
20世紀最大の発見と言われる、エジプト・ツタンカーメンの墓。その墓の奥に“未知の空間”があるかもしれないという仮説があります。私たちは、その調査に独占密着しました。
【画像でみる】ツタンカーメン墓に“未知の空間”が? エジプト調査に独占密着
ツタンカーメンの墓の奥に“未知の空間”が?
悠久の歴史を持つ、エジプト。その歴史には今もなお、多くの謎が残る。
2023年11月。その謎の1つに挑む、“ある調査”がおこなわれていた。
ここはエジプト・ルクソールにある「王家の谷」。かつて栄華を誇ったファラオたちの墓が点在する。
その1つ、ツタンカーメン王の墓。「王家の谷」で最も観光客の人気を集めるこの場所で、その調査はおこなわれていた。
ツタンカーメンの墓の前にある広場に電気ケーブルが這わされる。電気の流れやすさの違いを利用して、墓周辺の地中の構造を調べる電気探査だ。
そして、調査はツタンカーメンの墓の内部、巨大な棺がある部屋でも。
念入りに調べられているのは、部屋の北側の壁。壁の奥の状態を探るために、地中レーダーによる調査がおこなわれている。
実は、この北側の壁の奥に“未知の空間”があるかもしれないのだ。
古代エジプト屈指の美女「ネフェルティティの墓」か?
ツタンカーメン。黄金のマスクで知られ、若くして死亡したことから「悲劇の少年王」とも呼ばれる。マラリアで死亡したとする説もあるが、わかっていないことも多い。
古代エジプトでギザにクフ王らの3大ピラミッドが建造されたのは、紀元前2500年ごろ。
ツタンカーメンが在位していたのは、それよりも1000年以上経過した紀元前1300年ごろだ。
ツタンカーメンの墓を、王家の谷で発見したのがイギリス人考古学者、ハワード・カーター。今から100年あまり前の1922年のことだった。
ほぼ未盗掘だった墓から見つかった、副葬品の数は、実に約1万点。3300年前に君臨した古代エジプトのファラオの絶大な権威を、現代の私たちに知らしめるものになった。
そのツタンカーメンの墓に“未知の空間”があるかもしれないという。
ツタンカーメンの墓、階段を降りて右側にひつぎが置かれた部屋がある。その北側の壁、右側の奥に“未知の空間”があるというのだ。
この仮説を唱えたのが、ニコラス・リーブス氏。イギリス人で、ツタンカーメン研究の第一人者だ。リーブス氏は、ある“王妃の墓”を探し求めてきた。
エジプト考古学者 ニコラス・リーヴス氏
「ネフェルティティの墓です」
ネフェルティティ。古代エジプト屈指の美女として知られる王妃だ。ネフェルティティの夫は異端の王として知られるアクナートン。宗教改革をおこない、都を移し巨大な神殿を建造した。
ツタンカーメンはアクナートンの息子で、ネフェルティティは義理の母親にあたる。だが、ネフェルティティの墓はいまだ見つかっていない。
リーブス氏はおよそ30年前に「王家の谷」でハワード・カーター以来76年ぶりとなる王墓の発見を目指して、発掘調査をおこなった。ネフェルティティの墓の発見は、長年の悲願なのだ。
科学調査で迫る“未知の空間” 不自然な「ヒビ」と「カビ」
そのリーブス氏が、2014年、偶然目にしたのが、ツタンカーメンの墓を3Dスキャンしたデータ。色を抜いた状態で北側の壁の凹凸を分かりやすくすると…
エジプト考古学者 ニコラス・リーヴス氏
「ここを見てください。壁には凹凸やひび割れがつきものだが、なぜか完全な直線がある。直線はここにも」
リーブス氏は、このヒビ(直線)の存在をきっかけに北側の壁は、奥に続く空間を隠すためにつくられたものだと考え始めた。
すると、その考えを裏付けるものが次々と見つかった。
エジプト考古学者 ニコラス・リーヴス氏
「興味深いのはカビの生え具合。人工の壁だと考えている方がカビが多い」
リーブス氏が注目した、不自然なヒビを境に、向かって右側は、左側よりもカビが多く見える。
リーブス氏は壁の奥の空間の湿気で、カビが増殖したのではないかと推測している。
さらに…
エジプト考古学者 ニコラス・リーヴス氏
「ひとつの特徴がこれです。天井に直線が見えますか。まっすぐ北の壁画に向かっている」
天井に残る筋。北側の壁に向かってまっすぐ伸ばすと、さきほどのヒビの位置とつながる。天井の筋と壁のヒビを結ぶ線は、ここがかつて通路だったことを示唆する。
壁画にヒント?「何かがある確率は90%」
では通路の奥には一体何があるのか。描かれた壁画にヒントがあると、リーブス氏は言う。
