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ドラマ制作における「生」と「技術」の融合――カメラマン・関毅が見つめた『海に眠るダイヤモンド』の世界

エンタメ
2024-12-15 07:00

ドラマ制作の現場で、俳優たちの繊細な芝居を余すところなく映像に収めるカメラマン。その腕前と表現力が、作品の質を左右するといっても過言ではない。日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』ではカメラマン・関毅氏が、その卓越した手腕で1955年からの端島と現代の物語を鮮やかに映し出している。今回は、関氏の視点から見た撮影の裏側や技術、作品に込めた思いをひも解く。


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『VIVANT』との違いから見えるVFXの可能性…制約を乗り越える映像表現の工夫とは

『夜行観覧車』(2013:セカンドカメラマン)、『Nのために』(2014:チーフカメラマン)などから、塚原あゆ子監督と新井順子プロデューサーの作品を数々担当してきた関氏。『下剋上球児』(2024)では、ワイヤーカメラを使用した球児たちの躍動感ある試合シーンを生み出したのも記憶に新しい。そんな関氏が今回挑むのは1955年からの活気ある端島を切り取ること。

当時の風景を再現するため、本作ではVFXをはじめとする最新技術が駆使されており、関氏もその技術と向き合いながら撮影を進めている。「映画『ラストマイル』でご一緒したVFXの早野海兵さんと必要な素材について綿密に打ち合わせを行い、CG部の宮崎浩和さんとは予算や技術的な限界について話し合いながら進めました」と、制作過程を明かす関氏。


これまで連続ドラマでは、コストや制作時間の制限により、VFXありきの制作を行うのは困難だった。しかし、本作ではそれを実現するため、事前にVFXを使う部分を決めて、それに基づいて画角を設定するという手法が採られている。

「VFXを使用する画角をなるべく一定にすることで、予算を削減しながらVFXを活用しています。僕らカメラマンは後から調整しやすいように、なるべく同じ画角で撮るのみ。それでもしっかり画変わりして見えるのは、塚原監督の編集の妙です。やみくもにVFXの映像を使用するのではなく、スケール感を表現するのに効果的な部分でのみ使われています」と、塚原監督の編集技術にも言及する。

また、同じVFX技術を用いた日曜劇場『VIVANT』(2023)との違いについては、「『VIVANT』は映像に後からVFXをはめていますが、本作ではVFXの世界にリアルの映像を配置するようなイメージです」と、解説した。


数々の作品でカメラを回してきた関氏だが、今回TBSグループとして初めて導入されたという大型LEDウォールでのフルCG背景を用いた「インカメラVFX」撮影は特に苦労したと口にする。「端島の屋上のシーンなどで使用された同技術では、カメラの上部につけたマーカーと、スタジオの天井のポイントを連動させることで、カメラの設置場所を機械が認識。

カメラとの位置や距離、角度を機械が計算し、LEDパネルのフルCGの背景がそれに応じて調整されます。撮影の準備にも時間がかかりますし、背景にリアルを馴染ませる技術の習得にも苦労しました」と、新たな挑戦を振り返った。


美術セットとVFX技術が生み出す、映像の新たな可能性

俳優の芝居を見せる場面と、物語の流れやスケール感を重視する場面では必要な映像も変わる。「芝居がメインのシーンでは、それを崩さないためにVFXを絡めない構成になっています。『ここまでセットの壁があったほうがいいですよね』と美術スタッフと話し合い、セットの映像だけで完結できるよう追加で対応してもらうことも。俳優の表現を最大限に引き出せる環境づくりに努めています」。


同セットの世界観の精巧さについて関氏はこう続ける。「担当デザイナー・岩井憲さんのことは、以前から細部の作り込みがすごいなと思っていました。いざ出来上がったセットを見たらスケール感が桁違いで、もはや全て本物に見えるほど。岩井さんはカメラを構えた後でも気になるところがあると、走って直しに来てくれます。細部までこだわって調整する姿を見て、こちらも背筋が伸びる思いでした」と、撮影中での逸話を披露。

そういった細部のこだわりはカメラを通して際立つもので、「床や壁などの質感の違いをはじめ、岩井さんの汚しの技や色味の抑え方が素晴らしい。俳優さんの芝居を引き立たせるために彩度を調整して、セットと演者の見え方のバランスをよくしている」と、美術チームへのリスペクトを口にした。


