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次の起業トレンドは「日本の“埋もれた文化”」?日本食や大工…世界が注目した「豊かさの先」の価値

国内
2025-02-24 12:30

2000年代頃から、ビジネスを通して社会課題の解決に取り組む「社会起業家」と呼ばれる起業家が増加しました。「社会的企業」と呼ばれる企業は国内だけでも2014年時点で20万社を超え、経済全体にも影響を与える存在になっています。


こうしたなか、新しいビジネスの担い手として、日本の文化資産にビジネスを通して価値を見出す「文化起業家(カルチャープレナー)」が注目されています。なぜ今「文化」なのか?カルチャープレナーの注目すべきポイントは?戦略デザイナーで、戦略デザインファームBIOTOPE CEO・佐宗邦威(さそう・くにたけ)さんにうかがいました。


<東京ビジネスハブ>
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターのPodcastプロデューサーである野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。本記事では2025年1月12日の配信「佐宗さんが提唱する『カルチャープレナー』とはいったい何か?(佐宗邦威)」を抜粋してお届けします。


「カルチャープレナー」とは何か

野村:まず最初に佐宗さんの事業内容についてお伺いできますでしょうか?


佐宗:戦略デザインファームBIOTOPEの代表をしています。主な事業内容は、企業のビジョン策定、それに基づく新規事業の創出、ブランディング戦略の展開などです。最近は企業の思想や理念自体が、企業のブランドになっている時代でもあるので、理念から事業ブランディングまで一貫して支援している会社です。


野村:佐宗さんが「カルチャープレナー」の存在に着目して、2年ほど前から提唱されてきたということですが、これが何なのか改めて伺ってもよろしいでしょうか?


佐宗:「カルチャープレナー」とは、カルチュラルアントレプレナーをもとにした造語で、「文化起業家」という意味です。注目したのは、京都市のイノベーションスタジオというイベントで、京都への新たなビジネス誘致策を有識者会議で議論したのがきっかけです。例えば、ディープテック企業の誘致方法について議論しました。

京都という場所は、外国人がたくさん来る場所でもあり、さらに文化が非常に残っているような地域でもあります。このような場所を、文化というものの価値を再解釈して、現代風に発信していけるような起業家の聖地にしたらいいという提案をしました。それが「カルチャープレナー」という言葉が生まれた始まりです。

いろいろな日本文化のテーマはありますが、文化を武器に起業をして、事業にしている人はたくさんいるということに気がつきました。それから2023年にForbes JAPANさんと一緒に「カルチャープレナー30」という特集をして、さまざまな文化を日本の文化の価値を再解釈して世界に発信する人、それをカルチャープレナーと呼ぼうと世の中に呼びかけ始めたっていうのが経緯になります。


野村:カルチャープレナーには例えばどういう方がいらっしゃいますか?


佐宗:第1回のForbes JAPANのカルチャープレナー30の表紙になったのは、日本茶を世界に輸出したいと言っているTeaRoomの岩本涼さんや、青海苔や海草を養殖して、それを日本食の新しい形にして発信していくシーベジタブルの蜂谷潤さん。2024年版ですと、大工アーティストを名乗って日本の職人の技を世界に発信している菱田昌平さんなど。他にも酒であったり、ファッションであったり。幅広いテーマの方がいらっしゃいます。


カルチャープレナーを支える「第3のジャポニズム」とは

野村:再解釈の方法や世界へ伝える方法に、佐宗さんが共通して感じられている部分はありますか?


佐宗:まずお伝えしたいのは、海外で日本文化が非常に高く評価されている現状、いわゆる「第3のジャポニズム」と呼ばれる流れがあるということです。

第1のジャポニズムが鎖国の後に浮世絵などがヨーロッパに出て注目されたような時代です。第2のジャポニズムは、1980年代にトヨタやソニーをはじめとした日本の製品が世界を席巻した時代です。今の第3のジャポニズムとして典型的に表現されるものは、アニメ・ゲーム・マンガのACG(アニメ、漫画、ゲームなどのコンテンツの総称)と呼ばれるものが中心です。

この他にも、日本食など、日本の衣食住がとても注目されている流れが出てきていると感じます。

これらの共通するものはいくつかありますが、まず日本食はヘルシーということや、禅のような心の健康のようなものがあります。コロナ禍をきっかけに、欧米では人間の手仕事による精緻な技術や、原点回帰的な価値が見直されるようになりました。そういう価値観に合わせて、お茶は心の安心、大工であれば職人の手仕事の中で進むことの美意識や豊かさ。そのような感覚を価値として捉え、現代のニーズと結びつけることができている人が海外進出に成功していると考えられます。


