「眠れる森の美女症候群」 1度眠ると起きるのが2週間後!?
2017-04-01 18:30:56
執筆:伊坂 八重(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
有名な童話「眠れる森の美女」。
世界的にはいくつかストーリーがあるようですが、日本では、呪いにかけられたお姫様が長い眠りにつき、王子様のキスによって目覚めて結ばれるというグリム童話が有名です。
ところで、この童話になぞらえて呼ばれている「眠れる森の美女症候群」という病気があることをご存知でしょうか。
一体どういう病気なのか、解説していきます。
眠れる森の美女症候群とは
「眠れる森の美女症候群」という言葉は、通称であり、正式な病名ではありません。
一般的には、「クライネ・レビン症候群(またはクライン・レビン症候群;Kleine-Levin syndrome)」のことを指していることが多いようです。
クライネ・レビン症候群は、数日間~2週間程度、傾眠(けいみん)状態が続く過眠症のひとつです。
傾眠とは、周りからの刺激に対して反応はするものの、意識がもうろうとした状態のことを指します。
クライネ・レビン症候群になると、周りからの問いかけに簡単に答えることはできますが、口数は少なく、表情もぼんやりとしています。強い眠気があり、昼夜を問わず1日15時間以上眠り続けます。
周りの刺激に反応できなくなる昏睡(こんすい)状態とは異なり、食事や排せつなどは自分で行うことができます。
クライネ・レビン症候群は、このような傾眠状態および過眠の症状が数カ月の間隔をおいてくり返される病気です。
さらに、『睡眠障害国際分類第3版』によると、傾眠状態や過眠の症状が現れている時期に、認知機能障害、知覚変容(錯覚など)、食行動異常(過食など)、脱抑制行動(性欲が高まり、抑えることができないなど)のうち、1つ以上があてはまるものがあることも、診断基準のひとつに挙げられています。
クライネ・レビン症候群の症状
先ほどお話したように、クライネ・レビン症候群は、傾眠状態と過眠の症状に加えて、食欲や性欲の著しい増加などがみられることがあります。
とくに、食欲の増加は過食をもたらすほか、食べ物の好みが変化するケースもあります。
覚醒している間でも、意識がもうろうとしているため、自分がいる場所や時間が分からなくなる見当識障害、倦怠感や無気力といった症状が現れるほか、集中力や新しく起こったこと覚えておく記銘力が低下し、周囲に対する興味や関心も薄れます。
個人差はありますが、このような症状は数日~2週間ほど続くとおさまります。
症状が現れていない間は健康な人と変わりのない生活を送れますが、数週間から数カ月すると再び症状が現れます。
病気の経過とともに症状が現れている期間が長くなる一方で、1日あたりの睡眠時間が少し短くなったり、眠気の程度も軽減することが多いようです。
そして、このような症状が8年程度続いた後、自然におさまっていくといわれています。
クライネ・レビン症候群の特徴と原因
クライネ・レビン症候群は、思春期ころに発症することが多く、患者層の男女比は2:1と、女性よりも男性の発症例が多く報告されています。
チマタでは「眠れる森の美女症候群」と呼ばれることもあることから、女性の方が発症しやすいような印象を持たれがちですが、これはあくまでも世間的に呼ばれているだけで、実際の病態とは関係がありません。
マスコミなどで取り上げられた患者が若くて美しい女性ばかりだったことから、このような通称がついた、などといわれているようです。
クライネ・レビン症候群の発症頻度は100万人に1~2人と推定されていて、とても珍しい病気です。
また、脳の視床、視床下部、側頭葉、前頭葉などに障害をきたすことでさまざまな症状が現れているといわれていますが、詳しい病態や原因についてはっきりしたことはわかっていません。
これまでの研究で、ヨーロッパで報告されたケースのうち4割は、最初の症状がインフルエンザなどの感染症を発症した後に現れていることがわかっていて、このほかにも心身の疲労や睡眠不足、頭部外傷、麻酔などが誘因となっているのではないかといわれています。
また、免疫にかかわる遺伝子との関連が強いことから、自己免疫のしくみと関係しているのではないか、ともいわれています。
ただ、発症に関する報告件数が少なく、はっきりとした原因の特定にはより一層の研究が必要です。
また、脳血管障害や脳腫瘍など、脳の病気を発症した後に、発症することがあるともいわれています。
この場合、発症年齢は遅くなり、症状が現れる期間も長くなる傾向があります。
クライネ・レビン症候群を治療することはできるの?
クライネ・レビン症候群は、症状が現れている間は、学校生活や職業生活などを送ることができなくなります。
また、傾眠状態や過眠などの症状が現れている時期にこれを止めることは難しく、治療は症状がおさまっている時期に予防的に行われます。
おもに薬物療法が行われ、双極性障害の治療などで使われる炭酸リチウムなどが用いられます。
ただ、炭酸リチウムも半数の患者には無効であるともいわれていて、有効性が高い治療法が確立されるためには、さらなる研究が必要といえそうです。
【参考】
・小川朋子、田川朝子、橋本律夫、加藤 宏之「炭酸リチウムが奏効した反復性過眠症の 1 例」2010年。https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/050100700.pdf
・琉球大学遺伝性疾患データベース「Kleine-Levin hibernation syndrome」http://becomerich.lab.u-ryukyu.ac.jp/ur-dbms/SyndromeDetail.php?recid=854&winid=1
・日本睡眠学会「Ⅰ.睡眠異常」http://www.jssr.jp/kiso/syogai/syogai01.html#chapter5
・恩賜財団済生会「反復性過眠症」http://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/recurrent_hypersomnia/#
・日本神経治療学会「標準的神経治療;不眠・過眠と概日リズム障害」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/33/4/33_573/_pdf
<執筆者プロフィール>
伊坂 八重(いさか・やえ)
メンタルヘルスライター。
株式会社 とらうべ 社員。精神障害者の相談援助を行うための国家資格・精神保健福祉士取得。社会調査士の資格も保有しており、統計調査に関する記事も執筆
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku