野球界の二人のレジェンド、イチロー(51)と松井秀喜(50)が10年ぶりに再会し、スペシャル対談が実現。2人は高校卒業と同時にプロの道へ。1991年ドラフト4位で愛工大名電(愛知)からオリックスに入団したイチローと、その1年後に星稜(石川)からドラフト1位で巨人入りした松井。当時を振り返った松井は「背負っているものがちょっと違ったかもしれない」と“巨人ドラ1”の宿命を語った。(第3回/全6回)
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ドラ1・松井が背負ったもの、ドラ4・イチローの思い
イチロー:求められる(読売)ジャイアンツの選手として、将来に渡ってもやっぱり輝いてほしい選手。それは数少ないわけだからね、入ってくるときにそういう期待を持たれる選手。
松井秀喜:周りからは、そう見られたでしょうね。
イチロー:それが、ドラフト4位だったとしたらどう思う。これ仮定の話なんだけど、それでも今の松井秀喜だったと思う?残す結果は同じだった。だけど、スタートがドラフト4位だとしたらどう?想像したとき。
松井:違うかもしれないですね。
イチロー:やっぱ、1位の使命感っていうか。
松井:やっぱりその、スタート地点で背負ってるものは、ちょっと違うかもしれないですよね。
イチロー:そうだよね。それで輝き続ける凄さが、この人にはあるわけですよ。僕なんかはドラフト4位、ひねくれ者のドラフト4位だからさ。
松井:(笑)
イチロー:もう何やったって別に影響がないからさ。当時オリックス・ブルーウェーブでさ、誰も見てくれないしさ。
松井:いや、そんな。
イチロー:いやそうですよ、当時ね。だから、こんなんなっちゃったと思うんだけど。
松井:いやでも、高卒でいきなり首位打者は取れないですよ。ウエスタン(2軍)で。
イチロー:いや、それは別の話。
松井:いやいやいやいや(笑)
イチロー:僕の気持ちとすればプロに入ってしまえば、もうそんなの同じだから。こっちはやる自信があったんで。それは全然、結果についてはね。でもスタートで背負わされる感触っていうのは、それで潰れる選手、いっぱいいると思うんだよね、ドラフト1位。
松井:はい、そうですね。
イチロー:並大抵じゃないじゃん。だから僕はドラフト4位とか下位の方が高校生は楽だなって、身をもって感じてきたんで。だから、ピカピカのドラ1は多分大変だなって思うんだよ。で、ずっとやってきた人だから。だから、格がついてんのかなと思う。
松井:(格が)ついてるかわかんないっすね。それが当たり前だと、普通に思えたことが良かったのかもしんないすね。それをきついなとか、これ面倒くさいなとかじゃなくて。
「一番良かったのは目の前に長嶋茂雄がいたこと」
松井:それが当たり前だと、どっかで思えたんでしょうね、多分ね、これが普通なんだって。で、やっぱり一番良かったのは、目の前にやっぱり長嶋茂雄がいたことで。
イチロー:うんうんうん。
松井:長嶋さんが、一番それをやってきた人でしょ。多分、長嶋さん、王(貞治)さんが一番それをやってきた人なんで。その長嶋さんが常に目の前にいて。それをやってる姿をいつも見てて、なおかつ長嶋さんは自分に特別な愛情を注いでくれたんでね。
イチロー:うんうん。
松井:その環境が、良かったのかなっていう気はします。また違う環境だったらちょっと違ったかもしれないです。
今振り返る、甲子園での“伝説の5敬遠”
イチロー:高校時代から背負ってきた、宿命みたいなものっていうのは影響してないの?だって、当時からもうねえ。
松井:そうですね、だからそういう意味では、あの“5敬遠”っていうのは、伝説という意味では私にとってプラスかもしれないけど。背負ったものとしては、ちょっと余計なものかなっていう気はしましたけどね。
イチロー:そう?ああいうストーリー欲しいなって思うけど、俺、何にもないからね。もうただの1回戦負け2回戦負け(笑)いいよね、甲子園のストーリーがある人。
※1992年夏の甲子園2回戦。松井擁する星稜高校は高知の明徳義塾と対戦。松井は5打席全て敬遠されチームも敗れた。
イチロー:だって5敬遠でさあ、試合が止まる、ものが投げ込まれて、試合が止まるなんてことはあるの?他にあの試合以外で甲子園、高校野球だからね。
松井:おそらくないでしょうね。だからあれは、結果的には良かったと思うんですよね。
イチロー:あのときはどう?
