
高額献金などが問題になっていた旧統一教会。東京地裁が解散命令を出しました。解散命令を受けて、教団側は25日夜、会長らがおよそ1時間半にわたって会見し、証拠となる被害者の陳述書を「文科省がねつ造した」などと主張。猛反発しています。
「法治国家としてあり得るのかな」教団側は不満あらわ
25日夜、教団本部で会見を開いた旧統一教会。
旧統一教会 田中富広会長
「決定は明らかに不当です。国家による明らかな信教の自由への侵害です」
旧統一教会 顧問弁護士 福本修也氏
「日本の裁判史において、非常に大きな汚点を残したのではないか」
解散命令に対し不満をあらわにし、戦う姿勢を鮮明にしました。
旧統一教会 顧問弁護士 福本修也氏
「当然抗告するので再度、体制を立て直して戦っていく所存」
東京地裁が解散命令を出したのは、25日午後3時ごろ。やがて裁判所から姿を見せた旧統一教会の福本弁護士は、記者の質問にこう答えました。
旧統一教会 顧問弁護士 福本修也氏
Q.もう一度、命令について教えてください
「解散、解散」
Q.いまどういう気持ちですか?コメント等ありますか?
「法治国家としてあり得るのかな」
高額献金に霊感商法…政治家との接点も
安倍晋三元総理が殺害された銃撃事件をきっかけに明るみに出たのは、旧統一教会をめぐる高額献金や霊感商法の被害に、宗教2世の問題。
さらに、政治家との接点です。180人の自民党議員との接点が明らかになりました。
そして、事件から1年以上経った2023年10月。
盛山正仁 文科大臣(当時)
「解散命令請求を行いたい」
文科省が、教団に対する解散命令を東京地裁に請求。
旧統一教会 田中富広 会長(2023年11月)
「信教の自由・法の支配の観点から、到底受け入れることはできません」
解散命令を出す要件は、「法令違反」にあたるかどうか。東京地裁は、文科省・教団の双方から意見を聞くなど、非公開での審理を進めてきました。
国側は、教団側に賠償責任を認めた裁判の判決が多数あることや、被害額が200億円を超えると主張。
一方の旧統一教会側は、幹部らが刑事責任に問われておらず、解散命令の要件となる「法令違反」は刑事事件のみが対象で、「民事上の不法行為は含まれない」と反論していました。
25日、東京地裁は「不法行為に該当する献金勧誘行為は、これまでに類例のない甚大な被害が生じた」「法人格を与えたままにしておくことは極めて不適切」とコメントしています。
法令違反を理由に解散命令が出されたのはオウム真理教、和歌山・明覚寺に続いて3例目ですが、信者の不当な献金集めなど、民法の不法行為が根拠となるのは初めてです。
元妻による多額の献金で、長男が自殺に追い込まれたと訴えている橋田達夫さんは、こう話します。
長男が自殺したと訴える橋田達夫さん(67)
「関わってくれた皆さんに本当にお礼を言いたいです。これからスタートということで。(教団は)自分たちが祈るんじゃなくて、被害者のために祈っていってほしい。そして被害救済のために、1人1人頭を下げて謝罪してもらいたい」
一方、複雑な思いで解散命令の日を迎えた人もいました。
統一教会「祝福2世」 野浪行彦さん(通称)
「一言では言えないんですけど、途方に暮れるような気持ちですね。途方に暮れてます」
教団が名付け親の男性 解散命令で揺らぐアイデンティティー
「野浪行彦」という通称を使って暮らすこの男性は、両親が教団の合同結婚式で結婚し生まれた「祝福2世」と呼ばれています。
生後10日、両親に抱かれて映る写真には、教祖夫妻の写真が飾られた祭壇に掲げられた「奉献式」の文字。生まれた子どもを神様に捧げる儀式で、名前も教団がつけました。
統一教会「祝福2世」 野浪行彦さん(通称)
「不気味ですよね。グロテスクの中で自分が生まれてきたんだという気持ちはある。氏名に教会の刻印が刻まれている。教会と向き合うには、自分の氏名を変えるほかないと思った」
野浪さんは「教団からつけられた名前に精神的苦痛を感じる」として、家庭裁判所に氏名の変更を申し立てました。
しかし、2月に出た裁判所の判断は「申し立てを却下する」というもので、「氏名を変更すべきやむを得ない理由があるとは言えない」と結論づけました。
統一教会「祝福2世」 野浪行彦さん(通称)
「生き延びるために氏名変更してるという気持ち。今のままだったら死にたいっていう気持ちは今でもあるので、死にたいっていう気持ちを氏名変更のエネルギーに向けている」
教団と切り離すことのできない自身のアイデンティティー。解散命令が出たことで、不安はますます強まっています。
統一教会「祝福2世」 野浪行彦さん(通称)
「統一教会がなかったら生まれてこなかったわけですね。自分をつくり出したものが今、消滅しつつあるということだと思う。自分は何なのか、何だったのか分からなくなりますね」
解散命令を受け、阿部文部科学大臣は次のようにコメントしました。
阿部俊子 文部科学大臣
「私どもの主張が認められたものと受け止めております。旧統一教会への対応について、引き続き万全を期して参ります」
一方、25日夜の会見で旧統一教会側は「国が解散を求める根拠とした被害のほとんどが、教団が法令遵守を掲げた2009年のコンプライアンス宣言以前のもの」だと主張。さらに…
旧統一教会 顧問弁護士 福本修也氏
「文科省は、陳述書をねつ造して、統一教会に騙された・脅されたという陳述書を書いて出していた。とにかく、ねつ造やりまくりというのがはっきりしてきた」
国が提出した被害者の証言に“ねつ造”があるなどと反論。被害者に対する謝罪の言葉は口にしないまま会場を後にしました。
旧統一教会解散命令 元2世信者と鈴木エイトさんはどう見た?
