
20日投開票の参議院選挙で、外国人に関する政策が注目を集めています。
「日本人ファースト」を掲げ、外国人の生活保護の利用停止や、留学生への奨学金見直しを訴える参政党の支持率が各社世論調査で急伸すると、自民党や国民民主党といった他党も「違法外国人ゼロ」や「日本人が払った税金は日本人のための政策に使う」といった政策を打ち出しました。
こうした状況の背景には「外国人が増えて治安が悪化した」、「外国人が日本の土地を買い占めようとしている」といった情報が、SNSを中心に広がりを見せていることがあります。
外国人政策に詳しい国際基督教大学の橋本直子准教授と、朝日新聞大阪社会部の浅倉拓也記者にこうした言説の真偽を聞きました。
(TBSラジオ「荻上チキ・Session」2025年7月8日放送分から抜粋、構成=山崎毅朗)
「外国人が増えると治安が悪化する」?
――海外から来た人は日本にどれくらいますか?
橋本:外国籍を持っていて、日本に来た人は昨年4000万人を超えました。そのうち大多数の3700万人は観光客で、最大90日で帰国していきます。その他、中長期で日本に滞在する外国籍を有する方々もいて、昨年末時点で377万人ほどです。
日本に来る外国人は、中長期で在留する方々も含めて基本的に右肩上がりで増えています。
国別では、多い順番に、中国、ベトナム、韓国、フィリピン、ネパール、ブラジル、インドネシア、ミャンマーから来る人が主となっています。
――「非正規滞在」(不法残留)とされる人はどれくらいいますか?
浅倉:入管庁の統計によると、今年1月の時点で7万4863人です。ピークだった1993年には約30万人いました。当時は今のような技能実習生とか特定技能といった仕組みがなく、大半の外国人労働者がオーバーステイで働いていて、それが黙認されていました。
その後、政府の政策転換もあり非正規滞在者はどんどん減り続けて、在留外国人が急増したここ10年では5~8万人というそれ以前より少ない水準で推移しています。
「最近、不法滞在の問題が深刻だ」とか「不法滞在が増えている」と思われる人も多いとは思いますが、少なくとも数字上は90年代や2000年代の初めに比べてかなり改善された状態が続いています。
――「違法外国人ゼロ」や「不法滞在者ゼロ」を公約に掲げる政党もあります
浅倉:実際には現実的ではないと思います。入管庁の統計では7万人以上が不法滞在という状態にありますが、この中には例えばうっかりビザが切れてオーバーステイする人などがいます。こうしたオーバーステイの人は日々どんどん新たに生じるものなので「不法滞在者ゼロ」は現実的には不可能でしょう。
――「外国人が増えて治安が悪化している」という主張は?
橋本:日本に滞在する外国人は増え続けていますが、法務省・警察庁が発表しているデータを見ると外国人の検挙人数はずっと横ばいです。
つまり、外国人の数は大幅に増えているのに、犯罪で検挙される人数が横ばいということで、単純計算で比率として下がっているということです。
――「外国人留学生への優遇を是正する」という主張は?
橋本:こうした主張は、文科省の奨学金を受けている国費留学生を問題にしているのだと思います。ただ、2024年のデータで留学生は33万人ほどで、そのうち国費留学生はわずか9300人しかいません。他の留学生は私費や民間の財団の奨学金を使っています。
しかも、国費留学生は外国から来るエリート中のエリートが多く、自分の国に帰った後、政府などの要職に就くような人たちです。そういった人たちに日本の税金で留学に来ていただくことで、日本のファンになってもらうのは、むしろ日本にとって中長期的な投資とみることができます。そうした奨学金をやめてしまうのは、ある意味で日本にとっての自滅行為ともいえます。
納税や医療保険の利用は
――SNS上で「外国人は納税してない」とか「社会保険料を払っていない」という投稿を見かけます。納税の実態は?
