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日銀が物価見通しを下方修正、利上げ局面はもう終わりか【播摩卓士の経済コラム】

経済
2025-05-03 14:00

予想以上にハト派だな、と思いました。日銀は、トランプ関税を受けて、成長や物価見通しを大きく下方修正しました。形の上では、「見通しが実現していけば、引き続き、政策金利を引き上げる」との表現を残したものの、植田総裁の説明を、聞けば聞くほど、次の利上げのシナリオなど描けず、利上げ局面は、もう終わったのではないかと感じさせました。


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成長・物価見通しを大幅下方修正

日銀は1日の政策決定会合で、金融政策の現状維持を決めると共に、4月時点の新たな経済・物価見通し、いわゆる展望レポートを発表しました。トランプ関税政策による貿易・経済の停滞を受けて、25年の経済成長率を、1月時点の1.1%から0.5%へと0.6ポイントも大幅に下方修正、26年度についても、1.0%から0.7%へと引き下げました。


また消費者物価についても、経済成長の鈍化を受けて、25年度を2.4%から2.2%に、26年度を2.0%から1.7%にそれぞれ下方修正し、27年度にようやく1.9%と、物価目標の2%が視野に入るという見通しを示しました。


物価目標の達成を、これまでより1年、後ずれさせた形です。


基調的物価は「伸び悩み」

今回の見通しのキーワードは、「基調的物価上昇率の伸び悩み」です。植田総裁は会見で「いったん足踏みする」と表現しました。


基調的物価上昇率とは、消費者物価上昇率の内、為替や国際的な市況など一時的な変動を除いた実力ベースの物価上昇率のことで、賃金上昇や国内需要の増加によってもたらされる物価上昇を、概念的に表現したものです。


植田総裁はかねがね、この基調的物価上昇率が、「1%を越えてはいるものの2%には依然達していない」としながらも、「2%に向けて着実に上昇している」ので、「それに応じた金利の調整を行っていく」と説明してきました。


つまり、基調的物価の確かな上昇こそが、利上げの根拠だったのです。それが今後は「伸び悩む」というのですから、利上げの具体的なスケジュールは描けなくなったと、言っているのも同然です。植田総裁は「基調的物価上昇が伸び悩んでいる時に、利上げすることは考えていない」と言明しました。


市場関係者の間では、年内利上げの可能性はなくなったとの受け止めが多いようです。


基調的物価が「持ち直す」根拠なし

今回の経済見通しは、期間後半に、通商政策の不透明さが解消されて成長が回復し、それにつれて、基調的物価も再び上昇していくというストーリーになっています。植田総裁も「トランプ政権の関税政策そのものの不透明性が高く、見通し自体が変わる可能性もある」と強調していました。


確かに、理屈としては、トランプ関税の霧が完全に晴れ、何もなかったかのように、「景気もインフレも、心配ない」といった世界が再びやってくる可能性が、ゼロとは言えません。しかし、普通に考えれば、トランプ関税による成長や物価の下押しの影響はそれなりに続き、簡単に昔に戻ることはできない“リスク”の方が高いはずです。


そもそも、今回の日銀の見通しも、「通商交渉が一定進展しつつ、ある程度の関税政策が残る」という前提で作成されたというのですから、むしろ下振れリスクを警戒すべき見通しです。その意味では、年内どころか、来年に利上げができる、具体的なイメージなどないに等しいと言えるでしょう。


消えた「賃金と物価の好循環」

今回の日銀の見通しでは、基本的見解の文章の中から、「賃金と物価の好循環」という言葉がなくなりました。成長や企業収益が下押しされることが明白な時に、そうした言葉は適さないと判断したのでしょうか。


植田総裁は、これまでの「誤算」として、去年の半ばから再び食料品の価格上昇が目立ってきたこと、賃金上昇のサービス価格への波及が思ったほど伸びなかったことの、2つを具体的に挙げ、「好循環」実現の遅れを認めざるを得ませんでした。


しかし、食料品価格の再高騰は、去年再び円安が加速したことの影響が大きく、そうしたコストプッシュによるインフレ加速が実質賃金マイナスを招きました。そして実質賃金の伸び悩みが、サービス価格の価格転嫁を遅らせていると言えるのではないでしょうか。


だとすれば、それは、金融正常化の遅れなど日銀の政策運営にも責任の一端があると言うことです。利上げ開始が遅れ、そのペースも遅いことが、円安を通じて、「好循環」の芽を摘んだ面はなかったのでしょうか。


すべて「トランプのせい」では済まされない

バブルの生成、崩壊以降、日本のマクロ経済運営は、いわば失敗を重ねてきました。マクロ経済政策の司令塔がないばかりか、調整機能が弱く、財務省や日銀を筆頭に、それぞれの組織が、その組織論理で動き、仮に善意であっても、結果的に「合成の誤謬」や、「アクセルとブレーキ」になった例は、多々あります。


仮に、これで「利上げ終了」となり、「賃金と物価の好循環」が雲散霧消してしまうことになれば、なんと、もったいないことでしょう。デフレ脱却や経済正常化を実現する、またとない機会を、みすみす失うことがないようにする対応力が求められています。


すべてを「トランプのせい」にしてしまうのは、あまりに情けないことです。


播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)


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