国内
2026-06-26 07:10
「絵を始めて約8ヵ月」と題した動画。キャンバスをひっくり返すと細かい線がびっしり詰まった鯨が…。作者はほとんど絵を描いたことがない状態から246日でここまでに至ったという。緻密な作品の制作風景や、8ヵ月間で感じた思いを収めたこの動画は、82万回再生されている。双極性障害を抱えながら制作を続け、障害を持つアーティストの才能を称える国際的なアートプライズ「HERALBONY Art Prize 2026」でファイナリストにも選ばれたtakuya(@takuya__art)さんに、絵の道で挑戦を始めたきっかけや成功の理由を聞いた。
【画像】鯨の細部はおよそ1万個の丸で構成されていた!
■「感情伝えるの難しい、自分のことがわからない」苦しい時期に妻の誘いで美術館へ
――「絵を始めて約8ヵ月」という投稿は82万回再生を超え、話題になっています。この投稿を機にフォロワーが一気に増えたとのことですが、投稿が話題になった時のお気持ちを教えてください。
「最初は驚きが大きかったです。正直、ここまで多くの人に届くとは思っていませんでした。たくさんの人に作品を見てもらえる喜びと同時に、アンチコメントがきたら耐えられるかという不安があり、スマホを握る手が少し震えていました。でも、『なんだか心が熱く励まされたような気持ちになりました』というようなコメントばかりで安心しました。そのとき初めて、僕が届けているのは作品だけでなく、挑戦する姿や過程そのものだと思えました。フォロワー数が増えていく嬉しさ以上に自分のやっていることが誰かの一歩につながることの方が嬉しかったです」
――「絵を始めて約8ヵ月」の動画の中のクジラの絵には、どのような思いが込められていますか?
「このクジラには、自分自身の姿を重ねています。クジラは普段、光の届きにくい場所で生きていますが、ときには海面に向かって浮上します。双極性障害と向き合う中で、苦しさや孤独を感じる時間もありました。それでも少しずつ前を向き、上へと進もうとしている自分の姿をクジラに重ねて描きました。この作品は、『暗闇の中にいても、前へ進み続ければ必ず光に近づける』という、自分自身へのメッセージでもあります。制作中に印象に残っているのは、完成形を細かく決めずに、自分の感情の流れに任せて描いたことです。不思議ですが、描いているうちにクジラが自分の心を映すような存在になっていきました。この作品は『描いた』というよりも、『自分自身を見つめ直した時間』になったと思います」
――絵を初めて描いたのはどんな時でしたか?
「初めて絵を描いた頃は、自分の気持ちを上手く言葉にできない時期でした。双極性障害と向き合う中で、『心にはさまざまな感情があるのに伝えることが難しく、自分のことがよくわからない』と感じることがありました。そんな僕を見てか、妻が全国のさまざまな美術館へと連れ出してくれました。たくさんの作品に触れる中で、『自分でも絵を描いてみよう』と思い、ペンを握りました」
――そこからスタートして、現在に至るのは並大抵のことではなかったかと思います。絵を描く中で支えになったものは?
「信じてくれた人がいたので、頑張ることができました。病気を打ち明けても変わらず受け入れ、支え続けてくれた妻。シングルマザーとして育ててくれた母。この二人に、諦めず挑戦し続ける姿を見せたいという思いが、制作を続ける力になっています。作品は一人で描いていますが、ここまでこられたのは決して一人の力ではありません。その感謝を、これからの制作や発信を通じて二人に返していきたいと思います」
■「双極性障害である自分を否定しない」体調、周囲の評価…“波”に抗うのをやめた画家に見えたもの
―― 双極性障害と向き合いながら活動されています。現在、特性とどのように付き合っていくべきだと考えていますか?
「大前提として、通院と服薬を続けること。生活リズムを崩さないこと。この二つが大切だと考えています。その上で、病気を克服しようとはせず、症状や自分自身を理解しようとしながら病気と向き合うことが大事だと思います。以前は体調の波に抗って苦しくなることが多かったですが、今は『今日は60%くらいの力でやろう』と力を抜きながら、自分の状態を受け入れることができています。病気がなかったら絵を描いていないと思うので、双極性障害を抱える自分を否定しないことも大切にしています」
――ご自身が画家の道をつかむことができた理由はなんだったと振り返りますか?
