
今年(2026年)の夏は、7月に熊本で最大震度7の大地震があり、8月に千葉と北陸で最大警戒レベル5の特別警報が発表される大雨があり、大規模な天災が相次いで発生しました。
【写真を見る】「国内ならあそこに行きたい」で思いつく旅行先は日本中でほぼ同一説~TBSの専門家が分析「データからみえる今日の世相」~【調査情報デジタル】
夏休みシーズンの8月、海外旅行に行く人も多かろうと思われながら、成田空港の「お盆期間」(7~16日の10日間)の出入国者数は94万9100人で、昨年(8~17日の10日間)より4.3%減少。「円安に加え、千葉豪雨も影響したとみられる」とのこと(2026年8月25日朝日新聞)。
8月のお盆ともなれば、先祖供養のお墓参りで帰省など、国内旅行も増えるわけですが、こちらも天災の影響を受けた人も多かろうと、気になることしきり。
本コラムでご紹介しているTBS生活DATAライブラリ定例全国調査(注1)は、毎年11月に実施しているため、今年の夏がどうだったかが今すぐわかるというようなデータではありません。
しかし、長い目で見たときに世の中の動きがどうなっているかを確かめるのにはうってつけ。特に、人々の意識や好みといった「心の動き」を捉えるには唯一無二と言っていいデータと自負しています。
そこで今回は、旅行についての意識の動きをTBS生活DATAライブラリ定例全国調査で追いかけてみます。
してみたいのはやはり「海外旅行」
TBS生活DATAライブラリ定例全国調査には、余暇やレジャーなどで「してみたいと思うこと」について、多くの選択肢からあてはまるものをいくつでも選んでもらう質問があります。
その中の選択肢の「海外旅行」「1泊以上の旅行」「日帰り旅行(夜行日帰りを含む)」は、半世紀前の1975年からデータが存在。実に貴重なそのデータを使って、人々の「どのような旅行がしたいか」という意識の推移を確かめようと、次の折れ線グラフを作ってみました。
これをみると、安定したニーズがあるのが「1泊以上の旅行」。この半世紀、5割から6割の間を安定してキープしています。
せっかく行くなら、やっぱり泊りがけでしっかり楽しみたい、という人が半数といった感じ。それぐらいしないと旅行した感じがしない、と言うと言い過ぎでしょうか。
一方、2割前後で低位安定なのが「日帰り旅行」。手近なところにパッと行って、その日のうちに帰ってくるのも、もちろん立派なレジャー。
しかし、思い立ったら即実行可能なくらい手軽というイメージは、「かねてからしてみたかった」という憧れ感につながりにくいのかも。
泊まりがけや日帰りなどに比べて、歴史的にダイナミックな動きが見られるのが「海外旅行」で、70年代は2割強程度だったものが、80年代に一気に6割弱まで急上昇。
80年代に海外旅行意欲が急上昇した背景を探ると、例えば、80年の外為法改正があります(注2)。これにより、それまで原則禁止だった日本円の海外持ち出しや外貨両替が原則自由となって、海外旅行の準備が容易になり、現地での買い物や食事などが楽しみやすくなったとか。
80年代前半は、70年代末に起こった第二次オイルショックの影響を脱し、80年代後半のバブル絶頂期に向けて、経済がぐいぐい上向いた時期。人々がレジャーにつぎ込むお金も意欲も増えていった頃で、当時中学生の筆者は海外旅行など全く無縁ながら、世間に漂う高揚感はうっすら印象あり。
また、「1980年代ごろより、(略)徐々に土曜日を休日とする週休二日制(週五日制)が広く採用されるようになった」(ウィキペディア)とか。休日が増えた人々に、レジャーに振り向ける時間の余裕も増えたと想像。
さらに80年代前半は86年の男女雇用機会均等法施行の直前で、社会に出て働く若い未婚女性が増加した頃。可処分所得もある彼女たちは「アンノン族」、すなわち「ファッション雑誌や旅行ガイドブックを片手に一人旅や少人数で旅行する若い女性」(ウィキペディア)でもありました。その旅行ガイドブックとして、特に海外への個人旅行者向けに今も親しまれている『地球の歩き方』が創刊されたのは79年。
他にも諸説あるかと思いますが、80年代前半に様々な要因が重なって、大きな海外旅行ニーズが爆誕した様は、データにはっきり残っています。
