エンタメ
2026-08-11 13:00
「スター・ウォーズ」の物語を、各国のアニメーションスタジオが独自の“ビジョン”で描く、ルーカスフィルムのプロジェクト『スター・ウォーズ:ビジョンズ』。同シリーズ初の長編シリーズ『スター・ウォーズ:ビジョンズ/九人目のジェダイ』が、8月5日よりディズニー公式動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」で全話一挙独占配信されている。
【動画】リスペクトあふれる最終予告
本作は、『スター・ウォーズ:ビジョンズ』Volume 1の一編『九人目のジェダイ』、Volume 3に収録された続編『The Ninth Jedi: Child of Hope』に連なる物語。制作は、日本のアニメーション業界の第一線を走り続けてきたProduction I.Gが手がけた。世界的IPとどのように向き合い、自分たちらしさを作品に落とし込んだのか。短編から長編シリーズへと発展した経緯とともに、神山健治総監督に聞いた。
――世界的なIPである「スター・ウォーズ」を扱う一方、『スター・ウォーズ:ビジョンズ』は日本のアニメーションへのリスペクトから生まれたシリーズでもあります。「スター・ウォーズ」らしさと神山監督ならではの表現のバランスを、どのように考えましたか。
【神山】まず、僕自身が『スター・ウォーズ/新たなる希望(エピソード4)』を初めて観たときの衝撃や、そこから受けたインスピレーションを、同じように表現したいという思いがありました。
脚本を書く段階では、「スター・ウォーズ」を「スター・ウォーズ」たらしめているものは何だろうと、自分なりにかみ砕いて考えました。ジェダイとライトセーバー、そして「スター・ウォーズ」ユニバースの設定は外せません。
主人公たちが銀河を股にかけて冒険し、それぞれの惑星が一つの国のように独自の文化や社会を持っている。人間のほかにも多種多様な種族やクリーチャー、ドロイドがいて、宇宙船で惑星から惑星へと行き来する。それが「スター・ウォーズ」における最低限のルールだと考えました。
さらに、世界を規定する大きな要素としてフォースがあります。実写シリーズや映画で描かれてきた世界とあまりにも異なるものを出してしまうと、アニメーションであっても「スター・ウォーズ」としてピンとこないかもしれません。砂の惑星に二つの太陽が浮かび、ジャングルには見たことのない種族やクリーチャーがいる。そうした「スター・ウォーズ」らしい絵を丹念に作り込みながら、自分たちらしさも生み出そうと考えました。
■ライトセーバーが映し出す「持つ人の心」
――本作では、ライトセーバーの色そのものが物語の鍵になっています。青か赤か、善か悪かという二者択一ではなく、善にも悪にも転び得る存在として描かれている点に、侍や日本刀の精神性にも通じる奥行きを感じました。
【神山】ライトセーバーに侍や日本刀の考え方を取り入れたという意味では、日本らしさがあると思います。ただ、善悪については、今の時代、西洋においても単純な二元論では語れなくなっていると感じています。数多くの作品が作られる中でも、ジェダイが一点の曇りもない正義とは見えなくなり、見方によってはシスの主張にも道理を感じることがある。
僕は12歳で初めて観たとき、ライトセーバーはジェダイにしか使えず、その色は持つ人のフォースを表していると思っていました。ところが、「帝国の逆襲(エピソード5)」でハン・ソロが普通に使っているのを見て、「僕の勘違いだったんだ」と(笑)。それでも、ジェダイにしか使えない方がかっこいいという思いが残っていました。
そこで本作では、ライトセーバーが持つ人の心やフォースに反応し、色や長さが変わる設定にしました。そうすれば、善と悪を単純に分けるのではなく、ジェダイの迷いや、「見方によってはシスの考えも正しいかもしれない」というところまで描けると思ったんです。
正義とは何かを簡単には言えない今の時代だからこそ、改めて「ジェダイの規範を自分もまねしたい」「やはりジェダイはかっこいい」と感じてもらえる作品にしたいと思いました。
■なぜ正義を信じる人が“闇”へ進むのか
――本作にナワームを登場させた理由を教えてください。
【神山】「ファントム・メナス(エピソード1)」から「シスの復讐(エピソード3)」では、正義を信じていたアナキン・スカイウォーカーが、なぜダークサイドに堕ち、ダース・ベイダーになったのかが描かれています。僕も本作を通して、「正義を信じる人が、なぜ悪へと進んでしまうのか」というテーマを、今の時代に改めて考えてみたいと思いました。
人々を統治するために力を持つこと自体は、必ずしも悪ではありません。しかし、その使い方によっては、正義のための行動がダークサイドへとつながることもあります。立場や見方が変われば、同じ行動でも正義にも悪にも映り得ます。そうした問題を描くために、ナワームというキャラクターが必要でした。