「一番大きいのは、妻の存在です。双極性障害を抱える自分を受け入れ、どんなときも変わらず応援してくれました。安心できる居場所があったからこそ、制作を進めることができたと思っています。もう一つの要因は、『評価されそうな絵』ではなく、心からワクワクする表現を大切にして制作したことです。誰かの好きに合わせるのではなく、自分の感情や感覚を信じ続けた結果、共感してくださる方々と出会えたのではないかと思っています」
――現在までどんなことを思いながら、絵を描いてきましたか?
「『結果が出なくてもいいから描き続ける』と決めて、制作を続けてきました。絵を始めた頃は、当然無名でした。それでも、自分の経験や思いを絵で表現し続ければ、いつか誰かの心に届くと信じていました。僕の場合、絵を描くことは自分と向き合い続けることに等しいです。自分の良い面も悪い面も見えてしまうので心が消耗していましたが、向き合うことをやめませんでした。苦しい時期もありましたが、その積み重ねが今につながっていると思っています」
――「HERALBONY Art Prize 2026」では『ゼロの心臓』という作品がファイナリストに選ばれたとのことですが、「障害者アート」という言葉について考えることもあるのだとか。
「以前までハッシュタグに『障害者アート』と積極的に使っていましたし、言葉の意味も深く考えることはありませんでした。しかし、ある時人に『アートに障害の有無って関係ないですよね』と言われて、『障害者アート』という言葉について考えるようになりました。さらに、『HERALBONY Art Prize 2026』の授賞式パーティーで、審査員・黒澤浩美さんの『一人一人のクリエイターに、それぞれ固有の名前が先にある』という言葉を聞いて、クリエイターの名前に先行してしまう『障害者アート』という言葉の違和感をより感じるようになりました。“障害者が描いた絵”ではなく、『takuyaが描いた絵。この人はこんな病気があるみたい』が理想です。ただ伝わる順番だけの話かもしれませんが、大切なことだと思います」
―― 最後に、これから先の目標を教えてください。
「作品が売れることも大切かもしれませんが、僕はそれよりも“応援される作家”になりたいと思っています。作品だけでなく、制作の背景や想いも発信して、そこに共感してくれる人が増えていけばいいなと考えています。その積み重ねが、メディアでの発信や講演、企業とのコラボレーションなど、さまざまな新しい挑戦にもつながると思うからです。表現の場を広げながら、『生きづらさを抱えていても自分らしく挑戦できる』ことを伝えていきたいです」
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■「感情伝えるの難しい、自分のことがわからない」苦しい時期に妻の誘いで美術館へ
――「絵を始めて約8ヵ月」という投稿は82万回再生を超え、話題になっています。この投稿を機にフォロワーが一気に増えたとのことですが、投稿が話題になった時のお気持ちを教えてください。
「最初は驚きが大きかったです。正直、ここまで多くの人に届くとは思っていませんでした。たくさんの人に作品を見てもらえる喜びと同時に、アンチコメントがきたら耐えられるかという不安があり、スマホを握る手が少し震えていました。でも、『なんだか心が熱く励まされたような気持ちになりました』というようなコメントばかりで安心しました。そのとき初めて、僕が届けているのは作品だけでなく、挑戦する姿や過程そのものだと思えました。フォロワー数が増えていく嬉しさ以上に自分のやっていることが誰かの一歩につながることの方が嬉しかったです」
――「絵を始めて約8ヵ月」の動画の中のクジラの絵には、どのような思いが込められていますか?
「このクジラには、自分自身の姿を重ねています。クジラは普段、光の届きにくい場所で生きていますが、ときには海面に向かって浮上します。双極性障害と向き合う中で、苦しさや孤独を感じる時間もありました。それでも少しずつ前を向き、上へと進もうとしている自分の姿をクジラに重ねて描きました。この作品は、『暗闇の中にいても、前へ進み続ければ必ず光に近づける』という、自分自身へのメッセージでもあります。制作中に印象に残っているのは、完成形を細かく決めずに、自分の感情の流れに任せて描いたことです。不思議ですが、描いているうちにクジラが自分の心を映すような存在になっていきました。この作品は『描いた』というよりも、『自分自身を見つめ直した時間』になったと思います」
――絵を初めて描いたのはどんな時でしたか?
