
高齢化が急速に進む大阪市西成区。中国出身の人々による開発で、街の姿が大きく変化しています。多様な人々を受け入れてきた人情の街で、今何が起きているのでしょうか。
【写真で見る】「(カラオケ居酒屋は)僕が初めてやった」西成区の開発を主導する林伝竜さん
変貌する西成 中国系「特区民泊」が急増
大阪市の中でも少子高齢化が急速に進んでいる西成区。高齢化率は約40%で4軒に1軒が空き家という深刻な課題を抱えている。
街づくりに取り組むNPO法人の理事長、山田有生さん。古い街並みが残る西成の山王地区で、街の状況を知ろうと現地調査を行っている。
住民
「私らが若いときは子どももいっぱいいたし、隣近所みんなで夕方に椅子を出しておもてに座ってしゃべっていた」
1997年の山王地区には、下町の日常が流れていた。
約30年が経ち、路地裏で子どもの声を聞くことはない。
NPO法人 理事長 山田有生さん
「新しい世代の方が、ここに住みたいという方が少なくて、どんどん出ていくことが多くて、その中で家が放置される。今、急速に外国の方が購入して、民泊がかなり増えていくという状態に変化しつつある」
西成で急増している「特区民泊」。
▼一般の民泊:営業日数が年間180日以内
▼特区民泊:営業日数の制限なし 収益性が高い
増加するインバウンドの受け皿として、大阪市は2016年から申請の受付を開始。当時の吉村市長のもと「特区民泊」を積極的に推進してきた。
今や全国の「特区民泊」の9割が大阪市に集中している。
中でも西成区には市内で最も多い2435の施設があり、そのうち67%を中国出身の人、または中国系法人が運営している。
(※2026年5月末時点 阪南大学 松村嘉久教授の調査より)
“陣地取り”のような恐怖「日本人がいなくなる…」地元住民の危機感
山田さんの調査では、日本の業者が購入した物件を中国系の会社に転売するケースが多く確認されている。
NPO法人 理事長 山田有生さん(2025年9月)
「(地図上の)赤い土地の上にある民泊は、中国の方の土地の上にある民泊。この山王の民泊はほとんど中華系」
この日、山田さんは住民に調査結果を伝え、街の今後を共に考える場を設けた。
銭湯 経営者
「中国に攻められているような『陣地取り』で。だんだん色が変わってきて、民泊の恐怖よりそっちの恐怖があって」
薬局 経営者
「このままでいくとほとんどいなくなる。日本人がいなくなるのが目に見えてわかる」
古い住宅やシャッターを下ろした店が次々と解体され、街の姿は様変わりした。
そんな西成で街の変貌をけん引し、「西成のドン」と呼ばれる中国出身の実業家がいる。
「きれいな街にしたい」開発を主導する“西成のドン”
大阪市西成区の開発を主導する林伝竜さん(62)。この街を拠点に不動産会社を経営している。
不動産会社 社長 林伝竜さん
「西成区を嫌う人が多い。日本人にとってこの近くは昔は住みたくない感じだった。でも今は、そんなんじゃないと思う」
中国・福建省出身の林さん。1997年に西成へやってきて最初は日雇い労働者だった。その後、飲食店を開業し、2005年に居酒屋にカラオケを導入すると人気を集めた。
不動産業に転身した林さんは、商店街の空き店舗を次々と購入。「カラオケ居酒屋」へと改装し中国出身の人たちに貸し出していった。
不動産会社 社長 林伝竜さん
「(カラオケ居酒屋は)僕が初めてやった。結構お客さんが入ってきて、友達の友達とかが(開業して)1軒また1軒と増えて、最初はこんな居酒屋は少なかった」
林さんは中国出身の店主らに日本の文化やマナーを教えていった。この店は客のほとんどが日本人だ。
中国出身の店主
「(Q.林さんはたまに店には来る?)あまり来ていない」
不動産会社 社長 林伝竜さん
「僕は外で飲まない」
