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農業高校の生徒が「湯の花」から農薬や土壌改良剤の代替品を開発 <シリーズSDGsの実践者たち>【調査情報デジタル】

国内
2026-09-05 08:30

鳥獣被害から果樹を守り、稲やブルーベリーの生育を促す。秋田県立大曲農業高校の生徒たちが玉川温泉の「湯の花」から生み出したアイデアとは。「シリーズ SDGsの実践者たち」の第57回。


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強酸性の玉川温泉をめぐる課題

秋田県仙北市の玉川温泉は、強酸性の泉質で知られている。1か所からの湧出量日本一を誇る源泉からは、熱湯が勢いよく吹き上がっている。 


周辺には強い硫黄の匂いが立ち込め、あちこちから噴煙も上がっている。雪が積もる冬季は休業する玉川温泉は、毎年4月下旬から11月下旬までの間に多くの湯治客らが訪れる秘湯だ。


一方で、自然の恵みであるはずの温泉が、地元にとっては「嫌われ者」とされてきた面もある。その理由はこうだ。まず、泉質が強酸性である玉川温泉を水源とする渋黒川が、玉川ダムの上流で玉川と合流する。


さらにその玉川の水は、1940年から水力発電と農業への活用を目的に、下流の田沢湖に引き込まれるようになった。 


その結果、水源の一部が玉川温泉である玉川の水の引き込みにより田沢湖は酸性化が進み、多くの生物が死滅、固有種のクニマスも田沢湖では絶滅した。


さらに、酸性が強い川の水は、農業にも適していなかった。国は37億円をかけて、渋黒川に中和処理施設を建設し、1991年から運転を開始。大量の石灰石を使って中和することで、主に稲作のための農業用水として使えるようにした。ただし、中和処理施設には、年間約2億円の維持費がかかっている。


強酸性と硫黄の成分が農業に役立つことを発見

玉川温泉は、硫黄や硫酸塩などが含まれる温泉でよく見られる「湯の花」が大量に現れることで知られる。湯の花は温泉の成分が結晶化したもので、温泉施設によっては湯の注ぎ口や浴槽の縁などに付着している。また、大分県別府市の明礬温泉のように、採取した湯の花を乾燥させて土産物の入浴剤として販売している温泉地もある。


玉川温泉でも湯の花が採取されているものの、世界的にも珍しい塩酸を主成分とした強酸性のためそのまま使うのが難しく、家庭で入浴剤として使うと湯船が黒ずんだり、傷ついたりする。そのため活用するには加工する必要があり、使われないままの湯の花も大量にあるのが現状だ。


この玉川温泉の湯の花が、農業に役立つことに気づいたのは、秋田県立大曲農業高校の生徒たちだった。 


大曲農業高校の果樹部では、湯の花を使った研究を2021年から続けている。今年4月、顧問の佐々木雄生教諭と、前月に卒業した元部員の佐藤美音さんが果樹部の活動を説明してくれた。 


最初に研究したのは、田沢湖周辺で盛んなブルーベリー栽培での活用だった。酸性の土を好むブルーベリーの栽培には、ミズゴケなどが堆積し泥炭化したものを乾燥させた、強酸性のピートモス(土壌改良剤)が使われる。しかし、ピートモスが高価であることが農家にとっての課題だったと佐々木教諭が説明する。


「多くの作物はアルカリ性を好むのですが、ブルーベリーは酸性を好みます。ピートモスは99%がカナダ産で高価なので、強酸性の湯の花で代替できないかと考えたのです。県立農業科学館の畑で、湯の花を溶かした水を土にかけてみたところ、ブルーベリーは通常より果実が大きくなるなどよく育ちました。湯の花は無料でコストがかからないので、農家の皆さんに喜んでもらっています」 


さらに、湯の花の意外な効果もわかってきた。湯の花の硫黄の匂いを、イタチなどの小動物やカラス、虫などが嫌うことを農家から聞き、湯の花や温泉水を入れたペットボトルなどをリンゴの実のそばに吊るしたのだ。佐藤さんはその効果を見た時に、手応えを感じたと話す。