橋本:そうした言説はあくまで都市伝説のようなものです。基本的に税や社会保険料の支払いと、日本人か外国人かという国籍は関係がありません。
日本で働いていて一定の給料をもらっていれば、外国人でも税金や社会保険料を払う義務があります。
逆に日本人だとしても、大学生であればアルバイトで得たお金が基準に達しなければ納税する義務がありません。また、海外に永住している日本人の場合、日本に住民票がなく日本で稼いでいる給与もないので、日本に納税する義務はありません。
社会保険料も税と同じで、国籍による区別も、優遇も一切ないです。「外国人特権」とか「外国人は優遇されている」とか主張している人には、逆にその根拠を聞いてみたいですね。
――「外国人が医療保険を濫用している」という前提で政策を掲げている政党もあります
橋本:違和感しかありません。厚生労働省のデータでは、2023年の国民健康保険の被保険者は2400万人いて、その内外国人は97万人です。割合としては全体の4%ほどになります。ただ、その外国人たちが医療費をどのぐらい使っているのかというと、総医療費のうち1.39%です。
要するに外国人は被保険者の4%なのに、実際に使っているお金は全体の1.39%であるということです。
つまり、若くて健康な現役世代の外国人が国民健康保険に入ってくれていることで、むしろ日本人の高齢者の医療費が支えられているということになります。
こうした現実からして「濫用」という言葉がなぜ出てくるのか、首をかしげてしまいます。
――外国人に生活保護を支給しないという主張は?
橋本:「外国人ばかり生活保護をもらっている」といった言説をよく見ますが、これもファクトやデータに基づかない完全なデマです。
そもそも日本で外国人は生活保護を利用する「権利」はありません。生活保護を「準用」という形で利用できる可能性があるのは、永住者や特別永住者、定住者、日本人の配偶者といった極一部の在留資格に限られています。日本にいる在留する外国人の数は全体としてすごく増えているにもかかわらず、生活保護を受給している外国人の数はほぼ横ばいなのが現実です。
要するに、分母は増えているのに、分子は増えていない状態です。
日本全体で160万世帯が生活保護を利用していますが、外国籍の人が筆頭世帯はそのうち4万5000世帯です。その内訳をよく見ていくと、高齢の特別永住者、要するに「在日」と呼ばれていた方々が多いのです。なぜ高齢の「在日」と呼ばれる方々が生活保護を必要としているかというと、日本の制度上、「在日」の方々は1982年まで国民年金などの社会保障に入ることができなかったからです。
つまり、在日と呼ばれる方々が生活保護と必要しているのは、政府の方針で無年金・低年金になってしまっていたからです。ただ、こうした方々はご高齢ですから自然に利用率はどんどん減っていくと予想されます。
――「日本の土地を外国人や海外企業が買い占めている」という意見は?
橋本:実際のところ、どこの土地をどれくらい外国人が所有しているのか、政府は包括的なデータをまとめていないようです。
ただし、2023年の1年間に限れば、自衛隊の駐屯地や空港の周りといった重要施設の周辺について、どの国籍の方がどういった土地を取得したか内閣府がデータを出しています。それを見ると、1年間に外国人や外国企業法人が取得した面積は、その年に取得された土地全体の0.75%で、件数では全体の2.2%だったそうです。
SNSでは「外国人が土地を買うために殺到している」といった書き込みを見ますが、この0.75%とか2.2%という数字をどう見るかということになると思います。これから色々な調査やデータ収集が進んでいくでしょうから、それ次第だと思います。
ただ、安全保障という観点でいえば、どういった人が重要施設の周りに私有地を持っているのかは、その人が日本人であれ、外国人であれ国は把握するべきとは思います。
――外国人に対する批判的な言説が広まっていることついて、どう思いますか?
