
奥寺佐渡子さんが脚本、塚原あゆ子さんが演出、新井順子さんがプロデュースを手掛けるTBS金曜ドラマ『LOST10』。『Nのために』(2014年)、『最愛』(2021年)など、これまで数々の作品でタッグを組んできた3人が、本作で再びチームを組んだ。
【写真で見る】金曜ドラマ『LOST10』第4話より登場した、あかね役の市川実日子さん
直(演:小栗旬さん)の妻・あかねを演じる市川実日子さんにとって、奥寺さんとは今回が初めて。一方、塚原さん、新井さんとは『アンナチュラル』(2018年)や映画「ラストマイル」(2024年)で作品をともにしてきた。
塚原さん、新井さんとの信頼関係がある中で、初めて奥寺さんの脚本に向き合った市川さん。『最愛』の再放送を見ている途中で今回のチームだと気づき、「今度ご一緒するチームの作品を、こんなに心を動かしながら楽しみにしている」と感じたという。3人が生み出す世界に入り、市川さんは何を感じ、あかねという人物とどう向き合っているのか――。話を聞いた。
『最愛』を見て気づいた、奥寺さん、塚原さん、新井さんのチーム
出演が決まった当初は、まだ自分がどんな役を演じるのか、「はっきりとは見えていなかった」という市川さん。
「出演のお返事をしてしばらく経った頃、BS-TBSで『最愛』が再放送されていることに、第4話くらいのタイミングで気づいたんです。放送当時も見ていたのですが、気になったので録画をして見始めたら…、以前見たことをすっかり忘れてしまうくらい、すごく面白かったんです(笑)」
そして、ドラマを見ている途中で、あることに気づいた。
「途中で『あれ、(脚本が)奥寺さん?』と気づいて、『そうだ、(プロデューサーは)新井順子さんだ』と、逆にそこからつながっていったんです」
一方で、あかねという役については、簡単には輪郭がつかめなかった。
「結構、分からないというか。塚原さんと直接お話ししてみないと分からないなと思っていました」
あかねという役の輪郭をつかむため、市川さんは自分から撮影現場を見に行くことにした。
脚本を読んでも「分からない」――あかねという役との向き合い方
第1話の本読みには参加していなかった市川さん。演じるあかねは、第4話が初登場となるため、事前に夫である直がどんな人物なのか、作品全体がどんな雰囲気になるのかを知りたいと思いながら、実際の撮影現場を見学する機会を作った。
「分からないことだらけだったので、自分のクランクインより前に、小栗くんが演じる直の姿を見てみたくて、撮影現場を見学させてもらったんです」
その際、奥寺さんが作成した「あかね」の人物表を受け取った。そこには、料理が得意な直が食事を作り、あかねが掃除を担当することや、娘・みのり(演:倉田瑛茉さん)の遺品をめぐって直と意見が衝突すること、娘を亡くしてから気力を失っていた時期を、本を読むことで乗り越えてきたことなど、劇中ではすべてが描かれるわけではない背景が細かく記されていた。
さらに、「努力家で真面目」「人見知りで一見無愛想になってしまう」「仕事には誇りを持っている」といった人物像も書かれていたという。
「人物表と脚本を並べて読んでも、やはり分からないというか。『このシーンでどんな気持ちを大事にしたらいいんだろう』と思うところがいっぱいありすぎて」
そこで、市川さんは塚原さんと一つずつ相談しながら、あかねの人物像を探っていった。
印象的だったのが、小駒(演:横浜流星さん)を連れて直が突然家に帰ってくる場面だ。市川さんがその場面について考えていたところ、塚原さんから「ここ、あかねさんは座っていられないと思うんですよね」と言われたという。
「『確かに。初対面の人が目の前にいて、直が料理していて、じっと座っていられないですよね』と最初は言っていたんですけど、人物表に書かれている“人見知りで一見無愛想”などの要素を取り入れたら、変わってくるのかな…、脚本家の方がそう書かれているんだもんなと思って」
そこからさらに、あかねが直とみのりと3人で暮らしていた頃の生活に思いを巡らせる。