カーラの父親であるジーマも、「自分の行動は正しかったのか」「自分はダークサイドに堕ちていたのではないか」と悩み、一度ジェダイを辞めています。そこで、ジーマと同じように正義と力の間で揺れるナワームを通して、何がジェダイらしい行動なのか、正義とは何かを描きました。
本作は、ナワームが変化していく過程を描いた物語でもあります。正義を信じていた彼が、なぜ次第にダークサイドへと近づいてしまうのか。ダース・ベイダーとは異なる形で、その理由を描くために生まれたキャラクターです。
――主人公のカーラは、どのような考えから生まれたキャラクターなのでしょうか。
【神山】カーラは年齢こそ若いですが、物語が始まった時点ですでに剣士としての強さを持っています。心も非常にピュアで、そのポジティブさが彼女の本当の強さにつながっています。
最初の短編を書いた頃、僕の娘が大学生になる時期を迎えていました。そのとき、娘は意外と父親である僕のことを知らないのではないか、僕自身も自分のことをあまり話してこなかったのではないかと気づいたんです。
親子だからといって、何でも知っているわけではない。そうした自分自身の気づきも、カーラというキャラクターや本作の親子関係に反映されていると思います。
■ルーカスフィルムとその都度話し合い
――短編として始まった『九人目のジェダイ』が、全8話のシリーズへと発展した経緯を教えてください。ルーカスフィルムとは、どのような話し合いがあったのでしょうか。
【神山】Volume 1の短編を作った段階で、物語をさらに膨らませられる設定や要素があることは、僕もインタビューなどで話していました。アメリカでも『九人目のジェダイ』を気に入ってくださった方が多かったようで、「もう一本短編を作りつつ、物語を長編へと膨らませてみよう」というお話をいただきました。非常にありがたいオファーだったので、何とか実現させようと思いました。
ただ、たとえ正史に含まれない作品であっても、「スター・ウォーズ」として守らなければならないルールがあります。それを守った上で、ライトセーバーの色が変わるといった新しいアイデアに挑戦することは問題ないというところから始まりました。
また、『九人目のジェダイ』というタイトルですから、ルーカスフィルムからは「当然、9人が集まりますよね」「その9人がどのようなキャラクターなのかも見せてほしい」というオーダーもありました。全体を合わせても映画一本分ほどの尺しかない中、それを全8話に盛り込むのは、なかなか難しいことでした。
脚本開発にはルーカスフィルム側のプロデューサーも常に参加し、疑問点や認識の違いがあれば、その都度話し合いました。本当にディスカッションを重ねながら作っていったという感覚です。
――まだまだ物語を膨らませられそうな終わり方だったと感じました。
【神山】そうですね。僕自身も、作り終えて「すべてやり切った」という感覚ではありませんでした。そうした思いが表れたエンディングになっていると思います。
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――世界的なIPである「スター・ウォーズ」を扱う一方、『スター・ウォーズ:ビジョンズ』は日本のアニメーションへのリスペクトから生まれたシリーズでもあります。「スター・ウォーズ」らしさと神山監督ならではの表現のバランスを、どのように考えましたか。
【神山】まず、僕自身が『スター・ウォーズ/新たなる希望(エピソード4)』を初めて観たときの衝撃や、そこから受けたインスピレーションを、同じように表現したいという思いがありました。
脚本を書く段階では、「スター・ウォーズ」を「スター・ウォーズ」たらしめているものは何だろうと、自分なりにかみ砕いて考えました。ジェダイとライトセーバー、そして「スター・ウォーズ」ユニバースの設定は外せません。
主人公たちが銀河を股にかけて冒険し、それぞれの惑星が一つの国のように独自の文化や社会を持っている。人間のほかにも多種多様な種族やクリーチャー、ドロイドがいて、宇宙船で惑星から惑星へと行き来する。それが「スター・ウォーズ」における最低限のルールだと考えました。
さらに、世界を規定する大きな要素としてフォースがあります。実写シリーズや映画で描かれてきた世界とあまりにも異なるものを出してしまうと、アニメーションであっても「スター・ウォーズ」としてピンとこないかもしれません。砂の惑星に二つの太陽が浮かび、ジャングルには見たことのない種族やクリーチャーがいる。そうした「スター・ウォーズ」らしい絵を丹念に作り込みながら、自分たちらしさも生み出そうと考えました。
■ライトセーバーが映し出す「持つ人の心」
――本作では、ライトセーバーの色そのものが物語の鍵になっています。青か赤か、善か悪かという二者択一ではなく、善にも悪にも転び得る存在として描かれている点に、侍や日本刀の精神性にも通じる奥行きを感じました。
