
TBS赤坂ACTシアターでロングラン上演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。
小説や映画から19年後、父親になった37歳のハリー・ポッターとその息子の関係を軸に描かれる新たな冒険物語は、世界中で多くの演劇賞を獲得し好評を博し、日本では2022年7月に開幕すると、第30回読売演劇大賞の選考委員特別賞、第48回菊田一夫演劇大賞を受賞するなど高い評価を獲得。
これまで110万人以上の観客が劇場に足を運んでいます。
【写真を見る】「手話通訳」をエンターテインメントに…舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の新たな試み「舞台手話通訳付き公演」に密着
今年5月、舞台手話通訳付き公演という新たな試みが行われました。
ロビーには字幕機器の貸し出しスペースが設けられ、筆談ボードやコミュニケーションボードも追加設置され、手話通訳スタッフが案内をしています。
今回の舞台手話通訳は、一幕を田中結夏さん(舞台手話通訳者・手話通訳士・俳優)、二幕を江副悟史さん(俳優。日本ろう者劇団代表。株式会社エンタメロード代表取締役)が担当。
舞台手話通訳とは?
聴覚障がいのある方向けの鑑賞サポートでは、字幕機器が主流ですが…
田中結夏さん「字幕はある意味、無機質の文字ですが、舞台手話通訳の場合は、なんでいるかっていうとそこで感情を乗せたりとか、役者のキャラクターとか雰囲気とかも乗せながら通訳できるので」
ただ「わかる」だけでなく、さらに「楽しませる」ためにあるのが“舞台手話通訳”。
観客が感情移入できるような表現の工夫が求められます。
実は田中さん、かつて幼いころから舞台女優を目指していたといいます。
短大卒業後に、演劇の学校に通っていたころ、転機となる出会いを経験します。
田中結夏さん「同級生の中にろう者の方がいらっしゃって、その方の人柄が人を引きつけるようなものがあるように私には感じて、もしこの人と同じ言語で話せたらどれだけもっと話せるんだろう、というところがきっかけ」
その後、手話を本格的に学ぶことでたどり着いたのが、現在の舞台手話通訳という仕事。
田中結夏さん「二つの言語が融合するとこうなるんだ、みたいなことをすごく肌で感じて面白いなと思って。何かと何かの間に立ってそれを伝えることをやり始めたときにすごく楽しいなって」
いわば、「手話通訳」をエンターテインメントに。
演劇を楽しんでもらえる機会を広げるための大きな挑戦です。
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の舞台手話通訳
そんな田中さんが今回抜擢されたのが、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』での手話通訳。
しかし、そこにはこの作品だからこその難しさも。
それは、例えば魔法のシーンです。
田中結夏さん「お客さんにとっては初めて見る表現なので、かなり丁寧に出すように意識しないといけないなって」
魔法はひとつひとつ、オリジナルの手話で表現していきます。
たとえば時間を操作する魔法道具「タイムターナー」を使う場面。
実際には効果音だけのシーンですがここも手話で表現します。
田中結夏さん「タイムターナーで中が動いている動き、そのあと時空がゆがむような動き 最後に空間が揺れるような動き」
田中さんは、先生ともいえる江副悟史さんとともに、連日準備を進めてきました。
魔法の表現の他にも、主要な人物のサインネーム(手話で表現するあだ名)を決めるのも一苦労。原作ファンにも伝わりやすい表現を模索しました。例えば、ハリー・ポッターは額の傷を表すような仕草がサインネームです。
こうして迎えた舞台本番。
舞台手話通訳の対象席は全90席が、両日とも完売しました。
田中さんが担当する第一幕は、およそ100分。
全ての出演者の中で唯一、一度も舞台裏に下がることなく、演じきりました。
本番を終えた田中さんは達成感をにじませます。
田中結夏さん「落ち着いてできました!」
カーテンコールでは、ハリー・ポッター役の吉沢悠が手話で通訳者を紹介。そして、最後は出演者全員で、手話で挨拶しました。
舞台を見たろう者のお客様は…
お客様(手話)「文字では状況や雰囲気まで伝わらないんです。
舞台手話通訳でそこが伝わってすごく良かった!
お客様(手話)「役柄によって手話表現も動きも変えていて素晴らしかった。老若男女の違いまで伝わりました。
お客様(手話)「舞台手話通訳付き公演が増えて欲しいと思います。増やして下さい!」
現在、舞台の本場イギリスやアメリカでは数多く取り入れられている舞台手話通訳つきの公演。しかし、日本ではまだまだ多いとはいえません。
田中結夏さん「やっぱり確実に、劇場も社会も変わってきてるんだなって。ろう者の方が劇場にたくさん足を運んでくださることが当たり前になる、それが趣味になったりとか休日の楽しみになったりすればいいなと。(舞台手話通訳付き公演の)数が増えてほしい、と切実に思います。」
江副悟史さん「今まではろう者が観劇できる機会が少なく、やっとこの時が来たなと。別の作品の(舞台手話通訳付き公演の)チケットも完売しています。つまり、ろう者が様々な演劇やミュージカルを見たいと思っているということの表れだと思います。今後もっと機会が増やせたらと思います。」
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