
アメリカのトランプ政権の関税をめぐる方針が二転三転している。メキシコとカナダに課した25%の関税をめぐり、およそ1か月間、幅広い品目を対象外とすることを決めた。
【写真を見る】トランプ関税“二転三転”の理由 政権内で一体何が…日本への影響は【Bizスクエア】
“トランプ関税”二転三転 世界は翻弄され続ける?
トランプ大統領:
日本の円であれ中国の人民元であれ、彼らが通貨を切り下げると我々(アメリカ)に非常な不公平な利益をもたらす。
トランプ大統領は、3月3日、日本が円安誘導していると発言。円安による不公平な貿易に対し、「我々は関税で埋め合わせをする」と述べ、日本に対して関税を課す可能性を示唆した。翌日の4日に行われた2期目の施政方針演説でもトランプ大統領は関税について言及。
トランプ大統領:
他国は数十年にわたり、アメリカに関税をかけてきた。今度は我々の番だ。
この日、トランプ政権はカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を発動。中国からの輸入品に対しては、追加関税を10%から20%に引き上げた。これを受け、カナダのトルドー首相は報復措置として、日本円でおよそ15兆9000億円相当のアメリカからの輸入品に、25%の関税を課すと発表。メキシコも対抗措置を取ると表明した。中国も、10日からアメリカからの農産物などに関税を課すと発表している。ところが翌日の5日…
ホワイトハウス レビット報道官:
協定に基づきメキシコとカナダから輸入する自動車は1か月間、関税の例外とする。
トランプ政権は、メキシコとカナダへの25%の関税について、自動車は1か月間、対象外にすると発表した。「アメリカ、メキシコ、カナダの3か国の貿易協定に基づき、北アメリカで生産したと認定される自動車は課税の対象外にする」と説明している。ところが翌日の6日、またもやトランプ政権の関税政策が突然変わった。
トランプ大統領:
関税は我々がやらなければならないことだ。短期的な中断はつきものだが、長い中断にはならないだろう。
毎日猫の目のように変わるトランプ関税。6日、トランプ大統領は、メキシコとカナダに課した25%の関税について、自動車だけではなく、アメリカ、メキシコ、カナダの3か国の貿易協定に適合した輸入品については、来月2日まで関税の対象外とすることを決めた。アメリカ政府高官によると、この決定でメキシコからの輸入品の50%、カナダからの輸入品の38%が関税の対象外になると推定されるという。これに対し、カナダは4日に発表していた報復関税の発動を延期することを表明している。
トランプ関税が二転三転していることで株式市場は翻弄されている。メキシコとカナダへの関税と中国への追加関税を発動した4日のダウ平均株価は、670ドル下落。翌5日にはメキシコとカナダから輸入される自動車が関税の対象外となったことを受け、反発したものの、6日には、ダウ平均株価は400ドル以上再び下落、ナスダック総合指数も大幅な値下がりとなった。これを受け、7日の日経平均株価も前日より817円安い、3万6887円で取引を終えた。トランプ大統領は、関税措置により「長期的に見ればアメリカ経済は強くなる」として、12日に発動を予定している鉄鋼とアルミニウムへの追加関税や4月2日からの「相互関税」については予定通り始めると述べている。今後もトランプ関税に世界は振り回され続けるのだろうか?
“トランプ関税”二転三転 理由は?政権内で何が…
この背景についてワシントン支局の涌井記者に話を聞く。
――関税政策が二転三転してるのは、なぜか?
ワシントン支局 涌井文晶記者:
一つの要因は、産業界から救済を求める声が相次いだということ。4日、フォードなど自動車のビッグスリーの経営トップがトランプ氏に直接救済を求めて、自動車を関税の対象外にするということが決まった。すると今度は農業関係者から肥料を対象外にしてほしいという悲鳴が上がり、結局、幅広い品目を例外にするという決断になった。産業界の悲鳴は事前に予想できたが、その声にどの程度耳を傾けるべきかということで政権内で関税強硬派と穏健派の綱引きが行われていて、それが方針の二転三転に繋がったのではないかという見方が出ている。
メキシコやカナダへの25%の関税といった政策は強硬なMAGA派として知られるホワイトハウスのナバロ上級顧問が主導してきた。一方で関税の例外措置の調整は商務長官のラトニック氏が中心となった。ラトニック氏はウォール街の経営者出身で、ナバロ氏に比べてビジネス界に配慮する穏健派と見られている。今後もこうした綱引きの中で政策が二転三転するということは予想される。
――次の大きな山場は4月2日に予定されている相互関税の発表。日本への関税政策は?