【神山】ライトセーバーに侍や日本刀の考え方を取り入れたという意味では、日本らしさがあると思います。ただ、善悪については、今の時代、西洋においても単純な二元論では語れなくなっていると感じています。数多くの作品が作られる中でも、ジェダイが一点の曇りもない正義とは見えなくなり、見方によってはシスの主張にも道理を感じることがある。
僕は12歳で初めて観たとき、ライトセーバーはジェダイにしか使えず、その色は持つ人のフォースを表していると思っていました。ところが、「帝国の逆襲(エピソード5)」でハン・ソロが普通に使っているのを見て、「僕の勘違いだったんだ」と(笑)。それでも、ジェダイにしか使えない方がかっこいいという思いが残っていました。
そこで本作では、ライトセーバーが持つ人の心やフォースに反応し、色や長さが変わる設定にしました。そうすれば、善と悪を単純に分けるのではなく、ジェダイの迷いや、「見方によってはシスの考えも正しいかもしれない」というところまで描けると思ったんです。
正義とは何かを簡単には言えない今の時代だからこそ、改めて「ジェダイの規範を自分もまねしたい」「やはりジェダイはかっこいい」と感じてもらえる作品にしたいと思いました。
■なぜ正義を信じる人が“闇”へ進むのか
――本作にナワームを登場させた理由を教えてください。
【神山】「ファントム・メナス(エピソード1)」から「シスの復讐(エピソード3)」では、正義を信じていたアナキン・スカイウォーカーが、なぜダークサイドに堕ち、ダース・ベイダーになったのかが描かれています。僕も本作を通して、「正義を信じる人が、なぜ悪へと進んでしまうのか」というテーマを、今の時代に改めて考えてみたいと思いました。
人々を統治するために力を持つこと自体は、必ずしも悪ではありません。しかし、その使い方によっては、正義のための行動がダークサイドへとつながることもあります。立場や見方が変われば、同じ行動でも正義にも悪にも映り得ます。そうした問題を描くために、ナワームというキャラクターが必要でした。
カーラの父親であるジーマも、「自分の行動は正しかったのか」「自分はダークサイドに堕ちていたのではないか」と悩み、一度ジェダイを辞めています。そこで、ジーマと同じように正義と力の間で揺れるナワームを通して、何がジェダイらしい行動なのか、正義とは何かを描きました。
本作は、ナワームが変化していく過程を描いた物語でもあります。正義を信じていた彼が、なぜ次第にダークサイドへと近づいてしまうのか。ダース・ベイダーとは異なる形で、その理由を描くために生まれたキャラクターです。
――主人公のカーラは、どのような考えから生まれたキャラクターなのでしょうか。
【神山】カーラは年齢こそ若いですが、物語が始まった時点ですでに剣士としての強さを持っています。心も非常にピュアで、そのポジティブさが彼女の本当の強さにつながっています。
最初の短編を書いた頃、僕の娘が大学生になる時期を迎えていました。そのとき、娘は意外と父親である僕のことを知らないのではないか、僕自身も自分のことをあまり話してこなかったのではないかと気づいたんです。
親子だからといって、何でも知っているわけではない。そうした自分自身の気づきも、カーラというキャラクターや本作の親子関係に反映されていると思います。
■ルーカスフィルムとその都度話し合い
――短編として始まった『九人目のジェダイ』が、全8話のシリーズへと発展した経緯を教えてください。ルーカスフィルムとは、どのような話し合いがあったのでしょうか。
【神山】Volume 1の短編を作った段階で、物語をさらに膨らませられる設定や要素があることは、僕もインタビューなどで話していました。アメリカでも『九人目のジェダイ』を気に入ってくださった方が多かったようで、「もう一本短編を作りつつ、物語を長編へと膨らませてみよう」というお話をいただきました。非常にありがたいオファーだったので、何とか実現させようと思いました。
ただ、たとえ正史に含まれない作品であっても、「スター・ウォーズ」として守らなければならないルールがあります。それを守った上で、ライトセーバーの色が変わるといった新しいアイデアに挑戦することは問題ないというところから始まりました。
また、『九人目のジェダイ』というタイトルですから、ルーカスフィルムからは「当然、9人が集まりますよね」「その9人がどのようなキャラクターなのかも見せてほしい」というオーダーもありました。全体を合わせても映画一本分ほどの尺しかない中、それを全8話に盛り込むのは、なかなか難しいことでした。
脚本開発にはルーカスフィルム側のプロデューサーも常に参加し、疑問点や認識の違いがあれば、その都度話し合いました。本当にディスカッションを重ねながら作っていったという感覚です。
――まだまだ物語を膨らませられそうな終わり方だったと感じました。
【神山】そうですね。僕自身も、作り終えて「すべてやり切った」という感覚ではありませんでした。そうした思いが表れたエンディングになっていると思います。
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