従来は北側の壁画には、左側のツタンカーメンを右側にいる次の王・アイが弔っている場面が描かれていると考えられてきた。
ところが、右側の人物をよく見てみると…
エジプト考古学者 ニコラス・リーヴス氏
「おもな特徴はアゴ。小さいアゴで二重アゴ。右は墓にあったツタンカーメンの像。二重アゴやたるみがよく似ている」
そして、左側の人物こそが、壁の奥の“未知の空間”に眠る人物だと、リーブス氏は言う。
エジプト考古学者 ニコラス・リーヴス氏
「口元にシワがある。これはネフェルティティの顔の特徴」
確かに、その横顔や口元のシワはネフェルティティの像によく似ている。体つきも女性的だといえる。
リーブス氏は、この壁画は、後継者となったツタンカーメンが壁の奥で眠る義理の母ネフェルティティを弔っている場面を描いたものだと、結論づけたのだ。
2015年、ツタンカーメンの墓でその“未知の空間”を探る地中レーダー調査がおこなわれた。
レーダー技師の渡辺広勝さん。ペルーなど各国の遺跡調査で活躍してきた。
北側の壁に沿ってレーダーのアンテナを動かす。不自然なヒビの部分に差し掛かると…
地中レーダー技師 渡辺広勝さん
「表現が変わります。あぁ…バッチリ出た!グッドデータ」
渡辺さんのレーダー調査によるデータ。不自然なヒビを境に右側のパターンが大きく変化していた。
地中レーダー技師 渡辺広勝さん
「大丈夫だって慌てなくて」
この渡辺さんの調査結果をもとに、当時の考古相らによる記者会見が開かれた。
エジプト考古相(当時)マムドゥーフ・エルダマティ氏
「ツタンカーメンの墓の奥に部屋か、あるいは墓か、何かがある確率は90%」
その後、イタリアの研究機関などによる地中レーダー調査が相次いで行われ「空間はない」という結果も出るなどしたが、調査自体がコロナ禍などの理由でストップしてしまった。
2023年の秋、リーブス氏にとってまさに最後の挑戦が始まったのだ。
約1500か所で測定「今世紀で最も重要な発見のひとつに」
リーブス氏の説に強い関心を持つ、元考古相のエルダマティ氏。調査団長として、今回指揮を執っている。
ツタンカーメン墓調査団長 マムドゥーフ・エルダマティ氏
「もしここがネフェルティティの墓であれば、今世紀で最も重要な発見のひとつになる。ツタンカーメンの墓は王家の谷の中で最も小さな墓。確かに元の墓から切り離されている可能性がある」
これは「王家の谷」のジオラマ。地中の王墓の構造を表している。
ツタンカーメンの墓は、周囲のほかのファラオのものに比べて奥行きがなく、極端に小さい。
ツタンカーメンの2代後のファラオ・ホルエムヘブの墓。実は、この墓もかつては絵が描かれた壁が奥の空間を隠していた。
取り除かれた壁の奥に進んでいくと、ツタンカーメンのものとは違い、地中深くまで墓が続いている。
一方、この断崖絶壁の中ほどにあるのは、ツタンカーメンよりも150年ほど前にエジプトを支配していた、ハトシェプスト女王の墓。
墓の中を進んでいくと、右に曲がる構造だ。古代エジプトでは、直線か左に曲がるのは男の王の墓、右に曲がるのは女王の墓の特徴だという。
ツタンカーメンの墓も右曲がり。こうしたことが、ツタンカーメンの墓の奥にネフェルティティの墓があることを推測させる理由にもなっているのだ。
「王家の谷」観光の目玉である、ツタンカーメンの墓の調査は観光客がいない夜間、本格的におこなわれる。人気(ひとけ)のない王家の谷に作業の音が響き渡る…
そして、墓の内部。北側の壁を中心に地中レーダーで、壁の奥に“未知の空間”があるかどうかを徹底的に調査する。他の壁も何度も往復し、異なる周波数を使って、延べ4800メートルにも及ぶ膨大なデータを収集した。
さらに、今回初めて導入されたのが、地中深くの構造を調べることができるマイクログラビティ調査だ。
地表の極めてわずかな重力変化を捉えることで、地中にあるかもしれない“未知の空間”の広がりなどを調べることができる。
調査団はツタンカーメンの墓の周囲、約1500か所で測定“未知の空間”に迫った。
古代ガラスの研究者、上野由美子さん。リーブス氏とともに約30年間、ネフェルティティの墓を探してきた。今回の調査について…
ツタンカーメン墓調査団 上野由美子さん
「今までこのようなきちっとした、計画的な調査がされたことがないので、データを組み合わせると、今までわからなかったことが出てくるかもしれない。確かにニック(リーブス氏)が言っていたような、北の壁の奥で何かが続いているかもしれない」