ワシントン支局 涌井文晶記者:
トランプ大統領は4月2日に相互関税など詳細を発表すると言っている。そこに向けて調整が進んでいくが、日本からは来週、武藤経済産業大臣がワシントンを訪れてラトニック商務長官らと会談する。それで鉄鋼や自動車の関税などで日本を除外してほしいと求める方針だ。ただ2月には、アメリカ政府高官が日本は非関税障壁が高い国だと名指しで問題視する発言もしており、トランプ政権で「日本を除外してください」と求めれば、代わりに「日本は何をしてくれるのか」という反応が出てくることは十分予想されるので、難しい交渉になるのではないだろうか。
関税リスクで株価下落 NY市場参加者の見方は
続いて、トランプ関税に連日振り回される形になっている市場の受け止め方について、ニューヨークに拠点を置くヘッジファンド、ホリコ・キャピタル・マネジメントの堀古英司氏に話を伺う。
――ニューヨーク株が今週は大きく下げた。“トランプ関税”による不安感からか?
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
トランプ氏がいろんなびっくりすること言ってくるだろうとは予想されていたが、本当に連日びっくりする。投資家からすればとりあえず株を持っておくよりも、一旦売って、様子を見守るという姿勢になりがちだ。
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
それから景気の方だが、「GDPナウ」という今の経済成長率をリアルタイムで予測する指標があるが、これが3年ぶりにマイナス成長になりそうだ。一つは政府支出がかなり削減されるので政府関係者の消費者としての不安心理が反映されていること、そして関税が発動されると輸入が高くなるので、それまでに輸入をしておこうという思惑があり、これによって短期的に輸入が増えると経済成長の下押し要因になる。こうした特殊要因で今マイナスになっているが、マーケットはそれを特殊要因と見る余裕がない状況だ。
――トランプが勝つと株価が上がるとされた。市場はあてが外れた形になっていないか?
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
第1期目が、トランプ氏が大統領選挙で勝ってほぼ1年強ずっと上がりっぱなしだったので、それを想定して、もう短絡的にトランプ氏が大統領選挙で勝った後に買った人がいるかもしれないが、株式相場はそんなに単純なものではなく、そういうことで買うと、こうやって調整される。むしろ調整されることが健全だと考えている。しかもファンダメンタルズ的に悪化しているというよりも、特殊要因で悪化してるので、長期の投資家にとってはそんなに怖くないレベルに来ている。
――景気が悪くなり関税不況やトランプ・スタグフレーションになるまでは至らない?
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
はい。根本的な問題として、例えばアメリカは貿易赤字も、財政赤字もかなり大きいが、放っておく方が国際金融市場が不安定化するので、ここで手を打っているというのはむしろ評価すべきだと思う。ただ、短期的にはやはり足元で表れてるように、政府支出が削減されればその分景気はへこみ、それから関税が引き上げられれば、その分消費者も財布の紐を締めるだろう。今日8日、ベッセント財務長官が、これを解毒の期間「デトックス・ピリオド」という表現をしている。まさにその期間に今入っているのではないか。
GDP・雇用・インフレ… トランプ関税の影響は?
――「GDPナウ」がマイナス。手荒い関税政策が先行して出てきていることが原因か?
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
急激に貿易赤字が拡大している。一部、駆け込み輸入で、輸入が増えている。ただ消費も1月のデータは悪かったので、全体的に少し経済が減速しつつあるように見える。
――市場からすると、関税政策の方だけが先走ってるという印象か?
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
2018年のときとの違いは、2018年はその関税の引き上げと減税の実施時期が一致した。だから企業にとってみれば、少し相殺できた。しかし、今回は企業の減税は来年なので、先行して輸入関税率の方が出ているので、痛みの方が出ているということでこのタイミングのずれが大きい。
――トランプ大統領は、成果を焦って関税政策を先出ししてるのか?
