
この連休、日本で初めてとなるAI国際映画祭が開かれました。注目は、53歳の女性監督。70分の長編映画を完成させたその人は、AIも映像も“まったくの初心者”でした。
AI映画祭で日本人が「AIコメディ賞」 70分長編AI映画上映も
日本で初めて開催された「AI映画祭」。日本をはじめ、アメリカや韓国など世界約40か国から、AI技術を活用した400を超える作品が集まりました。
その中から日本人の作品が「最優秀賞AIコメディ賞」を受賞。
電通 大久保里美さん(36)
「(作品の)テーマに「楽しむ」を掲げていて、コメディ賞はすごくぴったりだなと思って」
電通 クリエイティブピクチャーズ 松元良さん(29)
「ハッピー!です」
さらに…映像もセリフも生成AIでつくられた、世界でも異例の70分長編映画「マチルダ・悪魔の遺伝子」が特別上映されました。監督はこれが映画初挑戦の遠藤久美子さん。
遠藤久美子監督(53)
「母国である日本でこうやって、皆さんに届けられて感無量です。メッセージを伝えたいという一心でここまで作ってきたので、ちょっとでもみんなとシェアできたらなと」
「AI映画」はどう作られるのか ボタン一つで表現できる時代に
そもそも「AI映画」は、どう作られているのか。「ドラマ部門」で入賞した新野卓さんに教えてもらいました。
作品は日常のふとした行動が、知らず知らずのうちに誰かの小さな出来事につながっていく。「The world turns, Because you do(君がいるから世界は回る)」
新野さんがまず、とりかかったのは…
ドラマ部門入賞 新野卓さん(37)
「まずは画像の生成から。これは動画のリファレンス(参考)元になる画像」
(1)画像を生成
作りたいシーンの静止画像をつくります。
新野さん
「プロンプト(指示)の内容は、『明るく温かみのある家のキッチンで、自然光が差し込む中でスマートフォンで話している女性。超リアルな描写。ストレートヘアをテーマにした映画のワンシーン』」
するとAIが30秒ほどで4パターンの画像を生成しました。しかし…
新野さん
「ちょっとおしゃれすぎますね」
イメージ通りの画像になるまで、細かい指示を加えて何度もトライ。
イメージの画像ができたら、次は動きをつける工程です。
(2)画像から動画へ
「電話する男性」から「電話を受ける女性」へと、場面が移り変わるシーンをつくります。
新野さん
「カメラがダイナミックに上昇していくと、女性が笑顔で電話している場所にトランジション(遷移していく)」
難しい指示に聞こえますが、AIにかかればこの通り。
新野さん
「生成AIだと面白いカットがボタン1つでつくれてしまう」
こうして1つ1つのシーンを画像から動画に変換し、最後に編集でつなぎ合わせていけば、映像の完成です。ちなみに効果音も音楽も、生成AIでつくりました。
普段は音楽スタジオで、音響の仕事をしている新野さん。
新野さん
「(作品を)作りたいというのは常にずっとあって。ここまで(生成AI)技術が進んだんだったら、自分がやりたいと思っていたようなこと、作り始められるんじゃないかなと」
こうした新たな才能の発掘も「AI映画祭」ならではの目的です。
AI日本国際映画祭 発起人 栗本一紀理事
「自分の語りたい、表現したいことがあって、AIと出会ったことによって一気に開花させて、誰にでも映画を作れる時代が来た」
AI長編映画監督 過去にはこんな仕事も…
小川彩佳キャスター:
AIで70分の長編映画を作った遠藤久美子監督です。
喜入友浩キャスター:
遠藤さんはバルセロナ在住で現在53歳。コンサル・PRの会社を経営されながら、2025年からAIで映画制作を始められました。
改めてになりますが、AIと映像は完全に初心者ということです。そして気になるのが、以前はCMの声優としても活動されていたそうです。
クリエイター 遠藤久美子さん:
おそらく30歳以上の方であれば、私の声を知らない日本人の方はいないのかなと思います。
♪「あなたとコンビニファミリーマート」
♪「ムーニーマン」
1000本ぐらいはやらせてもらっていたと思います。
喜入キャスター:
もう本当にこの話も聞きたいですけど、違うんですよね。
小川キャスター:
耳が覚えていて嬉しかったですが、今日はAI映画の話ということで。
遠藤さんが作り上げたのは「マチルダ・悪魔の遺伝子」という作品です。SFがテーマの「独特な未来感」があふれる映画で、映像・セリフ全てをAIで制作しています。
わずか4か月で作られたそうですが。「映像を作ってください」と生成AIに書き込んで、帰ってきた映像を積み重ねて、積み重ねて、繋げて70分にしたということですか。
クリエイター 遠藤久美子さん:
そうです。70分×60秒なので、それを1秒ずつ1秒ずつ。5秒、10秒と映像を繋ぎ合わせて70分になりました。
小川キャスター:
途方もないですね。
クリエイター 遠藤久美子さん:
はい、ちょっと眠たいです。
小川キャスター:
もうほとんど睡眠時間も削って。
クリエイター 遠藤久美子さん:
削れるのは睡眠時間だけですからね。寝なければ完成するという状態でした。
AIと映像はまったくの初心者 なぜAIの長編映画にチャレンジ?
