クリニックの隣に老人ホーム。医療と介護をつなぐ“地域包括型”の挑戦が福岡で始まっている
2025-05-27 12:00:51

外科や整形外科、一般内科、リハビリ科に放射線科など地域に根ざした診療を行う林外科・内科クリニック。外科では下肢静脈瘤の治療に対応しており、現在では生活習慣病や睡眠時無呼吸症候群の診療、さらに在宅診療にも注力している。また、入院設備を有しながら有料老人ホームも併設しており、医療と介護の連携が密な点も同院の特徴だ。同院理事長の林裕章氏に、医療への想いと今後の展望について伺った。
併設の老人ホームに在宅診療、地域医療の駆け込み寺

福岡県宗像市に位置する当院ですが、過去に比べると地域では高齢化が進んでいます。そのような時代背景や私の医師としての想いから、当院では有料老人ホームを併設しています。併設の決断においては主に3つの理由があります。
まず、老人ホームなど施設に入居される方が増加するにつれて、かかりつけ医の変更も迫られることが多くなりました。当時、先代として当院を牽引してきたのは私の父ですが、何十年と診療してきた患者さまと離れることに、非常に寂しい想いを抱えていたのです。同様に先代から受け継いだ私自身も、本当は当院に通院し続けたいという患者さまの声を叶えたいという想いを抱えていました。
次に、病院は壁が白く無機質な空間であるのに対し、老人ホームの空間は和む雰囲気を醸し出していることです。施設によっては折り紙で作った飾りなどもあり、非常に楽しい空間づくりがされている。そのような施設が当院の近くにもあってほしいと考えるようになったのです。最後に、医師として医療の領域にいながら、介護の世界がどんどん身近になってきたことです。もし介護施設をつくれば、医療だけでなく介護の相談も受けられる。その点が最後の一押しとなり、有料老人ホーム建設に至りました。
また、老人ホームだけでなく、当院では在宅診療にも注力しています。老人ホームは各地に存在するとはいえ定員があり、全員が入居できるわけではありません。加えて、自宅で最期を迎えたいという要望もあり、在宅診療のニーズは高まっています。実際、最後まで自宅で過ごしたいという声は私も多く聞いてきました。当院は医師が複数いるため、外来診療を行いながら、在宅診療も並行できる。その点は当院のアドバンテージだと考えています。
患者の気持ちに寄り添うコミュニケーションと専門家としての誇り

医師としてキャリアを形成していくにあたり、感じた課題があります。それは患者さまに対する医師の説明が分かりにくいということ。医師側からすると説明責任を伴うという事情はありますが、医療側の責任を果たせばよいというものではない。だからこそ患者さまにきちんと伝わるよう、わかりやすい説明をすべきだと常々感じていました。
その経験を基に、私は目の前の患者さまに寄り添う気持ちを忘れず、一方的でないコミュニケーションを行うことを常に意識しています。治療方針を決める際も同様です。治療の選択肢とリスクをただ列挙し、患者さまに選んでいただくというのでは不十分。医師は医療の専門家ですから、専門的知識を持たない患者さまに対するアドバイザーとして、選択を提示し、十分な説明を行う責任があると思います。つまり、「もし自分の家族ならどうしたいか」をお伝えすることが大切だと感じています。
また、一人の外科医として、患者さまの最後を看取ることも多く経験してきました。亡くなる方の気持ちや要望は最優先事項ですが、同時に残されるのはそのご家族の方々なのです。亡くなる方の気持ちを優先することは大切ですが、その結果として、ご家族の方々が後悔することがあってはなりません。双方の気持ちを汲み取った上で、患者さまに提案することも医療の役目。常に人の気持ちを大事にしたいという信念を持ちながら、日々目の前の患者さまに向き合っています。
高齢者層に加え、働きざかりの人々へ開かれた医療を提供

当院は入院施設、有料老人ホーム併設のほか、検査部門も充実しております。診療科目も幅広く、今後は高齢者層のみならず、働きざかりの患者さまに対してもさらなる健やかな生活を提供していきたいと考えています。特に睡眠時無呼吸症候群の治療には注力しており、当院では診療所にしては検査機器を多く備え、また入院が可能なこともあり、迅速な検査および治療を行えるため、お困りの方がいらっしゃれば受診を検討していただきたいです。
このように生活習慣病由来の疾患は多く存在し、症状もなく、検査をしなければ気づけないケースもあります。しかしその状態が長年続くと命に係わることすらあるのです。一方で、働きざかりの方々からすると仕事が忙しく、通院に時間を割けないことも考えられます。特に、未病と病気の中間の状態であれば、危機感に迫られることもないでしょう。
私が患者さまの立場でも、忙しい場合は仕事を優先するかもしれないと想像できます。だからこそ、患者さまの視点に立ち、それぞれの生活環境に沿ってアドバイスを行うことを大事にしています。今後も地域に根ざした医院として、高齢者の方々から働きざかりの方まで幅広い医療を提供すべく、前進していきます。
情報提供元: マガジンサミット