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
そうですね。だから輸入関税率を引き上げて、工場を誘致して、もっと生産を増やしたい、それを見せたいという意欲がすごい。
――我々から見ると、何のためにこの関税政策をやっているのかよくわからない。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
アメリカの製造業を復活させたいから、メキシコとかカナダから工場をアメリカに移転してほしい。雇用も確保する。これが一つ。
もう一つはアメリカの財政赤字が2兆ドル弱でかなり大きい。来年の減税の追加も増やすと、さらに財政赤字が拡大する。そのためにイーロン・マスク氏の政府効率化省ができて、徹底した歳出改革でも全部できない。政府が機能しなくなるので、人件費のカットは大したことない。大半の財政赤字の縮小は、輸入関税率によってやると言っている。(関税引き上げが財源になる)だから、口先だけではないと思う。輸入関税率で関税収入を増やさないと財政赤字を減らせないので、ある程度はやるのではないか。
――関税政策は脅しではなく、本気でやると?
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
はい、本気で財政赤字を減らすと言っている。(その財源は関税か)そうです。
さて“トランプ関税”が経済に与える影響は?ブルッキングス研究所の試算で、GDPの成長率を見ていく。“トランプ関税”によってアメリカのGDPの成長率は0.24%低下。報復措置があると、0.32%低下する。カナダとメキシコのGDPも報復関税を行った場合には3%以上の損失になるという試算がある。
――アメリカは相対的に雇用も影響は少なく、カナダやメキシコは大打撃なのか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
やはりカナダとメキシコとは、USMCAという自由貿易協定でゼロ関税なので、そこでたくさん生産してアメリカに輸出している。カナダとメキシコの輸出の8割ぐらいがアメリカ。しかしアメリカはより多様化しているので、カナダメキシコからの輸入は全体20%ぐらい。影響が全然違う。
――“トランプ関税”は、アメリカとしては正解という話になる。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
ただマイナス0.2%でも成長率が下押しされることは、大きく影響してくる。
インフレの影響を見ていく。アメリカではインフレ率が1.33%上昇。報復措置があると0.77%の上昇。カナダを見てみると、カナダは報復関税があるとアメリカからの輸入品の価格が上がるということでインフレ率が4.23%に上昇。メキシコは報復関税があると6%に減少する。
――これはどう見たらよいか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
今のアメリカのインフレ率は3%。だから単純に1%プラスされて4%となるとすごく大きい。だからアメリカの中央銀行は利下げすると市場は見ている。むしろインフレになってきたら利上げということも視野に入ってくるので、市場の混乱は大きくなると思う。
――逆にメキシコ・カナダは景気が悪くなるから、インフレは報復措置がなければ下がる。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
一方的にアメリカに輸出できなくなるので、経済が悪くなるので、インフレが下がるが、自らもアメリカに関税を課せば、自らの輸入品も上がるので、カナダの場合は少しインフレになるが、メキシコは経済の悪さの方が先行してデフレになる。
今後はどの国がターゲットになるのか。今のところ、メキシコ・カナダ・中国をターゲットにしている。「財(モノ)の輸入額」を見ると、輸入額が多いところを狙っている。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
財の輸入額と貿易赤字を見ているが、メキシコ・カナダ・中国でアメリカの輸入の35%ほど。ここにEUが入ってくると50%を超えてくるのでアメリカの物価を押し上げる影響が大きい。
――国単位で見るとメキシコ・カナダ・中国がベスト3。トランプ大統領の戦略は合理的だ。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
中国からアメリカへの輸出が迂回してきているから、そこをまず封じ込めたいということだ。注目はベトナム。トランプ氏が2018年から関税を引き上げて以来、急激にベトナムからアメリカへの輸出と、アメリカの貿易額赤字がものすごく大きくなっている。今日本に対する貿易赤字より大きい。ここがASEAN経由、つまりベトナム経由で中国からのアメリカへの輸出が迂回している。ここがどうなるかが注目だ。
――トランプ大統領が「円安誘導」と批判しているが、今後のドル円相場はどうなるのか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
今は関税引き上げなどでアメリカ経済が悪くなると市場が織り込んでいるので、今週見てわかるようにドルの全面安。アメリカの中央銀行がおそらく今年3回利下げするとみんなが見ているので、金利差が低くなるから円高の方向に移っている。今は日銀にとってみれば超円安が修正されているので、為替についてはいいが、また物価が上がってきたときにアメリカの中央銀行が仮に利上げするということになると、この為替の動きがまた変わるかもしれない。
――心地よいレベルで徐々に円高が進んでくれるかどうかはまだ保証がない。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
そうですね。はい。
(BS-TBS『Bizスクエア』 3月8日放送より)
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