E START

E START トップページ > 国内 > ニュース >  「電子投票」導入で“候補者のお願い”にも変化~選挙無効の“悪夢”を経験した岐阜で見えた可能性と課題~【調査情報デジタル】

 「電子投票」導入で“候補者のお願い”にも変化~選挙無効の“悪夢”を経験した岐阜で見えた可能性と課題~【調査情報デジタル】

国内
2026-11-07 08:30

地方選挙で「電子投票」を導入する自治体が増えつつある。いったいどんなものなのか?メリットは?そして、電子投票で変わること、逆に変わらないことは何か?岐阜県美濃加茂市での導入例をCBCテレビ報道部の柳瀬晴貴記者(岐阜駐在)が取材した。


【写真を見る】 「電子投票」導入で“候補者のお願い”にも変化~選挙無効の“悪夢”を経験した岐阜で見えた可能性と課題~【調査情報デジタル】


たった5秒で投票終了

今年9月下旬。岐阜県美濃加茂市に設けられた期日前投票所には、いつもの選挙とは少し違う光景が広がっていました。


記載台の上には、投票用紙も鉛筆もありません。代わりに置かれていたのは、タブレット端末でした。 


10月4日に投開票が行われた美濃加茂市議会議員選挙。東海3県で初めて、“タブレット端末を使った”電子投票が導入されました。この新たな試みに、地元メディアも早くから注目していました。選挙前から地元紙などでも大きく取り上げられ、電子投票への関心が高まっていました。


しかし、実際にどれほど便利なのでしょうか。私もデモ機を使って体験してみました。


まず、タブレット画面で投票したい候補者の頭文字を選びます。すると、その頭文字から始まる候補者の名前が並ぶので、意中の候補者名を選択し、確認ボタンを押す。操作はたったそれだけ。


普段からスマホやタブレットを使い慣れていることもあり、詳しい説明がなくても、画面を見れば次に何をすればよいのかが感覚的に分かり、あっけないほど簡単でした。


実際に投票を終えた美濃加茂市民からも、同じような感想が聞かれました。


「ワンタッチで投票できて非常に簡単だった」


「すぐ終わりました。自分の両親は足が悪く投票用紙を書いて箱に入れるのですら苦戦していたけど、これならできると思う」


投票にかかった時間を尋ねると、「5秒くらいですね」と笑顔を見せました。


もちろん、誰もが同じように操作できるとは限りません。ただ、少なくとも私自身が体験した限りでは、電子投票の手軽さは想像以上でした。


「名前を書いて」から「頭文字を選んで」へ

今回の市議選では、定数16の議席を22人が争いました。選挙戦を取材する中で、もう一つ、これまでとは違う光景を目の当たりにしました。候補者たちの街頭演説です。


村瀬正樹前議長:
「村瀬の『む』をお願いします。村瀬の『む』をタッチしてください!」


トップ当選の出口(でぐち)峻佑氏:
「電子投票は『て』をお選びください。出口峻佑です」


候補者たちが繰り返し訴えていたのは、タブレット画面で選んでもらうための「頭文字」。街頭だけではなく、候補者たちのSNSにも頭文字を強調した投稿が目立ちました。


候補者たちの中には、戸惑いを口にする人も。


「『1票をお書きください』ではなく、『選択ください』ということで、言葉に迷う部分があります。ただ良い面でいうと、選挙の投票率は上がるのではないか」


投票方法が変われば、候補者の訴え方まで変わる。電子投票がもたらした変化は、タブレットの画面の中だけにとどまっていませんでした。


電子投票の普及を阻んだ「可児ショック」

電子投票には、手軽さ以外にも利点があります。候補者の名前を書き間違える心配がなく、文字の判読がつかないことなどによる「疑問票」を防げます。


昨年、茨城県神栖市で行われた市長選挙をめぐり、「まんじゅうや」と「だんごさん」と書かれた2票が有効かどうか最高裁の判断を仰ぐ事態(注)になっていますが、電子投票なら起こりえない話です。