「果樹にとっての敵にカメムシがいます。カメムシは果汁を吸うので、リンゴは傷だらけでボコボコした形になってしまいます。それが湯の花を吊るすと、カメムシが周辺で死んでいるのが確認できて、本当に効くことがわかりました」


カメムシ以外に小動物やカラスによる食害にも対応できるようにと、果樹部では「湯の花キット」を開発した。湯の花を希釈した温泉水を、葉の形に切り抜いた牛乳パックに染み込ませてシートに包んだものだ。このキットは2022年の「イオン エコワングランプリ」で内閣総理大臣賞を受賞した。


強酸性の温泉水が稲の消毒剤の代替に

さらに翌年からは、稲作にも活用できないかと研究を始めた。地元で課題になっていたのは殺菌剤の使用だった。


稲作は種籾を消毒するところから始まる。しかし、消毒に使われる次亜塩素酸水などの消毒剤は猛毒を含むため、廃液が河川に流入することで、オオサンショウウオや小魚などが生息できなくなっていた。佐々木教諭は、湯の花が消毒剤の代替になることを偶然知ったと明かす。


「秋田県立大学に農学系の生物資源科学部があり、本校と連携していることもあって、農薬を専門に研究している教授とお会いする機会がありました。その際に教授が『君たちは玉川温泉の湯の花を使っているよね。強酸性は殺菌効果があるんだよ』と教えてくれたんです。そこで、湯の花を希釈した水に種籾を漬けたところ、苗が消毒剤を使用した場合よりも早く生育しました」 


さらに消毒後の廃液を、酸性を好むブルーベリー栽培に活用することも考案。それまで湯の花が農業資材に利用された実績はなく、果樹部が初めて実用化した。


この湯の花の希釈水を稲作とブルーベリー栽培に活用する取り組みは、2024年10月の日本学校農業クラブ連盟全国大会で、2番目の賞となる優秀賞を獲得した。


また、同年度の「SDGs Quest みらい甲子園」秋田県大会で最優秀賞を獲得したほか、翌年2025年の全国大会「SDGs Quest みらい甲子園Future Session 2025」でも協賛企業賞を受賞している。


地域の未利用資源を活用して課題を解決

その後、湯の花の活用は、ブルーベリーだけでなく、ラズベリーの栽培にも広がっている。秋田県はラズベリーの生産量日本一を誇る。しかし、そもそも生産している地域が秋田県、山形県、北海道くらいなので、ラズベリー用の農薬は作られていないのが現状で、害虫による被害も多い。


そこで、佐藤さんは卒業の前年に、ラズベリーとよく似た日本固有種のクサイチゴを使って、湯の花の効果を研究した。小さいビニールハウスで栽培しているラズベリーの苗に、湯の花の温泉水をアロマポットによって霧状に噴射したところ、病気も害虫被害もなくなり、生育も早かった。 


このように、湯の花を活用した様々な取り組みは実用化まで進み、今年の春までに一定の成果を上げることができた。佐藤さんは研究で感じた魅力を振り返った。


「一番の魅力は地域の未利用資源を活用することですね。湯の花はこれまで捨てられているだけでした。私たちは中学校の頃からSDGsの勉強もしているので、研究がSDGsに関連づいていくことに面白さを感じました」


研究は先輩から後輩へと受け継がれている。今年度は部員も増えて、現在は新たなテーマとして柿の葉などの活用を研究していると佐々木教諭が明かす。


「柿を目当てにクマが出てくるので、実がつかないように葉を摘んでいます。この柿の葉をお茶にすると、レモンの約40倍のビタミンCがあると知り、学校で飼育している鶏に与えました。すると、産卵率は4倍になり、鳥インフルエンザ対策になることもわかってきました。この柿の葉茶を稲に撒いているほか、黒毛和牛に飲ませてメタンガスを含んだげっぷを減らす研究なども進めています」


嫌われ者だった強酸性の湯の花が、様々な農作物の栽培に役立つことを発見し、現在は耕作放棄地の柿の葉を畜産に使えないかと研究を重ねる。大曲農業高校果樹部は、未利用の資源を有効活用することによって、今後も地域の課題の解決を目指していく。


「調査情報デジタル」編集部


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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