「Your body, my choice.」直訳すると、「お前の体、俺の選択」。こうした、女性を軽視したような言葉がアメリカ大統領選でトランプ氏が勝利した後に、SNS上で急速に広まっています。勝利宣言の際、トランプ氏は「団結」を呼びかけていましたが、いま、アメリカ国内では分断が広がっています。
【写真を見る】大統領選から1週間 「団結」呼びかけも分断広がる…トランプ新政権 “対中” “移民”の強硬派起用へ【news23】
トランプ新政権から見える「4年」 “対中”“移民”の強硬派を起用へ
記者
「今、政治の中心はここにあります。あちらの邸宅で、今後のアメリカについて話し合われています」
選挙が終わっても、フロリダ州のトランプ氏の邸宅周辺では支持者たちの熱狂が続いていました。
トランプ支持者
「最高!アメリカ人で誇らしい」
どんな4年となるのか。トランプ次期大統領が進めている重要ポストの人事から、少しずつ見えてきたことがあります。
まずは対中国政策について。現地メディアは国務長官にマルコ・ルビオ上院議員を、国家安全保障担当の大統領補佐官にマイク・ウォルツ下院議員を起用する方針だと伝えました。
2人は中国に対する「強硬派」として知られていて、トランプ氏が中国に厳しい姿勢で臨むことがうかがえます。
そして、公約の「不法移民の強制送還」を担当するとみられているのが、複数のメディアで大統領次席補佐官での起用が固まったと伝えられているスティーブン・ミラー氏です。
ミラー氏は第1次トランプ政権時代に大統領上級顧問を務め、厳しい移民政策を主導した人物。選挙後、FOXニュースのインタビューに対し、ミラー氏は「(トランプ氏が)就任の宣誓を行ったら、強制送還が始まる」と応じています。
CNNによれば、ミラー氏は強制送還の人数を従来の10倍となる年間100万人以上に引き上げたいとしているといいます。
アメリカで広がる分断 黒人に“差別”メールも トランプ氏「団結の時」
選挙から1週間。懸念されていたアメリカの分断は広がりを見せています。
トランプ氏の勝利から3日後、首都ワシントンではトランプ氏の政策に抗議するデモが起こりました。
デモの参加者
「トランプは本当に全米で中絶を禁止すると思います。私はそれに対抗し、戦い続けます」
デモの参加者
「とてもこわいです。一党独裁体制になるように感じます」
ワシントン・ポストによりますと、当局は来年1月までに10件以上のデモ申請を受け付けたといいます。
さらに、「差別」も広がっています。
アメリカ各地に住む黒人の携帯に届いたのは、「あなたは最寄りの農園で綿花を摘む作業に選ばれた。持ち物を持って正午に集合しろ。農園に入ったら、身体検査を受ける覚悟をしておけ」というメッセージ。
これは、アメリカ南部で黒人が奴隷労働を強いられた歴史をふまえたものとみられています。
メッセージが届いた人
「あまりに衝撃的だったので、すぐ返信しました。『これは誰?冒涜だ』と思って。それで電話もしてみたら、偽の番号からの(偽の)メッセージだとわかったんです」
CNNによりますと、メッセージはトランプ氏の当選が確実とされた6日から、全米の少なくとも30の州で確認されたといいます。
勝利宣言の演説で「過去4年間の分断を乗り越える時が来た。団結する時が来た」と、スピーチしたトランプ氏。
分断が広がる中、アメリカはどこへ向かっていくのでしょうか。
トランプ氏勝利でアメリカの分断は?「民主党が分断を作ったのではないか」
小川彩佳キャスター:
アメリカ大統領選の結果、どんなことを感じながら見ていましたか。
東京大学准教授 斎藤幸平さん:
トランプ氏の強さというより、民主党の弱さ。そこにはリベラルの限界があるなと思いました。
ドイツではアメリカを含め、いろんなところからの研究者が集まっているんですけれども、私も含めてみんな都会に住んでいる高学歴のちょっとグローバルエリート的な人たちは民主党支持者であり、多様性がないんですよね。
そういう私たちが移民問題や女性の権利、気候変動の問題などを閉じた空間で話しているだけで、民主党のリーダーたちが地方の人たちが抱えている問題や、庶民の人たちの本当の経済的な不安について知ろうとしなかった。クリントン氏、オバマ氏、ハリス氏のやり方が分断を作った。トランプ氏ではなく、民主党が分断を作ったのではないかという気持ちをすこし強めています。
藤森祥平キャスター:
みんなが考えるべきテーマを、民主党支持者の側が閉じた空間でやり取りを終始してしまったという点ですね。
「お前の体、俺の選択」「女性に対する戦争だ」トランプ氏勝利でジェンダー分断が激化?