小川キャスター:
全くの初心者からのチャレンジで、なぜAIの長編映画を作ろうと思われたんですか。
クリエイター 遠藤久美子さん:
実は、ストーリーは20年以上私の中に抱えていたもので、「いつかは表現しないといけない」と思っていましたが、漫画家でも小説家でもないので、このストーリーを表現しきれなかった。そこにAIが登場したので、「もう今やるしかない」と思ってチャレンジしました。
小川キャスター:
夢を叶えてくれるツールが登場したわけですね。
クリエイター 遠藤久美子さん:
どうしても訴えたいメッセージがあって、4半世紀でやっと形になりました。
喜入キャスター:
頭の中にあったストーリーの再現度はどうでしたか。
クリエイター 遠藤久美子さん:
かなりできたと思います。例えば、街や乗り物は流線型の乗り物で、ロケットも普通にあるロケットとは違う形のものが、私の中のビジョンにあったので、それをプロンプトで書くと意外としっかり出しててくれて、生成AIは頼もしいパートナーでした。
小川キャスター:
実際に生成AIを使ってみて、気づかされたことや改めて感じたことはありますか。
クリエイター 遠藤久美子さん:
やはり「AIが人間に到達するのではないか」という恐怖もあるとは思いますが、全く人間を超えるということはなく、瞳の奥に燃やす炎だったり、本当に魂の叫びみたいなものは、まだまだ全然再現できないので、人間のすごさを改めて思い知りました。
小川キャスター:
感情表現の難しさですね。
喜入キャスター:
使ってみないとわからないことだと思います。
「生成AI利用」日本は世界に遅れ 課題は…
喜入キャスター:
「生成AIサービス利用経験」(総務省24年度調査)について国別で見たデータがあります。
アンケート結果をみると、中国(81.2%)やアメリカ(68.8%)と比べて、日本(26.7%)は少し離されているんです。
小川キャスター:
世界から見ると遅れをとっているとも言えますが、中室さんはいかがですか。
教育経済学者 中室牧子:
2つ理由があると思います。1つは、著作権や肖像権、知的財産の保護などの面で、グレーゾーンが多いので、日本の企業は法的リスクを恐れて、導入に二の足を踏んでいることが多いと言われています。
この問題に加えて、もう1つは「教育の問題」です。アメリカや韓国だと、高校や大学で生成AIを活用するための授業や講座などが始まっていますが、一方の日本は、大学の課題で生成AIを使うと不正行為になったり、あるいは単位を出さないといったところもあります。
つまり新しい技術に対して警戒感が強いなどの状況から、諸外国との間の差に繋がっているのではないかと思います。
小川キャスター:
そうした警戒感は、遠藤さんの中にはなかったですか。
クリエイター 遠藤久美子さん:
全くなかったですね。
マトリックスみたいに、頭にチューブがあって、カチャって開けて繋げられれば、私が見たビジョンを伝えられますが、それができないので。もうAIは本当に降ってきたチャンスだったなと思いました。「これでやっと表現できる」と。
小川キャスター:
その「原動力」はどこにあったのですか。
クリエイター 遠藤久美子さん:
やはり「このメッセージを伝えなければいけない」という使命感がすごくあったので、25年かけてやっとそれを表に出せると思ったので、ただただひたすらそのために時間を費やしました。
小川キャスター:
いろんなことにチャレンジしたいと思っても、なかなか二の足を踏んでできないという方もいらっしゃると思いますが、何かお伝えになりたいことはありますか。
クリエイター 遠藤久美子さん:
自分の中にそれぞれの物語を抱えていると思いますが、それを映像化できる時代になったことで、何か世界中に訴えたいメッセージがある人は、ぜひチャレンジしてみたらどうかなと思います。
小川キャスター:
中室さんはいかがですか。
教育経済学者 中室牧子:
映像制作は、結構特殊な世界だったのではないかなと思います。
テレビ業界で仕事をする中で学びましたが、カメラさんがいて、俳優さんがいて、台本を書く人もいる、さらに撮影をする場所も必要なわけですよね。かなりお金がかかるところだったのが、AIがあることで映像制作の世界に参入する障壁が低くなったと思います。
そうすると、まさに遠藤さんのような新しい才能が生まれて、新しい作品が生まれるきっかけになることは本当に素晴らしいことだと思いますね。
小川キャスター:
私も70分の作品を見させていただいて、やはりそのベースは人の力なんだなと感じました。何をどう表現するか、どのように生成AIを生かして活用するか。そこに人の力が試されるんだなと思いました。
クリエイター 遠藤久美子さん:
メッセージがあって、AIのツールがあって、ということは変わらないと思います。
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<プロフィール>
遠藤久美子さん
4か月で70分のAI映画を制作
「AI日本国際映画祭」で特別招待上映
中室牧子さん
教育経済学者
教育をデータで分析
著書「科学的根拠で子育て」
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