爆誕から00年代前半頃まで、海外旅行ニーズは6割を超えることもあり、1泊以上の旅行を上回っていましたが、その後徐々に漸減。ここ最近は1泊以上の旅行と同じくらいの水準です。
80年代末にバブル経済がはじけて、失われた30数年をすごす間、海外旅行志向がそれほど衰えなかったのはむしろ驚きです。しかし、さすがに日本円が歴史的に安い昨今、泊まりがけの(おそらく国内の)旅行が憧れの旅のトップに収まりつつあるのかも(注3)。
日本全国、誰でも行きたいところとは
では、泊まりがけで国内旅行するとして、あなたならどこに行ってみたいですか。「せっかく泊まりがけなんだから、それなりに遠出をしたい」「当然ふだん行けないところに行きたい」など、思いはいろいろ膨らみそう。
そして、どこに行きたいかは、どこに住んでいるかで当然変わってくるのではないでしょうか。
それをデータで確かめようと思ったら、ここでもTBS生活DATAライブラリ定例全国調査の出番。
調査には、実に84個もの選択肢から「日本の土地の中で、あなたが今後行ってみたいところ」をいくつでも選んでもらう質問があります。「全国」調査なので日本各地の人々がこの質問に回答しており、「どこに住んでいる人が、どこに行ってみたいのか」を明らかにするには、これ以上うってつけのデータはないという代物。
そこで、全国を「北海道・東北」「首都圏」「中部(甲信越・北陸・東海)」「近畿」「中国・四国」「九州・沖縄」の6地区に分け、それぞれの地区ごとに「行きたい日本の土地」ベスト7をまとめてみると、次の横棒グラフのようになりました。
グラフの色は、北海道など北の土地が青、沖縄など南の島が赤、京都・鎌倉などの古都が緑、東京ディズニーリゾート(TDR)やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)などのテーマパークがオレンジです。
結果は、北海道・東北以外の5地区のトップが「札幌・小樽」で、「函館・大沼」も4位か5位にランクイン。さすがに地元には行きたがらないかと思いきや、「札幌・小樽」は北海道・東北でも6位にランクイン。
一方、北海道・東北では「沖縄本島」がトップで、2位は「宮古・石垣島・沖縄離島」。この2つは、九州・沖縄以外では2位と3位にランクイン。首都圏と近畿の東西2大都市圏では「種子島・屋久島・奄美大島」も7位に食い込むという南の島の人気ぶり。
北と南の強豪に続くのが、東はTDR、西はUSJのテーマパーク勢。さすがに首都圏ではTDRが、近畿ではUSJが日帰り可能なこともあってかランク外ですが、他の4地区では2つともランクイン。
歴史ある古都の京都と鎌倉も、テーマパーク勢同様、首都圏では鎌倉が、近畿では京都がランク外。北海道・東北では2つともランクインしていますが、中部、中国・四国、九州・沖縄では京都のみランクイン。古都枠では、京都が全国ブランドとして優位な様子。
ところで、このグラフをみて気づくのは、選択肢が84個もあるのに、全国6地区のどこでも、行きたいところはほとんど同じということ。
海外旅行は80年代に火がつきましたが、国内旅行に火をつけたのは、70年開始の旧国鉄「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンあたりでしょうか。これにハマったのもアンノン族の若い女性たちですが、それから半世紀。日本の各地があの手この手でご当地の魅力を日々アピール中。グラフでランクインした場所は、他にない強い魅力をうまく全国にアピールするマーケティング戦略が、他より成功しているのかも。
マーケティング戦略の成功には、テレビを始めとするメディアをうまく使うことも必要。しかし「旅行ならあそこがオススメ」という情報が日本全国に画一的に広まっているだけなら、ちょっとつまらない感じ。
グラフに表れるほどまとまった支持は集めていないマイナーな場所ながら、知る人ぞ知る名所が日本各地にあるはず。オーバーツーリズムに煩わされず、その土地の魅力が愛されていることだろうと想像します。
「海外」や「日帰り」よりも「泊まりがけ」
最初に「どのような旅行がしたいか」という意識の推移を折れ線グラフで示しましたが、実は「どのような旅行をしたか」という行動の推移もデータがあります。