中国出身の店主
「でも(林さんには)めっちゃお世話になっている」
林さんが関わる店以外にも「カラオケ居酒屋」は増え続け、今では西成に250以上の店舗がひしめき合っている。
西成区商店会連盟 村井康夫会長
「林君らが(空き店舗を)買い取っていくことで、今もある種のにぎわいが出ている。もしそれがなかったらシャッター街になったと思う。昔の『暗い、汚い、怖い』というイメージがどんどん払拭されていっていることは事実」
3年前、周辺で暮らす中国出身の人々が集う場所もできた。商売の神様・関羽をまつる「関帝廟」。これも林さんらが手掛けた。
不動産会社 社長 林伝竜さん
「建設が始まる。ここは最初の計画は民泊。交通が一番便利なところ。ここは地下鉄の動物園前駅まで歩いて3分くらい」
林さんは山王地区で10階建てのマンションを建設。1棟すべてを民泊として活用している。全部で84部屋あり、稼働率は9割を超えている。
廊下から見渡せる景色の中に、ひときわ目を引く場所がある。
不動産会社 社長 林伝竜さん
「向こうの新築が見える?20戸くらいの一戸建てがある。昔はボロボロな家があった。一部住んでいて、一部は住んでいなかった。知人が開発した。昔はボロボロの家があった。きれいにつくりたい。きれいな街にしたい」
「みんなばらばら」民泊開発で失われた地域の絆
林さんの知人が開発した黒壁の真新しい家が並ぶ場所。ひとりの男性が立ち尽くしていた。岡本昇さん(85)。
岡本昇さん
「せっかく家を持てたのになと思って。(借りていた)土地が売れたんだったら、しかたない」
この一帯にはかつて古い長屋が立ち並んでいた。
6年前、地主が土地を売却したことで事態は一変する。所有者が中国出身の男性が経営する不動産会社に変わり、一気に開発が進んだ。
住民は全員立ち退きとなり長屋は取り壊され、現在は黒壁の一戸建てが19軒建ち「特区民泊」に姿を変えた。
岡本昇さん
「(Q.ここに住んでいたときは近所付き合いはあった?)みんなで一緒に旅行に行っていた」
「(Q.皆さんばらばらになった?)ばらばら、みんなばらばら」
約50年前、土地を借りて念願の自宅を購入した岡本さん。
近所の映画館で映写技師として働きながら、妻や3人の娘と暮らしてきた。
しかし、土地の持ち主が変わり、地代は4倍以上に。3年前、立ち退き料などに納得し賃貸アパートへ引っ越した。
岡本昇さん
「今、借りているアパート」
家賃は月4万5000円。妻と2人、身を寄せ合って暮らしている。
岡本昇さん
「隣近所の付き合いがなかったら寂しい。話し相手もいないし、子どもの声も聞こえないし、さびれていった街やなと思ってね」
岡本昇さんの妻
「前の家の時はよかった。わりと広くて、お花もいっぱい置いて。ここはもう、お花も置けないし、楽しみがなくなって、本当に寂しい」
なぜ多くの中国人は西成の不動産を購入するのか
岡本さんたちが住んでいた長屋が取り壊されて、新たに建てられた民泊19軒。
所有者を調べると、その大半が中国に住んでいることがわかった。なぜ、西成の不動産を購入するのか。
日本での民泊開業を支援する中国出身の経営者が取材に応じた。
大阪市内で不動産会社を営み、SNSを使って西成の物件を紹介している。
中国のSNS「WeChat」より
「収益率が高い民泊物件を撮影しに来ました。この物件はとてもお得です。洗濯機と乾燥機も付いています」
民泊開業を支援 中国出身の経営者
「西成は大阪のなかではホームレスとかイメージ的にはよくない。でも観光客は、全然気にしないから。やっぱりアクセス、空港からのアクセスが良い。ですから中国の開発者たちは5、6年前から狙っていた」
この日、西成の物件を内覧するため海を越えてやって来たのは、中国・江蘇省に住み中小企業を経営する親子。