調査団長のエルダマティ氏も自信を見せる。
ツタンカーメン墓調査団長 マムドゥーフ・エルダマティ氏
「異なる技術を組み合わせて、私たちは何かを見つけることを望んでいる。必ずできると確信している」
ツタンカーメンのマスクに“不自然なつなぎ目”
ツタンカーメンの墓の奥にネフェルティティの墓があるとすれば、そこにはツタンカーメンと同様、素晴らしい副葬品が眠っているのだろうか。
そのヒントは他でもない、ツタンカーメンのマスクに残されているとリーブス氏は言う。
エジプト考古学者 ニコラス・リーヴス氏
「マスクの頭巾部分の青は色ガラスなのに、目の周りはラピスラズリが使われている。2つの素材を混ぜるのは奇妙」
このマスクの青の部分、頭巾の青は「ガラス」で、顔の部分は天然石の「ラピスラズリ」と、違う素材が使用されていた。
また、頭巾は「22金」なのに、顔は「18金」とこちらも別の素材。頭巾と顔の部分が同時期に作られていたなら、同じ素材が使われるはずだが…
実は、頭巾と顔の間には不自然なつなぎ目がある。つまり、このマスクは別の時期に作られた頭巾と顔が、つなぎ合わされた可能性があるのだ。
リーブス氏は、これらの痕跡から、“ツタンカーメンのマスクはもともとツタンカーメンのためにつくられたものではない”と考える。
では、誰のためにつくられたものなのか…
マスクに刻まれた、ツタンカーメンの名前。よく見てみると文字を削った痕跡がある。
そこに刻まれていた本来の名前を復元すると…
浮かびあがったのは、“アンクケペルウラー”の文字。
リーブス氏によると、ネフェルティティは権力の階段を昇るにつれて名前を変えた。女王になった際には「スメンクカーラー」と名乗ったが、それ以前、夫との共同統治者時代の名前こそが「アンクケペルウラー」だったという。
では、なぜネフェルティティのためにつくられたものが、ツタンカーメンのものとなったのか。
エジプト考古学者 ニコラス・リーヴス氏
「ツタンカーメンの死は突然だった。あまりにも若かったために、埋葬の準備は何もされていなかった」
10代の若さで亡くなったツタンカーメンには、副葬品などの準備がされておらず、ネフェルティティの共同統治者時代につくられ、実際には使用されなかったものが流用された。その割合は、ツタンカーメンの副葬品の8割にも及ぶと、リーブス氏は考える。
ツタンカーメンの副葬品には、名前が書き換えられたような形跡があるものが極めて多いという。
エジプト考古学者 ニコラス・リーヴス氏
「ツタンカーメンの副葬品は美しく素晴らしい。あくまで(ネフェルティティに使うはずだった)共同統治者用。正式なファラオの副葬品は、さらに豪華で威厳に満ちたものだろう」
そして、義理の母であるネフェルティティの墓の一部に、ツタンカーメンは埋葬されたという。
エジプト考古学者 ニコラス・リーヴス氏
「私は長年ネフェルティティの墓を探してきた。この壁の向こうに彼女の存在があるという根拠は非常に強い。これがネフェルティティの墓だとすれば、考古学史上最も偉大な発見のひとつになる」
100年ぶりにファラオの墓発見 “未知の空間”は存在するか
イギリス・ケンブリッジ。調査団のメンバーで、物理探査会社を経営するジョージ・バラード氏。2023年にツタンカーメンの墓の調査で収集された、膨大なデータを1年以上にわたって分析してきた。
そして2025年1月、ついに、エジプト政府に分析結果をまとめた報告書が調査団から提出された。現在、エジプト政府によって、慎重に審査がおこなわれているという。
一方、これは土砂が流入した墓の写真。2月18日、発見が明らかになった、古代エジプトのファラオ・トトメス2世の墓だ。トトメス2世は、あの断崖絶壁に墓があったハトシェプスト女王の夫で、墓はこの付近で見つかった。
ファラオの墓が見つかったのは、ツタンカーメン以来、実に100年ぶりとなる。
実は、このトトメス2世の墓、入口部分は2022年に見つかっていたが、その後、イギリスの調査団とエジプト政府により、秘密裏に詳細な調査・分析がおこなわれ、今年2月18日にようやく発表されたのだ。
ツタンカーメンの墓の奥に“未知の空間”は存在するのか。そして、そこにネフェルティティの墓はあるのだろうか。
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