浅倉:日本に来た外国人について、「外国人問題」とか「移民問題」といった形で「問題」として取り上げる風潮がSNSなどで強まっていますが、根拠がなかったり、実態よりも過剰に取り上げたりしている印象です。こうしたSNS上での動きを受け、これまで「票にならない」と論点になってこなかった外国人に対する政策が、急に選挙の争点として出てきたという印象を持っています。
「自国民を優先するべきだ」という言説が広まっていますが、それはある意味どの国でもそうでしょうし、日本でももう既にそうなっています。たとえば、橋本さんが説明した通り、外国人は生活保護を利用する権利を基本的に持っていません。
いま起きているのは外国人側の問題ではなく、むしろ日本社会が外国人をどう受け入れていくのかという問題でもあると思います。
外国人をめぐる主要政党の政策
※各政党の公約や政策集から抜粋
▼自民党
・外国人による運転免許切り替え手続きや不動産所有の問題に厳格に対応する。被仮放免者への対応を含めた取組みを強化するなど、「違法外国人ゼロ」に向けた取組みを進める。
・育成就労制度開始やインバウンド増加を踏まえ、国民の安心を確保するため、円滑かつ厳格な出入国在留管理と、それに必要な体制整備を進める。
▼立憲民主党
・「多文化共生社会基本法」を制定し、国民および在留外国人が共生できる社会を作る。
・在留制度全般を見直し、外国人一般労働者雇用制度の整備を進める。
▼公明党
・外国人の社会保険料の未納の情報を在留審査に反映させるなど、未納防止の仕組みを検討する。
・不法滞在者ゼロを目指す「不法滞在者ゼロプラン」を推進する。
・外国人に日本の文化やルール等を周知するためのオリエンテーション、
相談支援、日本語教育支援、就労支援等の受入れ環境整備のための施策をさらに進める。
▼日本(にっぽん)維新の会
・外国人の増加や地域摩擦の弊害を踏まえ、外国人比率の抑制や受け入れ総量規制を策定する。
・医療保険や運転免許、経営・管理ビザなどの制度が一部の外国人に集団的に濫用されている現状を直視し、実態調査とビザ条件の厳格化を進め、法令を抜本的に見直す。
▼共産党
・外国人への差別、人権侵害に迅速に対処できるよう、申し立てを受けて調整し、救済の手だてがとれる、政府から独立した国内人権機関を創設する。
・外国人労働者に対する人権侵害をやめさせ、人間らしく生きられるために、入管法と育成就労制度の改正を求める。永住外国人の地方参政権を認める。
▼国民民主党
・外国人に対して適用される諸制度の運用の適正化を行い、日本人が払った税金は日本人のための政策に使う。
「外国人土地取得規制法案」を成立させ、外国人の不動産投資を規制する。
外国人の社会保険の加入実態を調査し、運用を適正化する。
・外国人材の確保多言語に対応したワンストップセンターの整備など、地方自治体への支援を強化する。外国人児童・生徒の言語支援を強化し、不就学・進学の課題に取り組む。
▼れいわ新選組
・外国からの低賃金労働力の導入が目的の特定技能制度や育成就労制度は、日本の労働者の賃金を下押ししているため廃止する。
・外国人の包括的な権利を規定する法律を制定する。
▼参政党
・社会保障は日本の国益につながる理由がある人物のみに実施する。外国人の医療保険制度利用を制限する。外国人への生活保護支給を停止する。外国人留学生に対する優遇措置の適用対象を厳格化する。外国人参政権を認めることを禁じ、帰化一世の被選挙権を認めない。
・不法移民、不法滞在、不法就労への取締強化を実行する。日本国、地域コミュニティのルール違反者に対して罰則を強化する。地域の伝統や文化を尊重し、外国文化や価値観の強要を禁じる。
▼社民党
・包括的な差別禁止法を成立させ、人権救済機関を設置することで移民・難民の排除ではなく、多文化共生の社会をめざす。
▼日本(にっぽん)保守党
・国益を念頭に置いた移民政策に是正する。
・入管難民法の改正し、運用を厳正化する。特定技能2号の拡大、家族帯同を許す政府方針を見直す。
・健康保険法・年金法改正し、外国人の健康保険・年金を別立てにする
はしもと・なおこ
国際基督教大学・准教授。専門は難民・移民政策、国際法。大学院卒業後15年近く、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所、IOM=国際移住機関、外務省等で、人の移動、人権問題、難民保護、移民政策等について実務家として勤務した。
あさくら・たくや
英字新聞の記者を経て2003年に朝日新聞に入社。大阪社会部やGLOBE編集部などを経て、神戸総局と大阪社会部でデスクを務めた。英字新聞の時代から外国人労働者や難民の問題を取材し続けている。
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