カラダの移植、どこからどこまでできるのか
2016-12-30 18:30:00
執筆:南部 洋子(助産師、看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
移植ときくと、重病の子どもが移植手術を待っているなどのニュースが時折、報道されますね。
心臓や肝臓などの臓器移植をするという生死にかかわる大手術から、皮膚移植まで、「カラダの移植」は現在どの程度進んでいるのか、また今後どのようなことが実現されていくのか。
ご一緒に詳しくみていきましょう。
移植とは
ひと口に「移植」といっても、さまざまな種類があります。いずれにしても、臓器や組織を移し替える医療行為のことを「移植」と呼びます。
また、移植を受ける人を受給者(レシピエント)といい、移植を提供する人を提供者(ドナー)といいます。
移植には次の種類があります。
自家移植
自分の組織を自分の他の場所に移し替えること
他家移植
自分以外の組織を移し替えること
同種移植
レシピエントと同一種の組織を使用する
同系移植
免疫的に同一である個体(一卵性双生児や近交系動物)の組織を使用する
異種移植
レシピエントと異なる種の組織を使用する
人工移植
人口材料を用いて臓器修修復をすること。おもに人口血管、皮膚、心臓弁置換
臓器移植:日本の歴史
臓器移植は、日本では1956年に腎臓移植から始まりました。次いで、1964年には肝臓移植も行われました。
さらに、1968年に札幌医大で和田教授による心臓移植が行われました。ところが、この事例では移植患者がしばらくして亡くなってしまいました。
そして、患者の死後、脳死判定をめぐって「和田心臓移植事件」として騒ぎになりました。これによって移植医療に不信感が生まれ、以後しばらくは、脳死移植が行われなくなりました。
1995年になって日本臓器移植ネットワークが設立されました。1997年には臓器移植に関する法律が施行され、正式に脳死が人の死と認められて脳死移植が可能になりました。2009年には、法律改正により15歳未満からの脳死臓器移植も可能となりました。
それまでは15歳未満の場合は、今まで海外に行って移植を受けるしか道がありませんでした。そして、2012年に日本で初めて6歳未満のドナーから10歳未満の患者への脳死移植が行われました。
さまざまな「移植」
ドナーの状態による分類
・生体移植:生きているドナーから提供されて、移植を受ける
・脳死移植:脳死と診断されたドナーから臓器を提供される。心臓移植など
・死体移植:死亡したドナーから提供されて、移植を受ける
臓器移植:臓器や組織からの分類
臓器移植は臓器が障害され、生命が危ぶまれたり、生活が非常に障害されたりするようなときに、他の人から臓器をもらって快復を図るものです。
レシピエントの臓器を摘出して、ドナーの臓器を同じ場所に移植することを「同所性臓器移植」といい、心臓、肺、肝臓、小腸などの移植で行われます。
膵臓や腎臓の移植では、レシピエントの臓器を残したままで、別の場所にドナーの臓器を移植するので「異所性臓器移植」といいます。(日本移植学会HPより)
造血幹細胞移植
急性骨髄性白血病の治療法として造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)があります。骨髄、末梢血肝細胞、臍帯血(さいたいけつ)を用いて、血縁者や非血縁者から移植を受ける方法です。
これまでの研究で、ドナー由来の白血球が患者さんの身体に残る白血病細胞をやっつける免疫反応をもつことがわかってきましたので、移植後に起こる免疫反応の力を使って、白血病細胞を死滅させる治療法という考え方になっています。
造血幹細胞移植では、抗がん剤や放射線治療を受けた後、肝細胞が投与されます。
角膜移植
病気や障害により、角膜が薬品による治療を得られないときに行われるのが角膜移植です。角膜移植は死亡した人の健康な角膜を移植して、病気や障害のある角膜と取り換える治療法です。
皮膚移植
自分の身体の他の部分から皮膚を採取し、皮膚が欠損している部分に移植することで、「植皮(しょくひ)」ともいいます。移植した皮膚は色や質感が違いますが、4日ほどで新しく血が通い、1週間程度でつきます。
皮膚移植は自分の皮膚を移植することが一般的ですが、全身火傷などで免疫力が下がっている場合、他人の皮膚を移植することもあります。また、動物のコラーゲンなどから作製した人工真皮を補助的に利用することもあります。
最近では、自分の皮膚を1㎠大ほど採取し、培養皮膚を作製して、治療に応用する研究が進んでいます。
その他
以上のほかにも毛髪移植手術などもあります。さらに、まだ治療法としては確立していないものの、次のような移植手術が世界中で実施された事例があります。
・四肢移植
フランスで腕の移植が行われた。世界で10数例の報告がある
・陰茎移植
中国で1例報告されている
・子宮移植
世界で数例の報告あり
・顔面移植
フランスで初の移植が行われた。他にも数例報告あり。救命目的の顔面移植はポーランドが初
・頭部移植
ネズミとサルで頭部移植が成功している。2017年にALS(=筋委縮性側索硬化症)のロシア人に人間の頭部移植が行われる予定
難しい問題をはらむ「臓器移植」
移植、とくに臓器移植は多くの難しい問題をはらんでいます。
たとえば、脳死についての法律改正後、脳死臓器提供者は増加していて、1人のドナーから平均4人の患者に臓器が提供されています。その際、ドナー家族は移植の決断をするのですが、自責の念に駆られることがよくあります。
これはおそらく、「脳死を死と受け容れがたい」という心情からではないでしょうか。そんな家族をケアするために、移植コーディネーターがいます。しかし、全国で70名程度と不足しています。
また移植にはこれに伴う医師や移植施設の拡大が必要となります。しかし、不足していて、追いつかないというのが現状のようです。
さらに東日本大震災後、臓器売買などの事件が頻発していること、加えて、脳死判定の難しさ、人工臓器の研究などにより、脳死による臓器移植の研究を、これからどのように進めるべきなのかも議論の的になっています。
アメリカでは「脳死は人の死」とされており、脳死後の臓器提供者が8000人以上います。
一方、日本では120人足らずです。これに対して日本では、「脳死を死と認めない」という心情的な死に対する日本人の考え方も強くあります。
ですから、移植に関しては当面、一気に事態が進展するのは難しいのではないでしょうか。
<執筆者プロフィール>
南部 洋子(なんぶ・ようこ)
助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での経験後、とらうべ社を設立。タッチケアシニアトレーナー
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku