
発生から1か月となった熊本地震。
今回、ガソリン切れが原因とみられる車中泊中の死亡ケースも出てしまいましたが、災害のたびに起こるガソリンの問題を取材しました。
そして、被災者の行動のビッグデータからは支援が届きづらい「隠れ避難所」の存在が見えてきました。
大きな被害も…“国の文化財”ゆえに作業進まず
震度7を観測した熊本県宇城市。8月27日に山本キャスターが取材に入った。
若城信一郎さん(82)は、祖父以来3代にわたって住んできた場所が被害を受けた。
Q.元々はお店だったのですか?
若城信一郎さん
「私の祖父が行商で金物をやっていたが、昭和11年にここを買い取ってお店にした」
「若城金物店」の店舗兼主屋は江戸時代末期に建てられ、4年前に国の登録有形文化財となった。
ドローンで撮影すると、大きな被害状況が見えてきた。
広い敷地の中で、瓦のほとんどが崩れ落ちていた建物もあった。さらに大きな蔵の土壁がはがれ落ち、柱があらわになっていた。
いま若城さんには大きな悩みがある。
国の登録有形文化財であるため、宇城市からは、なるべく現状を維持するよう言われているという。文化庁も視察する予定だ。
若城さん
「『まだ片付けるには早いですから』と(言われ)片付けにも入れない。保存、保管しないといけない。廃材を捨てることができない」
Q.なかなか作業が進まないですよね?
若城さん
「進まないですね」
「申し訳ない」鶏4000羽を処分 鶏舎には大きな歪みも
1か月経っても、なかなか前に進めない人はほかにも。
卵の生産者・庄村琢摩さん(32)は、1万羽飼育していた養鶏場が大きな被害を受けた。
庄村養鶏場 庄村琢摩さん
「真ん中が垂れ下がっていて…」
水を供給するパイプも壊れたため、水を飲ませられなかった約4000羽の鶏を処分せざるを得なかったという。
庄村養鶏場 庄村さん
「助けられない鶏には申し訳ない。(鶏舎を)建て直して、新しいのが出来るまで1年とか1年半。まだ見通しが立てられてない状況」
1時間以上並ぶも入手できず 車中泊死の遺族 ガソリンで苦悩
多くの被災者が余儀なくされた車中泊。
地震の2日後、氷川町では自宅の敷地で車中泊をしていた76歳の女性が、熱中症の疑いで亡くなっているのが見つかった。
突然の別れから1か月、女性の長男が当時の詳細な経緯を明かしてくれた。
亡くなった女性の長男
「最後に話をしたのは多分これ。7月29日の10時36分」
Q.電話はかかってきた?
亡くなった女性の長男
「母のほうからかかってきました。『お前は大丈夫だったか』ということと、お皿とか割れたり、電子レンジが倒れていたりという話で、『後で手伝いに来てくれ』というのが最後の話だった」
ただ、男性は地震で鼻を骨折し、この日は治療のため実家に行くのを断念。
翌30日の夜に、連絡を取ろうとしたが…
亡くなった女性の長男
「(電話が)つながらなかったので、これはちょっと様子がおかしいなと」
親戚に様子を見に行ってもらったところ、母親は車の中で心肺停止の状態で見つかった。車内はクーラーがきいておらず、ガソリンが切れた状態だったという。
29日の最後の電話では、母親からは車中泊の話も、ガソリンが足りないという話もなかった。
このガソリンについて、男性には悔やまれることがあるという。
29日の夕方、男性が向かったのはガソリンスタンド。1時間以上並んだ1軒目では…
亡くなった女性の長男
「いざ携行缶を取り出そうとしたら『きょうは携行缶の購入はご遠慮ください』と」
午後10時前にたどり着いた2軒目では、「携行缶には午後9時半までしか入れられない」と断られたという。
Q.もしガソリンを入手できていたら?
亡くなった女性の長男
「『もし予備で必要だったら持って行くよ』みたいな話もできていたかも」
携行缶への給油にも壁 被災地ガソリンスタンドなぜ困難に
過去の災害でも、被災地のガソリン供給は繰り返し問題となってきた。国は非常用発電機を備えた災害に強いガソリンスタンドの整備を推進している。
八代市にある店もその一つだ。
ENEOSシーライン八代SS 山下秀俊さん
「自家発電機があるので、これ一台で店の電気は賄えるようにはなっている」
それでも設備の点検を終え、営業を再開できたのは地震から2日後のこと。店には長蛇の列ができた。中には3時間以上並んだ客もいたというが…
ENEOSシーライン八代SS 山下さん
「(再開当初は)2000円を上限にさせてもらって、だいたい11リットルちょっと。(在庫は)多分半日もたない、普通に営業していたら」
猛暑の被災地での給油作業は過酷を極めた。
ENEOSシーライン八代SS 山下さん
「熱中症になりながら店を回してた」
Q.ご自宅は大丈夫だった?
「水がずっと出なかったので、子どもは電気・水がある親戚の家に預けていた」
Q.生活の確保よりもガソリンスタンド優先?
「仕事を優先させてもらって」
地域のためにと、こちらの店では携行缶への給油も行っていた。
Q.結構その需要は多かった?
ENEOSシーライン八代SS 山下さん
「多かったです。発電機用だったりとか、車で来られないガス欠されてる方もいた」
ただ、これには手間もかかる。
携行缶への給油の際には、運転免許証などによる本人確認を行い、販売記録を作成することが法令で義務付けられている。
国は、災害時には本人確認などを省略できると定めているが、実際には続けざるを得なかったという。
ENEOSシーライン八代SS 山下さん
「災害時というだけだと(期間が)はっきりしていない」
Q.スタンド側に判断を任されているというのも、難しいところがある?
「連絡があれば一番分かりやすい」
見えた課題 専門家「スタンドの先にどう届けるか」
資源エネルギー庁の委員会で、燃料対策の議論に携わる成城大学の平野創教授。
国が公開しているガソリンスタンドの営業情報のマップに、携行缶に給油できるかどうかの情報も記載することを提案する。
成城大学(エネルギー産業論)平野創 教授
「災害時にはここが対応していると、平時から知ってることが対応力を高めると思う。携行缶に対応すると非常にマンパワーがかかるので、緊急時にそこに人を貼り付けるようなオペレーションとセットで導入していかなければいけないと思います」
一方で、携行缶でのガソリンの保管は、高温の場所に置くと噴出するおそれがあるなど、安全性の観点から推奨されていない。
成城大学(エネルギー産業論)平野教授
「ガソリンスタンドまできちんと届けば大丈夫だろうと考えていた。その先の車中泊をしている人で、ガソリンスタンドに来るのが困難な人々に、どうやって燃料を届けるのか、まだ議論が不十分」
燃料の“空白”埋める移動スタンド 災害時の供給に期待
こうした中、被災地に臨時のガソリンスタンドを設置する会社がある。兵庫県の燃料供給会社「横田瀝青興業」だ。
この会社が開発した移動式給油機「どこでもスタンド」は、特別な設備がない空き地でも、タンクローリーに直接つなぐだけで給油が可能になる。
今回の熊本地震では、八代市とガス会社の要請を受けて出動し、公用車や作業車への燃料供給を担った。
横田勝好 社長
「(依頼会社は)地元のスタンドを使うと、地元の人たちに負担をかけるということで、地元を使わないという方針だった」
発災直後、ガソリンスタンドは設備の復旧や安全確認に追われ、営業再開までに時間を要する。
横田社長
「発災後3~4日間はどうしても空白の時間ができる。その空白を埋めることができれば、本当にお役に立てるのだろうとは思います」
ガソリンを入れたドラム缶につないで供給することも可能だ。
能登半島では、被災したガソリンスタンドがこの方法で仮営業を続け、一般車両にも給油した。
しかし、数多くの被災者を対象にする場合には、拠点の数や人員確保がハードルになるという。
横田社長
「市民の方を相手にする場合、その量が読めない。ある程度捌ける仕組みがないと難しい」
熊本地震で課題“見えづらい避難者”の把握 人流で分析すると…
今回の地震では、軒先避難や車中泊による“見えづらい避難者”の把握が課題となった。
東京大学の関本義秀教授は、避難の実態を把握するため、ドコモの基地局のデータを基に災害時の人の動きを分析している。
地震直後、赤は人が増加したエリア、青は減少したエリア、数字はその人数を表す。さらに、赤や青の点は指定避難所や指定緊急避難場所だ。
地震後、爆発のあったイオンモール周辺は合わせて2600人以上が減少。避難所などがあるエリアは222人増加したことを示している。
震度7を観測した氷川町では…
Q.避難所があるのに青くなっている。避難所に避難しなかったことを表す?
東京大学 空間情報科学研究センター 関本義秀 教授
「(データの)誤差要因はあり得るので何とも言えないが、避難していなかった可能性はあるかもしれない」
当時、氷川町では停電などを理由に、地震発生から丸1日以上、避難所を一つも開設できないでいた。
一方で、避難所がないはずなのに人の増加が見られたエリアもある。
東京大学 空間情報科学研究センター 関本教授
「もしかすると『隠れ避難所』のような形で、皆さんが自然的に避難して集まってきていた可能性はあります」
私たちはその場所に向かった。
自然発生する「隠れ避難所」 把握難で物資の供給などに課題
場所は宇城市松橋町。そのエリアに向かうと、あったのは「道の駅」だった。
当時は地震による停電で、店を閉めたというが…
道の駅うき 宇城彩館の副店長
「そのとき、この駐車場に結構車中泊している人がいた」
Q.駐車場がほぼいっぱいの今のような状態?
「このぐらい(車が)ありました」
道の駅が地震直後「隠れ避難所」になっていたのだ。
物資などの支援については…
道の駅うき 宇城彩館の副店長
「避難所を優先して物資がいったと思う。こちらにはなかったから。昼間から避難されている人で熱中症になった人がいて。どうしても水がなかったから」
人が自然に集まる「隠れ避難所」は、把握が難しく支援が届きづらいという課題がある。
関本教授は「隠れ避難所」をいち早く見つけることが重要だと話す。
東京大学 空間情報科学研究センター 関本教授
「避難することは大事なので、そういう安全な場所に行くというのはとても重要だと思うが、一方で公式に指定された避難所でないと、物資が優先的に配布されないとかそういうデメリットもある。
こういうデータを(自治体に)提供することで、救援物資の迅速な配送とか、そういうのに役に立ててほしいと思っています」
本来の役割果たせず… 10年前にも「隠れ避難所」問題
「隠れ避難所」の問題は10年前にも。
震度7に2度も襲われた益城町にある産業展示場「グランメッセ熊本」。
指定避難所ではないが、2000台収容の駐車場は車中泊などの車で埋まり「隠れ避難所」になっていた。
当初は場所の開放だけだったが、徐々に支援物資が集まるように。だが本来、避難所ではないこの場所は災害時、別の役割がある。
グランメッセ熊本 担当者
「ここは災害復旧の拠点ということで物資の集積所であったり、ヘリポート、あとは緊急車両等の集合場所として使われるということが元々県との間で協定を結んでいました。
前回の地震の時に多くの方が来て、我々も含めてその対応、あるいは行政も本来避難所ではないところ向けの対応にだいぶ追われたものですから、物資拠点としての活用がなかなか上手くいかなかった」
10年前の教訓を生かし、今回グランメッセ熊本は「隠れ避難所」ではなく、物資の集積拠点として機能している。
消防本部も被害 「つながらなくて…」119通報が殺到
命を守る現場も被害を受けた。
山本恵里伽キャスター
「八代市などを管轄する消防本部ですが、地震の影響で建物自体が被害を受け、『崩落危険』『立入禁止』の貼り紙がされています」
これは八代広域消防本部の被災後の写真だ。地震によって119番通報を受信するシステムが壊れてしまった。
実際、八代市にある工場で9人が亡くなった「日本製紙」は、会見でこう明かしていた。
日本製紙八代工場 山邉義貞 工場長(8月5日)
「発災直後、119番、110番通報が繋がらなくて、たまたま従業員の親族が八代広域消防にいたので、救助要請になんとか繋がって」
地震発生直後の3時間で、各地の消防には数百件の通報が殺到した。
一部の地域で震度6強を観測した熊本市などを管轄する熊本市消防局でも…
熊本市消防局情報指令課 吉村崇 副課長
「発災から3時間で288本の通報があった。平常時と比べたら13倍ぐらい」
10年前の教訓活かし導入 通報に対する「トリアージモード」初めて発動
熊本市消防局には、10年前の苦い経験がある。
2016年の熊本地震では司令管制室が被災。天井の一部が落ち、大画面モニターが表示されない中、119番対応を続けた。
