
真冬の衆院総選挙は、高市総理率いる自民党が圧勝する一方で、リベラル派の中心的勢力である中道は大惨敗を喫した。戦後、日本政治の中で一定の役割を果たしてきたリベラル勢力は、このまま消え去る方向に向かうのか。永年にわたって日本政治をウォッチしてきた星浩氏による論考をお届けする。
【写真を見る】リベラルは消え去るのか~“体質”改善と「新しいリベラル」への向き合いが再生のカギに~【調査情報デジタル】
リベラル系無党派層が離れて大惨敗
高市早苗総理(自民党総裁)が「政権信任選挙」と位置づけた衆院総選挙(定数465)は、自民党が3分の2を超える316議席を獲得し圧勝。立憲民主党と公明党が政権交代をめざして結成した中道改革連合(中道)は49議席と惨敗した。中道をはじめとするリベラル勢力が大きく後退したことから、日本政治の枠組みが様変わりし、リベラルは消え去るのではないかという悲観論さえ出ている。
だが、貧富の格差が拡大、国際社会では自由で民主的な秩序が揺らぐ中で、リベラルは存在意義を失っていない。リベラル派には再生の道を切り拓く覚悟が求められている。
リベラルの定義はさまざまだが、ここでは(1)経済政策では競争重視より格差是正による平等を重視する(2)社会保障、子育て支援などを手厚くする(3)防衛費の大幅増額や集団的自衛権の全面行使には慎重(4)選択的夫婦別姓などジェンダー平等を推進する(5)過去の戦争への反省を明確に示し、閣僚の靖国神社への参拝などには否定的――といった政治的立場と位置付けておこう。
今回結成された中道の大半、自民党の一部(有力派閥の宏池会を率いた岸田文雄元首相は自らを「ハト派リベラル」と称している)、国民民主党の一部などが「リベラル派」といえる。本稿では、主に立憲民主党から中道に加わった勢力について論じてみたい。
昨年秋以降の政局を大きく動かしたのは公明党だった。自民党と26年間、連立・選挙協力を続けてきた公明党は昨年10月、「政治とカネ」の対応をめぐる高市氏への不信から連立を離脱。今回の解散・総選挙を控えて立憲民主党との新党「中道」結成に踏み出した。
立憲民主党は、2024年の総選挙で148議席を獲得。191議席の自民党と各地で接戦を演じた。公明党とその支持母体の創価学会が、自民党から離れて立憲民主党に付くことで、選挙戦は中道の優位で推移するとの見方が自民党内でも出ていた。
だが、2月8日の投開票で示された民意は違った。各メディアの出口調査などによると、公明党支持者の多くは立憲民主党出身の中道候補に投票したものの、これまで立憲民主党候補に投票してきた無党派層の多くが離れて、自民党候補に流れたことが明らかになっている。
この無党派層は立憲民主党のリベラル色を支持していたはずだが、保守派の高市総理が率いる自民党に流れたのはなぜか。若者の間で初の女性総理・高市氏を支援したいという思いが広がり、自民党の巧みなSNS戦略もその流れを加速したのは一因だ。高市総理が「日本列島を強く豊かに」といった抽象的なスローガンを強調し、食料品の消費税を非課税にするための財源や防衛費の増額など具体的な政策に踏み込まなかったことも「漠然とした期待感」を膨らませた。
一方で、リベラル系の無党派層が中道を離れた問題の根は深い。立憲民主党と公明党は衆院解散・総選挙の動きが強まる中で急遽、新党・中道を結成。立憲民主党支持者の中には、長年対立してきた公明党・創価学会への不信感は強い。
立憲民主党は従来、集団的自衛権の行使を容認する安全保障法制の「違憲部分」を認めず、原発の再稼働にも否定的な立場だった。ところが、中道の基本政策では、自民党と連立を組んできた公明党の立場に配慮。安保法制を「合憲」とし、原発再稼働も容認に転じた。こうした動きが、リベラル系無党派層には「選挙目当て」と映ったことは間違いない。
リベラルの体質への疑問や反省も
さらに中道のリベラル体質に対する疑問も生じている。
衆院の東京21区から中道公認の新顔で立候補し、自民党候補に敗れた鈴木烈元東京都議は選挙後、自身のFacebookに次のように記している。