松井:あのときは、思ってないです。
イチロー:もう最後までそうだろうなって、途中から思うの?
松井:もちろんそうですね。途中から気づきました。
イチロー:それはもう感情的には、もう静かにしてようっていうスイッチになったの?
松井:ですね、あそこでやっぱ感情出せないですよね、特に高校野球ですしね。
イチロー:でも、星稜の応援席はもうブーイングで、すごかったじゃん。
松井:キレてましたね、だいぶね。
イチロー:そうでしょ。高校野球でブーイングって出ないからね。
松井:出ないですよね。明徳(義塾)の校歌は一切聞こえなかったです。本当に一切聞こえなかった。校歌が終わったかどうかもわかんなかったです。まあでも、あれがある意味で、どっかでエネルギーに変えられた時期があったんじゃないかなっていう、やっぱり自分の中で打って伝説だ、例えば松坂みたいな、ああいう伝説でもないし、キヨさん(清原和博)みたいな伝説でもないし。自分はまったく何もやってない中での、勝手にできあがった伝説っていうかね。
イチロー:まあ、そっちの方がすごいと言えばすごいけどね、何にもやってないのにクイズ王になる人。
松井:(爆笑)
イチロー:相手が答えていくだけで、ブーブーブーで、何も答えずにチャンピオンになった人、みたいな。その方がなんかすごいじゃん。全部知っててチャンピオンになる人はいっぱいいるけど、何もしないでチャンピオンになった、そりゃすごいでしょ。そっちの方がすごいと思う、レアだよね。
松井:考え方によっては、そうですね。だからあれをやっぱり、あいつ5回甲子園で敬遠されたんだよっていうね。じゃあ、実力はどうなんだっていうね。誰もがそこにね、疑問を感じるわけであって、そこを払拭させたいっていうかね。その伝説をもっとちゃんとした伝説にしとくままにしなくちゃいけないというね。
イチロー:うんうん。
松井:それが、やっぱりエネルギーになったという意味では、良かったなと思いますけどね。
イチロー:なるほどね。
松井:でも当時の感情は全然違いましたけど、もちろん。
今の野球は「ドラマがない」
イチロー:高校野球で言えばさ、今だったらさ、「はい、歩いてください」。あれ5回とさ、4球ずつ投げて5回とさ、全然こう・・・。
松井:ドラマ性が違いますよね。
イチロー:全然違うものじゃない。だから僕、申告敬遠、本当やめてほしいんだよね。いくつかやめてほしいうちの大きなひとつ、「申告敬遠」。もう、ネクストサークルにいる選手の気持ちとかもさ、何もないじゃない。
松井:そうなんです。あの4球見てる間に、いろいろ考えたいんですよね。
イチロー:そうでしょ。「チッキショー」と思うわけじゃない。そういう感情を想像させてくれないもん、今は。だから、ドラマがないのよね。「申告敬遠」あとは、僕は「甲子園でのタイブレーク」もやめてほしい。急に試合が変わるでしょ。
松井:そうですね。
イチロー:もちろん「MLBのタイブレーク」なんて、もってのほか。記録の価値も変わってしまうし、塁間の距離が変わっちゃったりね、ベース大きくしちゃって。
松井:そうですね、はい。
イチロー:もう触っちゃいけないことに、やっぱ触っちゃいけないのよね。今度、7イニング制にするかもとかっていう。
松井:本当ですよね。
イチロー:そんなのありえないじゃん。高校生たちに聞いたら、絶対嫌ですって言うよね。
松井:そうですよね。
イチロー:9回やりたいに決まってるじゃない、そんなの大人の事情だよね。
松井:ですよね、野球は8回、9回にね、ドラマがある。特に高校野球はね。
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