藤森キャスター:
アメリカの分断、ジェンダー問題もその1つです。大統領選から1週間が経ちました。
AP通信の出口調査の結果によると、男女別の投票先はトランプ氏に投票した男性が54%。これは前回の2020年に比べると、3ポイントアップしています。
一方、今回アメリカでは女性初の大統領になるのかと期待の声があった中で、ハリス氏に投票した女性は53%という結果になりました。
こうした中でトランプ氏が勝ったという結果に対し、歌手のビリー・アイリッシュさんは「女性に対する戦争だ」と投稿。それから、女子テニスのレジェンドであるマルチナ・ナブラチロワさんもSNSで「アメリカは今でも人種差別的な男性優位な国であることを証明した」と、選挙結果に対し悲観的な強いメッセージを投稿しています。
小川キャスター:
個人的には自分の子ども世代のことなども考えますと、アメリカの女性大統領誕生の光景を見たかったですし、そこに期待して投票した方も多くいらっしゃったと思います。
ただ、「女性に対する戦争だ」という言葉の前にはちょっと立ち止まってしまいます。例えば男女別の投票先を見ると、46%の方はトランプ氏に女性が投票しているんですよね。ハリス氏が圧倒的に女性の得票数が多かったというわけではない。
さらに白人女性に限って言えば、トランプ氏の得票数の方がハリス氏を上回っているという結果も出ていたので、そこをちゃんと見ていかないと本質を見誤ってしまうんじゃないかなと。短絡的に「男女の戦争」と語らない方がいいのではないかと感じてしまうんですよね。
藤森キャスター:
そして、選挙の後にわかにインターネット上では「お前の体、俺の選択(Your body,mychoice)」という言葉が広がっているようです。
これは元々1960年代に女性運動で使われてきた「私の体、私の選択」のフレーズをなぞらえて作ったもので、こうした女性への差別的な投稿が今、増え始めているそうです。
一方、一部の女性からは一切の男性との接触を断とうと「男性たちに笑われるわけにはいかない、反撃しよう」という投稿には47万のいいねが付いているそうです。
小川キャスター:
先鋭化する攻撃的なメッセージを受けて、さらにその受け手側も先鋭化していってしまうという動きも感じますけれども、この現象をどんなふうに感じていますか。
東京大学准教授 斎藤さん:
今回、若者の男性の一部も保守化してトランプ氏により多く投票したというデータもありますが、やっぱりその背景にあるのは低収入で苦しんだり、社会的な承認を得られず不安を感じていたりする、いわゆる“弱者男性”みたいな人たちも結構いて、彼らの不満のはけ口をミソジニーとして女性に向けているわけですよね。
もちろん女性蔑視・ミソジニーは批判しなければいけないけれども、他方で低賃金や地方の衰退から将来の不安を感じて都会のエリートに見捨てられたと感じている人たちへのサポートや補助みたいなものが大切。
今回の議論で民主党は女性の中絶の権利は打ち出されたけれども、そうした弱者男性の貧困問題には十分な注意が払われなかったことは一つ問題だと思っています。
小川キャスター:
アメリカに限ったことではないですが、こうした選挙のときは極端な主張が先鋭化しがちになりますね。
私たちも「分断」という言葉で語ってしまっていますけれども、その間にいる方々の思いを感じながらお伝えしていかなければならないと感じます。
「アメリカ社会」についてみんなの声は
NEWS DIGアプリでは『アメリカ社会』について「みんなの声」を募集しました。
Q.アメリカ社会の分断 今後どうなる?
「さらに深刻化する」…62.5%
「ある程度進む」…12.8%
「表面化しただけ」…18.9%
「次第に修復する」…2.8%
「存在しない」…0.9%
「その他・わからない」…2.2%
※11月12日午後11時18分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは13日午前8時で終了します。
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<プロフィール>
斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済思想 社会思想
著書『人新世の「資本論」』が50万部突破
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