こんなに便利で、簡単な電子投票ですが、なぜこれまで普及してこなかったのでしょうか。


その背景をたどると、同じ岐阜県内、美濃加茂の隣町で起きた、ある“出来事”に行き着きます。


「可児ショック」。地元県議や首長の間で、こう呼ばれる出来事です。


遡ること23年前。阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝を果たした2003年、岐阜県可児(かに)市の市議会議員選挙で、電子投票が導入されました。


ところが投票当日、端末のオーバーヒートによってシステムに不具合が発生。市内29か所すべての投票所で、一時、投票ができなくなりました。最も長い所では、1時間半近くにわたって投票がストップし、投票をあきらめて帰った有権者もいたといいます。 


トラブルはもう一つ。投票者数と開票された票の数に食い違いが見つかりました。


最下位の当選者と次点の候補者の得票差は、わずか35票。トラブルがなければ選挙結果が変わっていた可能性があるとして、選挙の無効を求める裁判に発展しました。


最終的に、最高裁が選挙を無効と判断。当選した市議会議員は全員が失職し、“やり直し選挙”が行われる事態となりました。投票を便利にするはずだった新しい仕組みが、選挙そのものの信頼を揺るがしてしまったのです。        


この出来事は、電子投票の普及に大きな影を落としました。そんな苦い歴史が残る岐阜県で、再び電子投票が導入されることになったのです。


過去の教訓は生かされたのか

美濃加茂市が電子投票の導入にあたって特に重視したのは、過去のようなトラブルを繰り返さないための対策でした。


今回は、タブレット端末をネットワークで接続せず、それぞれが独立して動く仕組みを採用。これにより、仮に1台が故障しても、ほかの端末への影響を抑えられます。


投票データは端末に接続された記録媒体に保存されるため、通信障害によってデータが失われるリスクも低減できます。


また実際の選挙では、ポータブル電源を使用し、停電が起きても投票を続けられるよう万全の体制で臨みました。


開票所に運び込まれたアタッシェケースの中身

そして迎えた投開票の10月4日。電子投票を導入した美濃加茂市議会議員選挙は、目立ったトラブルもなく投票を終えました。


投票が終わった後の開票所でも、これまでとは違う光景が見られました。


職員が運び込んだのは、大きな投票箱ではなく…小さな銀色のアタッシェケースでした。その中に収められていたのは、投票データが記録されたUSBメモリです。          


従来の選挙では、投票箱から大量の投票用紙を取り出し、候補者ごとに仕分けていきます。票を数える職員や、記載内容を確認する職員。開票所には多くの人手と作業フローが必要です。


しかし、電子投票では、その作業の大部分が必要なくなります。紙の投票用紙を広げて数える代わりに、メモリに記録されたデータを読み取る。何度も見てきた選挙の風景が、デジタルの力で大きく変わろうとしていることを実感する場面でした。


午後7時15分に始まった開票作業は、およそ1時間後の午後8時22分に終了。開票時間はおよそ半分に短縮。作業にあたる職員も45人から13人へ3分の1以下に削減されたのです。


2024年に大阪府四條畷市の市長選で行われた電子投票でも美濃加茂市と同様、開票時間の短縮に繋がっています。


美濃加茂市の藤井浩人市長は、選挙を終えてこう振り返りました。


「滞りなく実施できたので、成功だと受け止めています。今回の結果を振り返り、さらなる向上を目指していきたい」


少なくとも今回の選挙では、過去に起きたような大きなトラブルはなく、開票作業の効率化と職員の働き方改革という成果が見られました。


ただ、ここで一つ、見逃せない数字があります。


46.81%。今回の美濃加茂市議会議員選挙の投票率です。選挙戦となった前々回(前回は無投票)の投票率49.56%を、2.75ポイント下回り、過去最低となりました。