小川彩佳キャスター:
解散命令の決定が東京地裁から出されたことについて、両親が信者のもるすこさんは率直にどう受け止めますか。
もるすこさん(仮名・30代):
ゴールではなく、問題解決のスタートラインだと受け止めています。今回出されたのは地裁での判決です。この判決が確定するのは高裁なので、仮に将来、宗教法人格が取り消されるとしても、宗教団体としては確実に存続していきます。
私の両親は現在も現役の信者で、親の高額献金により私は幼少期から貧困状態でした。おそらく今後も無貯金・無年金の親の生活費や介護費などの負担がのしかかってきます。多くの2世が全く同じ状況です。
私は裁判を起こせていません。お金のない親に渡してきた私の間接的な献金被害は、兄弟全員で1000万円ほどになります。私は親を訴えるしかないんです。教団への訴訟を起こすことができないというのが今の救済法です。
このような被害の回復、当事者の社会復帰のサポートなど、多岐にわたる課題が残されていると思います。解散命令が出たことで「もう統一教会は解散したんだ」「この問題は終わったんだ」と勘違いする人も出てくるかもしれません。ただ、これは地裁判決なので、まだまだ遠い道のりがあるということをたくさんの人に知っていただきたいです。
喜入友浩キャスター:
解散命令について、今後の流れです。
25日は東京地裁の解散命令であり、教団側は即時抗告の意向を示していますので、審理は東京高裁に移ります。そこで再び解散命令が出されると、ようやく清算手続きが始まるということで、時間がかかりそうですね。
ジャーナリスト 鈴木エイトさん:
教団としては、おそらく清算手続きをなるべく遅らせたい。東京高裁の審理のタイミングを見て、25日が送達の日にちだとすると、抗告状の提出はおそらく4月9日ぐらいのギリギリのタイミングではないかと思います。
高裁の審理自体が半年から1年、下手すると1年以上かかる可能性があるとすると、まだまだ清算手続きの開始は先になると思います。
教団の財産はどうなる?被害金が賠償される枠組みを作れるか
小川キャスター:
清算手続きが進んでいったとしても、財産はどうなっていくのか。これはしっかり弁済などに向けられるのでしょうか。
鈴木エイトさん:
実際の教団の資産は2年前の時点で1000億円以上あったと言われています。清算手続きが始まると、清算人が財産を管理することになります。ただ、清算手続きを開始するときの清算人の権限は弱く、破産法における破産管財人ほどの強い権限が付与されていません。現状の法整備のもとでは、清算手続きが始まる前に教団が財産を海外や関連団体に移す懸念があります。このような団体の被害者は、自分の被害に気づくのがだいぶ先になる可能性が高い。
被害に気づいて訴えても、もう清算手続きが終わっていてお金が残っていないという状況にならないためにも、後から出てくる被害者にどのような保障が可能なのか、そういう枠組みを作っていく必要があると思います。
喜入キャスター:
抜け道だったり先延ばしにする手段が教団側にはまだあるということですね。
鈴木エイトさん:
教団側に、というよりは、現状の宗教法人法が性善説で成り立っているので、破産法ほど細かく規定がありません。
小川キャスター:
ようやくここまで来たという感覚もありますが、いかがですか。
小説家 真山仁さん:
おっしゃる通り、判断が遅かったと思います。信教の自由が憲法で保障されているのは事実ですが、宗教だったら何でもいいのかとなってしまいますよね。
今年で戦後80年になりますが、日本にはまだまだタブーがたくさんあって、特にメディアは“タブー”と聞いた瞬間に、取材が3歩手前ぐらいで止まってしまいます。だからもっと“タブー”というものに踏み込んでいく。何となくここは知らないことにしようとするのではなく、そういう時代だしそういう勇気を持たないといけない。
今回ようやくその第一歩が始まったのだとしても、多くの人が「それはタブーだから」という言い訳で重大な問題から目をそらすことをやめなければ、第一歩にならないと思う。
小川キャスター:
踏み込めていなかったという側面があるとすれば振り返らなければならないし、粘り強く取材を続けてきたエイトさんのような方がいらっしゃるからこそ、今回の動きにも繋がったんだとも感じます。
教団の今後の活動がどうなっていくのか。韓国の本部を取材しています。
関係者「どうして撮る?」 韓国“聖地”は今
ソウルから直線距離で約50キロのところにある旧統一教会の聖地とされる場所では、白亜の神殿のような建造物や大きなアリーナ施設があり、看板には韓国語・英語・日本語が表記されていました。
取材をしていると、教団の関係者やってきました。
教団関係者
「さっきも日本人3人が来て撮影していたが、帰ってほしいと言ったばかりだ。どうして撮るんだ。撮る理由でもあるのか」
韓国のテレビ放送では…
韓国テレビ局KBSの放送より
「世界平和に向けての終わりなき旅程」