「初めて絵を描いた頃は、自分の気持ちを上手く言葉にできない時期でした。双極性障害と向き合う中で、『心にはさまざまな感情があるのに伝えることが難しく、自分のことがよくわからない』と感じることがありました。そんな僕を見てか、妻が全国のさまざまな美術館へと連れ出してくれました。たくさんの作品に触れる中で、『自分でも絵を描いてみよう』と思い、ペンを握りました」
――そこからスタートして、現在に至るのは並大抵のことではなかったかと思います。絵を描く中で支えになったものは?
「信じてくれた人がいたので、頑張ることができました。病気を打ち明けても変わらず受け入れ、支え続けてくれた妻。シングルマザーとして育ててくれた母。この二人に、諦めず挑戦し続ける姿を見せたいという思いが、制作を続ける力になっています。作品は一人で描いていますが、ここまでこられたのは決して一人の力ではありません。その感謝を、これからの制作や発信を通じて二人に返していきたいと思います」
■「双極性障害である自分を否定しない」体調、周囲の評価…“波”に抗うのをやめた画家に見えたもの
―― 双極性障害と向き合いながら活動されています。現在、特性とどのように付き合っていくべきだと考えていますか?
「大前提として、通院と服薬を続けること。生活リズムを崩さないこと。この二つが大切だと考えています。その上で、病気を克服しようとはせず、症状や自分自身を理解しようとしながら病気と向き合うことが大事だと思います。以前は体調の波に抗って苦しくなることが多かったですが、今は『今日は60%くらいの力でやろう』と力を抜きながら、自分の状態を受け入れることができています。病気がなかったら絵を描いていないと思うので、双極性障害を抱える自分を否定しないことも大切にしています」
――ご自身が画家の道をつかむことができた理由はなんだったと振り返りますか?
「一番大きいのは、妻の存在です。双極性障害を抱える自分を受け入れ、どんなときも変わらず応援してくれました。安心できる居場所があったからこそ、制作を進めることができたと思っています。もう一つの要因は、『評価されそうな絵』ではなく、心からワクワクする表現を大切にして制作したことです。誰かの好きに合わせるのではなく、自分の感情や感覚を信じ続けた結果、共感してくださる方々と出会えたのではないかと思っています」
――現在までどんなことを思いながら、絵を描いてきましたか?
「『結果が出なくてもいいから描き続ける』と決めて、制作を続けてきました。絵を始めた頃は、当然無名でした。それでも、自分の経験や思いを絵で表現し続ければ、いつか誰かの心に届くと信じていました。僕の場合、絵を描くことは自分と向き合い続けることに等しいです。自分の良い面も悪い面も見えてしまうので心が消耗していましたが、向き合うことをやめませんでした。苦しい時期もありましたが、その積み重ねが今につながっていると思っています」
――「HERALBONY Art Prize 2026」では『ゼロの心臓』という作品がファイナリストに選ばれたとのことですが、「障害者アート」という言葉について考えることもあるのだとか。
「以前までハッシュタグに『障害者アート』と積極的に使っていましたし、言葉の意味も深く考えることはありませんでした。しかし、ある時人に『アートに障害の有無って関係ないですよね』と言われて、『障害者アート』という言葉について考えるようになりました。さらに、『HERALBONY Art Prize 2026』の授賞式パーティーで、審査員・黒澤浩美さんの『一人一人のクリエイターに、それぞれ固有の名前が先にある』という言葉を聞いて、クリエイターの名前に先行してしまう『障害者アート』という言葉の違和感をより感じるようになりました。“障害者が描いた絵”ではなく、『takuyaが描いた絵。この人はこんな病気があるみたい』が理想です。ただ伝わる順番だけの話かもしれませんが、大切なことだと思います」
―― 最後に、これから先の目標を教えてください。
「作品が売れることも大切かもしれませんが、僕はそれよりも“応援される作家”になりたいと思っています。作品だけでなく、制作の背景や想いも発信して、そこに共感してくれる人が増えていけばいいなと考えています。その積み重ねが、メディアでの発信や講演、企業とのコラボレーションなど、さまざまな新しい挑戦にもつながると思うからです。表現の場を広げながら、『生きづらさを抱えていても自分らしく挑戦できる』ことを伝えていきたいです」
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