃上げしている」と思ってしまうそうです。
「日本の大企業は10%近い賃上げを」“賃上げ”足りてる?
小川キャスター:
給与が支払われないと一体何が起きるんでしょうか。
23ジャーナリスト 片山記者:
例えば、大企業の社員も家計が苦しいのであまり消費しないとなると、国内のさまざまな中小企業にもお金が回らないでしょう。
日本は経済的にあまり伸びないという印象を持たれ、大企業が海外に行ってしまいます。
そうすると海外に工場はできますが、日本に工場ができないので、悪循環で“日本は駄目だ”というイメージが先行してしまったというのがこの25年間、日本が長期停滞している理由です。
トラウデンさん:
もらえないから使わない、使わないからもらえないということになっているのですね。
藤森キャスター:
でも、5%、6%の賃上げで「やったー!」となっていますよね…。
23ジャーナリスト 片山記者:
BNPパリバ証券の河野氏は、「インフレ期の欧米の賃上げ率は40~50%になっている。それを考えるのであれば、日本の大企業は10%近い賃上げを」としていて、5〜6%で満足してしまうと日本の消費が落ち込むだけだということです。
まずは、「今の賃上げでは足りない」と認識させることが大事なのではないかと指摘しています。
小川キャスター:
(賃上げを)訴えられる環境にある方は、もっと訴えていいということですか。
23ジャーナリスト 片山記者:
「生産性を上げている」「賃金も上げて」というメッセージを、個人や組合として訴えていくことが大事なのではないかと思います。
小川キャスター:
正規雇用の方の賃上げの実感がなければ、非正規雇用の方はもっと得られないことになりますよね。
トラウデンさん:
大企業がやらないと、中小企業も上げていけないということもあるわけですね。
『賃上げ』について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『賃上げ』について「みんなの声」を募集しました。
Q.あなた、またはあなたの家庭で収入が増えた実感は?
「かなりある」…1.9%
「多少ある」…3.2%
「あまりない」…14.0%
「全くない」…51.1%
「むしろ減った」…24.4%
「その他・わからない」…5.4%
※3月12日午後11時12分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは13日午前8時で終了しました。
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<プロフィール>
片山薫 記者
元経済部筆頭デスク 財務省や経産省、農水省などを担当
コロナ禍では政府のコロナ対策の取材を取り仕切った
趣味はハイキング
トラウデン直美さん
Forbes JAPAN「世界を変える30歳未満」受賞
趣味は乗馬・園芸・旅行
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