【通報音声記録(2016年)】
消防「火事ですか、救急ですか」
通報者「建物が火事です」
消防「火事ですか?」
熊本市消防局情報指令課 吉村崇 副課長
「あまりにも騒然となって指示が通らないという課題があった。あと一つ、『コールトリアージ』のシステムがちゃんとできていなかった」
「コールトリアージ」とは、殺到する通報に対し「緊急」「準緊急」「低緊急」と優先順位を決めて対応することだ。「低緊急」と判断すれば救急車は出動しないと通報者に伝える。
しかし、当時その基準が明確でなく、司令員の判断に委ねられていた。
熊本市消防局情報指令課 吉村副課長
「何の基準もなくて自分のものさしだけで(救急車を)出したり出さなかったり、出さなかった通報者に対してものすごく葛藤が残った」
この教訓を受けて2020年、全国に先駆けて導入したのが「トリアージモード」だ。
熊本市消防局情報指令課 吉村副課長
「緊急と準緊急と低緊急で、赤と黄色と緑の表示があります。これは通常だったら出てこないが、トリアージモードになると出てきます」
Q.「低緊急」を押すと?
「すると『不応需』がある。一旦お断りをした方にも必ず後追いで、落ち着いた時点で折り返しの電話をして、救急車が必要と言われた方には救急車を出動させるという対応」
この「トリアージモード」が今回の地震で初めて発動された。
約400件の通報のうち92件を「低緊急」と判断。その後、改めて通報者に連絡したところ、救急車を出動させたのは13件、救急車が不要だったのは49件だった。
10年前の教訓はほかにも。司令管制室では、地震の揺れからシステムを守るため、免震床を設置。
それでも被害が出た場合、別の場所で119番対応を継続できる「可搬型指令システム」を全国で初めて導入した。
熊本市消防局情報指令課 吉村副課長
「(119番は)市民のSOSの第一歩の入り口。そこが途絶えてしまうと全く対応ができなくなるので、そこだけは守らなければいけない」
「お客様に笑顔になってもらうだけ」被災後、歩み出す老舗お菓子店
被災しながらも前向きに歩み出した人がいる。
1か月前に取材した創業100年を超えるお菓子の「田代福進堂」。
倒壊した建物は以前の店舗だが、店主らは地震発生時、引っ越したばかりの新しい店舗で作業していたため難を逃れた。
当時(7月31日)、店舗の床には名物のお菓子「福ぼうろ」が散らばっていた。
8月27日に再び訪ねると、店内にはお菓子がきれいに並べられていた。
「福ぼうろ」を作っていく。約10分で焼き上がった。
田代福進堂 田代栄司さん
「震災後うちのお菓子ばかりではなくて、他のお菓子も少なくなり作るところとかがストップして。お客様から甘かつ(甘い物)食べたいと言われたので、できるものから始めた感じ」
この日、常連客が震災以降、初めて来店した。
常連客
「よかったですね」
田代福進堂 田代里香さん
「おかげさまで、いつもありがとうございます」
Q. こういう地域の方々との交流は大事ですね?
「どうしても地震の話にはなりますが、お話しすることもやっぱり大事」
一方で、向かいにあった他の店は倒壊し、いまもシートで覆われている。
田代福進堂三代目 栄司さん
「周りの方を見ていたら(自分たちだけ営業して)いいのかな。辛い気持ちがあると思う。シビアな話(建て直しには)お金もかかるし、何年かかるかわかんないし。一概に頑張ってくださいねと、もう声もちょっとかけにくい」
Q.自分たちはいいのかなとおっしゃっていましたね?
「たまに会えば『頑張れよ頑張れよ』と言っていただいて。もう下ばかり向いていてもなと。お客様に笑顔になってもらう、それだけです」
※車中泊生活を余儀なくされている方には、熊本県が下記の健康相談窓口を設けています。
【車中泊健康相談ダイヤル】
050-3499-7402
(受付時間 8:30~23:00)
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