野村:全世界的な課題にも通じるかもしれませんね。


なぜ日本的価値が世界に求められたのか

野村:例えばテクノロジーの発展が早すぎて疲れてしまうことや、メンタルを崩すような方々が多くいらっしゃること、健康を意識する方が増えたこと。コロナ禍の影響で、稼ぐだけがなんか人生ではない、という価値観の変化もあると思います。そこに日本の元々あった価値をうまく繋いだものが世界に受け入れられやすいということでしょうか。


佐宗:そうだと思います。まさに今話していることはアンチテーゼのようなことです。典型的なことは気候変動と資本主義です。

気候変動は特に欧州の方で進んでいますが、自然を克服するものとしてきたキリスト教の価値観から、むしろ自然ともっと共生する方が良いと思われるようになってきています。

資本主義の一例はアメリカの状況です。とにかく稼げば良いということで分断がよりひどく大きくなり競争が激化し、勝ち負けも激しくなっていました。このような世界は本当にいいのかという価値観に対して日本的な世界観が求められています。

「第3のジャポニズム」はアジア圏でも人気ですが、それ以上に欧米圏でより注目されています。今までの欧米のやり方に対する疑問として、まだ価値観も近い日本を参考にしながら、欧米とは違うやり方で日々の生活の豊かさを感じているっていうこと自体が一つの価値になってきていると思いますね。


野村:資本主義自体は悪いことではないですが、稼ぐだけということに疑問を持っている方々が日本的な価値観に対してシンパシーを感じているということでしょうか。


佐宗:そう思います。成熟した国になり、ある程度モノは持つようになりました。もちろん収入の多寡はありますが全くモノがなくて過ごしている人は今の時代いません。その中で豊かに生きるってどういうことかと考えるときのヒントが実は日本にあると思います。

例えば、欧米のジャーナリストの方が書いた “IKIGAI”という本が海外でとても売れています。その本には、沖縄で長寿の方が多い村にこれからの時代の豊かな生き方のヒントが隠されているのではないか、ということが書かれており、ベストセラーとなっています。そのような流れの中で、日本というものを今の欧米の人にとって新しい可能性として見ていると言えますね。


「自分の人生を変えるもの」にお金を払う経済

野村:どのような日本の文化価値が世界でマッチすると思いますか?


佐宗:経験経済から変化経済という言葉があって、人が体験に対して価値を払うだけでなく、自分自身の人生を変えていくってことに対してお金を払うっていう考え方があります。

例えば、毎日瞑想するという習慣を持つことで自分が豊かになる。これは一種の変革です。日本の文化はこのような体験をまず提供するという前提がありながらその先にもあります。

他にも、日本食を食べることで健康になり、ダイエットも期待できると考えるアメリカ人がいるように、ライフスタイルそのものを変えるきっかけを提供できれば、大きな価値を生み出すことができます。


今、カルチャープレナーとしてチャレンジしている人はそのようなことに挑戦することで、自分たちの文化の価値を経済的にも高めようとしている流れがあると考えます。

今の30代中盤から後半ぐらいの方は、ソーシャルアントレプレナー、いわゆる社会起業家が流行った時代に入ると思います。今の20代にとってはこれが文化起業家だと思います。社会的な課題を認識しつつも、課題解決に留まらず、自分たちの強みを活かしてライフスタイルを提案しようとする世代が多くいるように感じます。


野村:他にもカルチャープレナーにはどんな可能性がありますか?


佐宗:もうひとつの固まりとしてあるのが、スタートアップ(起業家)といっても、必ずしもゼロイチでやっている人だけではなくて、老舗企業の後継者の方も少なくないように思います。特に30代ぐらいで、一度海外に行ったことがある。そして後継をされているような方は、伝統的な家業の文化を、現代の海外のビジネスモデルに合わせて再構築している人もいるようです。大体この二つのセグメントがすごく特徴的でこれから大きくなっていくでしょう。

アメリカスタンダードのグローバリゼーションのようなものが大体2010年代中盤ぐらいで終わりました。これは第一次トランプ政権がきっかけだと思います。そこから各ローカルの地域がそれぞれの地域にあるものを見直すフェーズに入ってきています。そのような世代に社会へ出てきた人が、ローカルの価値観へ回帰する流れの中で新しいテーマを見つけて、社会課題を解決するテーマと繋がる文化として彼らの中に出てきていることだと僕は解釈しています。


<聞き手・野村高文>
音声プロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。


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