
安倍元総理銃撃事件で大詰めを迎えている山上徹也被告の裁判員裁判です。
なぜ人の命を奪うという決して許されない犯行に至ったのか。裁判で明らかになったのは、被告と家族の壮絶な過去でした。
【写真を見る】安倍元総理銃撃事件 裁判で明らかになった山上徹也被告と家族の壮絶な過去【報道特集】
「統一教会に打撃を与えることが自分の人生の意味」山上被告の告白
14日間にわたる法廷の様子を描いたスケッチの数々。両手で頭を抱える姿。眼を閉じ、手を組んでじっと耳を傾ける姿。
安倍元総理を殺害した罪などに問われている山上徹也被告(45)だ。
山上徹也被告
「全て事実です。私がしたことに間違いありません」
起訴内容を認めた山上被告。安倍元総理に対しては…
山上徹也被告
「安倍元首相のご家族に何の恨みもありません。私も肉親が突然亡くなる経験をしていて、弁解の余地はない。非常に申し訳ないと思っています」
「安倍元首相が亡くならなければ、殺害されなければならなかったのは、間違いだったと思っています」
安倍元総理(旧統一教会の関連団体に寄せたビデオメッセージ)
「朝鮮半島の平和的統一に向けて、努力されてきた韓鶴子総裁をはじめ、皆様に敬意を表します」
山上被告は元々、韓鶴子総裁ら旧統一教会の幹部を狙っていた。しかし、日本に来る機会が少なかったため、教団に友好的で影響力があるとして、安倍元総理をターゲットにしたという。
山上徹也被告
「統一教会に一矢報いるというか、打撃を与えることが自分の人生の意味だと思いました」
山上被告の地元・奈良に安倍元総理が応援演説に来ることを知り、偶然とは思えないような気がしたと証言した。
裁判の傍聴を続けてきた記者は…
MBS 清水貴太 記者
「我々一般の感覚からすると、あれだけ大きな事件を起こしていながら、最後の後押しとなったのが『偶然』というところに少し引っ掛かりを覚えるというか」
裁判の最大の争点は、事件への旧統一教会の影響だ。法廷で明らかになったのは、山上被告と家族の壮絶な過去だった。
「てっちゃん、ごめんね」裁判長の制止を振り切り謝罪も…信仰続ける母
山上徹也被告の裁判では、家族の壮絶な過去も明らかになった。父親は、山上被告が4歳のときに自殺。その後、母親は旧統一教会に入信した。
弁護側の証人として法廷に立ったが、その姿は遮蔽され、見えなかった。山上被告の兄で、重い病気がある長男のために献金を始めたと語った。
山上被告の母親
「命がなくなったら、いくらお金があってもどうしようもないと思いました。他の子どもたちに申し訳なかったんですけど、とにかくあの子の命を守りたいという思いでした」
夫の生命保険金や自宅の売却費など、総額約1億円を献金したという。
弁護士
「徹也さんがこのような事件を起こした原因をどう考えますか」
山上被告の母親
「私が加害者だと思います。本来の宗教をはき違えていました。献金を一生懸命すれば家庭が良くなるというのは、大変な間違いでした」
「旧統一教会に利用された」と話す一方で、現在も信仰は捨てていないという。
山上被告の母親
「神様のために本を読んだりして過ごしています」
弁護士
「脱会することはできませんか?」
山上被告の母親
「うーん。できれば、今の形でやらせてもらえたらいいなと思っています」
そして母親は尋問後、裁判長の制止を振り切って、山上被告にこう呼びかけた。
山上被告の母親
「徹也に本当に申し訳なかったと思います。てっちゃん、ごめんね」
MBS 清水貴太 記者
「この発言の後すぐに山上被告の表情を見ましたが、全く目を合わせていなかった。『無視・表情を変えず』と急いでメモをした。母親の証人尋問の間は、山上被告はずっと手元を見ている。どちらかというとイライラしている、そんな雰囲気を感じた」
「母親のふりをした、統一教会の信者」山上被告の妹が語る宗教2世の過酷な現実