「私は中道の今回の敗因、SNSや新党ばかりに帰すべきでないと考えています。まして若者有権者批判など、天に唾する行為です。私は、かねてからの立憲民主党、いや日本のリベラル派の課題が劇的に噴出した結果と感じています。
我々の敗北は、トランプ旋風に屈したアメリカ民主党の敗北と相似形です。高尚な憲法論議や多様性論議に安住し、没落する中流階級の悲鳴に耳を傾けて来なかった。
増えない賃金や拡大する格差。不公正な非正規雇用、奨学金返済の重圧、シングルマザーの生地獄、経済格差を原因とする非婚化等々。経済問題に向き合わず『市場原理主義/自己責任論』という保守派のビジョンに代わる説得力のあるビジョンや政策を示すことが出来なかった。
私はこの焼け野原の中から、日本の『リベラル2.0』を打ち立てることに尽力したいと思います。否定より立論。本気で政権交代可能な二大政党制を目指すなら、代替案を示す必要があるはずです」
鈴木氏と同様に、立憲民主党から中道に引き継がれたリベラルの体質が有権者から見透かされたという反省の声は中道の関係者から聞かれる。中道で当選した議員の一人は「働く者の声に耳を傾けると言っても、連合などに所属する正規労働者の声ではないか。非正規労働者には、既得権益を守っているにすぎないと映った」と語る。
リベラル派の旗手も“リベラル批判”に屈し敗北
鈴木氏の言うように、リベラル派の旗手である米国の民主党も「高尚な論議に安住し」、敗北した経験を持つ。2016年と24年の大統領選だ。
16年は民主党のヒラリー・クリントン氏と共和党のドナルド・トランプ氏との対決だった。ビル・クリントン大統領の夫人、バラク・オバマ政権の国務長官、上院議員という経歴を持つクリントン氏は、抜群の知名度から選挙戦を優位に展開。医療制度の拡充などリベラルな政策を掲げていた。トランプ氏はクリントン氏への個人攻撃を含めリベラル批判を続けた。
結果は、クリントン氏が東海岸や西海岸のリベラル派の強い地域を制したのに対して、トランプ氏が中西部や五大湖周辺のラストベルト(錆びついた地帯)の各州で勝利を重ねて接戦を制した。グローバル化の波の中で失業や賃金減少に苦しむ白人労働者が民主党を離れて共和党に流れた結果だった。
20年の大統領選では民主党のジョー・バイデン氏がトランプ氏を抑えて勝利。上院議員や副大統領として労組との良好な関係を維持してきたバイデン氏に労働者の支持が戻った結果だった。
24年の大統領選ではバイデン氏が高齢を理由に再選出馬を見送り、副大統領だったカマラ・ハリス氏が立候補、トランプ氏との対決となった。結果は、トランプ氏が接戦州のほとんどを制して大勝。同時に行われた連邦議会の上下両院の選挙でも共和党が勝ち、過半数を獲得した。
クリントン氏もハリス氏も弁護士資格を持つ超エリートで、政策の議論に精通している。移民問題やLGBT問題などではリベラルな立場で、トランプ氏とは対極にある。だが、鈴木氏が指摘するように「没落する中流階級の悲鳴に耳を傾けて来なかった」面は否定できない。「上から目線のリベラル」に対して一部の労働者が離反した結果ともいえる。
トランプ大統領は25年1月からの第2期政権で、不法移民の強制送還や世界各国への関税強化、政府機関での多様性を重んじる措置の禁止など反リベラルの政策を次々と打ち出した。民主党は上下両院で抵抗してきたが、トランプ氏に押し切られるケースが続き、「冬の時代」といわれた。
それでも、民主党側には復活の兆しが見えている。25年11月に投開票されたニューヨーク市長選で、民主党新顔でイスラム教徒のゾーラン・マムダニ氏が当選して注目された。マムダニ氏は34歳。「民主社会主義者」を自称し、低所得者への支援や富裕層への増税などリベラルな政策を訴えた。
同じ時期に投開票されたバージニア、ニュージャージー両州の知事選でも民主党の女性候補が勝利。3氏ともトランプ批判を前面に出して戦ったことから、民主党の反転攻勢が始まったといえる。26年11月の中間選挙で民主党が上下両院のいずれかでも多数を占めれば、トランプ大統領を追い詰めることができるだろう。
小川新代表に託された中道の“体質”改善と再建
