「短気」は…病気? メンタル疾患との関連はあるのか
2016-11-22 18:30:12
執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
短気とは「辛抱ができなくて、すぐに苛立ったり怒ったり飽きてしまったりする性格」を表しています。
「キレやすい」というのもこの性格の現代的特徴だといえるでしょうか。のんびりしていて、焦らない性格の「気が長い」の対義語です。
この短気、場合によっては単純に「性格」という一言で片づけられない場合もあります。
短気と精神疾患には関連性があるのでしょうか?詳しく見ていくことにしましょう。
病前性格
かつて精神医学では、精神疾患は性格と強く関連していると考えていました。その古典的な研究にドイツ人精神科医クレッチマーの『体格と性格』があります。
ここでは、体型と関連づけられた性格(より正確にいうと「気質」と云います)が3つのタイプに分けられ、それぞれ代表的な精神疾患名をとって、分裂気質・躁うつ気質・粘着気質と名づけられています。
精神疾患と直接的にリンクしているわけではないものの、性格と精神疾患との関連性を意識した命名になっています。
こうした考え方に影響を受けて、たとえば、典型的な器質性のうつ病「メランコリー性うつ病」は、真面目・几帳面・責任感が強い・従順などを特徴とする性格タイプとの相関が高いことがわかってきました。
このような性格タイプは、「メランコリー親和性」と呼ばれていて、これを「病前性格」と呼んできたのでした。
偏桃体の影響:脳機能の不全説
最近の精神医学では、こうした了解的な立場よりも、もっと実証的なアプローチが主流となっていて、病前性格もこれを原因のようにはみなさなくなっています。
むしろ脳の機能不全などに注目して、これまで多くの新しい発見が発表されてきました。
たとえば大脳辺縁系の一部で、アーモンドのような形をした「偏桃体」は、人間の情動の中枢になっていることが分かりました。
とくに、不安や緊張、恐怖などの処理や短期記憶に主役の役目を果たしています。
ですから偏桃体が過敏に反応すると、今回のテーマとも関連した「キレやすくなる」や「怖がりになる」などの症状が起きやすくなります。
そのため、治療では過敏な反応を抑えるように薬物療法や脱感作療法(リラックス法など)が行われます。
性格と疾患の関係性
精神疾患は、一方で脳や神経系、感覚など身体の状態、もう一方で、親子関係や人間関係など境遇の歪みにと、それぞれ強く影響を受けて発症する病気です。
身体に密接な「気質」も、人間関係で認知される「性格:キャラクター」も、どちらも精神疾患に影響したり、影響を受けたりすることは、一般的に否定できません。
けれども、かなり極端でなければ、より直接的に精神疾患に結びつくものではないことは言うまでもないでしょう。
「秩序破壊的・衝動制御・素行症群」
上のサブタイトルは、『DSM-5(アメリカ精神医学会;精神疾患の分類と診断の手引き、最新版)』の中で、“短気そのものが病気とみなされる項目”を取り扱っているカテゴリー名です。
とくに次の2つは「病気としての短気」とみなしてもよいでしょう。どちらも「度を超えた激しさ」をもって、病理性があると判断しています。
反抗挑発症
しばしば、かんしゃくを起こす、神経過敏、イライラしやすい、口論する、積極的に反抗する、自分の失敗や無作法を他人のせいにする、意地悪で執念深いといった傾向が5歳以上の場合、1週間に1回、少なくとも6か月にわたって続いている
間欠爆発症
攻撃性衝動の制御不能による反復性の行動爆発。ことばでの攻撃、または所有物・動物・他者への身体的攻撃、所有物の損壊や破壊、または動物や他者を負傷させる
精神疾患との関連性
上記の頻繁で程度の強い短気の障害が、どのような疾患の症状と鑑別(=区別)する必要があるか、『DSM-5』では次のような病名が挙げられています。
・うつ病
・双極性障害
・重篤気分調節症
・精神病性障害
・反社会性パーソナリティ障害
・境界性パーソナリティ障害
・ADHD(注意欠陥。多動症)
・自閉スペクトラム症
・頭部外傷
・アルツハイマー病
・物質使用障害
・嗜癖性障害
このように、多くの精神疾患や頭部障害のような身体疾患でも、短気が病気の発症や、病気の症状として関連していることを示唆しています。
短気は損気?
目まぐるしく変化していく状況では、短気やせっかちといったパーソナリティは、必ずしも悪く作用するばかりではなく、むしろ良い働きさえできるかもしれません。
しかし一般的には、短気は自分にも他人にも悪影響を与えることが多いようです。
とくに度を超えた短気はいけません。
もしも、自分にその傾向があることを感じていたなら。
すぐにキレてしまう気分や感情に流されず、今何が起こっているのか冷静に考えてみるようにしましょう。
人間の思考には感情を弱めてくれる作用がありますから。
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
関連記事
情報提供元: mocosuku