
2025年6月、千葉市の「高橋デンタルオフィス」の元院長の高橋仁一被告(58)が詐欺容疑で逮捕された。高橋被告は患者に嘘をつき、だまし取った現金を、借金の返済や生活費に使ったとみられる。
【写真を見る】「口の中も血まみれに…」終わらない治療、失った金 “インプラントの名医”が患者から1億円超の現金詐取 千葉で起きた前代未聞の詐欺事件 逮捕につなげた被害者の執念
「ようやく捕まった。でも長かったな・・・」
千葉県に住む50代の女性は、高橋被告から2021年3月に現金約200万円をだまし取られた。警察に被害の相談をしてから約1年半。戦いに一区切りがついた瞬間だった。
捜査幹部が「非常に悪質な行為」と断じたこの事件は、被害者たちの並々ならぬ執念が逮捕に結びついたものだった。
「口の中は血まみれ」 被害者たちの悲痛な声
「多額の治療費を払わせ治療を完治させず閉院し、治療途中のままで返金もされなくて困っている患者が多数いる」
2024年5月、情報提供サイト「TBSインサイダーズ」にこのような情報が寄せられた。20人以上の被害者や関係者に取材を行ったところ、被害額は100万円から、中には5000万円を超える額になるものもあった。
40代の女性は、高橋被告のもとでインプラント手術を受けた。しかし、その治療は終わらなかった。
元患者の女性(40代)
「永遠に仮⻭の治療でプラスチックを治しては、ひと噛みで割れて。口の中もずる剥けになって、血まみれになったりとか。痛くて眠れないので顔半分腫れたりした」
また、「治療費が返還される」などと嘘を言われ、現金250万円を貸すも返ってくることはなかった。女性は怒りをにじませる。
元患者の女性(40代)
「健康を人質にとってお金をだまし取るって一番やっちゃいけないと思っているので、憎しみと怒りしかない」
5年間通った60代の男性は、インプラント治療が終わる間際に、高橋被告から金を貸してほしいと言われた。
元患者の男性(60代)
「最初はインプラント費⽤もらいすぎなんで返しますよって話でした。その代わり(高橋被告から)機械を買うからってことでちょっと⾜らないので貸してくれと」
男性は退職金などを使い、総額3000万円を貸した。
元患者の男性(60代)
「謝ってほしいですよね。だましたことを。どういうふうな判決が出て、刑事罰を受けてくれるのか。それだけが望みですね」
他にも、老後資金を失いギリギリな生活を送っている被害者もいる。
良い評判の口コミを見て…取材から見えた被害者たちの4つ“共通点”
取材を進めると、被害者たちにはある4つの“共通点”が見えてきた。
1つ目は、高橋デンタルオフィスの良い評判の口コミを見て通い始めたことだ。被害者たちによると、インターネット上には高橋被告を“インプラントの名医”と紹介していたサイトもあったという。口コミもよく、それを信じて通い始めていた。
2つ目は、被害に遭った多くの人が数年にわたって高橋デンタルオフィスに通っていたこと。中には20年近く通っていた人もいた。被害者の一人は、「長期間通っていて信用していた部分があった」と話した。
3つ目は、だます際に用いた“常套句”が挙げられる。
高橋被告は、被害者たちを歯科医院の小さい部屋に呼び込み、「今日中に決めないといけない」「あなただけに特別に話しています」などと、決断を迫るようなことを言いだまし取っていた。
4つ目は、「歯医者がだますはずがない」という被害者の思いに付け込んでいたことだ。被害者の一人は、「歯医者という社会的に信用できる立場のため、当初は疑いはもっていなかった」と話した。
「症例と現金の提供で2倍の返金」などと嘘 5000万円以上の被害にあった患者も
警察によると、高橋被告は「資金提供すれば、提供した金と謝礼金がもらえる」「症例と現金をドバイの関係者に提供すると2倍の返金がもらえる」などとも嘘をつき、現金をだまし取っていたという。
逮捕は4回。2020年3月から2022年9月までの間に合計で12人の患者から現金をだまし取り、被害総額は約1億1230万円にのぼった。中には5000万円以上だまし取られた被害者もいた。
歯科トラブルに詳しい加藤博太郎弁護士はこう指摘する。
加藤・轟木法律事務所 加藤博太郎弁護士
「私が知ってるケースよりも被害者1⼈当たりの被害額が⾼額になってると思います。これほどまで⾼額になるケースは、私もほとんど⾒たことがないです。⾦を取れるとこからできるだけ多く取ろうとしたんじゃないかなというところが⾒てとれる」
高橋デンタルオフィスは、2024年6月に破産。負債額は約18億円にのぼる。
関係者によると、高橋被告は2016年ごろから様々な名目で患者から金を借り、今も返済されていない患者が約60人。その総額は約8億円に上るという。
「捕まえられないのか」と警察に訴え 戦い続けた被害者たち
被害者たちは、2023年に「被害者の会」を結成。
「被害者の会」のメンバーである50代の女性は、同年10月に地元の警察署に相談した。しかし当初は、警察から「詐欺での立件は難しい。治療を1回でも受けていれば民事」と伝えられていた。
それでも、女性は「高橋は捕まえられないのか」と警察に電話したり、ほかの被害者たちに警察に相談に行くよう促したりした。
また、被害者の会はマスコミへの情報提供も行い、取材の依頼には必ず応じていた。
TBSテレビは、逮捕前の去年2月に”歯科トラブル”について報道。
警察も本格的な捜査をすでに開始し、去年6月に逮捕された際にはマスコミ各社が大きく報道し注目を集めた。
これは、被害者たちが諦めなかった結果ともいえる。
逮捕から約7か月後の2026年1月20日、千葉県警は捜査終結を発表した。
現在、高橋被告は起訴され、あとは裁判を待つだけの状態となっているが、取り調べに対して黙秘を貫き、動機は明らかになっていない。
だまし取られた金が被害者たちに返ってくる見込みは低く、たとえ裁判で高橋被告に厳しい判断が下されたとしても、この先、被害者たちの傷が癒えることはないだろう。
被害者たちの声は、高橋被告に届くのだろうか。公判で事件の全容が明らかにされることが望まれる。
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