母親の信仰によって振り回されてきた家族。その後、山上被告の妹が証言席に座った。語られたのは、宗教2世が置かれた過酷な現実だった。
山上被告の妹(40代)
「母は教祖の写真を飾って、祭壇を置いて壺を置きました。毎晩毎晩お祈りしていました。食事に行こうと言われてついていったら、統一教会のイベントで裏切られた気分でした。母は統一教会と上の兄のことで頭がいっぱいで、私には無関心でした。私に40度の熱が出ても、統一教会の活動に行っていました」
母親は韓国の教団本部にも足を運んでいた。2002年、母親が自己破産すると、生活は困窮していく。
山上被告の兄にあたる長男は母親に反発し、暴力を振るうようになったと話す。
山上被告の妹(40代)
「上の兄は大学進学の件でもめるようになり、『お前の献金のせいで進路を決められないんだ』と母親を叱責したり、包丁を振り回したりしていました。母が悲鳴をあげ、兄を止めるのが辛かったし、毎日家に帰ったら、母親が殺されていたらどうしようと不安で、家が燃えていたらどうしようと緊張感で辛かったです」
山上被告の妹は母親から度々、金を無心されるようになった。
山上被告の妹(40代)
「他の信者に金を返さないといけない。家賃を滞納していて、金をくれと。必死の形相で道路で私にしがみついて、私は母親を20〜30メートル引きずりました。恥ずかしくて、みじめでした。母親が私に連絡してくるのは、金を無心するときだけでした。母親のふりをした、統一教会の信者だと思いました。母親のふりをしているから、私は突き放せない」
MBS 清水貴太 記者
「ここの発言の際は、非常に涙声で説明をしているところが印象的だった。それを見ている山上被告も表情は変わらないが、妹の話にはすごく真剣に耳を傾けているなと。妹を大切にしなければという思いは、そういった行動一つからも感じられた」
「圧倒的に努力不足だった」元信者の弁護士が語る宗教2世の救済への思い
裁判では、山上被告が兄と妹に保険金を残すため、自殺を図っていたことも明らかになった。しかし、母親の信仰は変わらず2015年、兄が自殺。そのときの様子を妹はよく覚えていた。
山上被告の妹(40代)
「警察署で兄の遺品を渡されたとき、徹也は声を上げて泣いていました。兄の遺体から一晩中離れず、『俺のせい』と辛そうでした」
山上被告は、兄の自殺をきっかけに教団への復讐を決意したという。
被害者救済に取り組み、裁判でも弁護側の証人として出廷した神谷慎一弁護士。事件後、山上被告の妹から相談を受けたという。
神谷慎一 弁護士
「継続的にお母さんとの関係について、法的にこういう問題があるとか、こういう点があるというようなことを含めたアドバイスをした。関係性を工夫していくというか、(妹は)お母さんに複雑な思いはあるが、やはりお母さんだし。この人も被害者なんだと」
事件を起こした山上被告について、妹は裁判でこう証言している。
山上被告の妹(40代)
「大好きなお兄ちゃんでした。担任の先生が徹也について『真面目で努力家』と褒めていて、自慢の兄だと思っていました。
10代後半の頃、私が家に帰りたくなくて帰らなかったら、一晩中捜してくれていた。私たちは、統一教会によって家庭が破綻した被害者でした。
相談する窓口も探しましたが、親が入信した子どもの相談窓口は見つけられなかった。徹也は絶望の果てに事件を起こしてしまったんです」
実は、神谷弁護士は大学時代、旧統一教会の信者だった。数か月で脱会しその後、弁護士に。今は宗教2世を救済する活動をしている。
裁判では、どうすれば事件を防げたか問われ、涙ながらにこう証言した。
神谷慎一弁護士(裁判での証言)
「自分が圧倒的に努力不足だったと思います。もっと早く相談窓口を作ることを、弁護士としてすべきだったと」
――どういう思いからおっしゃったのでしょうか?