すでに西成で民泊用の物件を1軒所有している親子。築40年の木造住宅を改装した約4200万円のこの物件についても購入を検討している。
駅からは近いものの、住宅が密集して立ち並ぶ一角にあった。
中国在住の男性
「収益率を教えてください」
民泊開業を支援 中国出身の経営者
「計算しましょう」
中国在住の男性
「できるだけ早く純利益を教えてほしい。前回の見積もりから必要経費を引いた純利益を教えてほしい。それを見れば一目瞭然です」
在留資格「経営・管理ビザ」を得るために、民泊経営を始める中国の人たちも増えている。それが特区民泊が急増する背景のひとつとなっている。
もう“中国の人たちの街”に…失われた50年の日常
約50年暮らした自宅を立ち退いた岡本さん。このアパートからも去ることを決めた。
岡本昇さん
「(80代になって2回引っ越すことになる?)確かにね。まあ、今回が最後でしょう。人の家ってこれだけ物が詰まっているんだなと思ってね」
名古屋に住む娘のところへ引っ越すことになった。近所付き合いが途絶え、孤立していく高齢の両親を娘は心配していた。
岡本昇さん
「いまはずっと民泊になったでしょ。この近所はほとんど民泊になった。だからもう“中国の人たちの街”になったなと」
民泊となったかつての自宅。最後にもう一度、その姿を確かめに行く。
岡本昇さんの妻
「こんなになっているんだ。電気がついている」
岡本昇さん
「営業しているんちゃうか。これで見納めやで。しかたない」
岡本昇さんの妻
「もう終わりや」
岡本昇さん
「もう見ることもないわ。行こか。しかたないわね。これで見納めや。まあ、きれいになったわ」
子どもを育て、夫婦の時間を重ねたこの街にもう戻ることはない。
緊張が高まる日中関係 西成への影響は?
横山英幸大阪市長(2025年9月)
「地域経済や観光行政に大きく寄与した一方で課題がある」
「特区民泊」を推進してきた大阪市。ごみや騒音などの苦情が相次ぎ、新規受け付けを終了した。
政府は2025年10月、「経営・管理ビザ」の取得要件を厳格化。
(資本金 500万円以上→3000万円以上 など)
さらに11月、高市総理の台湾有事発言で日中間の緊張が高まり、西成の街にも波紋を広げた。
不動産会社 社長 林伝竜さん(2025年12月)
「民泊をやっている僕の友達や、旅行会社もいっぱいキャンセルになっています。中国と日本が貿易ができなくなれば、何でも難しくなる。中国と日本は仲良くしないと、一般の市民は困る人が多いかもしれない」
林さんが運営する民泊でも利用者の半数を占めていた中国からの観光客のキャンセルが相次いだ。今も客足は戻らず、稼働率は最盛期より2割も落ち込んでいる。
民泊ビジネスは、大きな転換期を迎えた。
「誰のための街なのか」“継承と共存”に揺れる西成
西成の山王地区で街づくりに取り組むNPO法人の理事長・山田有生さんは、空き家が投資の対象となる前に自ら引き取り、大学生らに貸し出すなど、再利用する活動を始めている。
NPO法人 理事長 山田有生さん(2026年2月)
「この長屋を活用して、初の展示という挑戦をしてもらっている。若い方が工夫して頑張っている姿が見ることができて、地域の方も立ち寄ってくれる」
簡単に取り壊すのではなく、歴史を継承しながら地域住民と若い世代をつなぐ場所づくりを進めている。
日本の縮図とも言える、人口減少と資本の波。
この街は一体、誰のためにあるのか。山田さんは問い続けている。
NPO法人 理事長 山田有生さん
「この街にしっかりと根差したり、地域に愛着を持ってくれたりする方とは、より関係性を構築して、一緒に共存できるような関係性をつくっていきたい」
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