候補者や市の関係者の中には、電子投票の導入が話題になることで、選挙への関心が高まり、投票率の上昇につながるのではないかと期待する声もありました。しかし、結果はその期待に応えるものではありませんでした。


もちろん、投票率は候補者の顔ぶれや選挙の争点など、さまざまな要因に左右されます。電子投票の導入と投票率の低下を直接結びつけることはできません。


ただ、今回の結果から一つ言えることがあります。


投票を簡単にすることと、投票に行こうと思ってもらうことは、必ずしも同じではないということです。タブレットを使った投票は、確かに簡単でした。わずかな操作で、一票を投じることができます。


しかし、その便利さが意味を持つのは、有権者が投票所に足を運んでこそです。投票所に来た人の負担を減らすことはできても、政治に関心を持ってもらうことや、投票に行くきっかけをつくることは、また別の課題なのかもしれません。


選挙の常識は変わるのか

岐阜県議会は、10月8日、県議選と知事選の際に美濃加茂市の投票区での電子投票を可能にする条例を成立させました。これにより、来春に予定される県議選で美濃加茂市は再び電子投票を実施することになります。


また美濃加茂市以外にも、全国各地で電子投票にチャレンジする自治体が相次いでいます。8月には香川県の善通寺市(知事選)や福岡県の粕屋町(町長選)で行われました。


福岡県の服部誠太郎知事は先日の記者会見で、県議選に電子投票を導入するための条例を検討していると明らかにしました。この条例が可決されれば、来春の統一地方選挙で、福岡県内の6つの市町で電子投票が可能となる見通しだということです。こうした動きは今後も全国でさらに広がっていくことが予想されます。


今回の取材では、選挙のゲンバで起きている変化をいくつも目の当たりにしました。電子投票は、これから、全国各地でこれまでの選挙の常識を変えていくのでしょうか。美濃加茂市の試みは、その可能性と、技術だけでは解決できない課題の両方を浮かび上がらせました。


(注)…昨年の神栖市長選挙で、候補者の得票が同じ数になり、くじ引きで新人の木内敏之氏が当選した。木内氏の実家はまんじゅうなどの菓子製造会社で、市の選挙管理委員会は当初、「まんじゅうや」と「だんごさん」と書かれた2票を有効としていた。しかし、茨城県の選挙管理委員会はこの2票は有効ではなく、木内氏の当選は無効と裁決。木内氏はこれを不服として、裁決取り消しを求める訴えを起こしたが、東京高裁は今年9月、これを退けた。木内氏側は不服として、最高裁に上告した。


〈執筆者略歴〉
柳瀬 晴貴(やなせ・はるき) CBCテレビ報道部記者
1997年、福岡県生まれ。法政大学卒。
2019年、CBCテレビ入社。報道部で事件・事故などの現場を走り続けている。
名古屋市政キャップを経て、現在は岐阜県駐在記者。
趣味は“取材”。


ドキュメンタリー監督デビュー作『劇場版 僕と時々もう1人の僕~トゥレット症と生きる~』は、こども家庭庁の児童福祉文化財・特別推薦作品に選出されたほか、ドイツの国際映像祭でも特別賞とシルバーを受賞。
テレビ版『盗るな撮れ』はギャラクシー賞や日本民間放送連盟賞などを受賞。


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


・10歳若返る?「ジャパニーズウォーキング」…“1日30分”で1万歩歩くよりも効果的 道具いらずで海外で話題【Nスタ解説】
・「インフルにかかる人・かからない人の違いは?」「医師はどう予防?」インフルエンザの疑問を専門家に聞く【ひるおび】
・40代から増加「脳梗塞」の初期症状は?「倒れてからじゃ遅い」早期発見のカギ「BE FAST」とは【ひるおび】


情報提供元:TBS NEWS DIG Powered by JNN

ページの先頭へ