教団関連施設のオープンを告知する教団のCMが放送されていました。
小川キャスター:
韓国でも、日本での安倍元総理の銃撃やその後の流れなども伝えられているにもかかわらず、このように変わらず活動が続けられている。非常に違和感を覚えるところでもあります。
鈴木エイトさん:
韓国のメディアに対して働きかけが行われていて、このような好意的な報道も多いです。一方で、「日本では宗教迫害が起こっている」という、間違った情報が報道されていることもあります。
安倍元首相銃撃事件以降、日本からの送金が止まり、かなり財政難に陥っているという情報の中で、弁護士団体は日本から外為法ギリギリのかなりのお金を信者に運ばせているのではという指摘もされてます。
今後の活動は?「家庭礼拝」に切り替えも
小川キャスター:
気がかりなのは、日本での活動がどうなっていくのかというところです。
もるすこさん:
日本での活動としては、今までは日曜日の教会に信者が集まって礼拝という宗教行事を行っていました。昨年末から信者の家に集まって「家庭礼拝」を行うという形にだんだん切り替えようという動きがあります。おそらく、解散命令によって教会建物が清算されたときの対応を裏で進めていると推測されます。
小川キャスター:
そうすると、この解散命令などによってどんどん活動が先鋭化していく懸念もあるように感じるのですが、いかがですか。
もるすこさん:
もし将来的に宗教法人というものが剥奪されたとき、信者が社会に復帰できないように、孤立するように教団が仕向けている。「宗教迫害を受けている」「信教の自由を侵害されている」というようなことを信者に植え付けて、「外の世界は怖いんだ」と思わせ、孤立させる狙いがあると思います。
小川キャスター:
教会側は教会側のストーリーを組み立てていくわけですよね。
鈴木エイトさん:
実際に教団関係者が信者にどのような働きかけをしているのか。信仰を保つことによって、逆に裁判を起こされたくないというところも利用されていると感じます。
真山仁さん:
宗教と法律はあまり馴染まないのだと思います。法律で決めたからおしまいというのは世の中の常識ですが、もっと離れてみると、結局、江戸時代と同じで国家権力が宗教を弾圧している。そうすると宗教側、特に信者側は「みんなで結束しよう」となります。
そのような方向にいかないためには、多くの人が何が起きていて、根っこに何があるのかまで理解するということを時間をかけてやらないといけない。SNSの時代なので、「弾圧だ」と言われると、宗教弾圧をしている国が悪いという流れが来ないとも限らないと思います。
小川キャスター:
これまでの政治との関係を考えると、政治側から切り離されたという被害者意識を募らせるということにも繋がりかねない。そうした中で、スタートラインに立ったにすぎないという今回の地裁での解散命令ですが、もるすこさんが今一番訴えたいことはどういったことでしょうか。
もるすこさん:
今回、解散命令の判決が出ましたが、これによって統一教会という団体全てが「カルト」という見方をされるのを懸念しています。「統一教会の幹部がたくさんの信者たちからお金を搾取してきた」「いろいろな人権侵害を与えてきた」という見方をしてもらいたいです。
進級・進学・就職の時期になっています。これから皆さんの身の回りに統一教会ということを隠している人が現れることもあると思います。そのときに偏見や差別でこのような人たちを孤立させることがないように。私は社会に受け入れられて、このように宗教2世というところから脱出できて、社会の一員として頑張っていけています。同じように、これからの子どもたちが社会に受け入れられていくことを願っています。
小川キャスター:
今一番苦しく、つらい思いをされている方への誹謗中傷が向かないことを願うばかりです。
旧統一教会について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『旧統一教会』について「みんなの声」を募集しました。
Q.旧統一教会に“解散命令” どう思う?
「妥当だ」…35.2%
「妥当だが判断が遅すぎる」…63.0%
「妥当でない」…0.5%
「その他・わからない」…1.2%
※3月25日午後11時08分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは26日午前8時で終了しました。
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<プロフィール>
もるすこさん(仮名 30代)
両親が旧統一教会の信者 25歳ごろまで信仰
教団の実態をSNSや国会などで発信
鈴木エイトさん
ジャーナリスト
最新著書に「統一教会との格闘、22年」(角川新書)
真山仁さん
小説家 「ハゲタカ」「ロッキード」など
最新著書に「ロスト7」
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