
5月18日に東京・国立競技場で開催されるゴールデングランプリ(以下GGP)で大きな注目を集めるのが、23年ブダペスト世界陸上、24年パリオリンピック™と連続金メダルの北口榛花(27、JAL)が登場する女子やり投だ。
パリ五輪銀メダリストのヨ アン・デュプレッシ(27、南アフリカ)と、ブダペスト銀メダリストのフロル デニス・ルイス フルタド(34、コロンビア)が、北口にリベンジするために参戦する。北口の今年の目標は67m98のアジア記録を更新することと、9月に開催される東京2025世界陸上での金メダル。北口にとってGGPは、そこまでのトレーニングや試合出場の方向性を決める重要な大会となる。
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強力外国勢を“マイペースで”迎え撃つ
北口は2年連続金メダルだけでなく、ダイヤモンドリーグでも2年連続ファイナルで優勝している。年間を通しての勝率でも世界ナンバーワンの選手である。
だが他の選手たちも、北口に劣らない猛者たちだ。デュプレッシは5月3日のダイヤモンドリーグ・上海紹興大会3位(62m53)で、不調だったとはいえ、4位(60m88)の北口を破っている。
ルイス フルタドはブダペスト世界陸上で、6回目の最終投てきで北口に逆転されたが、5回目までリードしていた。マッケンジー・リトル(28、オーストラリア)は昨年のパリ五輪前戦、ダイヤモンドリーグ・ロンドン大会で北口を破って優勝した。
強力なライバルたちの挑戦にも、「誰が来るかは気にしていない」と北口は言う。「ダイヤモンドリーグでもいつも一緒に試合をしているメンバー」という受け止め方だ。その一方で、「GGPでは負けたくない」という気持ちもある。
海外を転戦する北口にとって、日本国内での試合は年間3〜4試合。地元観衆の前で本来の自分を見せたい気持ちが強い。「自分がやるべきことをやらないと勝負にもならないので、自分がやることをやるだけです」。
真っ直ぐに投げられない要因は横回転の強さ
北口が今やるべきことは、シーズン初戦のダイヤモンドリーグ・上海紹興大会で明らかになった。
60m88で4位。2回目までは1回目の55m54がベストで、4回目以降の試技が許されるトップ8にも入れないところだった。3回目に60m88に記録を伸ばしたのは、追い込まれてから強い北口らしさを発揮したともいえたが、6回目の試技ができるトップ3に入れなかったのは、北口らしくなかった。「5本中1本も真っ直ぐに投げられませんでした。真っ直ぐに投げられれば62〜63mは普通に飛んでいたと思います。(原因は)体の回転が速すぎて、おそらく手が遠くを通っています。その分、やりが振り回されてしまっている」。
やりを投げる動作における回転は、縦方向の回転と横方向の回転が合わさった回り方といえる。北口は「体の回転を速くしたいとやっていたんですが、横回転ばかり強くなってしまった」という。「縦回転が強くなれば体の軸にやりが近くなるのですが、横回転が強くなると手の位置が遠くなるので、それかな、と思っています」。
やり投は助走の最後の局面(専門用語ではクロスステップ)で右脚、左脚と接地して投げる。左脚が着くまでに、腰が投てき方向に正対する位置まで戻すことができれば、やりは真っ直ぐに飛ぶ。上海紹興大会の北口はそこが不十分だった可能性が高い。
やりの飛び方でいえば小刻みに震え続けたり、上方向にしなって飛んだりしてはダメだが、GGPの北口のやりが正面に真っ直ぐ投げ出されれば、簡単には負けないはずだ。
腹圧を上げるために発声練習も
北口はこの冬、やり投につながるヒントを得るために、いくつもの競技を行っている。水泳、体操、クロスカントリースキー、バドミントン、柔道、ダンス、ハードルに加え、オペラの発声練習にも取り組んだ。
「腹圧を高めるために、一昨年くらいから意識的に投げるときに声を出してみたりしてきたんです」。
“シャウト効果”が投てきに現れることは、以前から言われてきた。体幹の固定性を高め、筋力発揮に必要な神経伝達を活性化させ、より大きな力を出すことができる、とされている。投げるタイミングが明確になる、という指摘もある。
「オペラは前にいるお客様たちに声を届けるので、前に向かって音を発する発声なんです。私も自分の声を使ってやりに、前に飛ぶ力を伝えたいと思って声を出していました。これは習いに行ってみてわかったことですが、的が大きすぎると遠くまで、綺麗に通る声にならないんです。的を絞った中で力を使わずに声を出せると、しっかり通る、響く声になる」。
北口は関節の可動域の広さなど体の柔軟性が武器で、やりに力を長く加えられる。そのこととも通じる部分がある、と感じられた。「他の選手はここでしか投げられない、というポジションがあるのに、私はだいたいこの辺でと、広い幅で投げられてしまいます」。
それも真っ直ぐにやりを投げられない一因だとしたら、そんな簡単なことではないだろうが、オペラの発声練習がポイントを絞った投てきにつながるかもしれない。
GGPでは北口の投てき時の発声も、ちょっとした観戦のポイントになる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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