TBS生活DATAライブラリ定例全国調査では、「最近1年間にしたこと」について、あてはまるものをいくつでも選んでもらう質問を実施。その選択肢に「海外旅行」「1泊以上の旅行」「日帰り旅行(夜行日帰りを含む)」の3つもあり、データはやはり半世紀前の1975年から存在。ただし、93年はなぜかこの質問が行われず、そこだけデータが欠けています。
この「した旅行」の推移を点線で、最初に示した「したい旅行」のグラフに重ねてみると、次の折れ線グラフになりました。
すると、断トツで「したい」と憧れる海外旅行も、実際に行った割合は1割程度で、高くても90年代後半の2割弱がせいぜい。
一方、憧れ度2割程の日帰り旅行は実行率がはるかに高く、80年代後半には4割を超え、最盛期の90年代後半には5割弱まで到達。
その実行率をさらに上回るのが1泊以上の旅行で、80年代後半から00年代前半まで6割超えをキープしていました。
1泊以上の旅行、日帰り旅行、そこから離れて海外旅行という実行率の順はこの半世紀で変わらず。しかし、いずれも00年代あたりから数字が減少傾向にあり、20年代のコロナ禍にかなり大きな減少を記録。
本当は海外に行きたいけれど、おいそれと簡単に行けるものでもなし。憧れると言うほどのことでもない日帰り旅行も、80~90年代頃はそれなりに出かけていたのですが、最近はそれほど流行らない様子。
一方、泊まりがけの旅行は、00年代後半に6割を切り、20~21年はコロナ禍で激減したものの、基本的には5割の実行率を維持。これは、日帰り旅行でレジャーにつぎ込む意欲やお金、時間を小出しにするより、しっかり充実感を得られる泊まりがけの旅行につぎ込みたい、という姿勢の表れなのかも。
そうだとすると、やはりまとまった休みが取れる夏休みシーズンは、ここぞと気合いの入る絶好の旅行チャンス。しかし、今年は地震や大雨に見舞われてしまい、返す返すも残念でした。
今年の9月は21日(月)の敬老の日から23日(水)の秋分の日まで三連休、その前の土日も含めたら五連休。このシルバーウィークこそ、行きたいところに思い切って出掛けてみるのもいいかも知れませんね。
注1:TBS生活DATAライブラリ定例全国調査は、TBSテレビをキー局とするテレビの全国ネットワークJNN系列が、1970年代から毎年実施する大規模ライフスタイル調査です。同じ回答者にメディア行動や価値観、個人材・世帯財の購入などを総合的に調査するシングルソースデータです。
注2:外為法の正式名称は、1980年当時は「外国為替および外国貿易管理法」でしたが、98年に題名から「管理」が削除され、現在の「外国為替および外国貿易法」になりました。
注3:「1泊以上の旅行」や「日帰り旅行」の一部が「海外旅行」である可能性はあります。本コラムの後半で「最近1年間にしたこと」として3つの旅行を調べた結果を扱っていますが、25年調査では、1泊以上の旅行をした人(3,979人)の12%(462人)、日帰り旅行をした人(2,537人)の12%(297人)が海外旅行もしたと回答しています。裏を返すと、泊まりがけや日帰り旅行した人の9割弱は海外旅行をしていないので、ここでは「1泊以上の旅行」や「日帰り旅行」という回答のほとんどは国内旅行のことだと考えて、論を進めることにします。
引用・参考文献
●財務省 外為法の目的と変遷
● 「休日」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2026年7月16日(木) 05:39 UTC
● 「アンノン族」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2025年12月11日(木) 08:35 UTC
〈執筆者略歴〉
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は法務・コンプライアンス方面を主務に、マーケティング&データ戦略局も兼務。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。
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