「直とみのりと3人で暮らしているときも、あかねが掃除担当で、直が料理担当だから、料理をほぼしない人だと想像すると、座っていられるなと思ったんです。小駒が来て、いそいそと直だけが動いているのも良いのかもしれないなって」
人物表に書かれた設定をそのまま当てはめるのではなく、脚本に描かれた場面と、そこにいる人物の生活を想像しながら、少しずつあかねの姿を作っていった。
ただ、その判断が画面上でどう映るのかは、市川さん自身にも分からない。
「あかねがただの無愛想な嫌な人に見える可能性もあるな、それでいいのかなと、いろいろ迷ったんです。でも、後から事情も分かるし、人見知りという部分が描かれなくてもいいのかなと」
「どう映ったらいいのかは、塚原さんに委ねるしかない」
役の内面を探りながらも、最終的にどう映るのかは塚原さんに委ねている。
「あかねがどんな人物に映ったらいいのか、自分では見当もつかないので、そこは監督である塚原さんに委ねたいって思いました。あかねは直の背景に出てくる人だから」
そして、あかねを演じる上で抱えていた「分からない」という感覚は、撮影が進んだ今も残っている。
「今回、本当にずっと『分からない』って言っています(笑)」
市川さんが役と向き合う中で大切にしていたのは、脚本に書かれた設定だけではなかった。
「脚本はもちろん大事だけど、撮影現場で起きることも大事ですよね」
その言葉の通り、人物表に書かれた「あかね」と、実際に撮影現場で起きていることを照らし合わせながら、塚原さんと相談し、一つずつ判断していった。
そんな撮影現場で、市川さんの印象に残っているのが奥寺さんの姿だった。
「奥寺さんとは私が撮影見学に行った際にお会いして、『初めまして』とご挨拶をしたのですが、そのときの瞳がすごく印象に残っていて。ずっと目が合うわけではないけれど、すごく『見ている』という感じがしたんです」
奥寺さんの姿を見て感じたことも、あかねの“人見知り”という人物像を考える上で印象に残っているという。
「日常では被るじゃないですか」――『アンナチュラル』で驚いた塚原あゆ子監督の演出
石原さとみさん主演の『アンナチュラル』で、市川さんはUDIラボの臨床検査技師・東海林夕子を演じ、塚原さん、新井さんと初めて作品をともにした。当時を振り返り、市川さんは「なんて、愛情深くて、熱くて、こんな方々がいるんだ」と感じたという。
塚原さんはこれまで、登場人物たちの自然な会話や、日常のリアリティーを大切にした作品を手掛けてきた。
『アンナチュラル』の撮影を通して市川さんが感じたのは、作られた場所であっても、そこに入ると“本当の場所”になるような感覚だった。
「解剖室はセットで作られたものだけど、やはり作品の中では、本当の場所になる。撮影期間中はどこかずっと重たい杭につながっているような感じだったんです。現場で明るくしているけれど、みんな言わずともそんな感じで」
そして、セリフのやりとりについても、塚原さんの演出が印象に残っているという。
「例えば『セリフ、被っちゃってください』って言われるんです。普通は相手のセリフを待つんですよね。被ったら音が録れないから。『ちゃんと聞きたいセリフは事前にお伝えするので、基本的にはどんどん重ねていってください。日常では被るじゃないですか。だからいいんです』と塚原さんがおっしゃっていたのが、とても印象的でした」
「分からない」と言いながらも、一つずつ塚原さんに相談し、最後は「委ねるしかない」と話す。市川さんの言葉からは、塚原さんの演出を信頼し、現場で生まれるものを受け止めながら役を作っていることがうかがえる。
脚本に書かれた人物像と、撮影現場で起きていること。その間であかねを探し続けた市川さん。「分からない」という感覚を抱えながらも、現場で起きることを受け取り、一つずつあかねの輪郭を探っている。
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