そして、日本。総選挙を受けて、2月18日に特別国会が召集され、高市総理が施政方針演説を行った。衆院本会議の議場は、自民党議員の圧倒多数で埋め尽くされている。すべての委員会で自民党が過半数を確保。予算案や法案の審議は自民党主導で進められる。高市総理が憲法改正やスパイ防止法の制定など「国論を二分する政策」にどこまで踏み込むかが焦点となる。
中道は、野田佳彦、斉藤鉄夫両共同代表が総選挙惨敗の責任を取って辞任(冒頭の写真は辞任表明会見)。後継に小川淳也元立憲民主党幹事長を選出した。小川代表は、落選した前議員らの支援をしつつ、党の再建を進めることになる。
まず、先述したようなリベラルの体質を改め、物価高に苦しむ人々の声に向き合うことが求められる。さらに、高市自民党に対抗できるビジョンづくりが欠かせない。小川氏は「競争力のある福祉国家」をめざすと主張、具体的な政策の肉付けが必要となる。
高市自民党が圧勝した原因の一つとして、日本を取り巻く国際情勢が厳しさを増す中で、高市氏の中国への強硬姿勢などが支持を集めたという見方がある。これに対して中道などのリベラル側がどのような外交・安全保障政策をまとめていくのかも注目点だ。
中道を支える党組織づくりも急務だ。立憲民主党を支持してきた連合系労組と公明党の支持母体である創価学会が、地域でどこまで連携できるかが課題だ。
「新しいリベラル」の支持を取り戻せるか
リベラル派とみられる有権者には変化が生じている。橋本努、金澤悠介両氏は著書『新しいリベラル』(ちくま新書)で、7000人を対象とする大規模な社会調査に基づいてリベラルの意識変化をまとめた。
同書では、従来型のリベラルと新しいリベラルを比較し、(1)従来型のリベラルの多くは、社会的に不利な立場に置かれた人のための生活保障(弱者支援型の福祉国家)を支持するのに対して、新しいリベラルの多くは、すべての人の成長のための社会福祉政策(社会的投資型の福祉国家)を支持する(2)従来型のリベラルの多くは、高齢世代への支援を重視するのに対して、新しいリベラルの多くは、子世代・孫世代への支援を望んでいる(3)従来型のリベラルの多くは、反戦平和主義や反権威主義といった<戦後民主主義>的な価値観を抱いているのに対して、新しいリベラルの多くは、この価値観に強くコミットしていない――といった特徴を指摘している。
今回の総選挙では、ここでいう「新しいリベラル」の多くが、これまでの立憲民主党から、中道ではなく自民党やチームみらいに流れた可能性がある。ただ、高市政権が物価高対策などで成果を出せなければ、新しいリベラル層は中道支持に回帰することもあり得る。その点でも中道が理念・政策と組織作りで政権の受け皿となれるかどうかが問われる。
インフレが続いても実質賃金が増えない。株の売却益や配当で潤う富裕層と非正規で働く低所得者層との格差は広がる。増え続ける国家債務への不安が募る。国際社会では、ロシアによるウクライナ侵攻が続き、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」外交が法の支配や自由貿易体制を揺るがしている。
社会保障を充実させ、格差を縮小し、法の支配と自由貿易体制を回復させる。そんなリベラル政治の役割が今ほど求められている時はない。リベラルを掲げる政治家がひるんでいる暇はない。
〈執筆者略歴〉
星 浩(ほし・ひろし)
1955年、福島県生まれ。
79年に朝日新聞入社、85年から政治部。総理官邸、自民党、外務省などを担当。ワシントン特派員、特別編集委員などを歴任。
2004-06年、東京大学大学院特任教授。
16年に退社し、TBSへ。「NEWS23」キャスターやコメンテーターを務める。
著書に『自民党幹事長』(筑摩書房)、『官房長官 側近の政治学』『永田町政治の興亡』(いずれも朝日選書)など。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。
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