塚原組の阿吽の呼吸が紡ぐドラマ映像の裏側

塚原監督の映像には、独特の画角がある。第7話では、炭鉱員たちが集まる建屋で、柱を中心に据えるというテレビドラマではあまり見かけない構図が使われた。「あのシーンは、塚原監督から“柱を境界線に見立てて、あちら側とこちら側の人々をわけたい”というリクエストを受けて撮った映像。こういった世界観を表現する画角は、塚原監督の指示によるものが多いですね」と振り返る。


さらに、「リクエストがない限り、撮影は基本僕に任せてくれていますが、そこから先は塚原監督の世界。そういう線引きをしているので、撮影は自由にやらせてもらっています」と語り、お互いの信頼関係が垣間見えるエピソードも飛び出す。それゆえに、撮影現場では塚原監督から「なるほど!」や「さすがです」という言葉が飛ぶこともしばしば。

「撮影中に想像以上の仕上がりになると、そのまま採用されることが多いです。そのため、決まったカット割(脚本に沿って区切りをつけ、アングルや構図などを撮影前に決めること)を守るのではなく、芝居や画角に合わせてその場で調整。監督と記録担当はできた画からその場で画並びを変更しています」と柔軟な撮影の進行を語る。


関氏が撮影した芝居を含むさまざまな映像素材は、意外なところで使われることも多いという。「塚原監督は、編集済みの映像に音楽を付けた段階でイメージが変わったと感じると、MA(マルチオーディオ:編集済みの映像にセリフやナレーション・BGM・効果音などを加え、音を最終仕上げする工程)の後に再編集することがあります。そういう作業をする人はあまりいないですね」と、珍しい工程を明かしてくれた。


芝居とカメラの調和が生み出すもの――少ないテイクで最大限の“生っぽさ”を引き出す

塚原組での撮影のモットーは「テイクを最小限に抑えること」だという。「回数を重ねすぎると、どんなにベテランでも慣れや疲れが出てきてしまう。なるべく新鮮な芝居を切り取ることを大切にしていて、塚原組でよく言う“生っぽさ”を目指しています」と、関氏。

その象徴とも言えるのが、第6話での鉄平(神木隆之介)と朝子(杉咲花)の告白シーンだ。「神木さんから演出の提案があったようで、監督から『恋愛ドキュメンタリー番組のような映像にしたいから、ちょっとした手ぶれ感も出してほしい』とリクエストがありました」と撮影の裏側を明かす。さらに告白後に続くじゃれ合いのシーンはアドリブだったそうで、2人の自然な演技に塚原組がフォーカスする“生っぽさ”が溢れた映像となった。


関氏は、自身の中に画角を決める基準はないと語る。「俳優さんの芝居や、そのシーンが持っている意味を自分で解釈しながら決めていて。いい意味でセオリーというものが自分の中にないので、縛られることなく撮ることができています」。

そんな関氏は、神木が撮影現場で見せるアドリブに楽しみを感じている。「例えば第1話で、履いていた靴下を投げる動きなどは、”おお、きたな!”と内心盛り上がりながら撮影していました。撮影現場で即興的に生み出すセッションが一番楽しいですね」と、俳優と呼吸を合わせる。誰よりも近くで俳優の芝居を見つめ、時には俳優の芝居にグッとくることもあるというる関氏だが、撮影中は「自分が一番冷静でいることを心掛けている」と口にする。

「塚原監督はドライから芝居に感情移入して、泣いてしまうタイプなのですが、それを引っ張り戻すのが僕の仕事。塚原監督が芝居を見て『こうしたい』という希望を言ってきても、それが流れとしてピンとこない時に『これを見せないといけないんじゃないの?』と伝え、軌道に戻すこともあります」と、長年のタッグでバランスを保っているのだ。


関氏は最後にこう締めくくる。「俳優さんたちの気持ちが動いている瞬間を“生っぽく”撮っていくことで初めて視聴者の皆さんの心を動かすことができると思いますし、この塚原組の醍醐味でもある。それを切り取るのが僕の仕事なんです」。


ドラマ制作の現場で磨き上げられた技術と信頼関係が、俳優たちの芝居を引き立て、視聴者の心を動かす瞬間を生み出している。本作で描かれる物語の深みは、関氏をはじめとするスタッフ陣の努力と情熱の賜物。リアルとフィクションの境界線を揺さぶる塚原組の挑戦はこれからも止まることはないだろう。


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