神谷慎一弁護士
「被害が起きてから損害賠償請求するとか、そういうことに手一杯になっちゃって、もっと根本的なところに目を向けて努力することが本当に不足していた。それをちゃんとやっていれば、(事件は)防げたんじゃないか。すごく後悔があって」
――特に妹さんの証言は胸に迫るものがありましたね
神谷慎一弁護士
「赤裸々に最初から語っていたということは、もちろんない。(2世は)みんな傷を抱えて、話すことそのものに自分も傷つくし、もっと差別されるんじゃないか、ひどい目に遭うんじゃないか。あれは徹也さんのためだけに力を振り絞ったんだと思う」
妹の声を聞いた山上被告は…
山上被告
「家族間でトラブルが始まった頃、妹は小学生で、一番傷つけられていると思っていて、何か最低限してあげられることをしてあげるべきだと。自分も父のように、生命保険金を残して自殺すれば、役割を果たせばそれでいいと思いました」
弁護士
「妹が証人として出てきたことについては」
山上被告
「非常に辛い思いをさせたと思います」
旧統一教会 田中会長の辞任表明に元職員「意味がわからない」
2026年1月、判決が言い渡される山上被告の裁判。一方で、旧統一教会の解散命令についても、年度内に東京高裁の判断が示される可能性がある。
その旧統一教会に今週、大きな動きが。
旧統一教会 田中富広 会長
「辞任を決意いたしました。改めてお詫びさせていただきます。申し訳ありませんでした」
田中富広会長が辞任を表明した。田中氏と共に活動したこともある教団の元職員は…
旧統一教会 元職員
「今のタイミングで辞任は意味がわからない、ふさわしくない。信者から見ても『なんで』って思うでしょうし、解散命令ももう少しで出る可能性もあるし、そこまで粘ってもよかったはずじゃないですか」
辞任の理由について田中氏は、高裁での解散命令の審理に区切りがついたことなどを挙げた。
会見では、新会長に堀正一氏(55)が就任することも明らかにされた。堀氏は、信者である両親のもとに生まれた2世信者だ。
2024年、韓国で行われた教団のイベント。韓鶴子総裁に花を捧げる幹部らの中に、田中氏と堀氏の姿があった。
新会長の堀氏は、教団の神アジア太平洋大陸会長を務めていた人物だ。
旧統一教会 田中富広 会長
「(堀氏は)私のコントロール下じゃなく、世界本部のコントロール下にある人材。日本に呼び戻す、取り戻すと言いましょうか」
「(会長の)交代に世界本部が主導して動き始めたわけではなく、むしろ逆です」
田中氏は自発的に辞任し、会長の交代は世界本部が主導したわけではないと強調したが、教団の元職員は…
旧統一教会 元職員
「自分の意志や責任は神から与えられるもの。『人事は天事』と言われている。あくまでも神がその位置・責任を与えたと捉えるので、辞任は『放り出す』『神を否定する』みたいな感じにもなる」
――田中会長自らの辞任ではないのではないかと?
旧統一教会 元職員
「最終決定するのは韓国本部なり、総裁が決めること。(会長から)外さなきゃいけなかったことがあったのかなと思ってしまう」
その韓国では、韓鶴子総裁が、前大統領の妻や側近に不正に金品を提供したなどとして逮捕・起訴された。さらに、李在明大統領は、旧統一教会を念頭に、政治介入した宗教団体への解散命令などの法的対応も検討している。
――韓国の本部の状況と、田中会長の辞任は関係性がある?
旧統一教会 元職員
「関係性は当然あると思う。今、お金がなくなっている、(日本からの)献金が減っているので。総裁の裁判にも非常にお金がかかる。とにかく不安だらけ、いいことは何もない」
辞任会見で田中前会長は、山上被告の裁判についても言及した。
旧統一教会 田中富広 会長
「今回の山上徹也くんの起こした事件について、背景に家庭連合(旧統一教会)が存在していたことは事実なので、しっかり向き合っていかなければいけない」
「『早くしていれば』という反省はずっとある」被害者救済に取り組む弁護士の後悔
40年近く旧統一教会の被害者救済に取り組んできた山口広弁護士。
山上被告の裁判で証言し、宗教2世の問題に早く取り組んでいれば事件を防ぐことができたのでは、と訴えた。
全国霊感商法対策弁護士連絡会 山口広 弁護士
「2世の問題は、単純にお金を取り戻すだけの話じゃなくて、心を取り戻す。決して簡単じゃない」
――もっと早くよりどころというか、SOSを出せるところが見つかれば
全国霊感商法対策弁護士連絡会 山口広 弁護士
「『早くしていれば』という反省はずっとある。私としては、彼(山上被告)に対して、やるべきことをやっていれば、あなた(山上被告)がこんなことをしないでも済む事態になったと思う。『申し訳なかったね』と。それが、ずっと思ってましたね」
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